紙の本
生と死の結界・二上山
2010/12/26 18:02
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投稿者:CAM - この投稿者のレビュー一覧を見る
當麻・二上山が舞台となる本書の名は、作者著の『日本人の心・3 生と死の結界・大和』(講談社)によって承知はしていたが 、未読であった。
ところが、今年の夏、奈良県「磐城」(真珠湾攻撃総隊長淵田美津雄氏の生誕地である)へ行ったとき、近鉄「当麻寺」駅から外人が電車に乗り込んできて、車内からも二上山の写真をとっているので、「古市」駅で乗り換えの際に話しかけたら、小説 『風の王国』の英訳作業中で、二上山に登ってきた、と言っていた。それを聞いて、読まなければと思っていたところであった。
本書は、五木寛之氏が二度目の休筆の後、初めてペンを執った小説ということである(初出は『小説新潮』84年7月~9月号)。 巻末にある木本至氏解説では、「伝奇小説あるいはSF小説の要素を持つ奇抜なアドベンチャー小説の体裁をとりながら、現代日本人の肺腑をえぐる鋭い思想性をはらんだ問題を、読む者に投げかけてくる」、とされる。 評者にとっては、「二上山」の描写のされ方についての関心が読書の動機であったので、そのストーリー展開、構成は、少し読書前の予想とは異なるものであった。巻末には相当量の参考文献が挙げられているが、小説のなかで大きな役割りを果たす「天武仁神講」、「へんろう会」というような団体については、モデルに近いものがあるのだろうか? 私の現在の知識範囲では不明である。
なお「前方後円墳を築いた古代の権力者は、おそらく自らの手によってフタカミの山をこの地上に築こうとしたのではあるまいか。二上山は、この土地で唯一の火を噴く山だった。その山が大和の盆地を産み、河内の平野を形づくった。その山に対する古代人の思いには特別なものがあっただろう。そして二上山は石の山だ。巨大な前方後円墳もまた、輝く葺き石でおおわれた。それは、さながら人工の二上山だ。まちがいない。古代の前方後円墳は、二上山式墳墓なのだ。」(p.490)という叙述にはなるほどと思わされた。
紙の本
時代の風を歩く
2014/12/05 00:49
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投稿者:SlowBird - この投稿者のレビュー一覧を見る
ある新興財閥の影に謎の結社があるというのだが、主人公は謎の美女にふらふらと近づいていってその組織に取り込まれてしまう。かつて日本で定住しない漂流民がいたが、明治政府に弾圧され、その対抗策として作られたのがその組織だという。そうして権力に潰されないだけでない、さらに強固な力を獲得するか、自然とともに生きる漂流民としての矜持を通すか、組織の内部対立に巻き込まれていく。
物語の構造はともかく、様々な現代的なガジェットが放り込まれて、そちらの方にむしろ不可思議さを感じられるほどだ。彼らは、車、ナイフ、靴といったアイテムに深い愛着を持ち、その描写の執拗さは、その後のブランド信仰時代を予見している。若い頃にヒット曲があったというソウルフルな女性歌手は、藤圭子か、それよりは、ちあきなおみ、しばたはつみのようなイメージを抱く。歩くという行為への執着は、自然破壊への反発で、登山、ハイキングのブームへの序章か。主人公がかつて体験した世界放浪の旅というのも、随分流行したような気がする。
とにかく、全体にあれもこれも放り込んで、雑然ととっ散らかって、本筋はそれらの一つ一つの積み重ねのように進むのが作者の手腕。ジャズメンとコミュニズムの出会いという、文壇作家には到底書き得ない現代的すぎる作品でデビューした、この作者の特質が改めて発揮されている。
古典的な伝記物で、血統が珍重されるというありがちな進行でありながら、国家が、社会がというよりも目の前の人々の繋がりの先に世界を感じ取るような、個人主義だが孤立主義でない、刹那的だが革命志向でもないという現代若者像の集合体が物語を織りなしていくのは、高度成長時代の演歌のようなもので、奇妙な酩酊感がある。そしてのっぴきならない抗争の中で、一方の女性リーダーによる選択は、たしかに男社会の論理では決して生まれない発想であり、ウーマンリブよりはフェミニズム的感性を汲み取っているのも、時代に敏い。
同時代のうねりの中にいると、得体の知れないシンクロ感としてしか捉えられないかもしれないが、時代を全身で受け止めてしまう作家像をまざまざと感じることが出来る。
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五木作品を読んだのはなんとこれが初めてです。びっくりするほどすらすら読めました。これを機会に他の作品も読んでみようと思った。近くの地理が出てきて面白かった。ウォーカーになろうと決心した。とかいいながら毎日自転車に乗ってます。
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五木寛之の作品では最初に読んだ作品。歩くことについて書かれてる部分も有り、面白かったです。意外に読みやすかったです。
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とにかく面白く一気に読み終える。
戸籍を持たず、自然を愛し、山野を渡り歩いて竹細工や狩猟などに携わった山の民。
サンカを扱った小説。民俗学に興味を持つ。
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しょっぱなから壮大な話の予感がして、そのドキドキ感が楽しかった。血脈とか一族とか。設定は気になるけど、やっぱり宗教じみすぎてて入り込めなかったです。
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若い警官の職務質問を終え、速見卓はメルセデス300GDを仁徳陵へと急いだ。
夜の公園に集まる50人以上の影、そしてその日二上山ですれ違った「翔ぶ女」もそこに…
ある女性の「歩き」に興味を持ち追いかけていく過程で
自分の先祖まで遡る出来事に触れる事になる。
「歩く疾走感」やそれに伴う「オシエ」を描いた長編作品
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民族歴史ロマンを、80年代のスペクタクルな感覚でおもしろく小説となった。サンカの話をこうも物語仕立てにしてしまう五木さんはすごい。。
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再読。
五木寛之作品の中でいちばん好き。
民俗学や自分のルーツに興味が湧きます。
「歩くこと」についての描写や思想もたまらない。
近いうちに大和路を歩こうと思います。
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漂白の民、差別的に表現されるサンカのくらしをたどりながら、歩くことの意味をみいだす。てくてく歩くことのすばらしさを感じることができます。
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奈良県中南部の大阪との県境にある二上山を舞台に、この国を影で支えてきた宗教団体(薔薇十字団のような?!)と闇の組織が衝突、出生の秘密を知った主人公とその兄が次第に巻き込まれていく。息もつかせぬ展開にあっという間の300頁。
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歴史の中で漠然と認識していたサンカのこと。いわゆる山の民とは異なる存在だと初めて知った。もっと宗教的に古代・神話時代までさかのぼるのかと思ったが、そういう話の展開ではなかった。
フィクションだが。「争うことになったら負けることを選択する」という生き方、その結果、社会から存在そのものが無くなってもよい、という思想は共感する部分もある。
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国家を超えて生きる一族通じ鋭くナショナリズムを問う
青春の一時期、私は五木寛之の本ばかり読んでいた。「海を見ていたジョニー」「艶歌」そして「戒厳令の汝」…。 まるで青春のバイブルのように、彼が描き出す主人公の生きざまに、こんな生き方もあったのかと胸を踊らせたりした。
やがて、五木の休筆宣言もあって、ここ何年か彼の本から速ざかる曰が続いた。
久しぶりに手にしたのが、彼の最新作「風の王国」である。
休筆中、五木は京都に住み竜谷大学で仏教を学びつつ、奈良へ百回以上も通ったという。 そして飛鳥の地を歩いてこの「風の王国」の構想を抱いたという。 帯のコピーがまたすごい(霧の二上山に、深夜の仁徳陵に、メルセデス300GDを駆って、速見卓が視たものは?異族の幻像か――。禁断の神話か――。現代の語り部が、満を持して放つ戦慄の長編)
「美(うま)し二上(ふたかみ)」は「妖(あや)し二山(ふたかみ)」
フリーライター速水卓は、出版社より、二上山の取材を依頼される、そして、二上山へ向かう車中で、速水は旅の若い僧から
ナムアミダ ホトケノミナヲ ヨブ コトリ アヤシヤタレカ フタカミノヤマ
の歌を教えられ、「古代の人々が『美(うま)し二上』と呼んだ二上山は『妖(あや)し二上』でもあるのです」という言葉に惹きつけられた。
のちの持続帝が、息子を高位につけようと、ライバルであった大津皇子を葬った二上山は、不思議な貌をもつ山であった。ここで彼は、はやてのように駆ける女と出逢い、彼女らが深夜の仁徳陵へ集うことを盗み聞きする。
興抹を持った速見は、愛車のメルセデス300GDを駆って仁徳陵へ先回りする。世界最大の前方後円墳の前に立った時、なぜか彼は不思議な感清でいっぱいになった。
深夜の仁徳陵に、やがて集まって来たのは、遍路姿の五十人を超える集団で、闇の中で陵に向かって参拝するのだった。
流民の群れ「風の一族」とは?
彼らこそ、明治時代、近代国家建設の陰で、仁徳陵の盗掘を手伝わされ、生き埋めの穴を自ら掘らされた籍を持たない流民の群れの生き残り「風の一族」であることが読み進むうちに分ってくるのだが、いわれなき屈辱を脈々と忍び続けた一族が、なぜあえて姿を見せ始めるのか、そして速見とこの一族との関係は?さまざまな謎と、古代から明治、そして現代へと流れるロマンに引きずられて、一気に読み進んでしまう。
これは 「戒厳令の夜」のテーマを引き継いだ作品である。明治初期に堺県令(知事)になった税所篤(さいしょあつし)が、仁徳陵を盗掘した古美術をワイロにに権力をふるったという歴史的事実を下敷に、風の一族――国家という枠外で生活した人々――を主人公とし、ナショナリズムを鋭く問うた作品になっていると私は思う。
わが子を愛する心が、他の子を排除することと結びつきやすいように、国を愛する心(ナショナリズム)はファシズムの危険を常に孕んでいる。“国”の意識を抑えなければ真の平和は得られないという五木の主張は、ヒューマンであり、重厚な読後感で久々に満足させられる一冊であった
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日本のジプシー「サンカ」が気になっていたので、手始めに読んでみた。五木寛之作品もはじめて。定着民ではない彼らは差別の対象となったが、それゆえに裏社会ネットワークが強固で、一種の秘密結社と化している設定が、事実とは異なるのかもしれないけれど興味深かった。天皇陵との関係がいまいちよくわからなかったけど、、作中に登場する土地を歩いてみたいと思った。
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かつて日本にも存在していたという、山の民でも海の民でもない、定住して耕作することをしない流浪の民、その系譜を継ぐ者たちが現代社会とどう向き合って生きるのかというテーマは良かった。
ただ、予想に反して意外とエンタメ系な内容で、そういう意味ではサクサク読めて面白かったが、じっとりと心に残るようなものを勝手に期待していた為か、満足度は低いかな。