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- カテゴリ:一般
- 発行年月:2004.8
- 出版社: 国書刊行会
- サイズ:20cm/349p
- 利用対象:一般
- ISBN:4-336-04637-9
紙の本
白い果実
著者 ジェフリー・フォード (著),山尾 悠子 (訳),金原 瑞人 (訳),谷垣 暁美 (訳)
【世界幻想文学大賞(1998年度)】独裁者ビロウの内面を具象化した都市ウェルビルトシティは、外観の美しさとは裏腹に陰惨非情な世界だった…。異世界を描いたファンタジー。世界...
白い果実
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商品説明
【世界幻想文学大賞(1998年度)】独裁者ビロウの内面を具象化した都市ウェルビルトシティは、外観の美しさとは裏腹に陰惨非情な世界だった…。異世界を描いたファンタジー。世界幻想文学大賞受賞作。シリーズ第1部。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
ジェフリー・フォード
- 略歴
- 〈ジェフリー・フォード〉1955年生まれ。米国の作家。「白い果実」で世界幻想文学大賞を受賞。ニュージャージー在住。
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紙の本
記憶の宮殿の中を旅する美薬小説
2005/10/22 22:07
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:虹釜太郎 - この投稿者のレビュー一覧を見る
美薬小説にして観相学小説、理想形態都市小説にして流刑小説である本書では、下品な幽霊が困った時に出てくるむかしからの伝統的なずっこけアニメのような展開と、水晶壁に刻まれるにふさわしいかのようなフォントに対するこだわりとのギャップに強く引き込まれる。主人公のあんまりな美薬への耽溺度とそれを抑える意志の弱さは、かつての丹波哲郎演じる「ジキルとハイド」の暴虐なグルーヴをほうふつとさせます。特に美薬を飲んだあとの「あの薔薇のような時間!」に惹かれてそれをやめられない主人公が、一転、三転、七転、流刑の旅に。主人公はもう一度無事に「甘き薔薇の耳」を味わうことができるのでしょうか!?
デヴィッド・リンゼイの名作『アルクトゥルスへの旅』の世界を味わった時と同じ、めったに遭遇できることのない異界への誘いの強烈な磁力! ペルー料理で使われる「ファロッファ」を思わせる、クレマット料理などこの世界にしか存在しない料理の数々と、最後の闘いに絶対に必要だった10杯の飲み物とは!???絶対的なボスキャラの能力と、過剰すぎる超能力の暴走とそれをひきとめる市民たち各々の闘いと、それに現実と虚構の双方でからみあってくるさる「エイリアン」の存在が紡ぐ物語の行方は、同時代のマンガの実験的試みをさらに大吸収する『HUNTER ×HUNTER』の「キメラ=アント」登場以降の展開の元型を想わせ、人工自然環境を描いたバイオスフィア小説でもあり、絶望的な恋愛小説でもある。ファンタジー小説史上最強の美薬小説!?
紙の本
R18指定の極上ピカレスク・ロマン
2004/10/01 20:37
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ヲナキ - この投稿者のレビュー一覧を見る
なんと読みごたえのある小説だろうか!件の喜ばしい満腹感に浸れる経験など久しく記憶にない。三浦建太郎『ベルセルク』や古川日出男『アラビアの夜の種族』にも通じる黒い密度を有した幻想世界にカフカを彷彿とさせる諧謔をちりばめたユニークな教養小説との出会いが、近頃醒めていたボクの小説渉猟欲を再燃させる契機となった。
かくも興奮させるこの物語は、一人のカリスマ君主の手になる高度に発達した観相学と独自の科学技術によって統治される帝国を舞台としたファンタジーである。その独裁者ビロウが自らの幼稚な妄想を具現化させた美麗な都市<理想形態市>から、主人の命を受けた一級観相官クレイが、とある事件の調査のために辺境の属領アナマソビアへと出立するところよりこの奇妙な冒険譚の幕は開ける。当地の聖教会に<旅人>と呼ばれるご神体とともに祀られていた<白い果実>を盗んだ犯人を捜索するのが彼の任務であった。いつまでも腐敗せず一度口にすれば不死身になるとも噂されるその霊果の行方をつきとめるため、クレイは被疑者たちに対して観相学という名のロンブローゾ的鉈をふるう。超絶ヒール:ビロウの掌の上で躍らされる小悪党のクレイであったが、彼の身に次々と降りかかる災厄のなかで、次第に自らの驕慢さと犯した業の深さを悔い改め、物語は後半、贖罪の旅へと転じていく。
不測のストーリー展開や非凡な舞台設定もさることながら、主役から端役に至るまで際立ったキャラたちが読者を魅了する。躍動感あふれるコミカルな所作や見事なかけあいに頁を繰る手が止まらなくなる。しかし、大人社会のエゴや不条理、背信、妄執、駆け引きなど、ビターな味わいが盛りだくさんなので、無害なファンタジーを読み馴れた青少年の情緒レベルでは、この小説の毒を笑いで中和できるのかと、お節介な懸念が先行してしまう。あえて標題にR18指定と冠したのは、なにも惹句というばかりではない。
紙の本
畳み掛ける幻想風景
2005/05/08 23:34
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Leon - この投稿者のレビュー一覧を見る
天才ドクトラン・ビロウの脳内に築かれた都市の具現である理想形態市(ウェルビルトシティ)では観相学を修めた者に大きな権威が与えられている。
主人公クレイのように一級観相官ともなれば、人相や体格などからその人物の性向のみならず、過去の行動から未来の可能性までを看破してのけるのだ。
ビロウの命により理想形態市の繁栄を支える属領(テリトリー)の一つ、北方のアマナソビアへ赴いたクレイの任務は、この世の楽園に実り、それを食した者は永遠の生命を得ると言われる<白い果実>を盗んだ者の特定。
クレイの能力を持ってすれば容易な仕事に思われたが、住民を教会に集めていよいよ観相の技を振るう段になって、彼は突然に観相学の知識を喪失していることに気づいた。
<マスター>ビロウは無能な者に対して寛容であったためしはなく、クレイの目の前には失脚後の恐るべき運命が待ち構えていた。
保身のため、助手として雇ったアマナソビアの鉱夫の娘アーラに、自らの無能を隠したまま<白い果実>の犯人探しを任せたクレイだったが・・・
−傲慢な主人公クレイが、その拠り所である能力を失ったことから失脚・転落し、後悔の日々を経て贖罪のために独裁者ビロウに立ち向かう−
読了後に改めてあらすじを思い起こすと、ストーリーに特段の独創性は見受けられず、観相学にしても、まるでプロファイリング技術であるかのような極端な扱われ方をしてはいるが、アリストテレスの時代から今日の街角占い師に至るまでありふれたものである。
しかしながら、本書は一度手に取るとページを閉じ難く、ついつい読み進めさせてしまう魅力があった。
アマナソビアの特産物であるスパイア鉱石を長年採掘する間に鉱石の成分が体組織に染み込んで遂にはスパイア鉱石から削りだされたような青い人型彫像となってその人生を終える鉱夫たち。
<白い果実>をアマナソビアもたらした、<旅人>と呼ばれる異形の木乃伊。
日が沈んだ後の孤島の流刑地で、上手いカクテルを飲ませてくれるバーテン気取りのサル。
独裁者ビロウの脳内イメージと寸分違わず造られ、彼の心身とシンクロさえする理想形態市。
これらの奇想的な描写は、先に見たものの姿を咀嚼しかねるうちに次のものが現れるという、文字通り畳み掛ける感覚があり、眩暈を引き起こすほどだ。
読み手の眩暈は更に、クレイが麻薬<美薬>を頻繁に用いるために現れる幻覚によっても促されるようで、彼が流刑地のドラリス島に収監されてやっと薬と縁が切れたかと思えば、硫黄採掘場の地獄の如き熱気がやはり精神を惑しに掛かる。
「読む幻覚剤」というのは言い過ぎかも知れないが、ページを閉じ難い魅力は、ほぼ全てこの幻惑感に負うように感じた。
一方、登場人物達は思いのほかノーマル。
クレイは、その傲慢ぶりを存分に発揮している間は興味深い人物であったが、観相能力を失ってからの行動は「善良な主人公」はかくあるべきといった風で意外性は全くといって良いほど無い。
そのクレイの傲慢さは独裁者ビロウの威を借りることによって成り立っていたわけだが、こちらもステレオ・タイプな独裁者以上の性質を超えないばかりか、白い果実の影響を受けてからは妹の思い出を封じた小部屋の消失にうな垂れてみたり、一度は見限ったクレイを頼りにしたりと存外に卑小な様子を見せる。
二人共に権威の絶頂からどん底に落ち、裸の人間としての弱さをさらけ出してその性情に変化を見せるわけだが、その変化に伴って外見が劇的に変わったという様子はなく、作中信憑性を持たせるような描写を沢山設けている「観相学」ではあるものの、結局は「人は見かけでは判断できない」との帰結に至ったように思えてならない。
当初より三部構成であったらしいが、極めて完結性があるため、「観相学」を含めて次巻がどのように展開するのか気になるところだ。
紙の本
20世紀の悼尾を飾る傑作、といわれても実はSFにダン・シモンズの『ハイペリオン』4部作という壮大な伽藍が聳えている。第1部を読む限り、それには及ばないかな…
2004/11/12 20:03
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
訳者後記に、訳者として山尾悠子・金原瑞人・谷垣暁美の三人の名前があがる理由が書かれている。簡単にいえば、ダンテの『神曲』にも喩えられるような、複雑なというか想像を絶するような展開を見せる壮大な幻想談を、適切な日本語に移し変えるには、今は亡き日夏耿之介、平井呈一のような人間が必要で、金原・谷垣の手に余る。
そこで、金原が考えたのが知人の山尾悠子に、自分たちが訳した原文を、自在に彼女の文章に移し変えてもらうことである。金原の謙虚さと選択眼の正しさには、ただただ敬服する。そういう自由な発想をする金原もだが、それに応えようとする山尾にも頭が下がる。
カバー装画は、松崎滋『Babelic Place 2(部分)だそうで、いかにもMixed Mediaらしい優しさと、懐かしさを感じさせるもの。機会があったらこの人の作品展に足を運んでみたいと思わせる。とくに、家々の屋根瓦の表現と、夜空の色、そして多分地の紙の色だろう白の味わいが、いかにもマットなフレスコか何かを思わせ、その温かみが何ともいえない。線の揺れ具合もいい。
この本は壮大な三部作の第一部で、訳者の解説を借りれば、第二部以降で分かるというのだが、舞台は「東の帝国」であるらしい。帝国には独裁者ビロウが自らの内面を具象化して創り上げた「理想形態市」とその属領が含まれる。ビロウは科学と魔法に長じ、丸天井の建物や塔、クリスタルとピンクの珊瑚からなる美しい都市を想像し、以上に発達した観相学を支配の道具として使っている。
そのビロウの右腕と評判の観相学者、クレイが辺境の町アナマソビアに派遣されるところから物語は始まる。北方の属領の町で、教会に飾られていた「白い果実」が盗まれた。彼が命じられたのは、その犯人をつきとめることだった。「白い果実」というのは鉱山で発見されて、いつまでも腐ることなく教会に保存されており、食べると不死身になるという噂もある。その真偽を確かめた人間はいない。
この本自身も章のタイトルこそないものの、大きく三つに分かれている。第一章は、北方の属領にある鉱山の町、アナマソビアで「白い果実」を盗んだ犯人を探すことが中心にあるが、ここでクレイは運命の女性アーラと出会うことになる。他には町長のバタルド、司祭のガーランドあたりが重要だろうか。
第二章で、失意の底にあるクレイが流されたのがドラリス島である。ここで彼を苦しめるのが双子のマスターズ伍長。そして、疲れ果てた主人公を酒で慰めてくれるのがホテルの管理人である猿?のサイレンシオである。第三章は、いよいよ理想形態市が舞台となり、マスター・ビロウの登場となる。
美薬という、どうみても麻薬にしか思えないものの中毒となっているクレイ。それを自在に操るビロウとの危険な関係。歯車装置を埋め込まれた人間、サイレンシオを産んだ知性移植実験、子供をコインで動かせるように自動化といった果たして人間なのか、他の生物なのか、それとも幻想かと読者を煙に巻くような登場人物?がたくさん出てきて、正直、第一章は混乱の内に読み終えた感が強い。
それでいて話の展開はきっちり追える。そして二章以降になると、話のリズム、作者の癖がわかり極めてすんなりと読み進むことができる。まさに、究極のエンターテイメント、20世紀棹尾を飾るに相応しい幻想談かもしれない。で、読みながら思ったのが、同じく20世紀末に登場したSFの傑作、ダン・シモンズの『ハイぺリオン』4部作。
あれも豊富なイメージが詰め込まれた作品で、その量の多さに読み終わってヘトヘトになったものだ。そこまでの凝縮されたものの重みは感じない。それが幻想談とSFというジャンルの違いによるものなのか、作者の資質によるものかは不明だが、宗教の扱い方も大きい。個人的には、現段階でシモンズに軍配を上げるが、その評価が第二巻以降で覆るのかどうか、楽しみなシリーズではある。
紙の本
本でなければ表現できず、かつ発想豊かな作品です
2006/01/15 16:58
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:読み人 - この投稿者のレビュー一覧を見る
本作は、英国で世界幻想文学大賞を受賞した作品です。
昔、シドニー・シェルダンの翻訳で有名に成った、翻訳家が訳した文章を作家が言葉使い等を、直す、”超訳”(そう、その当時は呼んでいた)
です。
最終の直し、仕上げ、の部分は山尾悠子さんが行っています。
(ところが、この超訳を本の雑誌の特命座談会で翻訳エンターの編集者たちは 翻訳分野を確実に荒らしたと、語っていました。)
他人の夢を聞いているような作品で、
全く荒唐無稽で、とり止めもない作品ですが、
そのセンスの良さと、言語感覚で、きっちり成立して纏まってます。
独裁者の頭の中に存在するといわれる、理想形態市(well buit cityと呼ばれています)
のお話しで、
その独裁者に頭痛が起こると、その理想形態市内各所で、爆発
が起きたりします。(ここは、思わず失笑)
主人公は、顔(体も見ますが)をみただけ、全てがわかる
”観相官”です。
美薬という薬(幻覚作用かなりあり)の依存症になっています。
面白くするためのエンターティメントとしての、要素もきっちり含んでいて、
第一部は、白い果実を盗んだ犯人探し
第二部は、監獄、獄中物 若しくは、高倉健さん等の、鉱山物、
第三部は、政権転覆の、革命物です。(ちょっとちがうか!?)
ラストは、恋愛物!?、になっています。
本作「白い果実」は、三部作の第一作目にあたるそうで、
英語圏では、もう三冊とも出版に成っているとか。
どんなことでも、妄想のまま書けて表現出来てしまう
小説と言う表現分野に、乾杯ですな。
紙の本
幻影の伽藍に生きる人々
2009/02/16 22:43
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:SlowBird - この投稿者のレビュー一覧を見る
幻想というのが人間の幻想であり、現実とは違う価値観で駆動されているとするなら、そこは必ず背徳的なものなのだろう。理想形態市という、一人の天才が築き上げて君臨するそこは、その幻想世界の中においてさえなお幻想的に感じられる奇矯さがある。物語はそのシティから辺境の領土へ向かうところから始まるのだが、その小村とシティの間の潜かな確執に、異様と異様の擦れ合うのを聴くことができる。そこには青い結晶と化した人々がおり、魔物と楽園の伝説があり、「旅人」が待っていた。
シティの支配者の代理人である主人公は「観相学」という、邪悪で精緻、強力なテクノロジーのスペシャリストであり、その独自の倫理がシティを統治していると言っていい。舞台は、シティ、属領、流刑島と転々とし、森の奥地には魔物や植物人間などが住み、異人種の伝説が囁かれ、シティは様々の魔術的なテクノロジーにより構築されている。こういったファンタスティックな舞台設定のにおいてこの物語が特殊だと思われるのは、それらの設定は完全に背景に追いやられて、主人公のモラルを問う展開になっていながら、そのモラル自身が観相学という特殊な概念を根拠にしているところで、読者には肯定も否定もできない浮揚感に放り出される。
邪悪同士のせめぎ合い、葛藤ではあるが、異様な世界の中で運命に翻弄されて苦悩する孤独な姿が、徐々に存在感を増していく。幻想世界の中で彼らが見る、さらに異様な幻覚があり、現実とも幻覚ともつかない展開と入り混じり、そうやって幾重にも幻想に覆われることによって、むしろ様々な人為的な思想や装飾にくるみ込まれた人間のコアの部分、本能的な部分が見えやすくなるのかもしれない。
幻想の中から人間をより浮き出させるのは、文体の効果も大きいだろう。おそらく原文も、訳の山尾悠子の文体も、幻想を過剰さを拒否して緊密に描くことで、人間自身と世界の距離を幾何学的に語らしめるのではないか。
物語は再生と喪失とを予見させるものになっているが、それもまた夢の中の生でないと言えようか。矛盾と対立が限りなく漏出し続ける中で、延々とキリキリ舞いする姿の他に結末が必要なのだろうか。そんな寂しさを抱かせるほど、神秘や憧憬とは無縁で欲望に忠実な彼ら人物達の存在感は印象に残り、誰かが消えて誰かが残るのが新しい始まりであるなら混乱の時間に戻したい。さいわい続編があるということ。