紙の本
傑作サスペンス
2003/12/27 18:48
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投稿者:ピエロ - この投稿者のレビュー一覧を見る
二人を殺し大金を盗んだ男は、隠し場所を誰にもあかさないまま絞首刑になった。が、男の二人の子供だけはその秘密を知っていた。そこに忍び寄る、主の教えを説いて回る伝道師の怪しい影・・・。
『私だけが知っている』タイプのサスペンス小説。その知っているのが子供ということが、恐怖感をとても高めています。
この子供を狙う伝道師、今ならば「サイコ」と呼ばれるような男、情緒不安定さ、残忍さは抜群、少しずつ少しずつ子供たちに迫っていく姿はまさに狩人、とても気味悪い。こんな男が、聖書からの言葉を呟き、賛美歌を歌いながら追ってくる・・・、考えただけでゾッとします。
この伝道師と対するのが、まだ9歳の少年。本当のことを言っても、周りの大人は猫を被った伝道師の物柔らかな態度に惑わされて信じてくれず、逆に嘘つきよばわりされ、ときには子供とは思えないような虚無感を漂わせながらも、それでも父親との誓いのため、幼い妹を守るために孤軍奮闘、懸命に耐え抜いていく。一人の少年の成長の小説としても読め、なんとも感動的です。
かのスティーブン・キングが大きな影響を受けたというのもうなずける傑作です。
紙の本
子供に迫る恐怖と孤独の影……リアルな描写力
2003/01/31 20:16
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ごんだぬき - この投稿者のレビュー一覧を見る
古い作品にもかかわらず、あまりにリアルな描写にドキッとした。
貧しい生活の中、逞しく生きる子供たち。その周囲の人物。当時の現実が生々しく表現されており、今読んでも恐ろしいほどの迫力に満ちている。
それだけではない。主人公の少年の性格描写、幼い妹、未亡人となった母親、彼らを心配する近所の老夫婦、少年を可愛がる老人……そして、殺人鬼。誰もが個性豊かに、まるで目の前に存在するかの如く描かれている。
なかでも、少年と妹に迫る殺人鬼の何と魅力的なことか。片手に「憎しみ」片手に「愛」を入れ墨した説教師。神の御名を唱えながら、その一方では未亡人ばかりを狙った殺人を繰り返す。彼の言動があまりに「イッて」いて、昨今はやりのサイコものなど可愛く思えてくる。これはやはり追われるのが子供だからなのかもしれない。
周囲がすべて敵、といった状況下、必死で妹を守りながら(この妹がまた幼くて、まるで事情を理解していないのが、はがゆい)、逃亡をつづける少年の孤独と絶望、苦しみ。読んでいるこちらまでもが、どうにもならない無力感に胸を締め付けられる。
そして、出会う老婆。行く先のない子供たちを引き取り育てる気丈な老婆にも、またつらい現実があり、心の傷がある。しかし彼女は傷つき疲れた兄妹を引き取り、追ってきた殺人鬼と対峙する。ありったけの経験と勇気を武器に。
どの登場人物もおざなりに描かれることはない。彼らの心の傷や弱さを丹念に描いている。
だからこそ、少年の恐怖も絶望も際だつ。
ラストで少年が見る「影」。
全ては記憶の彼方に消え去り、「影」としてのみ残っていくのだろうか。あまりにもつらい現実への唯一の対処法として。
だとしたら、それはあまりにも哀しすぎる。
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子供にとっての悪夢を淡々と描いた作品。映画の幻想的な雰囲気も秀逸だったが、やはり後半部の味わいは小説のほうが優る。
実の父の遺産を狙うサイコな義父の尋問と追跡から、妹を連れて逃げる少年の物語。サイコな義父は、現代のホラーやスリラーに登場する殺人鬼などの比べれば、大人しく見えるだろうし、怖い話かと言えば怖くはない。ホラー小説ではなく、暗い雰囲気の幻想童話。だからこそ少年の孤独が伝わる。
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大恐慌直後のアメリカはオハイオ州。貧しさから強盗殺人を犯した男は、奪った金を隠し、その隠し場所を誰にも告げないまま、絞首刑となった。処刑まで同じ囚房にいた「宣教師」は、男の隠した現金一万ドルを執拗に追い求め、残された男の妻と再婚する。右手に"LOVE"、左手に"HATE"の文字を刺青した「宣教師」は過去にも、幾人もの未亡人と再婚しては、財産を奪って殺していたのだ。
父から逮捕直前に、一万ドルのダーティーマネーを託された幼い兄妹ジョンとパールの運命は!?
といった内容のサスペンス。展開はアップテンポで、前半半分までにキーとなる現金の隠し場所も、「宣教師」ハリーの異常性も読者には詳らかにされてしまう。そして、妹パールまで懐柔され、幼いジョンの四面楚歌状況は、行き着くところまで行ってしまうのだ。残り半分、一体どうなるのか!?
というところで、新展開を迎えることになる。この展開も含めてベタではあるし、スピーディーな展開は描写の淡白さと表裏の関係にある。だが、煎じ詰めれば鬱々とした児童虐待の物語である。なんの救いも無く、延々と粘着質なサスペンス描写を紡ぐ事が、かならずしも作劇上のプラスになるわけではない。その辺りのところは作者はよく理解していると思いたい。訳の巧みさもあいまって、必要最小限の描写を持ってストーリーは十二分に盛り上げられる。
本作を翻訳した宮脇裕子さんが、かの作家の作品をご存知なのかどうかは知らない。だが、本書の語り口、特にキャラクタ造詣に関わる描写や重要なセリフは、荒木飛呂彦調なのだね。凶悪な殺人鬼と彼に対峙する弱者、その双方が見せる意思の強さをテーマとしている点も荒木作品と通じるものがあるが、訳語のテンポや雰囲気というのが、実になんとも荒木的なのである。例えば「宣教師」ハリー・パウエルが、いたいけな幼女を詰問するセリフにこんなのがある。
「これが見えるかい?なんだか知ってるかな?」
「うん、知ってる」
「そうか!じゃ、なんだ?パール、これはなにかね?」
「わかんない」
「だったら、知ってるなんて言うんじゃない。嘘をつくことになるぞ。これは、ナイフだ!」
(中略)
「ジョンはおせっかいを焼くかな?それとも、おりこうにしてるかな?おせっかいを焼くと、後悔することになるぞ。もし、一言でも口をきいたら・・・・口をきこうとしようものなら・・・・」
(中略)
「いいか、私のナイフには触るな!ナイフに触られると、頭にくるんだ!かんかんに怒るぞ!」
どぉ?『ジョジョ』の第三部あたりにありそうなやりとりでしょ?
ちなみにこの作品、ロバート・ミッチャム主演で映画化されているそうな。かの名優チャールス・ロートンの最初で最後の監督作品とのことで、スティーブン・キングも絶賛しているとか。この映画版に関しては、あとがきとして収録されている、石上三登志氏の文章が詳しく面白い。
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ロバート・ミッチャムが主演した同名スリラー映画の原作としても知られる長篇。
舞台は米オハイオ州、貧困に追い詰められて事に及んだ強盗事件により逮捕された男は絞首刑になったが、盗まれた金の隠し場所は死ぬまで白状されなかった。死刑になった男は、この物語の主役である幼い兄妹たちの父親である。残された兄妹と母親の一家はある日町に現れた牧師の男性と知り合い、やがて母親は彼と再婚するに至る。その男の両手のそれぞれには"LOVE"、と"HATE"の刺青があり、どことなく漂わす不気味な雰囲気に兄妹は心を許す事ができずにいた。だが、まさにこの男の正体こそ元囚人で監獄で聞き知った死刑囚の夫の隠し金を得る目的で一家に接近した冷酷な殺人鬼だったのだ。やがて牧師の正体を知ってしまった兄妹は「狩人」の魔手から逃れようとするのだが・・・
執拗な悪党との追いつ追われつの息つく間を与えぬサスペンス小説としては秀逸だが、不満をいえば、あまりにストレートな展開すぎて、想像したようなサイコ・サスペンス調子などんでん返しが無かったのはやや味気ない印象ではあった。
宮部みゆきの絶賛という煽りに、過剰に期待しすぎたかもしれない。
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カルト的傑作映画「狩人の夜」原作本。
まだ始めのほうしか読んでないけど、映画はストーリーをかなり忠実になぞってる模様。
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銀行強盗をした男が、略奪した金を子供に託して処刑された。その金を狙って、指に「愛」と「憎しみ」を刺青した宣教師がやってくる。
かなり昔の作品なのと、子供が9歳と4歳なのでサイコホラーとして特に怖いってこはない。宣教師は結局信仰心を歪めてしまっているボーダーなのだけど、その意味で言うとT・クックの「神の国の殺人」の方が歪みきってた。
が、シンプルさが面白かった。そして、子供を助ける老婦人のキャラが最高だった。
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宮部みゆきオールタイム・ベストテンの一冊
「特異な犯罪者像は…あまたのサイコ・キラーの原型にして完成型」
(宮部みゆき、本の雑誌2002.5)
父親を亡くした幼い兄妹の前に現れた伝道師は、
左手に「LOVE」、右手に「HATE」の刺青をした狩人だった。
彼に心をゆるす母、妹を憂いながら、兄ジョンは亡き父親との誓いのために逃亡する。
昔の作品であるために語り方に違和感があった。
また、特に妹パールの謎の言動におもわず笑ってしまうことも。
狩人もそんなに怖くはなかったかな。
少年のビルドゥングストーリーです。
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第一部 吊るされた男
ジョンとパールの兄妹は父親のベン・ハーパーが強盗殺人の結果手にした一万ドルを父から渡された。母親にさえ秘密にしてパールの持つぬいぐるみの中に隠しておくよう誓わされた。その後、父親は逮捕され死刑となった。ベンは監房の中で、ハリー・パウエルという伝道師であり、未亡人を何人も殺してきた男に金の在処を教えるよう懇願される。しかし、誰にも金の在処を教えることなく処刑された。ジョンはまだ幼い妹のパールを守りつつ、大金を隠し続けるという重荷を背負わされた。
第二部 狩人
ハリー・パウエルは右手の指に「LOVE」、左手の指に「HATE」の刺青を入れていた。警察では彼が大量殺人の犯人だとは認識していなかった。刑務所を出たパウエルはすぐにベンの妻ウィラとジョン、パールのいる街へ向かう。彼はすぐにウィラに取り入り、パールも彼になつき始める。ジョンだけは彼を信用せず疑いの目を向ける。しかしパウエルはウィラを再婚してしまう。ウィラはパウエルから嘘を吹き込まれジョンを信用しなくなる。ジョンは家族の中で孤立していく。
第三部 川
パウエルはウィラに、ベンの残した金が目当てだと知られてしまい殺してしまった。ジョンはそれを察知しパールを連れて逃げ出す。父の残した船に乗って下流へと向かう。しかし、パウエルが追いかけてくるのを眼にし恐怖に駆られる。二人の体力が限界に近づいた頃、レイチチェル・クーパーという、孤児を引き取り育てる老婦人に助けられる。
第四部 たくましい気に鳥が何羽もとまる
パウエルは川沿いにジョンとパールを探し歩き、遂に居場所を突き止める。父親だと名乗りレイチェルに二人を引き渡すよう求めた。しかし、レイチェルはジョンの態度などから、それを拒否した。その日の夜、パウエルはレイチェルの家に忍び込んだが、寝ずの番をしていたレイチェルに撃たれ、警察に逮捕される。その時、ジョンは遂に抑えきれなくなり、隠していた金をさらけ出した。裁判ではパウエルの過去の殺人も明らかにされ、ウィラ殺しとともに罪に問われ死刑となった。
エピローグ 子供たちはとどまる
ジョンは父親との誓を破ったこと、パウエルから受けた恐怖などで不安定な状態となっていたが、妹のパールやレイチェル、一緒に住む子供たちなどの助けで徐々に快方に向かう。
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スティーブンキングが傾倒したという幻のサスペンス長編。母を騙し幼い妹と自分の生活に入り込んでくる伝道師の仮面を被った犯罪者。ジョンは何とかして母と妹を守ろうとするが…。右手に「愛」、左手に「憎悪」と刺青した伝道師の迫力ある存在感。子供ながらに立ち向かおうとするジョン。その恐怖が伝わってくる。暗い、怖い、伝道師が出てくるたびにビクビクしながら読まさせられた。
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以前に映画で観ました。
とても良い映画だったので、原作を読んで
みたくなりました。
時代背景には、アメリカの大不況、スタインベックの描く世界です。
右手にLOVE左手にHATEの入れ墨を入れた
性悪なイカサマ伝道師、忘れられないキャラ
です。