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商品説明
貧しい織屋の長女に生まれたちよは、織業の名家に嫁ぐが、事業は時代の波にもまれ、破滅に向かっていく…。絹織物の特産地、福井県春江を舞台に、激動の中を生き抜く女のたくましさと悲しみをつややかに織り上げた傑作長編。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
津村 節子
- 略歴
- 〈津村節子〉1928年福井市生まれ。学習院短大国文科に入学。64年「さい果て」で新潮同人雑誌賞、65年「玩具」で芥川賞、98年「智恵子飛ぶ」で芸術選奨文部大臣賞を受賞。著書に「瑠璃色の石」等。
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紙の本
このタイトルを知人は傑作と言ったけど、私にはどうしても平岩弓枝の御宿かわせみの題としか思えなかったね
2003/04/20 19:59
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
知人の画家さんが、これで早々と今年のベストが決まった、と北上次郎みたいな口調で紹介してきたのが、この本。彼女に言わせると、殺し文句は女性、明治、織物だったそうな。その魔法は私には効かないけれど、でも彼女の気持ちが良くわかる。
1928年、福井県生まれの津村が、長い間書きたくて果たせなかった故郷福井県の絹織物をテーマにした小説。地方の産業の盛衰や、その中で逞しく生きていく女性の一生が、端正で微塵の乱れも無い筆で描かれる。
中村ちよは、明治21年福井県春江村に生まれた。小説は彼女が9歳の時から始まる。父中村義一郎が明治27年に創業した機業は、七歳のちよの労働力を当てにしている。そのせいで、明治19年に改正された小学校令があっても、彼女は学校に行かせてもらえない。いや、当時の春江村では女子の就学率は40%にも満たず、機業の家では女子が学校に行くほうが珍しかった。そうした中で、ちよは妹のたみを背負い、外から教室を覗き込んでは、地面に字を書き写している、そんな場面から物語が始まる。
家の仕事の中心は母よし。彼女は妊娠を押しながら、仕事に励んでいるが、祖母が出かけ家にはちよ一人の時、産気づく。幼い娘に頼りながらの出産シーンは、まさに『女の一生』。妹ミツの誕生後、母の体調はすぐれず、祖母が母の替わりに働き始める。学校に行きたくても行けない少女の気持ちを知った住職の渡辺は、義一郎を説き伏せ何とか彼女を一年生として学校に通わせることになる。
夢は実現したものの、年下の子供たちとも馴染めず、教師の期待にも応えられない日々を暗い思いで過ごしていたちよだが、母と一緒になって働き始めていた祖母が66歳で亡くなったことを契機に、学業を断念する。彼女の、貧しくは無いが、生きるのに精一杯という、明治時代の典型的な庶民の暮らしが始まる。
そして、ちよは18歳の時、地元の春江で五指に入る西山機業の次男で東京の大学を出た順二に見初められ、嫁にと望まれる。中村家も順調に家業を営んではいたものの、家格の違いは大きく、母のよしのは、縁談に気乗り薄だが。しかし、一年後、本家から分家し西順機業を起こした26歳の西山順二のもとに、ちよは嫁ぐ。19歳のときのことである。
あとは、その後の西順の歩み、一家の歴史、家を継ぐことより学問を選んだ弟清吉、関東大震災などのことが描かれていく。西順の発展とともに、機織が地機、バッタン機、力織機へ移行していくといった福井の絹織物の歴史が事細かに語られる。それに伴う福井の電力事情、発電所の建設なども詳細に描かれる。なぜ福井が、最終的には安全や観光と言うものを捨ててまで原発を誘致しようとし続けるのか、その起源は多分、この時代にあるのだろう。
この小説は、ある意味で明治における福井の絹織物の歴史が主人公といってもいい。それが、似た構造でありながら人間晴子が物語の中心にいる高村薫『晴子情歌』や坂東真砂子『道祖土家の猿嫁』と異なる点だ。といって、この小説が無味乾燥な、地方史を描くものだと思ってはいけない。ちよの学問への憧れや挫折、本家の義姉への対抗意識などが、ほんとうに生き生きと描かれているのだ。今まで、原発ということだけで敬遠してきた、福井が一歩近付いた気がする。