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欧州最後の独裁国家ベラルーシの真実を小説という形で暴いた興味深い一冊です!
2021/04/04 14:41
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ちこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、ベラルーシのミンスク出身の作家サーシャ・フィリペンコ氏の作品です。同書は、欧州最後の独裁国家と言われるベラルーシの内実を小説の力で暴いた一冊です。内容は、群集事故によって昏睡状態に陥った高校生ツィスクですが、老いた祖母だけがその回復を信じ、病室で永遠のような時を過ごす一方、隣の大国に依存していた国家は、民が慕ったはずの大統領の手によって、少しずつ病んでいくという物語です。そして、10年後の2009年、奇跡的に目覚めたツィスクが見たものは、ひとりの大統領にすべてを掌握された祖国、そして理不尽な状況に疑問をもつことも許されぬ人々の姿でした。時間制限付きのWi-Fi、嘘を吐く国営放送、生活の困窮による女性の愛人ビジネス、荒唐無稽な大統領令と「理不尽ゲーム」が次々に暴露されます。ジャーナリストの不審死、5年ごとの大統領選では現職が異常な高得票率で再選されるという異常な国、ベラルーシの真実が同書の中にあります。
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理不尽に昏睡してしまわぬように
2024/02/27 15:49
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投稿者:BB - この投稿者のレビュー一覧を見る
サーシャ・フィリペンコは、ベラルーシ出身のロシア語作家だという。2014年に単行本が出てロシアで文学賞を取ったときには、「こんなことあるはずがない」という批判を受けたそうだ。しかし今現在、この本が描いたベラルーシやお隣のロシアでは、それを凌駕するような理不尽な出来事が相次いでいる。
群衆事故で昏睡状態になった主人公が、奇跡的に回復して10年後に意識を取り戻したときに見た者は、かつて国民が選んだはずの大統領が権力の座に居座って強権を発揮し、国民は疑問を口にするのさえ許されない社会だった―。という物語。
1999~2012年ごろのベラルーシを舞台にした寓話だが、そこで描かれている理不尽の多くは、実際にあったことであるのが恐ろしい。
主人公の昏睡は、理不尽な出来事に対して眠っているかのような社会の隠喩だろう。
理不尽なことがあっても、気づかなかったり、スルーしたり、忘れていたり、ほかのことに気をとられていたり。要するに国民がうかうかしているうちに、国家権力はとんでもないことをし始めるのだ。
この本は、「欧州最後の独裁者」がいるベラルーシでは書店の書棚に並ばないそうだ。国立の図書館には、この本は配架しないよう厳重な注意喚起がなされているらしい。
日本には関係ないことのように見えるけど、本当にそうだろうか。自分の周りにある理不尽に気づくことから始めたい。
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ベラルーシのこと、あまり知らない。その歴史も現状も文化も、知らないことだらけ。何度か息が詰まりそうになりながら、不思議とポップな主人公に引っ張られて読んだ。おばあちゃんの手紙がよかった。
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東京オリンピックでベラルーシの陸上の選手があやうく粛正されかけたり、ルカシェンコ政権の反体制派だった人が活動先のウクライナの公園で自殺に見せかけられて殺されたりした事件を聞いて、本に書いていたことが真実に近いと想いました。
主人公ツィンスクは10代半ばに音楽フェスに行く途中の大事故で10年の昏睡状態に陥り、その間に母に見捨てられ、友達に見捨てられ、主治医には見放され(母はその主治医と再婚)、唯一祖母と人付き合いが苦手な親友の二人だけが寝たきり状態の中励まし、約10年後祖母が死んだ二日後に目を覚ます。そして主人公は祖国の惨状に悲嘆し、外国へ出て行く覚悟を決め、親友は主人公に何かを訴えようとするがその途上で自殺する。思いがけず心振るわされる小説でした。
この本を読んだきっかけはなんだったろうか?恐らく新聞の書評を見たのかネットで誰かのおすすめを読んだのか?はっきりとは思い出せない。何となく興味を持ち、たまたま図書館の返却棚で見かけ、なんかこれどっかで紹介されてたなと思って手に取ったのが出会いでした。借りたもののすぐには読まず、ブクログの「読みたい」
に積読しながらなんとなく読む順番が回ってきたのでさてと読み始めました。それでも最初はベラルーシという知らない国のよく分からん話で最後まで読めるかなとか、偏狂的なおばあちゃんの話を読みながら「すわ、失敗作か?」と思ってたけど
ところがどっこいみるみるうちに引き込まれ、目を覚ました主人公が死んだおばあちゃんの手紙を読むシーンでは涙しました。
ところがそれは序の口で独裁国家ベラルーシの内情はほぼ実話ということに2度目のびっくり。これまで中国の香港やウイグル騒動やアメリカのトランプ騒ぎは新聞を読んで知っていたがベラルーシのルカシェンコ政権の専横にはまるで遠い国のように思っていたことが恥ずかしくなりました。
3つめは、果たして今の日本はどうなんだろうかということ。ここではあまり深くは書かないがゆっくりと日本も民主主義が退廃していっているのではと不安にならざるを得ないからです。政府の、国会軽視、官僚の忖度、元首相が国民の反対意見を反日と誹る。
ここらでやめておく。後は訳者の解説が素晴らしいので詳細は本編とともにそちらを読んでほしい。
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前半は群衆事故に巻き込まれて植物状態になった16歳のフランツィスクと、彼の回復を信じて語りかけ続ける祖母が描かれ、後半は目覚めたツィスクが目にする社会の理不尽さが描かれる。祖母も繰り返し、社会が昏睡していると話すし、スターズが教えてくれる社会は完全におかしい。盗聴器が仕込まれたカフェ、車の話しかしないように仕向けられた市民、異様な得票率で当選する大統領、選挙前はゆるく、選挙後に激化する取り締まり。ツィスクとスタースが参加したデモでは、その場にいたというだけでGPSで追跡され逮捕される。対立候補は暗殺され自殺と公表される。ベラルーシが独裁国家だから、ルカシェンコが独裁者だから、とばかりは言い切れなくて、日本にもかなりこの要素はあるなと思う。
この本は発禁で、ベラルーシで捕まった人々が獄中で読んで勇気をもらったりしているらしい。戦争の対義語としての文学、を思い出した。
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この本は小説なのですが、非常にベラルーシの「現在」と関連しているので、「今」読むのがよいと思います。
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確か新聞で知った本書。なんとなく気にはなっていたものの購入には至っていなかった。
しかし、2021夏の東京オリンピックで陸上の女性選手が強制的に帰国させられそうになって保護を求めて、ポーランドに亡命する、と言うニュースを見ていたところ、同時に報じられていた2020年の不正選挙とその後のデモのこと。
あれ?ベラルーシ、、、そういう本をどこかで見かけなかったっけ?
そうして購入し読んでみることに。
この本が執筆されたのは2012年のこと。作者のメッセージや訳者解説にもあるように、その当時はこんなことが現代のヨーロッパであるわけがない、と批判されたと言う。しかし、2020年に大統領選の不正、デモが報じられると、ここに書かれていることは、本当に今起こっていることなのだ、と周囲も知ることになる。本書は、小説の体を取り、一人の少年が不幸な事故に巻き込まれて昏睡状態に陥り、10年の時を経て目覚める、という設定は設けつつも、そうした事故なども実際の事故をモチーフにしていたり、半分ノンフィクションのようなものなのだ。
そのことには驚かされるし、独裁国家の中のことと言うのは、当然ながら、なかなか外部の人間には見聞きすることが難しく実態が分からないものなので、一国民の生きている世界はこういうものなのか、と思うと、暗い気持ちになってしまう。
フランツィスクの祖母の「いちばんすごい奇跡はいつも、望みがないときに起きるんだよ」と言う言葉には、胸を打たれるが、でも「奇跡」が起こらないと、
いつ反体制とされて投獄されるかもしれない、理不尽なことには気づかない振りで生きて行かなくてはいけない世の中が、変わることがないと言うことでもあり、その状況は、想像しただけで苦しい。
こういう国に生まれなくて良かったと、つい思ってしまう自分がいたのだが、でも、日本でも知らぬ間に多くの国民が反対している法律が制定されてしまったり、官僚の人事権を握って、都合の悪いものはポジションを奪われたり、、そういうことが起こっている。まるで他人事、ではないのだよな、と思わされる。
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ベラルーシの半ノンフィクション。
ベラルーシがこんな国だったと今まで知らなかった。
フランツィスクの昏睡状態と国民の抑圧が比喩として上手に重なっている。
最後にはドイツの夫婦の手助けもあり国外へ脱出。
反体制組織の人間が次々消されていったり投票結果の不正操作など、分かりやすく振り切った独裁政権だな。
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ベラルーシ、ポーランドとロシアの間にある共産国、1986年には国の南側に面したチェルノブイリ(現ウクライナ)で原発事故が発生し死の灰の相当量がベラルーシに舞い込んだと言われている。この国はそれまで旧ソ連だったが1991年に独立しルカシェンコ大統領が誕生した、彼は独裁政治を続け2020年の選挙では3%の支持率しかないのに80%の得票率で当選を果たした。
そんな国で音楽学校の生徒で毎年及第点ギリギリのフランツィスクは、彼女とライブに行く事になり会場の待ち合わせ場所で突然大雨が降り屋内通路に避難した大勢の人々と将棋倒しになり植物人間となった。
10年頃に意識を取り戻したフランツィスクの目には昔より酷くなった国が現れた。行方不明、不当逮捕、プロパガンダ、いったい誰の為の政治なのが国なのか、フランツィスクは祖母との思い出を大切にしながら国を捨てる覚悟を決めている。
題名の、''理不尽ゲーム''とはベラルーシで起きている不都合な真実、暗殺・逮捕・監禁・盗聴等、体制に批判的な人達が受けた現実の話しを理不尽さによって評価するゲームだ。小説の内容が事実なら、信じられない行為が堂々と繰り広げられている。
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昏睡状態に陥った主人公が目覚めた10年後。
そこはより一層独裁に拍車がかかったベラルーシ。
主人公の長い眠りが、こんな社会になってしまった、こんな社会にさせてしまった世の中への諷刺と、覚醒した後の読者への状況説明の二つの役割を担っているのかもしれない。
2020年の選挙後の様子を見ても、ベラルーシの状況は変わらない。権力は腐敗する。常に目覚め続けなければならない。
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理不尽ゲームは作中で「現実に起こった理不尽なことを一人ずつ言っていく」ゲームとして扱われてるけど、この本はいって渡せばそれだけで「心底重い理不尽」になるなーと思った。
あと、これは解説と本文合わせて読むことに意義があると思う… 現実で何が起こっていて、人々が何と闘っているのかを事実として認識するために、解説が大切な気がする。
ストライキに参加するツィスクのセリフ。
「僕は革命を起こしにいくわけじゃない。誰かと喧嘩したいわけでもスローガンを叫びたいわけでもない。ただ、全て大嘘なんだということを確かめたいだけだ。」
「僕はただ、自分以外にもこの不条理劇を信じたくない人たちが表に出てくるところを見たいだけだ。」
←……
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読みながら息が詰まる程の閉塞感。最後の訳者あとがきを読んで、冒頭の作者の言葉を読み返し、東京オリンピックでの出来事を思い出す。かの地の実状を描き出し、読み手の心に突き刺さる。文学の力を見せつけられる一冊だった。すごい。
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ベラルーシ、あまり馴染みのない国だが、その大統領の不正、圧政に共産圏のような息苦しさを感じた。
10年の昏睡から覚める主人公や献身的な介護をする祖母そういった個人的な物語としても楽しめるが、ベラルーシを正しく見つめ記録すること、小説の形で人々に伝えたいという思いが伝わってきた。
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ベラルーシという国は元々は西欧とロシアの中立的な立ち位置を取っていたが、ルカシェンコ大統領が社会主義的な体制に大きく傾倒し、ロシアの弟国のようになる。たとえば国語においても、ベラルーシ語からロシア語を母語に代えていった。(ちなみにウクライナはロシア語からウクライナ語へと代えていった)
今回、これだけ国際的に避難されているロシアに対して全く迷うことなくルカシェンコは味方している。ちなみにルカシェンコはコロナはスポーツで吹き飛ぶといっている。サウナにいけばコロナは死ぬらしい。アイスホッケーなんて最高でこんな寒いところではコロナ菌どこにも飛んでない!見えないね!みたいな感じのこと言ってる。これをまわりも微笑みながら聞いている感じ。独裁政権なんですね。それで、独裁政権で起きているあらゆる理不尽を詰め込まれているのが本書になる。
ベラルーシに生きる一人の青年が主人公。実際にあった事件、エピソードが詰め込まれていて、笑っちゃうんだけどマジなんだから驚きです。この本のテーマのひとつは「理不尽」なんだけど「昏睡」や「唐突」もテーマといえる。急に、簡単に、不可逆的に事態が転換する。私達はもう少し自分で選択できる幅が広い。デモにもいけるし、たまたまそこにいたというだけで逮捕されないし、サッカーも相手が大統領だから負けなくちゃいけないなんてこともない。
私は、ロシアやベラルーシ、ウクライナ、元ソ連の国々が大変な目にあったことはなんとなく知っている。でも今のような不協和音に未来はあるのかな?と思うけれども、同時にこの本を読んで「独裁国家の日常を生きる」ことも緩やかに体験させてもらった。
祖母は特にいい。おばあちゃーーーん!ってなります!
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理不尽ゲームとは、理不尽な出来事や物語を語り合うこと。
欧州最後の独裁国家ベラルーシで、群集事故によって昏睡状態に陥った高校生ツィスクか主人公。
老いた祖母のエリヴィーラだけがその回復を信じていたが、奇跡的に意識を取り戻したのが10年後の2009年。その時には既に祖母も亡くなっており、母はもう生きる望みがないから、脳死判断しようとしていた主治医と結婚し、義理の弟までいるという始末。
何から何まで変わっていたが、変わらないと言うか、更に強烈となったのが大統領の独裁。
ルカシェンコと言う実名までは出てこなかったが、話に出てくる正に「理不尽」な政策と強権は、実態をもの語っていることがひしひしと伝わる。
ストーリーの濃さはそれほどでもないかな と思ったが、小説で不正を暴こうとすることには大いに共鳴した。
今じゃ当大統領は"悪魔"のプーチンと大の仲良しで、自分にとつては、金正恩とも肩を並べるに至ったように思える。