投稿元:
レビューを見る
もしも今、すれ違いざまに誰かを刺して命を奪ってしまったら。それは「殺人事件」となる。法の下で裁かれどんな形かはわからないが「償い」を行う。
けれど、それが「国の命令」で行われたとしたら、それは当然のこととなり、そして罪として償うどころかよくやったと称賛されるかもしれない。つまりは「戦争」とはそういうことなのだろう。
戦後70年のこの年に、さまざまな戦争の物語が書かれている。古内さんの「痛みの道標」もその中の一冊である。自殺しようとしていた27歳の若者と、元少年兵として戦争を生き抜いてきた祖父の魂との邂逅を通して国対国の争いの悲惨さ、無意味さ、そして巻き込まれ奪われた多くの命の重さを訴える。いつの時代も虐げられ搾取され使い捨てにされるのは社会の末端にいる多くの善良なる人々なのだ。この次、命を使い捨てされるのは私かも知れない、私の大事な人たちかも知れない、そう思うと耐え難い怒りに身体が震える。
投稿元:
レビューを見る
二冊続けて戦争を描いた本を読んだ。
ひとくくりに太平洋戦争と言ってもあまりに知らないことが多くて愕然となる。先に読んだ「世界の果ての子供たち」で舞台となった満州については見聞きする機会も少なくはない。だが、この本で描かれるボルネオで繰り広げられた悲劇については全く知らなかった。なんと、太平洋戦争末期では最大規模の上陸戦もあったという。
この本の主人公はブラック企業に勤める達希。その達希が亡くなった祖父、勉の願いをかなえるためにボルネオに行くことになる。勉にはどうしても会いたい一人の女性がいたのだった。
達希のおかれた現代を織り交ぜつつ、祖父の過ごした戦時下のボルネオの様子をリアルに浮かび上がらせていく。
日本の占領軍がとった残忍な行動や上陸戦で生き延びた兵士の過酷さなど、読むのが辛くなることもしばしば。しかし、実際の戦いはこんなもんじゃなかったのだろう。
わずか3作目にしてここまで重いテーマを扱った作者の熱意に感服する。この本を読まなければボルネオの戦いも知らないままだっただろう。
物語の設定が私は苦手だったのと、最後ちょっと力みすぎかなとも思うので★4つにしました。
投稿元:
レビューを見る
今年は第二次世界大戦が終わり、70年になる。マスコミ等でもいろいろな特集や報道がなされてきたが、この小説もその戦争を題材にしている。
日本ではほとんど知られていない現インドネシア領ボルネオで敗戦間近に起こった事件を題材にしている。現地では毎年慰霊祭が催されるほど皆に認知されている事件であるという。
日本で自殺し損ねた青年と既に15年前に死んでいる祖父の幽霊(?)とのボルネオを訪ねる旅を描いている。そこにあるのは、戦争とは一度始めてしまうと、誰もが「敗戦」を認識できても、なかなか止めることが出来ないということ。信じたくないと目を背ける、責任を負いたくないと保身に回り、次の一歩がなかなか出せない。その結果命が軽んじられ、簡単に死へ追いやられる。
「勝ったほうにも負けたほうにも正義はない。それが戦争の真実だ。」本書に書かれたこの一文はすべての戦争に当てはまる。
若い人たちにとって戦争はことばとしてしか理解出来ないものになっているのかもしれない。いま一度、この平和な日本が築けたのが70年前の多くの日本人の犠牲によるものであることを顧みなければならないだろう。
本著は戦争を題材にしながらも、現代とその時代の若者を対峙させながらファンタジーの要素も盛り込みエンターテイメントとしても読みやすい。是非若い人たちにも読んでほしい一冊だ。
投稿元:
レビューを見る
マカン・マランからのこの作品は度肝を抜かれる。
単に「不幸な」ということではない。事実である過去と、事実である現在。
もちろん、戦争の前では、わたしたちが何を語ろうとどうにもなることはないのだけれど、ただ、いつの時代もやるせない逃げ場のないことは起きるのだ。
この著者は、ただただすごい。そしてただすごいだけではない。
投稿元:
レビューを見る
戦争は絶対に美化されてはいけないと思う。
どんな戦争だってきっともっともな理由をつけられて
正当化されて始まったのに違いないのだから。
第二次世界大戦の末期のボルネオ島。
そこで起きた正視できないほどの悲惨な出来事。
亡くなった祖父の死んでも死にきれないほどの心残りを晴らすため、
孫の達希はボルネオ島への旅に出ます。
達希とて、日々を安穏と過ごしている訳ではなく
現代を生きる彼にも死にたくなるほど辛いことがあるわけで・・・
それでも戦争の狂気の中で必死で生きようとしていた
祖父たちの思いを知った後は
逃げ出さず日々闘っていくことを決意するのです。
自分の命はつないでくれた誰かがいてくれたから
今ここにあるのだものね。
投稿元:
レビューを見る
1943年に起きたポンティアナック事件を題材にした小説。一種の反戦小説、ファンタジー小説、主人公の成長を描く教養小説の要素もあるが、何よりもエンターテイメントとして良く出来ている。週末、一気読みした。
主人公はブラック企業に勤める27才の平凡な青年。借金に苦しみ、発作的に飛び降り自殺を図るが、15年前に死んだ祖父の霊に助けられる。祖父は生前心残りの「人探し」を一緒にすることを条件に隠し財産で借金の肩代わりを提案。そこから祖父の霊とのボルネオへの旅が始まる。
祖父は戦時中、軍の命令で農業に携わっていた。そこで出会ったのは、個性豊かな人々と悲惨な戦争の現実だ。
戦争は、祖父から大切なものを奪った。そして、祖父の「人探し」の秘密がだんだんと明らかになってゆく。
本の表紙絵は卵と赤道をイメージしたもの。赤道直下では、うまく置くと卵を直立させられるという。主人公は、赤道直下の街、ポンティアナックにある赤道記念塔で卵を立たせ、観光客の喝采を浴びる。主人公の再生をイメージさせるシーンだ。
ポンティアナックには一度行った。好きな街で、街の描写を読んでいたら、また行きたくなってきた。戦時中の住民の様子も含め、著者が綿密な取材を行ったことが、推察できる。
日本軍と現代のブラック企業という腐敗した組織の中で、祖父も主人公も、それぞれ必死に再生しようとする。主人公への感情移入がしやすい展開であり、「読んで良かった」感が得られる。
お勧めの★4つ。
投稿元:
レビューを見る
素晴らしい一冊でした。目に見えない者を持ってくるのに賛否はあるのかもしれませんが、私はとても深く感じるものがありました。戦争は誰をも幸せにはしない。その戦争は現代を生きる人達の心にもあるんだと。壮絶、凄惨…経験に差はあるだろうけど心に残る傷はその時その時残る重さとして変わらない。昔の人が偉いとか、今は幸せな時代だとかそんなのはどうでも良くて、「今」を生きる人達の戦いはその人の物だし、大問題なんだと思います。勉さんから、いや、その前から脈々と受け継がれる命。大切にして欲しいと思います。勉さん、良かったね…♪
投稿元:
レビューを見る
ブラック企業での仕事に疲れ、ビルから飛び降りた達希を救ったのは15年前に亡くなった祖父勉の幽霊だった。
祖父に頼まれ人探しをすることになった達希が向かったのは第二次世界大戦の戦地ボルネオ島。そこで知る悲劇と祖父勉の過去。
まだまだ知らない戦争の悲劇は沢山あるのだと思い知らされました。
知らないことばかりで、途中何度も検索しながら進める読書となりましたが、出会って良かった。
現代とその時代をつなぐための設定がうまいなと思います。
違和感なく読み進めることが出来ました。
二度と繰り返してはいけない悲劇。
多くの人が知り、読み継がれる必要のある本だと思います。
素晴らしい本でした。
投稿元:
レビューを見る
第二次世界大戦最後の大規模上陸作戦の地ボルネオ。暗い歴史は激しいスコールで流されることなく、土と共に次の世代へと受け継がれていく。戦争の記憶も同様に風化することはない。それでもボルネオの民は「恨むこと」より「赦すこと」を選び取った。先達からのタスキを未来へと繋ぎ、新たな関係を築くために。最近は自分の位置、基準とする場所から動かず、立ち止まったままでの議論が目立つ。居場所のために自分を犠牲にしてはいけないし、ほかの誰かを犠牲にしてもいけない。大切なのはそこに生きる人。そして進み続ける人なんだな。
投稿元:
レビューを見る
古内さんの本は読みやすくて、心に響く。私たちの祖父は、どうやって戦争の時代を過ごしてきたのか…は、私も考えることが多い。戦争を扱った小説やテレビは、たくさん見てきたが、それが祖父母と結びつかない。戦争を体験した人は、語らないけど、一人ひとりに苦しく辛い物語があるのだと思う。
投稿元:
レビューを見る
大好きな本のひとつになりました。
不思議な物語の始まりから
太平洋戦争での 東南アジアでの様子
現地での様子
ついつい 涙してしまいました。
といいつつ 感動はするけど 何も行動できない自分がだらしないと思いつつ 現状維持で進んでしまってます。
ただ 管理する側で無く 実務を淡々とこなす現場を大事にする
日本 世界になることを 望みます。
どうして 政治家が 先生って言われる?
どうして 官僚が高給を受け取る?
投稿元:
レビューを見る
祖父が経験した戦争を通して、とんでもない状況に耐えられず命を断とうとした孫が、もう一度立ち直るまでのお話。
霊が見えたり、ファンタジーっぽさは否めませんが、
不思議とスッと入ってきます。
戦争についての描写(特に心理描写)が詳しくて、痛いほど良くわかるからかもしれません。
自分の命は己だけのものではない。祖父が一生懸命生き抜いてくれたおかげでもあるんだということに気づき、前を向く主人公の生き様がかっこよかった。
同時に、ちょっと目線を変えたり、世界が広がったりすると、意外とちっぽけに思えたりもするんだよなーと。
「ヒビが入っても、潰れても、心はきっと、何度でも生まれ変わる。」
投稿元:
レビューを見る
古内さんがこんな小説を書くなんて。
第二次世界大戦中のボルネオ島の話なので、びっくり。
いい年になった自分が何も知らなかったのが
恥ずかしいです。
投稿元:
レビューを見る
古内さんの本ということで、あらすじも知らずに買った本でしたが、思っていた方向とだいぶ異なる出だしに戸惑いました。それでも読み進めるうちに話に引き込まれ、一気に読みました。重みを伴った、でも古内さんらしい小説らしい小説でした。
投稿元:
レビューを見る
プロローグ、読み直してその意味がわかった。
読み始めて、何故と思う世界に連れて行かれた。
プロローグのことは忘れていたので。
この作家はすごい。
読者を思いもしない世界に連れていってくれる。
また、ここまでこの時代について書けるとは。
最後まで読んで、痛みのことがわかったが、道標については。
まだまだ読み方が不足している。