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同時代資料の大切さ
2015/09/29 22:58
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投稿者:タヌキネコ - この投稿者のレビュー一覧を見る
作者は甲骨文字の資料研究から、後代の「歴史書」のなかに架空の王統が組み込まれており、時間とともに「あらまほしき)昔が物語られていることとを丁寧に語っています。
また占いなどで吉兆が得られるよう卜骨に細工が加えられていたこと、人の命の軽重の大きさなど、当時の社会自体の不思議な様態についても書かれています。現代の「平等」にもいろいろな問題がありますが、占いのために首を落とされたり、主の馬車を引くため一緒にそのまま埋められたりはしないことに、少し感謝したいように思います。
この時期の青銅器の魔的な魅力はこうした社会だからこそとも思われますが・・
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最新研究による殷王朝
2022/02/14 20:54
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投稿者:いて座O型 - この投稿者のレビュー一覧を見る
近年の中国古代史研究の進展には、目を見張るものがある。
史記に依拠した研究から、考古資料および同時代や直後の時代の文字資料に依拠した、より史学的な研究の進展で、殷という国も、これまでと違った様相と歴史的推移が、なんとなくうかがい知れるようになってきており、そういう新しい知見を盛り込んだ概説書。
より一層の研究の進展を期待せずにはいられない、充実した内容で、全く新しい中国史が描かれている。
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中国古代の王朝殷はそれを倒した周王朝が様々な中傷を残したためにマイナスイメージが強くなってしまいましたが、甲骨文字という史料を残したために徐々に実像が明らかに。
2018/08/02 11:50
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投稿者:ぴんさん - この投稿者のレビュー一覧を見る
現代中国について議論されることの多い昨今ですが、時には古代に目を向けてみてはいかがでしょうか。古代中国の実像を探ったものです。壮大な歴史の一端を感じ取れるかと思います。本書と併せて中国古代に関連する新書を読むと、楽しみがさらに増すかもしれません。佐藤信弥著『周―理想化された古代王朝』(中公新書)、鶴間和幸著『人間・始皇帝』(岩波新書)、渡邉義浩著『三国志』(中公新書)など。
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投稿者:七無齋 - この投稿者のレビュー一覧を見る
甲骨文字を同時代資料として活用できるなんて素敵なことだ。後世に書き換えられた虚像をただすのは根気のいることだと思う。この本から古代中国が垣間見られるのは嬉しいことである。
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甲骨文字が語る
2015/10/29 22:46
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投稿者:S.SANO - この投稿者のレビュー一覧を見る
今まで抱いていた殷王朝の見方が、根底から覆された。単なる占いの材料としか思っていなかった甲骨文字が、これほどに歴史を雄弁に物語っているとは!!!
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同時代資料と文献資料
2023/09/30 14:29
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投稿者:オタク。 - この投稿者のレビュー一覧を見る
清末には発見されて研究が蓄積されている甲骨文字や金石文を前面に出して今まで伝わっている文献資料の価値を低く見ているようだ。四書五経などは戦国時代にあらわされたものであり、史記も前漢時代に執筆されていて、現存するのは宋代以降の木版本がほとんどなので、それだけでも殷代から時代が経っている。同時代資料を高く評価するのはいいとしても、文献資料を批判過ぎるのが読みづらい。
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最古の王朝?
2023/05/05 10:35
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投稿者:ニッキー - この投稿者のレビュー一覧を見る
院の時代の前に夏王朝が存在したと言われます。それについてもっと言及があってしかるべきだと思います。
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殷と言えば、封神演義、紂王と妲己、酒池肉林...くらいしか思い浮かばなかったのだけど。史実であろう部分と、後代に改変された歴史...。甲骨文字の解読から、ここまで分かるんだなぁ。
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殷王朝は、今から三〇〇〇年以上も前に中国に実 在した王朝である。酒池肉林に耽る紂王の伝説な ど、多くの逸話が残されているが、これらは『史 記』をはじめとする後世の史書の創作である。い まだ謎き殷王朝の実像を知るには、同時代資料で ある甲骨文字を読み解かねばならない。本書は、 膨大な数にのぼる甲骨文字から、殷王朝の軍事や 祭祀、王の系譜、支配体制と統治の手法などを再 現し、解明したものである。
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立命館生え抜きで、学生時代から甲骨文を専門にしてきた著者による古代史の再整理。
従来、後代に成立した『史記』などの文献重視で語られてきた殷王朝について、同時代資料の甲骨文を用いて事実関係の整理を試みられております。
王朝が存続した期間に比して王の数が多いところから、従来、「殷は兄弟相続であった」などとされていましたが、著者はこれを否定。甲骨文に見られる祭祀のグループ分けを行い、王統の分立と、後世それが統合された可能性を示唆。
日本史でいうならば、南北朝時代が100年続いて、のちに両方の皇統を一つの系図にまとめたようなものなので、そりゃあ『史記』の記述にも矛盾が起きるってもんです。
74年生まれの著者は現在、立命館白川静東洋文化研究所客員研究員。まさに白川学の流れをくむ最後の弟子と言えましょう。
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『尚書』『史記』等の文献史料にある創作を排し,同時代史料である甲骨文字によって殷の歴史を再構築した良本。
酒地肉林や玄鳥説話などの馴染み深い魅力的なエピソードは悉く捨てられるのだが,甲骨文字に残された占卜と他の考古学的史料から殷の歴史が解き明かされる様子が興味深い。当時の様子がありありと…とまではいかないが,王位継承や戦争など大きなイベントの時系列や統治の大枠などはつかめるようだ。特に紀元前13世紀以降の殷代後期は比較的情報が多く,本書でも半分ほどの分量を使って記述している。重要な指摘としては,武丁による殷朝再興期,甲骨による占卜にはトリックが使われており,吉兆が出るように仕組まれたりしていた証拠があるということ。神権政治というが,神あるいは天による支配というより神を利用した支配という側面も色濃かったのだ。納得感ある話ではある。
殷の滅亡については,当時の史料には残りにくく,交代した王朝による歪曲の動機も十分という性質のため真相にたどりつくのはかなり厳しい。それでも著者はいくつかの推測に基づいて記述を試みていて,集権化を進める王に対する反発が,反乱の原因になったのではないかという見立てを提示している。
後世の創作が史実として受け止められてきた長い歴史ももちろん東洋史の大きな部分ではあるけれど,こういう実証主義に基づく新しい歴史も更に解明が進むことを期待。
http://twitter.com/Polyhedrondiary/status/548993522754281472
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殷王朝というと封神演義の影響で宗教的権威と軍事力で広大な地域を支配していたイメージがあったので、そうしたイメージが覆されていくのが面白かった。
新書だけど、資料が多めに掲載されてるので、また読み返すのもいいかもしれない。
1 殷王朝の支配体制
(1) 間接統治
王が直接支配できた範囲は都の付近のみで、都の遠方の地域にあっては地方領主が支配していた。
そのため、殷の支配地には数百万人が生活していたものの、王が動員できたのは3,000人から5,000人程度だった。
王は直接支配していた地域で定期的に軍事訓練と視察を兼ねた狩猟を行うことで、自身の権力を誇示した。
(2) 祭祀儀礼の政治利用
こうした体制を支えたのは王のカリスマ性だった。王は自然神と祖先神への祭祀儀礼を司ることで自身の宗教的権威を確立し、支配を保持した。
占卜に使った甲骨の裏には「鑿」と呼ばれる窪みが彫られ、占いの結果がコントロールされた。殷の政治は、神意に従って政治を行うという意味での「神権政治」と異なり、自己の政策を正当化するために神意が利用された。
2 「合理性の衝突」
殷の支配体制は、反乱を契機に集権化に向かった。
しかし、集権化は既得権益の喪失を怖れた地方領主の反発を招き、反乱を誘発した。
殷の支配は、信仰に支えられた間接統治という旧来の合理性と、反乱に備えた集権化という新しい合理性の「衝突」によって崩壊していった。
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あとがき243頁:「いずれも一定の合理的が認められている」。
まだ本文を読んでいないので,これが著者の用語法で「合理的な部分」という意味で「合理的」を使っているのかも知れない。
調べてみたら,
甲骨文字の読み方/甲骨文字に歴史をよむ/古代中国の虚像と実像/漢字の成り立ち『説文解字』から最先端の研究まで
著者の本を読むのは,5冊目だった。
ひとまず「合理性」の誤入力だと,かんがえておく。
221頁:酒に肄(なら)いたればなると。
→酒に肄いたればなりと。?
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今から3000年以上昔に実在した「殷」王朝。その実態は、当時の文字資料が少なく、また後世の創作的な歴史書のために分かりづらくなっていました。それを数少ない文字資料である甲骨占卜の古代資料から、出来るだけ公平に導き出されています。読んでいて分かるのですが、その論理の導き方、整理の仕方などは、非常に地道で粘り強い根気の必要なものだと思います。その根気を読んで追いかけることで、「殷」という王朝の真実に対して大分迫ることができました。
古代は、確かに現代とは違った文化がありますが、その現実的な部分は今に通じるものであり、古代人の思考なども理解できますし、現代でも似たような事象があることは、著者も最後に少し触られています。
これを契機に、歴史の人々に親近感を持つことができたことも、本書を読んでよかったと思わせていただいた点です。
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最新の甲骨文字資料による研究の成果をふんだんに盛り込み、中国最古の王朝とされる殷王朝について、王の系譜、支配体制、祭祀、軍事、歴史的位置などの全体像を描いている。ただ、著者は、『史記』等による文献史学には批判的なスタンスを貫いており、「酒池肉林」のような説話は後世の創作に過ぎないと切り捨て、あまり文献史学の成果は取り入れていない。
本書を読んで、甲骨文字資料であっても、現在の漢字、漢文と基本的に変わらずに読解できることに、まず驚いた。また、龍や十干など、現代にまで続く中国文化の原形が殷王朝の頃に少なからず存在していたことにも感慨を持った。
当時は占いや祭祀による政治が行われていたが、当時の占いが骨の加工によってあらかじめ操作されていたという著者の研究成果は非常に興味深かった。祭祀による政治は現代から見れば非合理だが、当時においては、王の行為を正当化し、王の権威を確立するという一定の合理性を持っていたのである。人間社会の制度や構造は、一見すると非合理的であっても、長期間にわたって存続したものには、何らかの合理性が含まれていることが多いのであるという著者の指摘には説得力がある。そして、分権的な支配体制のもとでの合理性によって経営してきた殷王朝が、新しい状況に対処するため急速に集権化に向かったことで、「合理性の衝突」が起き、殷王朝は滅びたのだという。なかなか含蓄のある分析だと思った。
本書は、歴史学研究の醍醐味をよく感じることができる一冊だと感じた。