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美女
著者 連城三紀彦
この里芋のような女に、俺の「浮気相手」が演じられるのだろうか? 妻の妹と関係を持った男は、妻の疑いをそらすために、馴染みの居酒屋の女将に一芝居打ってくれるように頼み込んだ...
美女
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美女 (集英社文庫)
商品説明
この里芋のような女に、俺の「浮気相手」が演じられるのだろうか? 妻の妹と関係を持った男は、妻の疑いをそらすために、馴染みの居酒屋の女将に一芝居打ってくれるように頼み込んだ。男の目の前ではじまった、妻とその妹、女将――3人の女の壮絶な「芝居」は、想像もしない幕切れへ……(表題作)。逆転に次ぐ逆転! 息を呑む超絶技巧で男と女の虚実を描く、8篇の傑作ミステリアス・ノベル。
目次
- 夜光の唇/喜劇女優/夜の肌/他人たち/夜の右側/砂遊び/夜の二乗/美女
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紙の本
男と女の話こそ最大のミステリ。深層の仮装の妙味ともいえる連城文学の新骨頂。日常がドラマティックに変貌
2000/10/16 00:15
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投稿者:橋本光恵 - この投稿者のレビュー一覧を見る
『美女』とは、何とも心惹かれるタイトルである。単なる恋愛小説のはずがないと思わせる。そして著者が連城三紀彦。日本のウィリアム・アイリッシュかセバスチャン・ジャプリゾともいえる、独特の美学を持った才人。恋愛物語ほど複雑でミステリアスな話はないということをとことん追求している作家であり、心理描写の綾でストーリーを展開させながら純文学の香りを放つ、という特異の手法を持っている。この短編集でも表題作をはじめとする8篇の恋愛小説(同時にミステリ)でそのテクニックが発揮されている。
気鋭の美容整形外科医と離婚寸前の妻との関係を描いた「夜光の唇」、七人の男女が織りなす恋愛模様をそれぞれのモノローグで構成した「喜劇女優」、二十年連れ添った妻の死を目前にした男の吐露を綴った「夜の肌」、同じマンションにいながら別々の部屋で暮らす家族の奇妙な生活を描いた「他人たち」、殺人が絡んだ四角関係の真相をたどる「夜の右側」、映画を撮影中の男優に甦る思春期の残像を描写した「砂遊び」、一つの殺しのアリバイを証明するために別の殺しの犯人だと主張する男を描いた「夜の二乗」、妻の妹との浮気をごまかすために、馴染みの居酒屋の里芋のような女将に一芝居打ってくれるように頼むサラリーマンの姿を描く「美女」の8篇。こうして一言でそれぞれを解説してみると、TVのサスペンス劇場の素材のように感じられるところが、深層の仮装の妙味ともいえる連城文学の新骨頂なのである。
入り口には、日常にころがっている不倫や痴話噺の世界で息づく俗っぽい主人公の姿があり、しかし、話が進むうちに世界は裏返り、闇と光を行ったり来たり。出口にたどり着く頃には、ささいな日常にこそ浄化されたドラマが潜んでいるのだと、どこか潔い空気に満たされる。そして、読者を混乱させる何度かにわたる闇と光の反転こそ、この上ないミステリなのである。それが最大限に発揮されたのは、七人のモノローグで構成されたと前述した「喜劇女優」だろう。ここでは芥川の『羅生門』さながらに、語り手によって状況が異なり人物描写までがまるで違う。男だと思っていた人物が女であり、その逆もありで意外が意外を呼ぶ。終わってみれば一人によるモノローグだったという驚くべき展開。この冗舌にして巧みな人物関係の描写は、良質のミステリ以外の何ものでもないが、ヴァリエーションに富んだ恋愛模様という面では特上の恋愛小説といえる。派手にトリックされたこの「喜劇女優」が全体では目立つのだが、地味なシチュエーションで見事なドラマを掻き立てるのが「夜の肌」だ。死の床に伏した妻との最後の一時を過ごす夫の内面をほんの数ページで綴った短編だが、そこには二人の20年にも及ぶ夫婦生活の確執が凝縮されている。しかも生々しく官能的に・・・。 (bk1ブックナビゲーター:橋本光恵/ASIAN POPS MAG.編集長・評論家 2000.10.16)