紙の本
あくまで小説です
2020/02/15 00:35
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投稿者:肋骨痛男 - この投稿者のレビュー一覧を見る
カルテルの主要登場人物はほぼ全員死に絶え、漁夫の利を得た形のニューハリスコカルテルという構図は現実世界でも同じようですが、今度は他のカルテルが手を組んでその頭目を殺すべくシカーリョを送り込むという全く終わりの見えない現状はウィンズロウが一貫して主張している通りの展望であり、3部作を通じて主人公ケラーが繰り返し想起するようにパンドラの箱の蓋は開けられてしまっているわけです。
生き残った主要登場人物のすべてのその後が見えるわけではない、ある種オープンエンディングとなっているので、スピンオフ作品執筆のら可能性を感じる。今作でトランプ政権批判に手を付けた以上、今年の大統領選以降に何らかの動きがあっても不思議ではないと思いますね。
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『犬の力』は麻薬カルテルが第一世代から第二世代に引き継がれるまで。『ザ・カルテル』はその後日談で、前作のような二項対立ではなく、闘争劇を掘り下げる。そして完結編となる本作品は、第三世代が主役となる話ではあるが、領土の奪い合いに終始するわけではなく、第一世代と第三世代の対立の構図が重要な意味を持つ。そこに闘いを挑むケラーはついにDEA長官となり、その権力をフルに発揮し、自己否定ともとれる大胆な作戦でアメリカ側からカルテルを追いつめていく。
ストーリーは、メキシコ側とアメリカ側に分かれ、場面展開を繰り返しながら並走していく。ケラーが長官になったことで、政治的色合いの濃い完結編となったが、熾烈な跡目争いとなるメキシコパートの熱量は流石と言うべきか。また、前作以上に多くの人物が登場し、ケラーと犯罪組織の闘いの合間に、麻薬戦争の犠牲となったジャンキーや少年ギャングのドラマが描かれるのが印象的でもある。
濃密で重厚で壮大な物語には間違いないのだが、この完結編は作者の主張がやや強すぎた感もある。ケラーがウィンズロウのスポークスマンのように見えるシーンも少なからずあり、そこが余計でもあり残念でもあった。読後、いろいろと考えさせられた。怒りと虚しさの長い長い物語──ウィンズロウ、ありがとう。
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悲劇で終わるのかと本気で思っていた。
ケラーは死に、ウーゴも死に、シレロも死に、ニコはグアテマラへ強制送還され、ドナルド(ファッキン)トランプとその娘婿は栄華を極め、南米はカーロと手を組んだセータ隊の残党で血に染まる。
この素晴らしい物語はそうは終わらなかった。
ラスト本作のクライマックス、いくつかのシーンが挟まりながらのケラーの述懐とも受け取れる正義のための告解が進んでいくシーンは、さすがに映画的な演出が過ぎないか、とニヤリとしつつもクールじゃないなあ、と複雑な気分にも陥ったけれども、巻末、杉江松恋さんの解説にて本作がトランプ政権の発足を契機に生まれたものであると知り、それも然り!と手を打った。
だってフィクションだもの。
限りなくノンフィクションに近いフィクションで描かれる眼を背けたくなるほどの悲劇と、もがき苦しむ崇高な正義を目にしながら、現実に還元できなければ俺たちは何を読んでいるというのだろう。
あと、杉江さんの解説で個人的に嬉しかったのは、前作「ザ・カルテル」の白眉がやはり「声なき人々に代わって」が一弱者の高潔な魂から生み出された点である、と書かれていた点。ほんと、思い出すたびに泣きたくなる。
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すごかった。。それぞれの登場人物が織りなすストーリーの説得力がハンパなく、グイグイ読ませる。ケラーが戦った半世紀に及ぶ麻薬戦争は収束の兆しなどなく、むしろ凄惨を極めていく。ケラーは如何に戦うのか。 そもそも麻薬に依存してしまう問題の解決に注力すべきとのウィンズロウの提案に首肯くばかり。
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『犬の力』、『ザ・カルテル』の続編。前2作と比べて激しい戦闘シーンが少なめの上巻。それでも駆け引きや計画を練るところなんかは緊張感がある。麻薬戦争の終わりが見えないアート・ケラーの日々。現場に戻りカルテルを潰そうとする計画。今作も群像劇でたくさんの人たちのことが語られる。それぞれの思惑、欲がよりわかる。静かななかにも張り詰めたものがあり徐々に膨れ上がっていく。そして下巻に入り物語は加速していく。麻薬を通してアメリカの暗部がこれでもかと描かれ権力のために麻薬を利用し金を得ようとする。ケラー対アメリカのような構図。一人の人間が麻薬に溺れていくさま、悪に染まっていくさまには絶望を感じる。ラスト近くにあるケラーの語りは著者の声のようにも思えトランプ大統領への批判とアメリカへの想いが強く込められている。終わりの見えない麻薬戦争と今作で完結したケラーの物語。残酷な暴力に支配されたなかにある未来を見据える目があったことが救いになっている。本当に面白い作品だし圧倒されっぱなしの3部作でした。
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小説に圧倒されるというのはどういうことを言うのだろう。かつてドストエフスキーやトルストイの大長編作品群にぼくは確実に圧倒された。加賀乙彦の『宣告』に圧倒された。五味川純平の『戦争と人間』全9巻に圧倒された。船戸与一の『猛き箱舟』に、高村薫の『マークスの山』に、ジェイムズ・エルロイのLA三部作『ブラックダリア』『LAコンフィデンシャル』『ホワイトジャズ』に圧倒された。劇画でいえば白戸三平の『カムイ伝』に圧倒された。手塚治虫の『火の鳥』に圧倒された。そういう圧倒的なパワーに打ち倒されるような感覚を失って久しい。敢えて言えばアンデシュ・ルースルンドの『熊と踊れ』二部作がその類いだったろうか。
読者を圧倒する小説とは、壮大なスケール感を持つ骨太な物語でなければならない。阿修羅の如き悪と、神のごとき善とを内包する人間たちの運命のぶつかり合う軋みが聴こえるようなドラマでなければならない。壮大な構想で読者を牽引してくれる力がなければならない。それらすべての困難な条件をクリアして余りある作品が、ウィンズロウのライフワークと言ってもよい巨作が、実は本シリーズであり、完結作である本書だ。
シリーズ第一作『犬の力』が<このミス一位>、第二作『ザ・カルテル』が<このミス二位>(ちなみにこの年は『熊と踊れ』が一位だった)、そして第三作であり完結編である本書がこの夏登場となった。圧倒と言うしかない分厚さと重さと物語性を引っ提げて。世の読書子が心の底から待ち望んでいたような小説として。
メキシコ麻薬戦争をめぐる現代史を学ぶ機会はなかなかないだろう。このシリーズがなければ闇に葬られてたかもしれない暗黒の現実。コロンビア産の麻薬がメキシコを経由してアメリカ国境を渡るという単純な構図を見ると、生産利益、運搬利益、販売利益を目的とする反社会的な受益団体の存在が見えてくるはず。メキシコは運搬と販売を司る仲介利益に群がる組織間の戦場と化してしまう。一般人やジャーナリストの犠牲者を多く出した40年という長い暗黒史にメスを入れたのが、実はこのシリーズなのである。
麻薬捜査官のアート・ケラー、麻薬王アダン・バレーラ。二人の対立構図を描いた大河小説とも言える前二作を受けて、本書では第二世代の組織による新たな暗闘が幕を開ける。『ザ・カルテル』ではメキシコ麻薬戦争で実際に犠牲者となったジャーナリストに作品は捧げられていたが、本書では麻薬カルテルによって葬られたバス一台分の無辜の学生たちの実名が挙げられ、作品は彼らに捧げられている。
例えば2014年のケラーの嘆き。「メキシコではバスに乗った四十九人の学生が亡くなった。アメリカでは二万八千六百人がクスリで亡くなった。誰ひとり復活しない。おれにはやるべき仕事がやれていない」
「二〇〇〇年から二〇〇六年までは、とオブライエンはケラーに説明する。ヘロインの過剰摂取による死亡者数は横ばいで、一年に約二千人だった。二〇〇七年から二〇一〇年までは、約三千人に増加した。それから急激に増え始め、二〇十一年には四千人、二〇一二年には六千人、二〇一三年には八千人になった。」
「二〇〇四年から現在までに、イラクとアフガニスタンで失ったわが国の兵士の総数は七千二百二十二人だ」
「同じ期間に、十万人以上のメキシコ人が麻薬戦争で殺され、二万二千人が行方不明になっています。ちなみにこれはひかえめな数字です」
この数字の規模でシリーズは進んできたのだ。そしてケラーが取り組んできた長い麻薬との闘いの人生でもある。本書はその総括ともなる大作で、何と上下巻併せて千五百ページを軽く超える重量級のクライム小説である。凄い厚みと重みだが、それを読ませてしまう推進力こそが、ドン・ウィンズロウという作家の持ち味である。
それぞれの章に登場する複数主人公が良い。潜入捜査官として苦闘するボビー・シレロ。ビリー・ザ・キッドの異名を持つ殺し屋ショーン・カラン。グアテマラからアメリカへの国境越えを図る少年ニコと少女フロルの運命。そしてメキシコのファミリーたちのそれぞれの狂気の個性。またも犠牲になるジャーナリストの悲惨。前作までの覇者と死者とその子供たち。刑期を終えて再登場する古き麻薬王たち。
何よりも時代は変わり、ドナルド・トランプを思わせる新手の大統領がアメリカと現代とを掻き回す。麻薬戦争はメキシコからアメリカに移る。さらに過激に残酷になり地下に潜ってゆく薬物戦争に対峙するケラーの運命。
多くの人間の運命を乗せた重機関車のように物語は疾走する。ケラーのラストの法廷での証言が彼の辿った四十年を振り返る。まさに現代の『戦争と平和』と言える本シリーズ。できれば一作目『犬の力』から辿って頂きたい。そして本作の持つ圧倒的な力に、是非とも魂まで揺さぶられて頂きたい。
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まぁ、一応、“正義は勝った”感じにはなりますが、スカッとスッキリという感じでも無いですねぇ。最終的に、アート・ケラーは、自爆したわけでもありますから。
劇中に出てくる、大統領がなんとも・・・。かの大統領にも、様々な疑惑があるので、この作品で描かれている事も、途中まで「マジか・・・」と思っていました。モチーフ的には、ロシア疑惑だったみたいですが、これも無い事でも無いかな。
『ザ・ボーダー』と言うタイトルですが、色んな意味がありますね。文字通りのボーダーであり、アート・ケラーのやっている事だったり、彼の立っている立場であったり。
上巻は中々読みにくかったのですが、下巻に入ると面白くて一気に読み進んでしまいました。
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麻薬戦争の実態を抉り出し、巨大カルテルに立ち向かう男の熾烈な闘いを熱い筆致で活写/記録した現代の犯罪小説/ノワールの極北「犬の力」(2005)、「ザ・カルテル」(2015)。この続編が発表されたと知った時は、かなり驚いた。凄まじいカタルシスを得て物語は完結しており、ウィンズロウ自身も完全燃焼したのだろうと不遜にも捉えていた。あの血も凍るような悪夢が、まだ続くのか。それよりも、前作から〝僅か〟4年で、みたび創作へと向かわせた動機が気になった。翻訳にして1500ページを超え、さらに厚みを増した本作を読み終え、当然のこと打ちのめされた。同時に、私の安易な疑問が氷解した。
腐敗したメキシコ政府と結託して麻薬王へと上り詰めたシナロア・カルテルの首領アダン・バレーラは、台頭する他の勢力との利権/縄張り争いの果てに、旧友にして積年の敵/米国麻薬取締局(DEA)のアート・ケラーが放った銃弾によって死んだ。無辜の市民を無差別に引き摺り込み、血みどろの地獄同然の様相を呈した潰し合いは、結果的に共倒れとなって終焉したかに見えた。だが、アダンという軸を失ったことで対峙するカルテル間のバランスは崩れ、弔い合戦/覇権闘争へと一気に傾れ込む。アダンは遺言によって側近ヌニェスを後継者に指名していたが、カルテル三巨頭のエスパルサが反発。加えてアダンやケラーに煮え湯を呑まされていた老獪な元ボス・カーロや麻薬商ルイスらが刑期を終えて復帰、絶大な権力を糧にバレーラ/ヌニェス/エスパルサの他、強力な勢力を保持するアセンシオン、タピアらを巻き込んで操り、またも凄惨な殺し合いが展開する。
一方、アダンとの闘いの中で出逢った不屈の医師マリーを人生の伴侶とし隠居生活を送っていたケラーは、策謀家の米国上院議員オブライエンの要望を承諾してDEA局長の座に就く。メキシコ・カルテルの最大の買い手は、紛れもなくアメリカだった。カルテルのボスを何人排除しようとも、米国への流入を堰き止めることは適わず、逆に増えていく。麻薬問題の根は、アメリカ国家自体にある。さらに、眼前に立ち塞がる障壁とは、「麻薬カルテルがアメリカ政府の最高レヴェルの権力を金で買っている」という事実だった。ケラーは誓う。カルテルと薄汚いカネで結び付いた米国金融界の実態を明らかにし、摘発することを。つまりは、米国市民を蝕む麻薬の供給ルートを、国内に於いて根絶するのである。違法も厭わず盗聴や脅し、潜入捜査官の奮闘によって、徐々に資金洗浄の実態が曝かれ、証拠が集まるが、大きな難題が立ちはだかる。カルテルと手を結んだ米国側シンジケートの一人は、間もなく結果が出る次期大統領選の共和党候補デニソンの娘婿だった。デニスンは、メキシコとの国境に壁を造ることで不法移民や麻薬流入は解決できる、などと短絡的思考を平然と曝し、世間に物議を醸すことで成り上がってきた超タカ派の独善主義者であった。現民主党政権が敗れた場合、デニスンを窮地に陥れるケラーは圧力を受け、DEA局長を辞めざるを得ない。時間は限られていた。
新たな権力者の足元に擦り寄る卑しい取り巻きども。その代表格オブライエンは、局長継続を確約することと引き換えに新大統領を破滅させかねない証拠隠蔽��ケラーに強要する。もし拒否すれば、今まで培ってきた全てを失うことを意味した。すでに、ケラー自身がアダン・バレーラ殺害を告白したことで、最愛の妻マリーは離れていった。孤立無援の男は孤独を噛み締めながら、40年にも及んだ苦闘を振り返り、自問する。
――この戦争を戦い、よりよい善のために悪を為し、取引きを交わし、神のごとく振る舞い、悪魔と組んで踊った四十年。……取引きに応じろ。やつらの望みを叶えてやれ。――
ケラーは決断し、答えを告げる。「くそくらえ」
最大最強の敵/アメリカ合州国に挑む気骨の男。その死闘は、やがて全国民が眼前にすることとなる。
前二作とは大きく違う点がある。それは、アメリカ国内で悪化の一途を辿る麻薬問題を「終結」させるための思索と主張、その土台の上に物語を構築しているということだ。つまりは「麻薬の合法化」であり、最近富みに現実味を帯びて議論されている極めて冷徹な構想/策だ。ウィンズロウは自らの信念を伝え、合法化実現に向けた更なる動きを促すために、本作を著したのではないだろうか。
ケラーとカルテルの闘いに焦点を絞った前作までに比べて小説としての完成度は落ちるが、ウィンズロウは重点を置く位置を変えているため当然のことだ。カルテルを如何にして潰すか、国内に蔓延る麻薬患者をどうすれば救うことが出来るか。メキシコと米国それぞれの問題点を掘り起こし、検証し、辿り着いた答えを明確に主張している。その大胆且つ激烈な手段「麻薬の合法化」を、ケラーを通して明瞭に説くのである。逆転の発想で危険に満ちているようだが、論理的で整合性がとれている。麻薬に関わる死を如何にして防ぐか。銃器と同様、より身近で切迫した課題である麻薬問題を最終的に終息させるこの荒治療は、米国市民であればすんなりと受け止めることができるのだろう。
さらに、巻末解説で批評家杉江松恋が指摘している通り、ウィンズロウが本作に着手した大きな動機とは、ドナルド・トランプという名のワスプを象徴する男の登場にあったのだろう。物語の中で、より醜悪な人物に脚色してあるとはいえ、全編にわたり第45代米国大統領とその政権に対し痛烈な批判を浴びせている。政治の腐敗/横暴は、人心を荒廃させる。麻薬を唯一の救いと崇め、依存後に自滅する人間を生み出す一端ともなる。ウィンズロウは、最下層の麻薬中毒者や不法移民の少年が密売人として生きざるを得ない現実を、物語の中に敢えて挟み込み、麻薬によって個々の人生が狂っていくさまを、多角的且つ非情な視点で描き切る。本筋と密接に絡むことはないが、それらのエピソードこそが本作の核であり、全体を揺り動かす重要な基点ともなっている。
結果的に三部作となった本シリーズが、米国とメキシコのみならず、世界中の人々を苦しめる麻薬問題を捉え直す機会となり、解決に向けての大いなる一石を投じたことは間違いない。ケラーの闘いは終わったが、恐らく、ウィンズロウまた違うカタチで再開し、本シリーズの主題を更に掘り下げるのだろう。〝最終作〟読了後に、それわ強く感じた。
本作はいわば、次のステップのための総論となる作品であり、そのラディカルな問い掛けは、本来の「文学」の力に根差している。
以下��余談だ。
残念ながら、この国では、ウィンズロウのような真に気骨のある作家をもたない。米国の子飼いであり、稚拙な思考/無能な政策/保身のみを優先する醜悪さではトランプに引けを取らないアベ某、血税を浪費するしか能のない政治屋、特権意識に凝り固まった官僚、貧富/差別を助長しつつ肥え太る資本主義の申し子ら。大型シュレッダーさえあれば、何でも隠蔽可能という幼稚なまやかしが〝通用〟する政権。他国からみれば嘲笑の的にしかならないが、なめられた国民はより刺激的な芸能ネタに興味を移し、その隙に愚劣な輩どもは薄汚い冷や汗を拭い、再び戦争のできる国へと向けて悪知恵を働かせていく。
その腐り切った実体を暴き、創作を通して批判の声を上げ、人々を鼓舞するほどの力を持つ骨太な作家が、どれだけいるだろうか。このぶざま極まりない醜態は、恰好の〝素材〟になると思うのだが。無論、麻薬戦争という巨悪とは比べものにならない粗末な悪ではあろう。けれども、この国でさえ麻薬は「買える」のであり、〝高潔〟なる日本人が米国と同じ情況へと陥るはずが無いと考えるのは、それこそ浅はかだ。
ウィンズロウが鉄槌を下したトランプの隣りで、己一人が日の丸を背負っていると妄想するエゴイストのニヤケ顔に「くそくらえ」と叫ぶことに意味は無い。しかし、我々の生活に直結する「腐敗」を糾弾する意志を示すことによって変革への道は拓く。それこそ、ウィンズロウが本シリーズで為した偉大な功績だと思う。
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犬の力から始まり「息子たち」世代の話になる麻薬戦争、三部作最後。
このシリーズを読むとメキシコについて、麻薬戦争の現状について詳しく調べたくなる。
少し調べただけでもこの小説に書かれていることは決して物語の中だけのことではないとわかる。
ラストの見解についてはびっくり。
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ケラーの戦争が終わった。
最後は合衆国大統領まで敵に回し、孤独になり、そして独白して終わる。
良い小説を読むと、読後も予熱みたいなものが続くが、読み終わって一週間以上経つというのに、その熱が冷めない。
正義とは何か?
常にその問いを突きつけられているような気がしてならない。
ケラーのように自らの正義を貫き通すことができるのか。
それとも生きるため、正義に目をつぶるのか。
人は人の弱みにつけ込み、ビジネスは弱い人を飲み込んでいく。
現実はケラーのようには生きられない。
命が大事だし、生きていくことに精一杯だからだ。
だからケラーの生き方が物語になる。
ラスト、ケラーに安息の地を用意したのは、作者のささやかなプレゼントのように思えた。
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麻薬戦争に絡む群像劇がくりひろげられ、これはあとこれくらいで収集するのだろうか?とおもいますが、見事に終わっています。
ドラマ化の話しかあるようなので、楽しみです、
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2021年3月31日読了。
上下巻で1500ページ超の超大作。
1975年から始まったアート・ケラーの麻薬戦争は本作で2012年~2017年を迎え、終結する。
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終わった。膨大な3部作。ここに書かれていたのはメキシコの麻薬の歴史であり、アメリカの麻薬の歴史でもある。
アメリカが買い続ける限り、メキシコのマフィアが儲かる。
取締を強化すれば、価格が高騰して結局マフィアが儲かる。
儲かるからマフィアはもっと儲けようとする。
効率良く運べるように、もっと効き目の強い常習性の高い製品を開発する。
設けは膨大でマフィアの規模は大きくなる。
また、取締を強化する。
ずっとそれの繰り返し。いたちごっこ。
善と悪のボーダー、アメリカとメキシコのボーダー、主人公ケラーはそのボーダーのどちら側にも存在することで物語はついに完結する。
この上下巻で、トリステーサの虐殺、グアテマラの貧困から抜け出すためのメキシコを通り越してアメリカへの密入国。国をまたいでのギャングの暗躍跋扈。
などなどを知ることになる。
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著者が20年をかけて表現した世界は、暴力に満ちていた。「犬の力」、「ザ・カルテル」では麻薬供給元のメキシコの情勢を、最終章の「ザ・ボーダー」では、顧客となるアメリカの情勢が描かれている。
密売人や中毒者も描かれているが、その背景に筆は至り、固定化された階級社会であったり、麻薬をしのぎとして利用する公職者も描かれている。トランプ前大統領がモデルの人物も登場する。
主人公の公聴会での証言をクライマックスに物語は完結する。読み応え十分、現実の一つを見せつけられたシリーズでした
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15年かけてこの3部作を読み終えた。
終盤の公聴会での長い証言は40年以上に及ぶ麻薬戦争の歴史だ。
最高傑作と言っていい。
連続ドラマになったら必ず見たい。