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全55章に渡る大作で大変読み応えあり、レビューも自ずから長文に…。
先ずは日本。池田首相がフランスのドゴール大統領を訪問。ドゴールは池田をトランジスタラジオのセールスルマンと言い放った。が、その後半導体のセールスに成功した日本はドゴールの想像を遥かに超える裕福で強力な国家となる。しかしその陰にはアメリカ中心の体制に繫ぎとめたままで、日本の経済復興を支援するという米国冷戦戦略の肝があった。
時は過ぎ1980年代末、日本は世界のリソグラフィ装置の7割を供給していた(米国は2割に急落)。
当時シリコンバレーの日本打倒戦略のカギを握っていたのはアジアで安価な供給源を見つける事であり、サムスン電子がその役割を果たす。サムスンの創業者は商才に優れ、その時分日本の植民地的な朝鮮で中国戦線で戦う日本兵に魚の干物や野菜を売ることから始め、現在の韓国GDPの10%を占める巨大企業に成長させた。
1990年にはPCの大ブームが始まり、インテルはPCのCPUに方向転換して大躍進。1993年にアメリカは半導体出荷数で首位に返り咲く。1998年には韓国が日本を抜いて世界最大のDRAM生産国となり、日本のシェアはたった10年で90%から20%に下落。
リソグラフィ装置の分野でもニコンやキャノンが断トツのシェアだったが、オランダのフィリップスから分社したASMLが、これまたアメリカの日本打倒戦略に当てはまり、卓越した技術力でEUV極端紫外線を利用することに成功。数百億ドルの巨額投資(インテルだけで40憶ドル出資した。今の時価はどれほど膨らんでいることか)で急速に台頭。真空内を時速320キロメートルで飛ぶ100万分の30メートルのスズの小滴にレーザーを2回照射し50万度という高温のプラズマを発生させ、これを1秒間に5万回発生させることにより製造に必要なEUVを得るとの事。文系の私には全く理解できないが途轍もない技術なのだろう。そして現在最先端リソグラフィ装置で世界シェア100%となった。NHKでASMLのドキュメンタリーを放送していたが、世界150か国以上から優秀な技術者を採用し、圧倒的な技術力を発揮している。売っている装置は1台1億8千万ドル。EU内での株式時価総額は1位で2,470憶ドル。
また、エヌビディアはGPUを画像処理だけでなくAI利用に最適だと評価され、尋常でない成功を収めている。単なる優れたグラボメーカーと思っていたら大変身だ。
このように様々な曲折を経て世界最重要部品となった半導体は裾野の広い産業であるが、技術力の優劣であっという間に寡占化した。現在最先端のプロセッサを製造できるのはTSMCとサムスンだけになってしまった。
そして中国が急速にIT技術力を高めている。しかし中国がいかに諜報戦(諜報員には光学的な博士号が必須)に勝利し、ASMLの技術を取得しても意味は無い。もちろん中国がその技術を習得し、数百万ドルのコストを掛け10年後に同等のリソグラフィ装置を完成させることは可能だろうが、それが稼働するときにはその装置は最先端では無い事を知ることになる。また台湾TSMCを軍事的に取得することも全く現実的ではない。そんなことをしても一番損失を被るのは中国である。だから軍事的な懸念も無いとの結論だ。
また、西側も一枚岩ではない。アメリカは低下し続ける半導体シェア回復を目論んでいるが、アジアや欧州も先端的な半導体市場のリーダーを明け渡す気はさらさらない。アメリカの言う事を大人しく聞くのは日本位だろう。
このように半導体産業の栄枯盛衰は正に戦争だ。現時点では無敵であるが、この先TSMC・サムスン・ASML・エヌビディアに取って代わるスタートアップ企業は出てこられるのだろうか?
とりあえずMSFT・NVDA・ASMLを買い増しし、秋葉にGeForceのグラボでも買いに行くこと位しか、個人で出来ることは無いかと…。
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読み始めたら止まらない。半導体の開発競争に関わる英雄達の歴史絵巻のようだ。又、いま現在起きている台湾を巡る米中対立の構図が良くわかる。ウクライナよりも複雑で危険だということだ。
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半導体は技術の大躍進である。が、それ以上に国際的戦争でもあり、その発端は本当の戦争だった。軍事がそのモチベーションになり、今や経済戦争の中心であり、サプライチェーンを国家的に考える要となっている。
それは現代では計算処理能力の向上と小型化が世界的な関心であるからと言っても過言ではない。
各国が自国での回帰を求めるのは、グローバル化からの回帰ではなく、台湾一国集中足らしめた歴史の結果であり近代政治の方針だった。
一つ、日本のソニーが行脚したかつてのグローバリゼーションは、アメリカで生産された半導体を日本ならではの方法で商品化し、逆輸入的に商売をした上手さではあったが、これが当時のアメリカとして、そしてこれからの日本としても他国からの半導体購入であったことが反省点であるのかは疑問符が残る。
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素晴らしい本。分厚いけどページを捲る手が止まらない。半導体業界に興味があるからだろうけど。日本と米国の経済戦争の話しも出てくる。しかし今のような業界の形になるとギャンブルな投資は日本企業には無理だろう。投資負担があまりにも大き過ぎるので、上手くいかなかった時のリスクが大きく見えてしますし。フィリップがTSMCに出資してASLMもフィリップの関係。そう言う繋がりがあるのかと感心した。中国との関係や半導体が武器化すると言うコンセプトもよく分かる。先端のチップを作る事が国力に直接影響する事も理解出来た。とても勉強になった。
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こういうの大好き。
1週間くらいでガッと読み込めた。
巻末の参考文献が全体の10%くらいの厚さあって信頼できたし、何よりジャーナリズムを感じた。
半導体業界の構造やキープレーヤーについてめっちゃ詳しくなれる。
作者は気鋭の経済史家とのことで、インタビュー記事とか各国のレポートから引いてきた情報を元に編み上げた本物の大作。
半導体を軸に国際経済の外観も知ることができる。
株式投資にも活かせれるし、これから国際経済系のニュースを見たくなるような、知的好奇心を大きく刺激してくれる良質本。
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電子書籍にて読了。
EVの普及や2022年頃からの半導体不足で一躍脚光を浴びることになった半導体に関する競争や政策の歴史や背景に焦点をあて解説している。1950年代からのフェアチャイルドセミコンダクターやテキサスインスツルメンツに在籍していた半導体業界の偉人たちに焦点をあてながら、国や会社がどのように競争優位を築き、あるいは失敗していったかが具体的な経緯とともに詳述されており興味深く読むことができた。特にTSMC・ASML・Phillipsの関係や、紫光集団をはじめとする中国の動きなどは本書で初めてきちんと認識できたし、戦略物資として半導体の自国調達比率を(そのものだけでなく装置や材料レベルで)上げていきたいという各国の思惑をベースにした米中の応酬などはぼんやり思っていたことをしっかり認識させてくれた。
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真空管からトランジスタへ
フェアチャイルド アポロ計画用 誘導コンピューター
テキサスインスツルメンツ ミニットマンⅡ 誘導コンピューター
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1994年に電気電子工学科の修士課程を卒業した。当時はNEC、東芝、日立、富士通などの日本のメーカーの半導体生産量は世界シェアの50%近くを占め、特にDRAM市場では90%近い圧倒的なシェアを築いていた。その頃に、就職活動の一環として大手電機メーカーの工場見学をしたとき、たいていどこの企業でもクリーンルームとシリコンウェハーを見せてもらった記憶がある。自分は就職先としてそういった電気メーカーを選択する可能性もあったが、最終的にはそうしなかった。この本にはその後に、日本が覇権を手放し、台湾やシンガポール、そして一部は中国へと移った歴史が綴られている。もし、あのときに電気メーカーに進んでいたら、ここで描かれた半導体産業の歴史に対して、どのような思いを持ったのだろうか。
本書では半導体産業の歴史の中で大きな成功を収めた企業と、そしていくつもの凋落していった企業の様子が描写される。それらの成功した企業の中でも突出したもののひとつは、台湾のTSMCかもしれない。彼らは半導体ファンドリという一大産業を確立し、多くのファブレス企業の設計した最先端の半導体チップを製造している。それは、新しい市場自体を作るという賭けた台湾政府とモリス・チャンを中心として経営層の勝利だろう。本書によれば、現在TSMCは世界全体の37%の半導体の製造をしているという。
現在の市場シェアという点では、半導体製造だけでなく全体として多くの分野で寡占化が進んでいる。例えば、メモリについては、韓国のSamsungとSK Hynixの2社で世界シェアの44%を占めている。また最先端の半導体の製造に欠かせない極端紫外線リソグラフィ装置(EUV)は、オランダの一般には有名ではないASML社がほぼ100%のシェアを握っている。本書で指摘するように巨大な半導体産業は、数少ないプレイヤによって占められるとともに、それらの企業がグローバルに確立されているサプライチェーンによって緊密に依存しあって成立しているのだ。
半導体が発明され、ゴードン・ムーアが、集積回路あたりの部品数が2年で2倍になると予測したときも、それが彼の予想を超えて正しい予測であったとしても半導体がこのように世界を変えるとは想像しえなかっただろう。また、半導体市場が日本でもアメリカでもなく、現在のこのような形でプレイヤが生存競争を勝ち残り、サプライチェーンを構成するとは思わなかっただろう。それらは、経済合理性を超えたアニマルスピリットによる賭けの結果でもあるし、その上いくぶんの偶然の要素もあっただろう。そしてそこにおいて、国家間戦略がそれに無視できない影響を与えたこともあった、というのが本書が描くストーリーだ。
本書では、国家間の争いに半導体事業がいかに組み込まれ政治的に利用されてきたかについて比較的丁寧に描かれている。国家と半導体という観点では、近年では中国のHuaweiやZTEへの懲罰的規制が挙げられる。また、ロシアへの経済制裁における半導体関連の禁輸措置も大きな影響力を持つこと、自前もしくは経済圏において最先端の半導体製造能力を持たないことのリスク、逆に見れば圧力や抑止力としての武器となりうることが明らかになった。ちょうどこの本を読んでいる2023年3月31日に経産省が半導体製造装置の輸出規制の厳格化を発表し、実質中国への輸出が規制されることになった。このニュースが持つ意味は社会一般には十分に理解されていない。その是非や正当性は問われるべきだと思うが、半導体市場のもつグローバルかつ国家レベルでの影響力を示していることは確かなのである。
半導体の大規模需要は、家電からパソコン、そしてスマートフォンと移り、そのたびに微細化と生産面での大規模化が図られてきた。その中で、主役は米国から日本、台湾や韓国へと変遷した。Intelも安泰ではなく、NVIDIAなどAIやクラウド時代に向けてもまだまだ市場の様相は変わっていくのだろう。なにせ今までも想像を超えて変化し、大きくなってきたのだから。日本がその主役の座からことごとく降りてしまったのは、なぜなのか。そこには単純ではない原因と理由があると思う。それが何であったのかというのは、何が起きたのかということを咀嚼した上で理解しておきたいと思うのだ。
本書は、そのための半導体市場の歴史とそれが持つ意味について余すところなく解説している。物語としてもお薦めできる本。
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今一番ホットな経済安全保障の話題。
もちろんウクライナ戦争もあるけれど、ウクライナ戦争も形を変えた半導体戦争であることが分かる。
結局、限りある地球の資源を、プラネタリーバウンダリーの範囲内で平等に分かち合い、みんなが自由に幸福に暮らせる世界ってどうしたら実現するんだっけ?という問いが必要。
際限のない技術開発で、より小さく、より高速で、より高密度な半導体って、その目的に適っているんだっけ?って話で、その先に何があるんだろうなと考えてしまう。
iPhoneの新製品は出し続けないといけないし、AIの発展にはより高速な処理が出来ないと行けないし、宇宙資源の開拓にも出ないと行けないし、高性能で自律的な兵器を開発しないと行けないし、半導体製造拠点は経済安全保障を考慮して分散させないといけないし、EVをもっともっと生産しないといけないし、、、つまりは成長し続けないと、資本市場から撤退しなければならないし、地政学的に劣勢になるし、私(あるいは国家なら自国民)の自由と安全と幸福が脅かされる、、、
本当にそれしか選択肢がないのかなぁ〜。
といつものあの問いに戻ってしまう作品。
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現代の国際政治、世界経済、軍事力のバランスを特徴づけてきた立役者は半導体である。では、いったいどのようにして、私たちの世界は100京個のトランジスタと替えのきかない一握りの企業によって特徴づけられるようになったのか?が本書のテーマである。
1945年に真空管を用いて初期の電子計算機が作られてから現在に至るまでの、各国政府や企業、技術者達による、半導体生産に関する熾烈な競争の歴史を知ることができる本だと感じた。
この本を読んで、半導体を使ったコンピューターががアメリカで生まれた経緯や、技術の発展に日本が果たした役割、半導体製造のオフショアリングによるアジア諸国の台頭、半導体製造の技術や装置がたった数社に集中している状況など、半導体に関する非常に入り組んだ複雑なサプライチェーンの成立過程などを知ることができた。
そして、単なる半導体に関わる製品の権利による経済的なことだけでなく、『半導体戦争』というタイトルが示す通り、半導体戦略は国家間の安全保障や国防などの分野にも密接に関係しているということがわかった。
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半導体が足りない。車が買えない。このままではものが作れない、買えないというふうになってしまう。
本書は、今や原油よりも貴重だと言われるようになってしまった半導体の技術競争について、各国企業の栄枯盛衰が描かれている。
アメリカで始まった半導体産業だが、今中心となっているのは東アジア、特に台湾だ。台湾には、世界一の半導体製造技術がある。これは、地政学に影響を与えるほどだ。この技術を手に入れようとする中国と、超えようとするアメリカの二大国による競争も注目される。
意外だったのは、半導体の生産量は決して減ってはいないということだった。現在の半導体不足は、需要の急激な増加によるものだそうだ。
この先、電化がますます進む中、半導体の需要は増えるばかりだろうが、半導体のはなしを聞いていると、資本主義もまだまだ続くのではないかと思えてくる。
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パソコンやスマホといったデジタル家電のみならず、炊飯器から自動車、クラウドサービスや5Gモバイル通信まで、今日の人々の生活に欠かせない存在となった半導体の黎明期から、産業として発展し、世界の政治・経済・軍事に多大な影響を及ぼすに至った経緯を克明に記した一冊。
半導体というと、集積回路に実装されるトランジスタの数が2年ごとに2倍になるという「ムーアの法則」が有名だが、著者は、ムーアが予測した半導体の「微細化」が実現した背景には、複数の奇跡的な設計技術の革新と継続的な製造技術の高度化があり、それを支えたのが東西冷戦下における軍事技術高度化需要と、さらにその先にある民生需要を展望し、リスクを取って大規模投資をしてきた政府や企業家の努力だったと主張する。
80年代の半導体市場を席巻した日本がその後衰退し、韓国等の後塵を排した顛末や、旧ソ連の西側半導体「コピー戦略」が失敗した要因、また当時のソ連と類似の状況にありながら同じ轍を踏むことなく台頭する現在の中国の動き、さらには一見グローバル化が進展しているように見える今日の半導体産業が、実は台湾一国に過度に依存した脆弱な構造になっているといった著者の分析は納得感があり、これ一冊で半導体の歴史が全て理解できる充実した内容となっている。
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名著、半導体の技術、人物、企業、経済摩擦の歴史的、地政学的な側面から多層的に俯瞰しており、読み応えあり。
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半導体の歴史が俯瞰できる良書。
ファウンドリーとして世界一の能力を持つTSMCの重要性と地理的な危うさをよく理解できた。
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半導体産業の歴史を分かりやすくまとめてある。用語の説明もあり半導体初心者にもとっつき易い。
日本語訳も良いように思う。