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- カテゴリ:一般
- 発行年月:2000.5
- 出版社: 大月書店
- サイズ:19cm/307p
- 利用対象:一般
- ISBN:4-272-52061-X
紙の本
徹底批判『国民の歴史』
西尾幹二「国民の歴史」は本当に歴史の本といえるのか? 歴史学者22人が「国民の歴史」の問題点や批判を総括・個別的に論じるとともに、歴史教育で大切なことは何かを明示。完膚な...
徹底批判『国民の歴史』
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商品説明
西尾幹二「国民の歴史」は本当に歴史の本といえるのか? 歴史学者22人が「国民の歴史」の問題点や批判を総括・個別的に論じるとともに、歴史教育で大切なことは何かを明示。完膚なきまでに批判を加える。【「TRC MARC」の商品解説】
収録作品一覧
戦後歴史学への危険な挑戦 | 永原慶二 著 | 18-31 |
---|---|---|
『国民の歴史』の歴史観 | 宮地正人 著 | 32-49 |
戦後ナショナリズムと「皇国史観」 | 岩井忠熊 著 | 50-62 |
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あのベストセラー、西尾幹二の『国民の歴史』は、トンデモ本ではないかと22人の歴史学者はいう・・
2000/07/30 06:15
4人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:上野昂志 - この投稿者のレビュー一覧を見る
西尾幹二の『国民の歴史』は、組織的に買われたというような噂もあるものの、1999年のベストセラー5位であった。読者の間では、これを読んで元気が出たとか、日本人として自信が持てた、といった意見がある一方、戦前の皇国史観をいまふうに焼き直しただけの本といった批判もあった。とにかく問題の書なのである。そのような問題の書に対して、22人の歴史学者たちが、それぞれの角度から批判したのが本書である。では、『国民の歴史』のどういう点が問題なのか。
たとえば、西尾幹二は、カール・ヤスパースを引用するところから書き始めているが、それについて、西尾はヤスパースの「実存的問い」の意味をほとんど理解していない、彼は、それをただ自分の歴史観の論拠にするために使っているにすぎない、と批判するのは、山科三郎である。山科によれば、西尾は、ヤスパースの「問い」を自分流にねじ曲げて、歴史研究を神話の物語へみちびく道具にしているということになる。
また、西尾幹二は、日本の歴史を、これまでのような時代区分で区切るのではなく、大きく「古代」と「近代」に2分する。いわゆる原始、古代、中世が一括されて「古代」ということになるのだが、永原慶二によれば、西尾のその「古代」においては、中世についての言及がほとんどないという。永原は、その理由を、西尾が民衆という存在にほとんど目を向けず、「日本」というあいまいな主体でしか論を立てようとしない手法をとっているところからきていると批判する。
『国民の歴史』の大きな特徴は、比較文明論的な枠組みで論を進めるところにあるが、その際に、常に日本と対照されるのが、中国である。だが、これも、宮地正人からは、中国を専制国家と利己的個人主義というイメージに固定しようとしていると批判される。まあ、たしかに、『国民の歴史』からは、絶えず日本はエライ、中国はダメだという声が聞こえてくるのではあるが。
近代における戦争についての西尾の解釈も同様で、日清・日露の戦争は、どちらも自衛戦争、国威発揚戦争であり、太平洋戦争は、アメリカが日本を仮想敵国にして始めた「日米人種戦争」ということになる。笠原十九司は、そこに「負けても目覚めなかった皇国少年」西尾幹二を見るのだが、目覚めるか目覚めないかはともかく、彼に敗戦コンプレックスがあることはたしかだろう。
というような批判はまだまだ続き、それはそれで納得させられる点が少なくはないのだが、『国民の歴史』のほうは、たぶんそれでも負けないのだと思う。というのは、西尾幹二のほうが攻撃的であり、それに対する批判のほうが防御的だからである。批判も、もう少し戦略的に行われないと、いまひとつ力にならない。 (bk1ブックナビゲーター:上野昂志/評論家 2000.07.29)