紙の本
灯台が読者にもたらすもの
2020/10/30 07:55
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
長編小説の面白さはなんといってはさまざまな枝葉の数々といえる。
気がつけばそれは一本の大木というより深い森の中で樹々の呼吸に生かされているような感覚といっていい。
宮本輝氏が2019年2月から2020年1月にかけて地方新聞紙に連載した新聞小説であるこの長編小説もまた、読み終われば森の樹々たちに抱かれているようでもある。
もちろん、主人公である2年前に妻蘭子を不意に亡くした牧野康平という男の生き方や思いが大きな木であることは間違いないが、康平という木に寄り添うようにしてあった蘭子という木もまた、この物語の欠かせないテーマといえる。
あるいは、康平の娘や二人の息子との関わりもまた康平という大きな木につながる枝葉だし、親と子の関係を描くのに高校を中退した康平に本を読むことを薦める同級生と彼の死のあとに現れる隠し子だった青年の登場もまた森を形作る要素になっている。
長い物語の発端は妻を亡くして呆然自失の康平がたまたま見つけた、若い頃の妻宛てに届いた一通のハガキだった。
そこには男性の名前で「見たかった灯台をすべて見た」と書かれ、地図のようなものも描かれていた。
その時、蘭子が差出人である人の名前を知らないと言っていたことを康平は覚えていた。
そんなハガキをどうして蘭子は大事にしていたのか。
康平はこのハガキに誘われるようにして各地の灯台めぐりを始める。
やがて、それは蘭子と差出人であった男性との秘密につながっていく。
灯台が灯す灯りは亡くなった蘭子からのメッセージでもあるかのように、康平の新しい日々を照らしていく。
読み進むにつけて、宮本氏の文体が冴えてくる、そんな長編小説だ。
紙の本
人生の道標
2021/02/21 07:53
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:GORI - この投稿者のレビュー一覧を見る
妻に先立たれ、何もする気も起らない中華そば屋の康平。
お店も閉めたまま。
学術書「神の歴史」から見つかった古いハガキを見つけ物語が動きだす。
小坂と名乗る大学生から妻宛に届いた灯台が書かれたハガキ。
妻は「私はあなたをまったく知らない」と返事を書いて出したが返事は無かった。
康平は妻に促されるように灯台を巡る旅をはじめる。
そんな時、幼馴染のカンちゃんの突然の死。
家族、友人、人生、出会いなど、さまざま伏線が次々と広がって物語は進んでいく。
ハガキの灯台は島根の日御先灯台と分かり、小坂とも会うことになる。
康平は妻の秘密を辿りながら、自分が生きてきた物語を辿り、生きてきた喜びを感じる。
いい物語はそんな喜びを読む者に感じさせてくれる。
紙の本
いつも通りの小説だから安定している。
2021/03/27 17:27
1人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:のりちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
作品に出てくる「味噌煮込みきしめん」という記述に違和感がある。そんな言い方は名古屋ではしない。なんか勘違いしているのではないか。名古屋はあくまでも「味噌煮込みうどん」だ。
投稿元:
レビューを見る
うーん、読みにくかった。
良い物語だった思うんだけど、なんか人間関係が唐突すぎてイマイチのめり込めなかった。
投稿元:
レビューを見る
小説の主人公は、板橋の商店街の中華そば屋の62歳の主人・牧野康平。ともに店を切り盛りしてきた妻・蘭子を2年前に突然亡くして以来生きる気力を失ってしまい今は店を閉めている。物語のはじめは、康平がある日『神の歴史』と言う本の間から見つけた妻宛の古い葉書を見つけたことから始まる。
生前、この葉書を受け取った蘭子は差出人の大学生・小坂真砂雄のことを知らないと言い、実際に「私はあなたをまったく知らない」と返事を出したのだ。しかし、蘭子はなぜこの葉書を康平の本の間に挟んだのだろうか?この「灯台」と言う言葉や地図のような線描は何なのだろうか?そんな風に思ったことから、康平は灯台を巡る旅をし始める。そんな旅をする中で、自身の人生・家族(父や蘭子、子供たち)との関係、近所の友人たちとの関係を見つめ直すことで自分を取り戻していき、店の再開を決める。62歳になっても人生を見つめ直すだけでなく、それによって再生し、また新たな気持ちでこの後の人生を生きていける康平の姿は、静かなのに深く大きく心を揺さぶってくれた。
再開店前のリハーサル的にそばを作り、トシオ・朱美・新之助に試食をしてもらう場面では、泣きっぱなしだった。
高校を中退する原因となった、心無い言葉を浴びせた高校の同級生と偶然再会したトシオの行動にウルウルしながら読んでいると、
康平は、19歳のころから3年間父に無視されていたことを思い出す。
数日ならまだしも数年に渡る父からの無視に苦しむが、ある日、康平は、無視しつづける父親の思いに至る。無視されている自分よりもしている父のほうが『はるかに強靭な精神力と包容力と慈愛を必要とするのでは』と。そのことに気づいた康平は態度を改める。すると父は10日ほどで康平に新たな役割を与え「これまで、すまなかったなぁ」と言うのだ。涙がまた零れる。
そして今日、再開のために作った中華そばの味は『まったく親父の味だ』『なにもかも父が作って残していってくれたものなのだという感謝の思いを、これほど強く感じたのは初めてだったのだ』
そんなことを思い出しながら振り返ると
『みんな中華そばを食べてしまったのに、なにも言わずに康平を見ていた。
「なんだよ。どうしたんだよ」と康平は訊き、
「いや、お父さんが泣いているから」と朱美は言った。
「俺が?泣いてないよ」
「じゃあ、泣いているように見えただけなんだな」
とトシオは言って、康平の中華そばを褒めた。』
もう泣きっぱなしだ。
そして、最後の出雲日御碕(いずもひのみさき)灯台のシーンに移る。一見平凡で粛々と毎日を過ごす中華そば店のおかみだった蘭子。しかし、真砂雄の語る蘭子は、康平も知らない蘭子で、どこか凄みさえ感じさせる。灯台は蘭子が真砂雄に罪を心から反省し、誓いを立てさせた「神様とおんなじ」存在だった。しかい、灯台は蘭子そのもののようだ。暗い海を照らし、航行する人達に光を届け続ける存在。
作品の中で、康平が読んだ本として、鴎外の『澁江抽斎』が出てくる。この本は退屈でおもしろなくなく、何回も放り出しそうになるのだが、
『最後の数ページにさしかかったとき、康平は、一人の人間��生まれてから死ぬまでには、これほど多くの他者の無償の愛情や労苦や運命までもがかかわっているのかと、粛然と身をただすようになっていた』のだ。
これは、この小説を貫くメインテーマのように思う。
まさに、康平は灯台巡りを始めて、自身の人生に関わってくれた他者の存在、妻が一人の少年の運命に関わっていたことを知ったのではないか。
投稿元:
レビューを見る
久しぶりに宮本輝さんの小説を。実家の近くの日御碕灯台が出て来るというのも楽しみで。
主人公の康平は憎めない感じで、共感できる人柄。亡き妻に誘われるように、灯台めぐり、そして妻の隠された過去へと少しずつ。何か大きな大どんでん返しが起きるわけではなく、主人公の康平らしいというか、穏やかに、そして一進一退しつつ、物語が進んでいきました。
康平の独白的な部分が結構多かったので、もう少し生前の妻のエピソードや、家族や近しい人たちとの会話・やり取りがあったりすると、より深く入りこめたのかなぁともちょっと思いました。
久しく一人旅に行っていないので、ふらっとどこかに行きたくなりました。あと、おいしい中華そばを食べにもゆきたくなります。
投稿元:
レビューを見る
毎日少しずつ、慈しむように読み進めてきましたが、今日ついに読み終えてしまいました。
こうやってまた新たな作品に出会えたことを、僥倖と言わずになんと言おうか、という心境ですね。
投稿元:
レビューを見る
主人公(牧野康平)は、高校を中退し家業の中華そば屋の跡継ぎをしていたところ近所に住む幼馴染のカンちゃん(倉木寛治)から衝撃的なことを言われた。それは『お前と話してるとおもしろくなくて、腹がたってくるんだ。お前が知っているのはラーメンのことだけなんだ。じゃあ職人と呼ばれる職業の人間はみんなおもしろくないのか、そうじゃないよ。牧野康平という人間がおもしろくないんだ。それはなぁ、お前に『雑学』てものがみについてないからさ。(以下省略)』
そのカンちゃんは、就職先の転勤で大阪へ行ってしまった。
「牧野康平という人間がおもしろくない」と言われて気分が良くないが、どうしていいのかわからない。ある日、店の常連客(清瀬五郎・元高校の数学教師)に、本を読みたいのだが、なにを読めばいいのかわからないと言った。でも、ちゃんとした本を読みたい、と。清瀬から紹介された何冊かの本の中に、森鴎外の『渋江抽斎』があった。実在の人物で江戸時代の学者、周りにいた人々の履歴等が書かれている史伝がおもしろくない。(宮本輝さんの愛読書)。
何回その本を放り出そうとしたかしれない。以下抜粋『だが最後の数ページにさしかかったとき、康平は、一人の人間が生まれてから死ぬまでには、これほど多くの他者の無償の愛情や労苦や運命までもがかかわっているのかと、粛然と身をただすようになっていた』。宮本先生の「灯台からの響き」のメインテーマはそのことであろうと思う。
康平は、妻(蘭子)が亡くなって二年、彼の書斎で本に挟んでいた一枚の灯台の絵が描かれた葉書が見つかったところから物語が始まる。宛名は蘭子で、三十年前に届いていた。差出人は、「小坂真砂雄」と書いていた。当時、蘭子に尋ねてみても知らない人だという。蘭子は見知らぬ相手に返事を書いたが、宛先不明で戻ってくることはなかった。
蘭子との四十年の夫婦関係は充実していた。蘭子には何の不満もない。娘一人、息子二人を立派に育て上げ大学にまで行かせたのだ。しかも親父から引継いだ店の手伝いは妻なくしては語れない。
一枚の絵葉書がきっかけで、灯台に興味を持った康平は、亡き妻の過去を追い地方の灯台巡りの旅に出る。幾多の事情で閉店していた中華そば屋を再開店する障壁はあったものの実現するまでの過程で、いくつもの小さな幸福を感じた。そして納得できる言葉が随所に輝いていた。
実におもしろい。
投稿元:
レビューを見る
思いもしなかった結末に、
読了後も、感動にひたり、ぼーっと
してしまっている。
ストーリーの中に生きる人たちは、
自分の人生にも現れたような気がする
特別ではない、けれど、
特別な人たち。
読み進めていくと、
忘れられない家族や友人、
それに
忘れてしまった人たちも含めて、
自分はたくさんの人たちの
想いや愛情や友情の中で生きてきたことに
気づかされる。
感謝の思いが溢れてきて、
また誰かを守り、見つめて
生きていくのだ。生きていきたい。
そう思わされた。
投稿元:
レビューを見る
大事件も恋愛沙汰も
何も起こらない。
中華そば屋の初老の男が
亡き妻の小さな秘密をたどるように
ただ灯台を巡るだけ。
それなのに、なぜか
その旅に一緒につきあわされてしまう。
家族や周りの人々との
たわいもない日常が
どんなにかけがえのないものなのか
気づかされる。
投稿元:
レビューを見る
中華そば『まきの』を営む康平。2年前に亡くなった妻宛の葉書を小説の中から見つけ、灯台巡りの旅にでる。旅をする事と関わっていく人達により、妻の人生、生き方が見えてくる。人としての大きさが康平の妻、蘭子凄いなぁ。読んでいて、心が暖まる。いろんな灯台が出てくるので、グクって写真で見てみたり、楽しく読めた。読後感は、ウルっときながらも、ほんわかと心が綺麗になる感じ(*´艸`*)ァハ♪
投稿元:
レビューを見る
読み終わった後、『灯台からの響き』というこの小説のタイトルが、私を灯りで照らしているような気がしました。
30年前に亡き妻宛に届いた、"灯台"が描かれている葉書を見つけたのがきっかけで、妻を失ってから引きこもり同然の生活をしていた初老の主人公が、灯台巡りの旅に出かける。
旅をしている内に前に進むようになり、葉書に描かれていた灯台が何かのメッセージのような気がした康平が、どうしてこの葉書が妻に届いたのか解明することで、自分の知らない妻の人生を知る事になった。何気なくただ中華そば屋の女将として生きてきたかのように思えた妻に、こんな過去があった。それは1人の少年の人生を救う過去だった。
太陽が沈んでから点灯し、暗闇の海を航行している船に光を届ける灯台のように、人は人が知らない間に人を救っている。そして一生の間に、たくさんの人が関わっている。すごく心に響くものがありました。まさに、「灯台からの響き」です。
また、初老の男性が成長し再生する姿も響きました。なんだか安心して、救われたような気がします。
たまに灯台を見に行ってみるのもいいかなぁって思いました。
素敵な一冊でした。
投稿元:
レビューを見る
積読本の間にはさまれた1枚のハガキの謎を手がかりに、妻を亡くした60代の男が再生していく姿を描く。読み始める前はロード・ノベルかと思ったが全然違うし、ミステリーっぽい“ハガキの謎”も比重はさほど高くはない。特にメリハリがあるわけでもない初老の男の日常が描かれているだけなのに、400ページを飽きずに読ませてしまうのはさすがだなあ。読み終わっての結論。これは究極の恋愛小説である。
投稿元:
レビューを見る
4.5
じ〜んわりと、
ほっこり優しい気持ちに満たされた
野に咲く
名も知らない花に美しさを感じるような…
突然襲ったくも膜下出血で妻・蘭子を喪った康平は、創業者の父の死後、妻と二人でその味守り通して来た中華そば屋「まきの」を閉め、ダラダラと読書三昧の日々を送っていた。
そんなある日「神の歴史」という本から、
30年前、蘭子宛に小坂真砂男という大学生から届いた一枚の葉書が出てくる。
来春の大学卒業前に、灯台巡りの旅をしているという内容と、灯台のある海岸線と思しき地図が書かれていた。
当時、全く知らない人で覚えが無いと言い張った蘭子が、わざわざその旨を記し返信を書き、康平に投函させたので記憶に残っていたのだった。
その日の夕刻、幼馴染のトシオの営む惣菜屋で全国の灯台のカレンダーを見た康平は、一人灯台巡りの旅に出ようと思いつくが…
つい先刻、行き掛けに雑談した幼馴染のカンちゃんが心筋梗塞で急逝してしまう。
彼によって誘われた書物の世界に身を委ねるうちに、灯台巡りの旅への思いは確かなものとなる。
手始めに房総半島の灯台を見て回った康平は、旅先で髪を切り、上京していた息子・賢策を誘い同行二人…
康平の中で何かが少しずつ変化してゆく。
車中、橋梁工学への転向と大学院進学を望んでいることを聞かされ、迷いや不安の中賢策の為に「まきの」の再会を決意するのだった。
そして…賢策から、例の葉書は蘭子が意図的に「神の歴史」に挟んでいたことを聞かされる…
カンちゃんと外の女との間に出来ていた息子・新之助の存在
長男・雄太から聞かされた蘭子の新たな秘密… 出雲時代
そして次第に灯台巡りの旅は蘭子との人生を巡る旅へと変化して行く
果たして
蘭子の封印した真実とは…
百千万億那由他阿僧祇劫
地球の百年は宇宙の一瞬
ならば…
一瞬の中の永遠…
◯牧野康平…62才の主人公。
◯牧野蘭子…康平の妻。
数々の謎を残し2年前に急逝。
◯牧野朱美…康平の長女。
証券会社勤務。
◯牧野雄太…康平の長男。
重機メーカー勤務。康平は店にかまけて父子の時間を持てなかったと思って負い目を感じているが…。蘭子の出雲時代を…
◯牧野賢策…康平の末っ子。
京都の大学で橋梁工学を学ぶ為、大学院進学を希望。
◯山下トシオ…康平の幼馴染。惣菜屋の店主。康平は見縊っているが実は見識家。
折々に的確なアドバイスをくれる。
◯倉木寛治…康平の幼馴染。
康平を読書虫へと誘った。
自宅ビルで急逝。
会社員時代に付き合っていた女・多岐川志穂が…。
◯多岐川新之助…志穂の息子。18才で二人の子持ち。母への反発からグレていたが、康平・トシオのおかげで改心。例の葉書の場所探しに貢献。
投稿元:
レビューを見る
1枚のハガキをきっかけに、灯台を巡る旅をすることに。
謎を解くというよりは、ロードムービー的な感覚かな?
私にとって違和感があったのは(あくまでも個人的に)主人公が年齢の割に若く感じること。
あと、みんな優等生すぎるかなぁ…