紙の本
戦後の理屈に距離を置く
2019/06/02 14:56
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投稿者:ニック - この投稿者のレビュー一覧を見る
大戦末期、細菌兵器の実用化実験を重ねていた731部隊に迫る1970年の戦史小説。同じ題材を告発的なタッチで描いた森村誠一氏の「悪魔の飽食」は1981年から発表され大ヒットとなり、当時10代だった僕もその内容に戦慄したものだが、本作はそれよりも10年以上前に発表された。太平洋戦争が軍の暴走という理由だけで説明することに違和感を感じて戦史を扱うようになったという吉村氏らしく、戦争の悲劇、戦時下の狂気を戦後の理屈で短絡的に批判する視点とは距離を置きながら、事実を積み重ねることで読者の想像力を駆り立て、戦争への考察を促してくる。
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冷徹に真実に迫る
2022/06/29 19:24
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投稿者:BB - この投稿者のレビュー一覧を見る
2015年に新装版が出てから、何度も繰り返して読んでいる。
旧満州で細菌戦のための生物兵器開発や人体実験などを繰り返していた、旧日本軍の731部隊。主人公はその部隊長がモデル。冷静な視点で淡々と、その実像が描かれている。
その冷徹な筆致ゆえに、戦争や時代のせいにして、「狂気」だと自分と切り離して批判することを許さない。
人間の虚栄心や嫉妬、欲望、同調圧力、組織の論理…。過ちは今でも、十分起こり得ることだ。
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蚤と爆弾
2015/08/17 07:31
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投稿者:first dragon - この投稿者のレビュー一覧を見る
石井中将率いる旧日本軍の細菌部隊については、断片的に知っていたが、詳細なデーターに基づき、冷静、客観的に記述したものは、吉村昭氏の著作が初めてであると思う。現在考えると、このような悪魔の行為がなぜ実行されたかと思うが、それを戦争故の狂気と片づけるだけでは、日本人として、歴史を直視できない。我々は、事実を事実として、認たうえで、二度とこのようなことを繰り返さないことを学ぶべきである。
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終戦記念日に読み終わりました
2016/08/15 19:13
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投稿者:new - この投稿者のレビュー一覧を見る
終戦記念日の今日読了しました。
別の著者の本で同一の内容は読んでおりましたが、
この著者になると全く別の味わいになっています。
この著者にここ1年魅了されております。
読了して切ない気持ちになりました。一つの事柄だけでなく
当時の日本全体がよくわかりました。
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第二次世界大戦時、細菌兵器を開発していた関東軍防疫給水部の研究と、その研究者の人間像を描いた歴史記録文学。
軍医の名前や部隊の名称は変えられているみたいです。しかし書かれている実験や研究活動の様子は以前読んだノンフィクションに勝るとも劣らぬ詳細さ。
そして、事実だけを冷徹に感情を挟まずに書く文体も吉村さんらしいです。
そうした感情を挟まない文体だからこそ余計に強く浮かび上がるのは、実験の異常さと残酷さです。
ペスト菌に汚染された大量の蚤の生産のため、体が干からびるまで吸血されるネズミ、より運動能力の高い蚤だけを選別するための作業、
そしてその残酷さや異常さは人間にも向かいます。凍傷の治療研究のため人為的に凍傷にさせられ、ペストに感染させられる捕虜たち、
また軍部は捕虜を”丸太”と呼ぶことからも、捕虜を人間として見ていないことが分かります。
そうした描写の数々は普通の小説以上の凄味にあふれています。
そしてこの部隊の率いる曾祢二郎の人間性もしっかりと描かれています。
自らの待遇や軍の派閥主義に嫌気が差し、先駆者のいない細菌兵器に活路を見出す姿や、すでに死刑が決まっている捕虜の実験だから、と言う理由で自らの実験を正当化し、
研究者としての好奇心を満足させ、ますます狂気の実験にのめりこんでいく様子がとてもリアルに感じられました。
戦後、戦争犯罪人として次々と軍部の人間が逮捕され、関東軍防疫給水部の隊員たちの多くも人体実験に罪の意識を抱くようになります。
そんな中曾祢に関してはそうした罪悪感を抱いている様子が描かれないまま生涯を終えたように読んでいて感じました。そこにあるのは、自分は戦争犯罪人だ、という罪悪感以上に実験による研究者としての満足と誇りがあったのかもしれません。
そして彼の罪を裁かず、研究資料の提供を求めたアメリカの振る舞いから、科学の発展は時にその裏にある罪や犠牲を飲み込んでしまうのかもしれないと思いました。
戦後、罪の意識を感じた隊員たちと曾祢の差と言うものは狂気の正義とそれによる成果を、戦後の正常な世界でも信じることができたのか、という違いだったのか、と思います。
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「時代の狂気」というのか、「狂気の時代」というのか、恐るべき企みに「大変に優秀な科学者」が熱中していく様が、何やら怖い…
“曾根二郎”とは、実在の人物をモデルとはしているが、飽くまでも「小説の主人公」である。そして本作は、「具体的な個人名」で語られる劇中人物は“曾根二郎”のみという印象である…そういう文面の雰囲気が、「時代の狂気」とも「狂気の時代」とも言えそうな、「或いは、今からそういうような事態に?」という“迫力”を醸し出している…
今年は戦後70年…こうした「戦中の秘話」に類する題材に触れてみる折なのかもしれない…
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太平洋戦争でアメリカの戦力差を痛感した日本軍にとって、最後の切り札が細菌兵器だ。その開発を担った曾根二郎軍医率いる満州の極秘部隊は捕虜を使った人体実験を繰り返し、細菌兵器の実用化に努めていた。
作者は曾根の心情を一切書かず、人体実験という残酷な事実を淡々と述べることに徹し、曾根以外の人物には名前をつけない。こうした文章が曾根の不気味さ、孤独さを強調する。
また、曾根は一軍医でありながら、ただ細菌を作るだけでなく、ノミに寄生させて細菌を運搬する方法や人体実験患者の管理、陶器製の細菌爆弾の発明など、様々なアイデアを生み出しす。現実的な細菌兵器を作るためなら、人道や国際法ルールに違反しようが、彼にとっては関係ない。ただ、戦争に勝つための兵器を作るだけ。そんな無感情な細菌オタクが支配し、決して公にされることのない組織が日本軍にあった。
曾根というのは仮名だろうが、作者は事実を掴んだうえでの作品化なのだろう。
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作家買いで、久しぶりに購読。
大東亜戦争と狂気の天才医学者の小説。
命を大切にするという常識的な道徳・倫理感よりも、資源のない日本のために、細菌兵器という科学技術開発に、心血を注いだ天才科学者の戦争参加を描いた作品。
敢えて匿名とした主人公の戦争小説という形態だが、人体実験を犯した731部隊を率いた石井四郎中将を、作者流の丁寧な取材に基づいたノンフィクションと言っても過言ではない。
以前、731部隊を描いた「悪魔の飽食」を読んだことがあるが、比較にならないぐらいに、それを越える史実に近づく優れたノンフィクション。
また、たった248ページで、太平洋戦争前夜から戦後までの社会状況を描ききり、本当名作です。
保坂正康の解説も秀逸。
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731部隊を扱ったものとしては『悪魔の飽食』などよりよほど真実を暴いているのでは。
これは特異な異常者たちのドキュメンタリーではなく、私たちにも起こり得る戦争の真実を描いた物語。
ヒューマニズムの視点から声高に糾弾するようなものではなく、淡々とした筆致で曾根(石井四郎)側の視点から描いている。これが新鮮であり恐ろしくもある。物語に引き込まれ、つい曾根と同じ目線になっている自分に気付きゾッとした。
風船爆弾は和紙と蒟蒻のりで作られていた。戦争末期の物資不足ゆえかと勝手に想像していたが、研究の結果決定した最適な素材なのだとか。
作業には経師屋が多数動員…なんとも日本的な爆弾…。
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これまで吉村昭の小説の中に731部隊に関するものがあることを知らずにいた。この小説が世に出たのは昭和45年頃で「細菌」というタイトルだった。
私が読んだのは4版目で今年の4月に出されたものである。私が最初に731部隊を知ったのは、森村誠一の「悪魔の飽食」(昭和58年)からだったが、その14年前に出ていたことになる。まだ敗戦の記憶が浅い頃である。文中に出てくる個人名の登場人物が少ないことからも分かるが、当時、かなり際どい題材だったに違いない。あらためて、吉村昭の記録文学の凄みを感じる。
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さすが吉村氏。
北満州、ハルピン南方のその秘密の建物の内部では、おびただしい鼠や蚤が飼育され、ペスト菌やチフス菌、コレラ菌といった強烈な伝染病の細菌が培養されていた。俘虜を使い、人体実験もなされた大戦末期―関東軍による細菌兵器開発の陰に匿された戦慄すべき事実と、その開発者の人間像を描く異色長篇小説。
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淡々とした筆致で、日本史の暗部を描いたノンフィクションに近い小説。
細菌兵器。
命を大切にするという常識的な道徳・倫理感よりも、資源のない日本のために、細菌兵器という科学技術開発に、心血を注いだ天才的な医学者の戦争参加。
日本的な、あまりに日本的な組織の動き方に慄然とした。
細菌兵器の開発から人体実験、そして、敗戦近くになると、証拠隠滅。
関東軍防疫給水部の創設から解散、そして、戦後の関係者の様子までを見事に描いている。
関係する資料などは、関東軍などにより、「徹底的に」破壊・消滅したため、「証拠」はほとんどないが、吉村氏の入念な取材により、ここまで細部まで描くことができたのだろう。
今の若い人のほとんどは、この歴史を知らないのではないだろうか。
読み継がれるべき作品だと思う。
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うーん、切ないなあ。
主人公・関東軍防疫給水部(通称・満洲第731部隊、だ)部長、曽根二郎のモデルは石井四郎。森村誠一の「悪魔の餌食」のヒト。
後はとにかく、不気味なくらいに固有名詞が出てこない。それでもって、なんだか戦時の特定の一事象性をまぬがれて、ヒトの根性の意地汚さみたいなものの普遍性が浮き彫りな感じになってるのが、妙に薄ら寒い。
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読了。
曽根二郎とあるが、明らかに石井四郎がモデル。731部隊は森村誠一の「悪魔の飽食」で有名となるが、共産党のプロパガンダ小説に堕ちた同作と異なり、比較的史実に沿った淡々とした筆致が、反って人間の心の底に巣食う残虐性を浮き彫りにする。戦争が狂気を生むのか?それとも極限状況が人間の本性を詳らかにするのか?平時であれば、石井四郎とて善良な一医師に過ぎなかったかもしれないのだ。
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細菌兵器を完成させるための、捕虜に対する人体実験。
戦時下という、特殊な状況が生み出した術なのか。
戦争というものは、ここまでしないといけないのか。
平和な時代に生まれた、自分たちには想像すらできない。
平和な時代に生まれたことを感謝しなければならない。