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大人になるための条件 (Daria bunko)

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紙の本

大人はそんなに偉くない

2007/05/15 12:18

13人中、13人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:hamushi - この投稿者のレビュー一覧を見る

主人公の視点に感情を乗せて読むと、ラスト間際まで、かなりイライラさせられるお話です。
 親代わりだった姉が嫁いでいく日、心のよりどころを失って泣いていた七歳の佑(主人公)は、真摯な態度でその孤独を理解して寄り添い、「大人になったら結婚しよう」とまで約束してくれた了を、唯一の心の支えとし、最愛の人と思い決めて成長していきます。
 ところが姉の夫の弟である了は、佑を大切にしてくれるものの、佑のなかに育っている恋心に対しては煮えきらない態度をとりつづけ、大人のズルさ全開で逃げ回ります。
 なにかというと了に子供扱いされ、まともに気持を受けとめてもらえない佑は、全国模試でトップクラスに入る学力がありながら、保護者である姉夫婦には黙ったまま、このまま進学せずに了が店長を務めるバーで働こうとまで思い詰めています。それもこれも、了の言動のはしばしに、決して口には出さない本心が見え隠れするからで、この半端な残酷さに振り回される佑が、ほとほと気の毒でなりませんでした。
 さらに了の店には、了の恋人然として佑の前に立ちはだかり、関係を見せつけては佑を侮辱して退けようとする、水城という当て馬の存在もあり、了も水城との関係をとくに隠そうとしないため、一途な佑は傷つき、了と対等につきあえるだけの大人になれない自分に苛立ちながら、どんどん気持を追いつめられていきます。
 こんな調子で、佑にとって苦しい状況がどこまでも続いていくため、お話半ばあたりで、了という男にかなり愛想がつくのですが、ラスト近くで佑の精神状態が限界に達したところで、とうとうカタストロフに至り、了の真情がすべてあらわになります。一回り近くも年上の了の思いは、一面的にはストイックではあったのかもしれませんが、佑を子供扱いできるほどの大人の分別を含むものではなく、その弱くて情けない真情を知ることで、佑のほうが一気に包容力や理解力を発達させて、すっかり大人になってしまいます。
 了と佑の人間的な資質の違いは、彼らの友人のタイプにも現れています。
 了の友人であるという水城は、了に対して報われない恋心を抱きながら、自分の人生をないがしろにして、半ばフリーターのような生活をしながら、了の弱さに付け込むかたちで相互依存しつづけ、つきまとっています。水城は了の心が佑だけにあることを知りながら、セックスフレンドとしての立場をキープし、嫉妬に駆られて佑を傷つけ追い払おうとさえするのでが、まともな大人であれば、ちょっと考えればそうしたやりかたが、了も含めた当事者の誰にも幸せをもたらさないことはすぐに分かるわけで、まあはっきりいえば、ろくな人間ではありません。了も水城も、社会的には大人相当であっても、真実から目をそらして、保身の殻のなかに引きこもる、できそこないの大人でしかないことがよく分かります。
 それに対して、佑の友人である剣崎は、ほどよい距離感を保ちながら、煮詰まりそうになっている佑に、適切な助言や息抜きを与えてくれます。一回り近くも年上の了や水城よりも、高三の佑と同い年の剣崎のほうが、はるかに人間的にデキていることが分かります。幼稚ではあっても、常に自分の気持ちに真摯に生きて、正面からものを見続けていた佑にふさわしい友人であろうと思います。
 五年もすれば了と佑の力関係はおそらく逆転していることでしょうが、佑たちが願い通りに結ばれたあとになっても宿り木か寄生虫のように了にぶらさがって離れない水城が、多少は大人になっているのかどうか、後日談がちょっと知りたいところです。

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