紙の本
研究者にオープンサイエンス革命を押し進める動機付けが必要だ
2015/08/30 23:40
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投稿者:Michiyuki - この投稿者のレビュー一覧を見る
近年、科学研究のデータが一部公開され始めていると聞いている。一般の人でも入手できたり解析に関われることもあるらしい。是非とも「オープンサイエンス」に付いて詳しく知りたいと思っていた矢先に出合った本だった。
現在様々な分野で研究者が得られたデータを公開する取り組みが行われ始めている。データの種類も生のデータや加工されたものだったりするが、公開形態は研究者に留まらず一般の人でも閲覧できるものもある。
この著書で紹介されていたのは天文学分野や構造生物学等であったが、著者曰く、紹介できたのはごく一部で他にも様々な取り組みがあるとの事。
有名どころの SETI (Search for Extra-Terrestrial Intelligence 「地球外知的生命体探査」) やタンパク質の構造最適化プロジェクト “Foldit” の他、純粋な科学とは異なるが、プロチェスプレーヤーとの対戦や GNU、Linux 等のオープンソースソフトウェアやプログラムコンペが紹介されていた。
多人数による考えの精錬化、いわゆる集合知というのが本書で幾度となく言及されるオープンサイエンスの利点である。一人一人の能力は平凡か上々程度でも、多くの人が知恵を出し合うと非凡な人物一人に匹敵、あるいは凌駕する。
本書は現役の理論物理学者による一般向けによくまとめられたオープンサイエンスについての解説書だ。今後オープンサイエンスという言葉が頻繁に取り上げられるようになれば、必ずや参照されるべき書となろう。
だがオープンサイエンス化の推進に妨げとなる問題点への言及もある。一番の阻害要因は、現役の研究者たちにとってメリットが見出しづらいと言う点である。特に最前線に立つ若手研究者は自分の業績を挙げるので精一杯である。日々休まず研究を継続し次々と結果を出しつづけないと研究予算どころかポストの確保もままならない。研究データベースのオープン化などに協力する余裕がないのだ。
こんな懸念を著者も重々承知していて、しかもしつこいほどこの懸念点を様々な章に書き連ねている。翻訳者によればこれでも重複内容を削ったとのことだが、それでもこんなに残っているとは元はどれ程同じ事を書いたのだろうか?
しかしそれほど問題点を指摘しているにもかかわらず、具体的な解決策や提案は乏しいのは残念な限りだ。せっかくここまでオープンサイエンスの現状をつぶさに調査し問題点の洗い出しもした現役の研究者であるのだから、多少大仰でも印象深い提言をまとめて欲しかった。
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一般の人がサイエンス、研究活動にも参加し、その成果も全世界的に共有されるという動きを捉えている。
これを読むと自分も何かやりたくなってくる。ただし、その最初の一歩が難しいのは事実。
『バイオパンク―DIY科学者たちのDNAハック!』に通じるものもあるかもしれない。
そして、日本のオープンサイエンス革命がニコニコ学会βなのかもと思った(→『 進化するアカデミア 「ユーザー参加型研究」が連れてくる未来』)。
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ネットワーク化された社会において、サイエンス分野でもビッグデータを取り扱う必要がある場合に、専門家である科学者だけではなく数多くの人たちが参加することによって解決が加速する場合がある。
また、ビッグデータではないにろポリマスプロジェクトの様に集合知によって解決するものもある。これらの事例が魅力的に紹介されています。
本書では、科学の民主化は必然的な流れであると説いている。基礎科学分野においてはその通りだと思う。民間企業がしのぎを削っている応用科学分野では様々な障害があることは容易に想像ができる。
既に私たちは、ディジタル化、ネットワーク化、フラット化された社会で生きている。かつてSFの世界であったようなことが徐々に現実になっているので、本書が描いているオープンサイエンス革命も画期的な効用が世の中に知らしめられた場合に、一気に加速する可能性はある。
性善説で考えれば、オープンサイエンスには魅力的なことが沢山あるので、多いに期待したい。
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概念の定義、事例などは適度に詳細でわかりやすく、読みやすい。
チェスのカスパロフ戦、リナックス、Fold itなどの輝かしい成功例とそこから導かれる「べき」論。
提言になると尻すぼみになるのは致し方ない。資本主義の枠組みを壊すくらいのパラダイムシフトが必要な概念だと思うので、既存の仕組みの中で実現領域を広げようとすると閉塞感が出てしまう。
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昔からある集合知の概念が、個人がネットにつながることができるようになったことで、具現化されてきている。その事例を集めて、オープンサイエンスの実現のために重要なことをまとめたもの。読むほどに、実際にサービスを作らないと、成否を決める作り込みのコツはわからないのではと感じた。事例集として役に立ちそう。
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第1章 発見を再び発明する
第2章 オンラインツールは私たちを賢くする
第3章 専門家の注意を効率良く誘導する
第4章 オンラインコラボレーションの成功条件
第5章 集合知の可能性と限界
第6章 世界中の知を掘り起こす
第7章 科学の民主化
第8章 オープンサイエンスの課題
第9章 オープンサイエンスの必要性
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データなどをオープンに共有して研究を進められる分野は少ないかもしれない。社内などでの情報共有でもここに書かれている問題,「業績につながらない」が当てはまる。
2013/09/01図書館から借用; 09/04から読み始め;09/06読了
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個々のネタとしてはどこかで読んだ話がいろいろ出てくる。
今回は時間切れで読み切れなかったが、オープンサイエンス、公的データ公開、ビッグデータという流れを整理する上でもう一度読んでもよいかも。
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集合行為問題「『誰もがすべきだ』と考えている人でも、『他に誰もする人がいなくても、私一人でもすべきだ』と思っているとは限らない」。なるほどな、と。
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- ミクロな専門知識があれば解ける問題に時間をかけている問題
知識の差がある集団
- 流動的な役割分担とデザインされたセレンディピティ
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オープンイノベーションの話かと思いきやこれが大外れ、この本では企業内活動はそもそも対象にすらなっていない。原題はReinventing Discoveryで副題がThe new Era of Netwoked Science 集合知やインターネット上での新たな科学敵調査のすすめかたやいわゆるビッグデータの生かし方に近い物もある。
1999年に行われたチェスのイベント、”ワールド”対カスパロフは当時レーティング2851と史上最高を迎える直前で97年にIBMのコンピューター、ディープ・ブルーに負けたとは言えネット上の投票で着手を決めるワールドが善戦するとは誰も予想していなかった。ワールドチームは総計では75カ国5万人以上が参加し1手当たり平均5千人が投票した。24時間以内にオンライン上で議論し次の着手を決めるのだが一応アドバイザーがいてインターナショナルマスターの15才の少女アイリーナ・クラッシュが中心となり着手候補の検討をして行った。しかし、クラッシュ一人では到底ガスパロフには歯が立たず、候補のうち2.4%はそもそもチェスのルールを無視した手だった。ついでに言うとガスパロフは検討をのぞいて対策を立てることもできる。それでも50手まではほぼ互角で51手目にある参加者がマイクロソフトのシステムをかいくぐって複数投票したことから形成が傾き、62手でカスパロフが勝利した。クラッシュが印象に残った手の内の一つ26手目はさほど優秀ではないジュニアプレイヤーが示した手だった。一手だけなら世界最高のプロに迫ることもある。集合知でそれが続くには?
2005年のフリースタイル・チェストーナメントでは人間とコンピューターが組んで参加できた。ヒドラという当時世界最強のコンピューターが参加しており何度かはトップクラスのグランドマスターをいとも簡単にまかしていた。ヒドラチームは1組は単独でもうひと組は人間と組んで出場した。ではどちらが勝ったのか?参加した他のグランドマスターもコンピューターもヒドラには勝てなかった。しかしヒドラはベスト8にも残らず優勝したのは二人の低クラスのアマチュアと市販の3台のコンピューターと標準的なソフトと言う組み合わせだった。アマチュアと標準ソフトでもコンピューターにどういう計算をさせるかという優れたプロセスが組合わされば、グランドマスター+優秀なコンピューターよりも優秀な成績を残したのだ。
ギャラクシー・ズーというプロジェクトは銀河の分類をするのにずぶの素人のボランティアを採用している。次々に銀河の写真をみせ、渦の向きはどちらか、明るさはなどを答えてもらう。後にこの結果を元にコンピューターアルゴリズムを組みこれまたプロの研究者に足りない時間を補っている。それでも素人には新発見はできないのでは?いやいや、オランダの25歳の高校教師、ハニー・ファン・アルケルはギャラクシー・ズーに参加し奇妙なしみに気がついた。今まで誰もみたことがない物だ。一説ではこれはクエーサーの名残だと考えられている。強い電波を発するクエーサーがなぜか消滅してしまい、電波によって高温になった周辺のガスが発光していると言う説明だ。ギャラクシー・ズーはグリーンピース銀河も発見している。これは新しい星が年に40個も生まれる新種の���河だった。しかも3つ目のグリーンピースを発見したのはまたしてもハニー・・・。セレンディピティとはそう言うもんなのだろうか。
DNAの世界にも素人はしゃしゃりでる。といっても今度はゲームだ。DNAが作り出すタンパク質はどういうふうに折り畳まれているかによって免疫だったりの機能を発言すると考えられている。通常は結晶写真をとって構造を決定するのだがこれは時間がかかる。そこで出たアイデアがゲームで参加者はタンパク質をいろんな形に折り畳み、安定する構造ができれば高得点が得られる。このゲーム「フォールド・イット」から得られた結果は生化学者が参加する予測コンテストで最新鋭のコンピューターを駆使する専門家と肩を並べるほどの結果を示している。
ならば科学者同士を繋ぎ合わせればもっといい成果が出てもいいと誰もが思うだろう。しかしこれがなかなかうまく行かない。著者も参加した数学者のポリマス・プロジェクトやヒトゲノムなど成果を出したものもあるが、一般には科学者は自分の成果を共有することに消極的だ。問題は科学者にも就職先が必要なことでそのためには他人よりも早く論文を出して研究資金を得なければならない。終身在職権がある研究者でも引き続き研究のための助成金は必要だ。それ以前に最近では学者も知財権をとるのが当たり前になってきている。大学発のベンチャー企業そのものを否定するのではうまく行かないだろう。一つのアイデアとしては税金を使った助成金については一定期間内に成果をオープンにするように義務づけることかも知れない。企業研究者は報奨金の代わりに知財権を会社に譲り渡す、会社の資金で研究しているのであれば寄与度に応じて分配するのはリーズナブルだ。じゃあ大学はどうなってるのかと言うことだろう。科学者を責めても解決はしないはず。ガリレオだって土星の耳の発見をケプラー宛に暗号の手紙を送って先取権を主張していたのだから。
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オープンサイエンス革命として、集合知の有効活用、オープンソース・コラボレーション、データウェブ、市民科学などを通じて、オープンサイエンスの現状を解説。
今後、ネットワーク化された科学ごどう発展するか楽しみである。
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ネットワークと計算機の進化が知の構築方法自体を変える可能性を持つということを、サイエンスの世界での実例を挙げて説明している
その実現のために何をすべきか?
何が課題になるのか?
までを丁寧に説明した読み応えのある内容でした
オンラインコラボレーションによりアマチュアの集団がエキスパートに匹敵する成果を出し得ることから、確実に研究のスピードと量は増大するでしょう
データマイニングの進歩で意味づけのスピードと量も増大するでしょう
知の総量は劇的に増えるんでしょうね
それが質まで変えていくのか?そこにはもう一段の壁があるのか?
人知を超えるサイエンスってそもそも成立するのか?
(誰一人理解できないサイエンスって何?)
サイエンスがオープン化するとして、商業色の強いテクノロジーの分野ってどう変わるべきなのか?
様々な疑問が頭をよぎります
これらはサイエンスの領域にとどまらず、社会を大きく変えてしまう可能性を持っています
サイエンスに関係ない人も読むべき本だと思います
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集合知の話。それは圧倒的な人数であったり、圧倒的な人数から選ばれた人であったりするところが、これまでと違う。
専門家と一般人の知的レベルに差がなくなった。
圧倒的な人数がインターネットを通じて共通の話題を自由に論ずる環境が整ってきた。
などの要因で、仕事と関係なく専門家レベルの研究が爆発的に進展する。
野鳥の移動、天体観測、数学理論などでは圧倒的なパワーを発揮する。人海戦術だけでなく、質的にも威力あり。リナックスやウィキペディアもそう。
ただし、条件の限られた研究について、純粋なモティベーションのもとに成立する話。これを管理するのは至難の業。すべてが成功するわけではない。仕事になるとより難しいかもしれない。遊びだから、同じことでも面白がって、モティベーションを維持できる。飛躍の可能性が人を熱狂させ、参加させる面もある。いずれにしても、ボランティアであることは重要かもしれない。
学会だって集合知だが、オープンサイエンスのスピード感が圧倒的なのは参加する人数とこの熱狂による。
リナックスではモジュール化して各々の開発を進めたことが成功の鍵とされる。やはり管理が重要。
オープンソースの世界では、ある程度経験が積み上がっている。
また、オープンにされた膨大なデータ(データ自体の信頼性にもよるが)の集積をマイニングすることにより、新たな知が生成される可能性もある。そのデータ量はこれまで一人の学者が読んだ本や論文の数とは比較にならないくらい大きく、コンピューターによる検索技術や分析技術により、思いもよらなかった関係や法則を発見できる可能性がある。
宇宙の情報や遺伝子の情報(インフルエンザは公開されていないようだが)はオープンソースが整備され、誰でも見れるし、誰でも追加できる体制ができている。
当初、自己の利益との関係でクローズドだった研究成果は、オープンにすることで飛躍的にこの分野の進歩をもたらした。特許と同じで、そのバランスが大事だ。
インターネットで多くの情報が無料で得られることにより、論文、新聞、雑誌といった情報とのつきあい方も大きく変わろうとしている。論文の無料化も始まっている。これらの業界はビジネスモデルの根本的な転換を迫られている。有用な情報は有料なのか?有用な情報からさらに有用な情報を発信することを抑制してもいいのか?オープンソースの世界の成功は、既存概念を破壊しつつある。
そして、一般人がこれらの専門情報にアクセスできることもオープンサイエンスの土壌を育む要因の一つである。
産業革命において、ドイツで発達した職業としての研究(特に化学研究)はこれまで圧倒的な威力を発揮してきたが、オープンサイエンスのパワーはそれに勝るとも劣らない。まだ、海のものとも山のものともわからない状態だが、その片鱗を見る限り、ハマればすごいと思える。
ただ、人数が膨大でこれまでのような管理では無理だろうし、玉石混交を前提にしないと、従来の学会と何ら変わりないところが悩ましい。
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すごくよかった。「野生の研究」的なオープンサイエンスの現時点での事例がすべて詰まってる。もっと早く読めばよかった。
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