紙の本
津波の原理、被害、対策がバランスよく説明されている。
2011/03/27 17:03
15人中、15人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:銀の皿 - この投稿者のレビュー一覧を見る
著者は工学系の、防災・減災・危機管理の専門家。本書は2010.2.27のチリ沖地震津波をきっかけとして書かれた。それまでも住民の避難率が低いことが問題になっていたので、これまで少なかった津波の防災に役立つ知識の本として書かれたということである。
わかりやすい文章である。原理の説明も、被害の原因も、どうしたらいいのかの対策も、バランスよく説明されている。
浮いてしまう家、数十分間隔で寄せる複数の波。コンビナートや住宅の火災。今度の地震による津波の災害を(もちろん素人の感覚ではあるが)いい当てていて恐ろしいほどであった。
「津波は第一波が一番大きい?」「津波は引き波からやってくる?」など、小見出しになっている疑問文はよくある誤解を的確に示している。実際に第一波が収まり、帰宅して被害にあった事例、シミュレーションで第11波が最大になるという計算例も載っている。その中で「以前の小学校教科書に載っていた文章が、引き波で始まった津波を取り上げていたせいで『津波は引き波で始まる』と覚えてしまった人も多い」という話にはとても複雑なものを感じてしまった。「引き波から始まる場合も、そうでない場合もある」。そういうことをきちんと知っておかなくてはならないだろう。
著者はつい陥りがちな災害時の心理も熟知している。津波の実践的な対応についてでは「とにかく逃げろ」と強調しているのだが、「車で山まで逃げられても、後続の事を考えて数キロは高くまで進むこと。」という提言を加えることも忘れていない。
現代の日本での陥りやすい問題点・対策も多く指摘されている。例えば情報機器が発達すればするほど「避難警報がでていないから」と避難しない、自分で判断せず頼ってしまうことに慣れてしまう危険性。計器が壊れてしまったり、警報を伝える手段が故障してしまう場合もある。この指摘にはどきりとするものがあった。基本は「正しい知識と情報を個人が持って判断すること」につきるだろう。
本書の出版は2010年12月。「もう少し早くこの本を読んでおけば」などとは言うまい。もし読んでいたとしても「そうか」と読み流してしまった可能性が高いからである。
しかし、今から読んでも遅くはない。現実になってしまった災害をもう一度理解し、記憶に留めて生かすためにも、沢山の方に本書を読んで欲しいと思う。何時次の津波が近くで、旅行先で起きるかわからないのだから。
早く忘れてしまいたい記憶も多いに違いない。しかし少しでも次の被災者を減らすため、記録し語り継いでいくことが残ったものの仕事の一つでもあるだろう。忘れたいことかもしれないが、語り伝える義務もある。
記憶を留め、新しい発見、反省を積んでいく基礎としても、本書は大変役に立つと思う。
紙の本
高地移転は無理だから,避難に重点
2011/06/04 19:38
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Kana - この投稿者のレビュー一覧を見る
東日本大震災のわずかまえに出版された本だ. ここには,津波のメカニズムから避難のしかたまで,さまざまな知識がもりこまれている. 震災からの復興が議論されているなかで注意をひくのは,「高地移転は無理である」 という記述だ. いったんは高地移転がすすんでも,やがて低地にも家がたつようになる. 今度もおなじことがくりかえされるだろうから,それをかんがえておく必要がある. だから,この本では避難に関して重点をおいていて,知っておくべきことが多い.
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この数百年に必ずやってくるという地震や津波に対して、本当に人間は浅はかでちっぽけですね。その分、有識者と行政が先行的に施策を練っていただくことが先決だと思います。今のところ、行政もまた愚かで先見性がないですから。
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津波のことを一般の人が知るにはこの本が一番のおすすめだと思う。
例えば、津波が、台風などによる高波とどう違っていて、具体的にどのような危険性を持っているのか、理論に基づいたきちんとした説明でありながらとてもわかりやすく、読んだ後にはその危険性が実感できる。
防災教育の面からみた、「稲むらの火」の話の問題点などにも触れている。
一刻も早い避難の重要性や、ものを取りに帰るなどの行為の危険性についても繰り返し言及しており、刊行がせめて1年早かったら、東日本大震災での津波被害軽減に役立ったかもしれない。悲しいかな、災害が実際に生じたがために、今後この本の真の価値が再認識されるのではないかと思う。
様々な立場の人に講演をする経験を積んだ、ベテランの工学研究者によって書かれたという感じがする本である。
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本書で指摘されていた問題点全てが、今回の大震災で起きてしまったことは誠に残念としか言いようがない。本書が出るのが遅かったのか、それとも地震の発生が早かったのか…。さらに現実世界では、本書では全く触れられていない原発災害まで発生しているだけに、余計深刻な状況である。
今回の悲惨な出来事は、日本中で子子孫孫、語り伝えていかないといけないことだし、この教訓を生かした防災・減災対策をとっていかないといけないだろう。
将来、今回の大震災のことを反映させた第二版が出版されることを切に望む。
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情報化時代はとうの昔に過ぎ、
情報過多時代、情報混沌時代を生きている。
後で知れば必要な知見はそこにあったのに、
それ以前にはとんと気づかない。うかつであった。
帯にこうある。
(無論、3.11以前に書かれた惹句であろう。)
必ず、来る!
災害研究の第一人者が示す
備え、対策、そして実践
河田惠昭『津波災害ー減災社会を築く』を読む。
著者は現在関西大学社会安全学部長・教授であり、
阪神・淡路大震災記念 人と防災未来センター長を兼務している。
私が読者にとくに伝えたいことは、
「避難すれば助かる」という事実である。
そのためには、まず津波に関する知識の絶対量を
増やすことが先決である。
これらの知識で新しい”常識”を身につけるのである。
(本書「まえがき」p.iiiより引用)
しっかりとした知識に基づく避難を
河田は「生存避難」と名付ける。
津波防災・減災対策を進めるためには
文理融合型の研究・教育組織が必要だが
日本のみならず世界でも皆無である。
それが本書執筆の動機となった。
読んでいて目ウロコの記述がいくつもあった。
例えば津波は高波、高潮とはまるで違う。
津波は海面がどれだけ盛り上がったかだけではとらえられない。
海面から海底まで数百メートルから1kmちかく
ほぼ水平に水が動くため減衰せずに海岸線、防波堤を襲う。
つまり、巨大な水の固まりがぶつかってくると考えればよい。
そして防波堤にぶつかると運動エネルギーが
位置エネルギーに変換され、高さが1.5倍になる。
5メートルの津波が7.5メートルになるのだから
5メートルの防波堤はやすやすと越えてしまう。
河田が主張してきた言葉、
「水は昔を覚えている」も恐ろしい。
昔、海だったところや湿地帯だったところに
市街地などが発達しても、
いったん、洪水や高潮、津波はん濫が起こると、
昔に戻って、また海や湿地帯に戻るということである。
(本書p.136より引用)
本書を読んでいると、
3.11の東日本大震災によって起きた津波災害を
正確に予言しているように思う。
現実にはマグニチュード9.0、
世界観測史上第四位の大地震であったことは
著者の予想をも越えていたかもしれない。
すべての災害を100パーセント防ぐことはできないが、
「減災」する社会を築くことはできる。
そのためには個人の知識量を増やすだけではなく、
地域コミュニティ、自治体、企業、政府などと連携した
集団の実地訓練が欠かせないことを知る。
(文中敬称略)
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地球では、昔から周期的に地震や津波や火山活動が起こっていて、たまたまそこに人間がいると災害になる。誰もいなかったら災害にはならない…。
は―、人間てちっぽけだ…。という思いに駆られる。しかし人間としての物理的な限界はもうどうしようもないので、ちっぽけはちっぽけなりに、今日いちにちを精一杯生きていくしかない、みんなで。 それしかない。
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マグニチュードが6・0以下あるいは震源の深さが100kmより深ければ、被害をもたらすような津波は発生しない。
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2010年12月に出版された書籍で、津波の被災をどうすれば減らせるかを書かれた書籍で、被災人口の0.1%程度の死者がでることが過去のいくつもの事例でわかっているようです。
津波は、レンズ効果があって浅瀬で屈折することから被害が大きいところ、小さいところがでてくると書かれている。
また津波は波ではなくて、海面が高くなる現象で、運動エネルギーが位置エネルギーに変換されることから、5mの津波は6mの堤防では防げないことが書かれている。
東京で起きたらどうなるのか?という部分は興味深く、地下鉄へ水が流れこんで、地下鉄が冠水するのと、140万人が住むゼロメートル地帯が数週間に渡って冠水するという予測。
コンビナート地帯での有毒ガスの発生による被害などについても言及されてます。地下鉄に水門があることも知った。
この震災を機会に一度読んでみるといいかも。
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津波災害を正しく理解させ、そのことから防災につなげようという趣旨の本。数メートルの津波がいかに恐ろしいかは2011年3月11日の大地震で起こった津波映像で理解した人が多いと思うが、冒頭にある説明でが50cm級の津波でも恐るべきものだという感覚が正しいのだと気づかされた。
過去にも津波被害が何度も起きているのにも関わらず、東日本大震災ではさらにすさまじい被害を生んだが、過去に襲われていないという地域もまたこれを機に津波に対する理解と対策を進めるべきだろう。「ここには津波は来ない」という根拠のない迷信のために避難ができず、被害者を増やさないためにも。そのために読む本としては非常によい啓蒙書である。
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なんというタイミングだろう。3月11日の東北・関東大地震、そしてそれにつづく大津波が起こる、数ヶ月前の12月にこの本は出ている。まるで、今度の大津波を予測したかのようだ。本書は、きわめて実践的で、これから起こるべき東海、南海地震で引き起こされる津波対策マニュアル本としても読める。それは、著者が防災・減災(こんなことばができていた)の第一線で、長い間働いてきたからである。著者は本書で、津波の恐ろしさを具体的に例をあげ、それに対する人々の備えに警鐘を鳴らす。津波は単に高い波ではなく、いわばビルがおしよせてくるようなものだ。しかも、それは、一度だけでなく何度でもやってくる。引いた津波に安心し、海岸を見に行って津波にあうことも少なくないという。また、4メートルの津波に5メートルの堤防があっても役に立たない。それは、津波は堤防にぶつかると上にむかってせりあがるからだ。著者がさらに強調するのは、津波災害での人々の避難率がきわめて低いことだ。情報社会は人々の自己判断を見失わせる。地震がおこったとき、どうすべきか、津波情報を待つのではなく、ふだんの訓練と自己判断がカギになる。今度の災害では、8割以上の人々が津波でなくなった。わたしたちが今なにをするべきか。この本から教えられることは多い。
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神戸市中央区に「人と防災未来センター」がある。阪神・淡路大震災の知恵や知識をわかりやすく発信して災害に強いまちづくりを目指す、阪神淡路大震災を経験した神戸ならではの施設だ。
そのセンター長である河田惠昭氏の最新の著書が本書。今年1~4月期の神戸新聞・夕刊の「随想」で連載をされていたので、神戸新聞読者にはなじみ深い存在かも。
その「随想」連載中に、今回の東日本大震災が発生、特に大きな津波被害が起きた。本書では河田氏が科学的に津波のメカニズムと防災の考え方、さらに重大災害時の人の心理状態まで説明していて実に分かりやすい。オススメの一冊。
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東日本大震災の3ヶ月前に出版された津波災害の仕組みと怖さ、対策法をわかりやすく説明した本です。
津波のメカニズムと恐ろしさを図や写真等をもちいてわかりやすく説明しています。たとえば、通常の波と津波の違いについて、2mの津波は波というよりも2mの高さの濁流が海から流れてくる、など直感的にわかりやすい説明をしています。
そして、津波は地震や台風などと違い、避難することで確実に命を守ることができる唯一の災害であると説いています。
そのためには、津波の仕組みと恐怖を正しく理解し、津波情報にどう注意したらいいか、津波が着たらどうすればよいかについて社会科学的な点からも考察しています。
津波は必ずしも引き波から始まるとは限らない、復興には事前に被災後の街づくりを計画しておかないと時間が無くて結局もとの町になってしまう、過去津波がきたことが無いところは単に記録に残ってないだけである、など、気づかされることが満載でした。
この本が、もう少し早く出版され、何かで話題になっていたら救えた命もあるのではないかと悔やまれるくらいの本です。一読の価値アリです。
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なんと今回の地震の3ヶ月前の出版である。
吉村氏の本は小説家の目から見た津波であったが、こちらは津波防災研究の専門家のもの。
津波の種類で近海の地震によるものとチリなどの遠方の津波の違い、津波の発生と伝わり方のメカニズム、古文書に見られる過去の事例、防災避難への対策を説いている。また「津波は引き波から」とか「ゆれが小さいと津波はこない」などの伝承が正しいかどうか、などを検証している。・・これはある場合にはあてはまり、そうでない場合もある、ということで伝承に捕らわれてはいけないとしている。それほど、津波は時と場所で状況が異なるということらしい。
で、この本を出すきかっけだが、2010年2月27日に発生したチリ沖地震津波で、わが国で168万人対象に避難指示が出たにもかかわらず、実際に逃げた人が3.8%だった、という事実に危機感を覚えたためと最初に記している。このままでは大災害が起きる、被害を防ぐには、津波のメカニズムを知り、それを「避難」という行動に結びつけなければならない、そのためにこの本を書いたとある。津波は「避難すれば助かる」のだと読者に伝えたいとある。・・・避難すれば、高い所に、ということであるが、今回の津波の動画を見ていると、ほんとにグラっときたらすぐに行動を起こさないといけないんだなあ、という気がする。しかし著者も今回、ここまでのものは想像できなかったのでは。それほど自然の驚異はすごいんだ、ということを逆に教えてくれる。
また古文書にみられる時代を追っての事例をみると、事例研究も大切だなあという気がする。そして忘れてはいけない、ということ。
これは吉村氏の本を買った本屋に無かったので、少し遠くの県内では一番大きい本屋で買った。しかし普通の岩波新書の所に普通に置かれていた。別に震災コーナーも作ってあったのだがそこには無かった。あるいはそこに置いといたのだがそこでは売り切れていたのか。。 これも吉村氏の本と同じようにひら積みにしていい。
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読み終わって、ひたすら、悔しい!との感想。
どうにもならなかったことも多かったのだろうが、この本の知見がもっと広まっていれば、命を失わずに済んだ人も数多くいたと思われる。
著者の河田惠昭さんが館長を務める「人と防災未来センター」にも何回か訪ねたことがある。こちらも展示品を見ることで減災の重要性を再認識することができる。
これからもコメンテーターや関西大学社会安全学部長としての精力的な情報発信に期待したい。