紙の本
シブくて甘い短編集
2016/11/04 00:41
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投稿者:オオバロニア - この投稿者のレビュー一覧を見る
黒基調でシックな表紙が印象的な短編集です。人間同士の愛情や憎しみをさらっと上品に、かつ巧く表現している点がとても良かったです。古典らしさゼロのみずみずしい訳文と、皮肉のきいた台詞回しも軽快で癖になりました。ブラックな作品、コメディタッチな作品からハートフルな作品まであって一冊の満足度も高いのでおすすめです。
個人的には結核療養所の患者同士の人間関係と恋愛模様を描いた「サナトリウム」、ドイツ兵の子供を身ごもった若いフランス人女性の哀しい強さを描いた「征服されざる者」などが良かったです。
紙の本
圧倒的な面白さ
2016/03/31 13:15
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投稿者:コピーマスター - この投稿者のレビュー一覧を見る
これは、8篇とも外れなしの短編小説である。とにかく面白い。金原瑞人氏の翻訳も素晴らしいと思う。
(「征服されざる者」だけは、えっ、これは本当にモーム?と思ってしまうほど異色作だったが)
モームの作品は、また少しずつ書店に並ぶようになってきているが、モームの珍しい短編作品を新刊で出す新潮社の英断に快哉を叫びたい。
これは第2弾も出してほしいと思う。
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岩波の短篇集は丁寧すぎる、端的で鋭い光文社の短篇集も文学というお堅い感じがして苦手という人へはお薦め(個人的にはどちらも好き)。前出の作品集を読んで訳文が合わなければ手を出してみるということでも遅くはない。ダイエットに励むかしまし三人組の元を訪れた痩せている大食漢に怒り心頭「アンティーブの三人の太った女」、野暮ったい義理の妹が若い男と結婚し憤慨する女性「ジェイン」などこれまでに比べ当てこすりや嫌味で分かるような、やや崩した表現が特色の短篇集。今回よくぞこれを収録してくれたという作品は「征服されざる者」。ドイツ人兵士が田舎のフランス娘を凌辱したことから立ち上がる微妙な人間関係を描いたもの。戦争が引き起こす傲慢さに虫唾が走る。他の作品:芸術家への優しき眼差し「キジバトのような声」、気取った政治家の逃れられない悪夢「マウントドラーゴ卿」、模範囚が妻を殺した訳「良心の問題」、療養所内の様々な人間ドラマ「サナトリウム」、曲芸師カップルの今昔物語「ジゴロとジゴレット」
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モームさんとは学生時代からお付き合いしたことがあるのですが、
どうも印象が薄かったようで、2、3の長編も全く記憶にありません。
で、今度は短編にチャレンジということでパラパラとページをめくりました。
最初の1篇、「アンティーブの三人の太った女」から読みはじめました。
避暑地で仲の良い3人の女性がダイエットに励みながらヴァカンスを満喫しています。
「三人はいっしょに水を飲み、同じ時間に泳ぎ、息が切れるまで散歩をし、…
同じ席で制限付きの貧相な食事をした。三人の意気をくじくものは体重計のみ。」
そんな所にほっそりとした女性が現れます。
さて、この4人の女性はこれからどうなるでしょうか?
ウィットとユーモア満点の小説群、読書にあまり多く時間をとれない方、
車中での暇つぶしに持って来いの一冊ではないでしょうか。
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新潮文庫『Star Classics 名作新訳コレクション』の1冊。このコレクションには同じく金原瑞人訳で『月と六ペンス』が刊行されており、新潮の新訳モームは本書で2冊目になる……(調べたわけではないので違うかも)。
副題に『傑作選』とある通り、本書は短編集。人間関係を皮肉な視線で描き出したモームらしい短編が並んでいる。例えば『アンティーブの三人の太った女』では、3人の女性の中に、1人、異分子となる女性が入るだけで、簡単に壊れてしまう関係を描き、『征服されざる者』では、第二次大戦中、占領されたフランスを舞台に、ドイツ軍兵士と現地女性、そしてその家族の皮肉な結末を描いている。どちらも結末は皮肉だが、前者が滑稽さに満ちたオチであるのに対し、後者の結末はなかなかヘビーで、これだけでも作風の広さを感じさせる。
一方、『マウントドラーゴ卿』は既訳では『マウントドレイゴ卿』となっていた怪奇小説。確か岩波で読んだのだと思うが、何度読んでもこれが好きだ。オカルティックな現象が本当にあったのかどうかは兎も角、マウントドラーゴ卿は独り相撲で死んだのでは……と思うとけっこう恐い。
『月と六ペンス』の新訳もそうだったが、全体的に取っつきやすい訳文になっていて、読者の間口を広げやすくなったと思う。
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短編集ながらどの作品も読みごたえがあって実に面白い。個人的には「征服されざる者」が一番強く印象に残ったが、それ以外の7作品についても様々な彩りを放つ物語世界に浸ることができ、ハズレといえるものは見つからなかった。まさに傑作選の名にふさわしい大変お得な一冊になっているとここに断言したい。
人間の機知・ユーモアをきちんと描くことができる作家は古今東西通して案外少ないものだが、モームはそのうちの一人であることは疑いないだろう。
全作を読んだわけではないが、新潮文庫の「名作新訳コレクション」シリーズの中では、今のところ本作が一番好きだ。
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モームって本当にオモシロイ!!昨年初めて『月と六ペンス』を読んで感動したのも記憶に新しいけど、この短編集に収められている作品一つ一つも面白くてハズレ無しです。翻訳もいいのかもしれないけど、モームの話運びのうまさは読んでいて楽しく、爽快感さえ感じられます。しかし、今回ちょっとビックリしたのが「征服されざる者」。モームってこんなシビアなものも書けるんだと驚きました。本格ミステリなども書いていたら、きっとすごい作品が出来たかもしれませんね。まだまだモームの未読作品があるので、少しずつ読んでいきたいと思います!
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優しい話と厳しい話のバランスがいい。選定の妙。細かいアイテムの描写が多いのでその都度写真を調べると当時の様子も趣味もわかってくる。
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それぞれ違う作家が書いたと言われても信じてしまうくらい
文体も世界観も異なる7つの短編集。
紅茶の缶のような装丁が素敵!
「ジゴロとジゴレット」が一番好き。
愛する人に「もうこんな危ない仕事はやめよう、僕が頑張るから」と
言われたら、それだけでまた命をかけた舞台に出られる。
やらなくちゃと思う。こんなところで立ち止まってるわけにはいかないーーー
彼女はたぶん私に似ている。
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『アンティーブの三人の太った女』
これを原作に映画が撮られたらおもしろいと思います。ぜひ見てみたいですね。脚本と監督は三谷幸喜さんかなあ。
『征服されざる者』
男の本心が最後まで読みきれませんでした。それはきっと彼が迷いのようなものを孕んでいたからかもしれません。そのいっぽうで娘の心理は最初から一貫していたように思います。本当に凄まじいお話です。
『キジバトのような声』
いるんでしょうね、こういう人が。少なくともわたしの周りにはいませんが、遠くで眺めるにはチャーミングでしょうが、付き合いたくはないですね。
『マウントドラーゴ卿』
世にも奇妙な物語みたいです。一見、荒唐無稽なストーリーです。しかし、人間心理の深淵を覗くような、ぞっとするお話です。
『良心の問題』
殺されても仕方がないようないいようですが、かの人はなにも罪を犯していません。その純粋さが罪だったのでしょうか。みな、不憫でなりません。
『サナトリウム』
間違いなく、本書のうちの最高の傑作だと思います。登場人物のそれぞれが主人公で、個々にすばらしいキャラクターが与えられています。サナトリウムはまるで社会の縮図のよう。場面に合わせて主題も変わっていきます。わずか数ページの短編ですが、いくつもの場転を重ねてラスト――すごく意外な終わり方で、しかもぞくぞくするほどの感動です。読書でここまで心が揺れたのは、もしかしたら初めてかもしれません。
『ジェイン』
変な人たちですね。不思議です。ジェインさんもその旦那さんも。このふたりの気持ちは永遠に理解できないですよ、きっと。ジェインさんの気まぐれ加減になんて、付き合っていられないことでしょう。旦那さんの情けなさにもイライラしてしまうかもしれません。
『ジゴロとジゴレット』
凄惨なラストシーンを勝手に想像してヒヤヒヤしてしまいました。よかったのか、わるかったのか。判じかねますが、お金って怖いですね。
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なにかしら読んで浸りたくなる時ってあって、そんな時はモームを開いておきゃあ間違いないのであります。何度もリピートできる本はそうないけどモームは別腹。人生の彩が違う。一番好きなのは「ジェイン」、爆笑を誘っちゃってるジェインの残像が消えないのよね。
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「モーム傑作選」というサブタイトルが付けられているとおり、元は別々に発表された多くの短篇の中から様々な味わいのものを選りすぐって訳した本です。
「アンティーブの三人の太った女」に苦笑いし、「マウントドラーゴ卿」の不思議な夢の話に引き込まれ、「ジゴロとジゴレット」にはらはらし……
結末が意外だったり、ショッキングだったり、あっけなかったり、皮肉たっぷりだったり、でもどの作品も「なるほど、こういうことってあるよなあ」って妙に納得させられてしまうのはいつもどおり。
モームの作品が読者の腑に落ちるのは、彼が鋭い観察眼で人間の本質を探り当て、それをみごとに暴いて見せるからですよね。だから、残酷に感じられることも多いです。
金原瑞人さん(「蛇にピアス」で芥川賞を受賞された金原ひとみさんの実父だそうです)の翻訳も素晴らしい。「月と六ペンス」の訳も素晴らしかったですが、分かりやすい現代的な訳だと思います。
最後に、別の本のおすすめです。この「ジゴロとジゴレット」はいろんなタイプの話を味わえて面白いのですが、同じ短篇集でも、元々一冊の本として出版された「一葉の震え」(小牟田康彦訳、https://booklog.jp/item/1/4773379677)はこれでもかと畳みかけるような迫力がありますよ。でも人間の本質を言い当てているところは同じです。「ジゴロとジゴレット」が気に入った方にはぜひこちらもご一読をおすすめします。
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おもしろい~!救いがあったり、人情味に溢れていたり理解できなかったり、その後を想像して身震いしたり。終わり方は様々だけど、全編を通じて滲み出る機微とアイロニーが大好き。笑いも涙もあるわけじゃないけど読後には満腹感。
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20世紀イギリスの小説家サマセット・モーム(1874-1965)の短篇集。ストーリー展開(筋や、ときにはオチ)が巧みで、物語それ自体としての面白さを味わうことのできる作品が多い。やはり短篇の名手と云われているモーパッサンの作品に通じるところがある。
他者に対する嫉妬・見栄・虚栄心・自己優越感情、そしてそれらを自分自身に対して意識的無意識的にごまかそうとする自己欺瞞。一見文学の主題にはそぐわないかのような、日常的で卑俗なつまらない感情の運動、そして卑近過ぎるがゆえに却って意識化されることなく素通りしてしまいがちな心の些末な動き。そういった微細な襞々に分け入っていく心理分析が巧い。モームは、普通の人生のありきたりな悲喜交々を、面白くまた意外性のある物語にして掬い取る。
「アンティーブの三人の太った女」は、三人の女たちの実に俗っぽい心理描写がとにかく愉快な傑作。まるでコントを観ているよう。この一作に出会えたことだけでも、この短篇集を手にとった甲斐があった。その他「ジェイン」「良心の問題」「ジゴロとジゴレット」「サナトリウム」など、物語がテンポよく展開しており、読んでいて楽しかった。「征服されざる者」で、ドイツ兵士とフランス女の感情が全く交わりようのない別次元の平行線のように描かれているのが凄まじかった。
「ヘンリー・チェスターが、あきらめてこの災厄に耐えようと考えられないのはしかたがない。みんながみんな、芸術や思想に慰めをみいだすことができるわけではないのだから。現代の悲劇は、そういう一般の人々が、希望を与えてくれる神への信仰を失い、この世で手に入れられなかった幸福をもたらしてくれる復活を信じられなくなったことにある。そして信仰に代わるものをみつけることもできないでいる」(「サナトリウム」)
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エッジの効いたエンディングがクセになるモームの短編集。誰かの何気ない一言や決断が他の人間の感情やその後を変えてゆく。あぁそうだよなぁ、ひとって誰かに影響され影響しつつ生きているよなぁ…、、、そんなことを改めて実感。特に好きなのは「サナトリウム」。ラストのセリフで思わず涙。