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収録作品一覧
アルベリックの貼雑帳 | 17-36 | |
---|---|---|
消えた心臓 | 37-51 | |
銅版画 | 52-68 |
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紙の本
古物趣味と怪談
2002/07/31 21:57
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:トリフィド - この投稿者のレビュー一覧を見る
20世紀初頭の怪奇小説の黄金時代を形作った巨匠のひとり、M.R.ジェ
イムズの怪談全集全2巻の第1巻である。この全集は、かつて創土社
から出た『M.R.ジェイムズ全集』からファンタジー『五つの壺』を
除き、その後書かれたものや未刊行作品を追加したもので、最も完
璧なものと云えるであろう。
題名に「怪談」とあるのがミソで、M.R.ジェイムズの作品は、なる
ほど怪奇小説ではなく、怪談というのがしっくり来る。妙な話だが、
この古物趣味や、後の世の作品群のように、妙な理屈づけなどがな
されていないあたりに、心が洗われるようなすがすがしささえ覚え
てしまう。
紙の本
この科学の時代(19世紀)に幽霊とは
2010/02/25 22:50
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:SlowBird - この投稿者のレビュー一覧を見る
深い森も切り開かれ、山奥の旅が汽車に置き換わってしまっても、遠いいにしえの恐怖は人々の心から消えることはない。しかしその疼きを満たすのに、ストレートに幽霊や悪魔を登場させるのでは、滋味に欠ける。作者はそこで、古文書や、古い屋敷、庭園、古木といったものを通じて、悪しきものや古い呪いを復活させるわけで、古文書学を本業とする面目躍如である。さらに舞台ににひなびた田舎町や、時にはデンマークやスペインをもってきたりするあたり、中途半端なエキゾチズムが微妙にくすぐったい。
全体に古書学者やらの得体の知れない人物の日常が、さも日常らしく語られ、そして彼は研究対象に関わるうちに奇妙な出来事に巻き込まれることになる。もちろん彼は学問的好奇心と職業的義務感から謎は謎として追求するが、しかし終始冷静で、いたずらに熱めいたり恐怖に怯えたりはしない、もちろんそれらを霊だの妖怪だのと決めつけたりもしない。こういった語りが、理性と超自然の出会いを演出している。たいへんに緻密で磨き抜かれた構成と言える。
その一方で、描かれる怪奇自体も愉快なもので、これも古くからの文献に通じていることから、故事、逸話の引き出しの豊富さを伺わせる。そういった古い怨念や怪奇は決して過去に囚われたものではなく、いつでも、常に、適当な媒体さえあれば現代に甦りうるのだ。その機会は、本や美術品、家具や建物などを通して次々に伝搬して来るのであって、そこからさらに新しい媒体を経て未来にも永劫に復活を繰り返すのかもしれない。だから怪談集と銘打ってあっても、恐怖よりむしろ、当事者にはともかく読者には、伝統的なものや精神が受け継がれていくことの安心感が伝わって来る。新奇さや斬新さの驚異も宇宙的怪奇もいいが、祖先からの記憶を繰り返し、少しずつ形を変えつつ語られることにも重要さがある。そのためにもまた人類の積み重ねた叡智は必要なのだ。
作者は100年後のコンピューター世界の住人がそんな感慨を抱くなどと思ってもみなかったのかもしれず、その根底にあったのは古文書を始めとする残された古きものたちへのひたすらな愛情であったのではないかと思ったりする。そしてそれこそが世界を永らえさせる力なんではないだろうか。