紙の本
賃金を決めるのは企業の稼ぐ力
2022/10/15 21:57
3人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:つばめ - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、これらの既往の著作物と一部重複する内容も含むが、日本人の賃金だけでなくウクライナに侵攻しているロシア軍の想像を絶する低賃金の実態など当然ながら新しい情報や前著作を深掘りした内容もある。著者の問題意識は、「日本の賃金が上がらなくなってしまったのは、日本社会の仕組みに問題がある。」、「仕組みを合理的なものにするためにまず必要なのは、賃金がどのようなメカニズムで決まるかについての正しい理解である。」にある。本書では、この問題意識、賃金決定のメカニズムの解説を経て、日本人の賃金を上げる方策について著者の見解が明示されている。その見解の一部を紹介する。◆賃金を上げるためには、就業者一人あたりの付加価値(生産性)を引き上げる必要がある。そのためには、企業が新しい技術を開発し、新しいビジネスモデルを見出す必要がある。◆「分配なくして成長なし」でなく「成長なくして分配なし」。◆日本社会の構造を新しいものに改革するためには、古い体制から利益を受けている既得権を打破することが必要である。◆労働市場の流動化を進め、変化に対して柔軟に対応できる社会制度を作ることが必要である。このために、年功序列賃金や退職金制度の見直しが求められる。◆政府の役割は、補助を与えることではない。補助金漬けになった産業は必ず衰退する。政府が行うべきは、既得権益の打破など基礎的条件の整備。
著者の主張に対しての、「金銭的価値を重視しすぎている」、「人間の価値は、賃金や報酬で決まるものではない」という批判に対する著者の「あとがき」での反論は特に印象に残った。<人間の幸福が給与や賃金だけで決まるのでないことは、間違いない。しかし私は、このような議論や意見が、賃金や給与に関する論争に安易に持ち出されることに対しては、強い抵抗感を覚える。それは、時として怒りといってもよい感情だ。なぜなら、そうした意見が出されるのは、社会を改善したいからではなく、大向こうの喝采を得たいとしか思えない場合が多いからだ。人々の拍手を狙って出される意見は、事態を改善することに、何の役割も果たさない。われわれが抱えている本当の問題から目をそらせるだけのことだ。>
電子書籍
混迷の日本
2022/11/21 21:55
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:AR - この投稿者のレビュー一覧を見る
経済も政治もダメな日本の、その理由を明快に解き明かしてくれます。必読書。
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言っていることはしごくごもっともだが、多くは言い古されている内容で特に目新しさはない。もっとも、言い古されていることを実行できていないのが日本の現状につながっているのだろうが。
また、著者はアップルを引き合いに出し、製造業はファブレス化すべきだと主張しているが、アメリカでもファブレスメーカーは一部だろう。自動車のようにファブレス化に適さない製品もあれば、保守が必要な製品は自分たちで作っていないとメンテナンスもできない。また、ファブレスメーカーの多くは労働コストが安い国や地域に委託しているが、地政学的リスクが伴う。
ただし、経済成長が必要であること、稼ぐ力を高めるべきだということには完全に同意。最近、成長を追わずにほどほどでという論考が注目されているが、それでは国力がますます落ちるだろう。
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日本人の賃金を上げるには生産性の向上や産業の創出が必要といった根本論を様々な論拠を元に解説した内容。できればその方法の具体論をもう少し多くろんじて欲しかった。
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日本は世界の物差しでみて賃金が安くなったという。
ただ、生活的にはまだまだ豊かである。ここで出たロシアと比べたら比較にならない。
自分は子どもたちがこういった現状を知った上で日本人で良かったと思える国にしたい。
円安は個人賃金を下げて企業が利益を出すこと。安倍さんはそれを知っていてやっていたし、国民はそれを知らなかった。知っていてもどうしようもないんだけど。
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2022年65冊目。256ページ、累計17,607ページ。満足度★★★★☆
ついにインフレが始まった2022年の日本。しかし、賃金は容易に上がりそうにない状況
本書は、日本の状況を世界の公表データなどと比較することにより、どうして現在の状況になっているかを明快に分析
ただし、どうすれば賃金を上げられるかの策については、非常に大括りの内容にとどまっている
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このおじさんも、遠藤誉さんと一緒で80代なのに、怪物的に頭がキレる。
平均所得はパートタイマー(パート自体の平均給与は増えているが、数の増加が顕著)を含めるから、海外と比べて、とても低くなる。日本のパートタイマー比率25%は高すぎる!OECD 16%。
平均年収700万円の会社に1,000万円プレーヤーが3割いる!
売上高・付加価値の比率は、小企業の方が高い!
円安が、古い産業をイノベーションのないまま温存してしまい、今の資源高、海外企業のイノベーションに対抗できなくなっている。
分配なくして成長なし ではなく、
成長なくして分配なし!である。
成長せずに分配できるような打出の小槌はない!安易なバラマキ政策からは脱却すべき!
既得権の打破、規制緩和で、成長を実現することが、賃金上昇につながる!!
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2022年11月読了。
41ページ
野口先生ご本人のNOTEのHPへのリンクが貼られている親切設計。「シリコンバレーをGoogleマップで見てみよう」ということで、アップル、Google、メタの本社ビルの航空写真が紹介されている。日系企業のダサダサ拠点とは雲泥の差だということが容易に想像される。成長し続ける国と停滞まっしぐらの国の違いとでもいいましょうか。
51ページ
既に多くの人にバレてしまっているように、日本は平均賃金で韓国に追い抜かれ、まもなくすれば一人当たりGDPも抜かれる。台湾にも抜かれる。
60ページ
ロシアは軍事費世界第4位の軍事大国だが、他国に比べて対GDP比率が2020年で4.3%と異常に高い。経済的な価値を生み出さない軍隊という組織に過剰な負担をしている。ゆえに国民生活は貧しい。資源ビジネス以外に目立った産業も育っていない。
85ページ
ASMLとニコンの違い。自社担当はソフトウェアだけのASMLと多くを自社生産するニコン。全てを内製化しようとする考えだから勝てない。
116ページ
アメリカでの年収1,000万円は大学院卒の初任給程度。
135ページ
資本金規模別に見た業種別年平均給与(2020年度)の一覧表。エネルギー関係が高く、対人サービスが低い。
139ページ
賃金格差をもたらしている基本的な原因は、企業規模の違い。
141ページ
これまで日本政府が行ってきた賃上げ政策は、低賃金の原因が生産性の低さにあることを認識していなかったために、有効なものになり得なかったのである。
148ページ
売上高/付加価値の比率を資本金による企業規模別に見ると、小企業のほうが大企業より効率的に付加価値を生産できることが分かる。これは意外だった。資本を投下すればするほど効率的に付加価値を生み出せるわけではない。
187ページ
中国が工業化に成功した1990年代後半以降、日本は賃金を抑えて為替レートを円安誘導してドルベース輸出価格を引き下げて安価な中国製品に対抗しようとした。これで重厚長大産業を維持したわけだが、実際は企業は技術開発を停滞させて生産力が低下した。古い産業は淘汰され古い雇用慣行は温存された。
188ページ
本当にやるべきだったことは円安誘導や賃金抑制ではなく、新技術の開発、新しいビジネスモデルの創出、それらによる利益確保だったわけだが、見事に逆の打ち手を続けた。
194ページ
政治的には円安政策を止める、バラマキ物価対策を止める、これらが本質的な争点になるわけだが、与党はもちろんのこと、野党にもそのような問いを立てる党がない。消費者と労働者の利益を代表する政治勢力が存在しないという大問題がある。
203ページ
変化に柔軟対応できる社会制度が必要。労働市場の流動化、就業者の組織間流動性を高める措置が必要。年功的賃金体制と退職金制度はそれらの逆。働く人々を生涯にわたって一つの組織に縛り付けている。
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資本装備率が、格差を発生させる要因。大企業が優越的な状態に成るは、必然か。
つまり、今の日本は、70年代末、レーガン政権以前のアメリカ。これを冷戦終結とそれ以降の内部での競争激化により、90年代以降、克服。しかし、現在は内部対立の激化にる分断状態へ移行してしまっている。それでも労働者的には、問題ないか。
メインフレームから、パソコンへ、ぐらいから始めるべきかな。スマホか、これだと・・・。
アベノミクス開始時に短期的な株価回復に捉われず、大企業に対する法人税を反優遇的に上げてしまえばよかったんだな。そうすれば、新しい芽が花開いて希望のある社会、賃金の上昇にもつながった、と。現状からは、そう判断できる。大企業病恐るべし。
今あるのは、利権化と中抜きだけだもんな。お花畑のアベノミクスでしたとさ。
ロシア軍の現状の弱さと、日本の賃金が上がらない理由を同列と判断する話は、とても面白い、悲しいけど。
付加価値って、大自然からは直接には得られないのね。広大な国土や四季折々の観光資源、これでは、ダメなのね。少々の付加価値にはなってるけど。
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バブル崩壊以降、日本経済は長期的な低迷に陥っている。それは、「失われた30年」と呼ばれたりもしている。その間、国民の所得も伸び悩んでいる、というか、全く伸びていない。むしろ下がっているのだということを示す統計も存在する。それに加えて、2022年になってからは物価が上がっており、可処分所得は更に下がっており、国民の多くが、苦しさを感じている。
これに対して、政府は春闘での賃上げを経済界に提言したり、それを支援するために賃上げ減税等の検討を行ったりしている。
筆者によれば、それは無駄なことだ。賃金を上げるためには、その原資となる企業の付加価値を上げる必要があるのだ。付加価値を上げるためには、技術革新を進める、新しいビジネスモデルを確立する、新しい産業を起こすといったことにより、生産性をあげる必要がある。春闘の対象はほぼ大企業に限られ、春闘で賃上げが行われたとしても、国民全体の賃金が上がるわけではないことは、過去のデータが示している。また、賃上げ減税を導入しても、個々の企業は実力以上の賃上げを行うことが出来ないのだ。
事業活動の付加価値を上げることは、個々の企業の責任である。政府はそれを、賃上げ税制といったような形でバラマキ的に補助するのではなく、「変化を阻害する条件を撤廃する」ことが大事であると筆者は説いている。
筆者は、色々なところで同様な主張を行っている。主張自体に私は賛成だ。
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今の日本に繁栄をもたらすにはどうすればよいのかという問いに答えた本。著者の意見は、ほぼ正しいと思う。データも豊富に示されており説得力がある。ただし、既知の内容が多く、新たに得られた知識は少なかった。さらに渡辺努氏のように、学術的な掘り下げはなく、データの読みは表面的で、解釈に疑問が残る点もあった。
「賃金や給与を考える場合には、付加価値=「稼ぐ力」が最も重要な指標だ。本書の議論は、この指標を軸として展開される」p6
「日本人の賃金を引き上げることは、日本経済を再活性化することとほぼ同義であり、その実現には、日本社会を根底からオーバーホールすることが必要だ」p9
「平均賃金が20年間上昇していないという大問題。2000年には日本より低かった韓国に抜かれてしまった。その他の国との乖離も拡大している。日本の国際的地位は、この20年間で低下したことになる」p49
「(ビッグマック指数)日本は390.2円だが、1位のスイスは804円であり、猛烈に高い。3位のアメリカは669.3円で、かなり高い。韓国の439.7円も、日本よりずいぶん高いと感じる。そして、中国が441.7円だ。2021年6月には日本より安かったのだが、ついに中国の価格が日本より高くなってしまった」p57
「従業員一人当たりの付加価値を「生産性」という。したがって、「生産性が高い企業の賃金が高い」ということになる」p90
「アメリカで年収1000万円は、ほぼ大学院卒の初任給レベルである。トップクラスのビジネススクールであればMBA取得後、1700万円程度の年収が直ちに得られる。ボーナスを加えると2500万円程度になる。30歳になるかならぬかの人たちが、これだけの収入を得られるのだ」p116
「OECDのデータによると、パートタイマーが全雇用者に占める比率は、OECD平均では、男10.4%、女22.1%。スウェーデンでは、男11.4%、女17.1%。それに対して日本では、男15.0%、女39.5%だ。男性も高いが、女性のパートタイム率が国際的に見て著しく高い」p218
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アメリカの情報産業のエンジニアの給与水準の高さに驚かされる。様々な統計データを駆使した説明はさすがの一言。統計データを諸外国と比較するには前提条件を認識しないとミスリードする。
実感として給与が増えないことが、過去の賃金水準から比較すると下がってることは腹落ちした。またその背景に日本企業の年功序列を前提とした働き方があると理解した。昔ながらの退職金制度を前提とした働き方は無理がある時代にきている。
春闘での賃上げを政策とする時代錯誤も理解できた。高度成長時代は大企業が賃上げをする前提として稼ぐ力があったから、中小への波及も期待できたけど今は全く期待もできないし。そもそも大企業で働いてる人なんて少ないのに、そこの状況だけが趨勢として切り取られることには違和感があったが、やっぱりそうだった。
日本の政策は大企業向けに円安誘導されていたがあくまで企業が見かけ上儲かるだけで逆に個人は搾取されているように思われる。
統計データの一つ一つの分析は専門的で難しさを感じるも総論としてはわかりやすいと思う。
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タイトルに惹かれ、読み始めた。
結局のところタイトルに対する筆者の結論は何なのかよくわからず、風呂敷を広げただけに感じた。多くの言い古されたことをなぞっているように思えた。
筆者なりの分析点があるようには感じたが、なぜ米国の賃金が上がり続けているのか。けん引するGAFAMとの違いがどこにあるのか等について深い考察を期待したが、期待はずれの内容だった。
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2023.04.08
シンプルな良書。特に、高校生に読んでほしい。この本の内容を理解すれば、自分がどういう職業を選択すべきかについて「ひとつの」有益な示唆を得られる。「ひとつの」と書いた理由は、筆者の「あとがき」そのままである。齢50を過ぎて、この本を読むと若い頃(今も)自分の愚かさに天を仰ぐばかりである。
付加価値を産めない仕事をシャカリキにやっても賃金には恵まれない!
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円安は国力の観点では悪、稼ぐ力を高めずしての分配論には意味が無い、という世正論。
どうやったら日本の稼ぐ力を高められるのか?という肝心の点では、『ファブレス』位しか処方箋は提示されず、残念。