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紙の本
本を生みだす力 学術出版の組織アイデンティティ
著者 佐藤 郁哉 (著),芳賀 学 (著),山田 真茂留 (著)
学術的知をめぐる物語を生み出す「本」は、どのようにして作られ、世に送り出されるのか? 出版社4社を対象とするケーススタディを通して、学術書の刊行に関わる組織的意思決定の背...
本を生みだす力 学術出版の組織アイデンティティ
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商品説明
学術的知をめぐる物語を生み出す「本」は、どのようにして作られ、世に送り出されるのか? 出版社4社を対象とするケーススタディを通して、学術書の刊行に関わる組織的意思決定の背景と編集プロセスの諸相を明らかにする。【「TRC MARC」の商品解説】
目次
- 序章 学術コミュニケーションの危機
- 一 「出版不況」の一〇年
- 二 出版事業者の経営危機
- 三 ベストセラーと書店の賑わい
- 四 利益無き繁忙と「一輪車操業」
- 五 出版不況と学術コミュニケーションの危機
- 六 出版社における刊行意思決定をめぐる問題−ゲートキーパーとしての出版社
- 七 本書の構成
- 第Ⅰ部 キーコンセプト
- 第1章 知のゲートキーパーとしての出版社
著者紹介
佐藤 郁哉
- 略歴
- 〈佐藤郁哉〉1955年生まれ。一橋大学商学研究科教授。著書に「現代演劇のフィールドワーク」など。
〈芳賀学〉1960年生まれ。上智大学総合人間科学部教授。共著に「仏のまなざし、読みかえられる自己」など。
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書店員レビュー
出版業界関係について...
ジュンク堂書店福岡店さん
出版業界関係についての本はあまた刊行されてきたが、本書は学術出版についての学術書であるという点で異色である。有斐閣・東京大学出版会・新曜社・ハーベスト社の四社を対象に、学術書が生まれるプロセス、採算性の取り方、編集者・組織の関わりなどを丹念に調査していて、日常的に各社の刊行物と接する立場として、興味深かった。
そして、日本で出版社が果たしてきた「学術的知のゲートキーパー」としての役割が、この出版危機の先にどうなってゆくか、深く考えさせられる問題である。
福岡店人文書担当 細井
紙の本
本「書評ポータル」が閉鎖されるという。残念です。お世話になった御礼に、「本」を扱った書の書評を最後にお贈りしたい。
2012/05/01 23:45
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:拾得 - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、学術出版社4社へのフィールドワークをもとに、出版のあり方さらには学術コミュニケーションについて論じた研究書である。本文だけでも400ページをこえる専門性の高い本とはいえ、フィールドワークをおこなった個別各社も丁寧に紹介されており、出版産業のノンフィクションとしても読めるだろう。扱っている出版社は、社員一人のハーベスト社、本書の刊行元でもある新曜社、学術書としてはかなり大手の有斐閣、大学出版部の中でも老舗かつ大きな東京大学出版会である。著者たち自身が社会学に身を置いているせいか、学術出版一般を対象とする姿勢は見せつつも、議論の焦点としてしばしば想定されているのは、文系のしかも社会学分野といってよいだろう。
『誰が本を殺すのか』がベストセラーになったことからもわかるように、「本についての本」は意外に多く、読んでいて既視感のようなものもあった。著者の一人である佐藤郁哉氏がかつて著わした『現代演劇のフィールドワーク』のほうが、よく知らない世界だっただけに「新鮮さ」があった。かといって、本書に新味がないわけではない。出版について論じる本の多くは、現場のレポートと論者の論調とが一致していないことが少なくない。『誰が・・・』もかなり期待はずれといってよい部類だろう。紹介されている事例は、それなりによく知られたものであったことにくわえ、その独特の慨嘆調が個別レポートとかみ合っていない印象が強かった。その点、本書では、フィールドワークの成果を「出版のありかた」論に性急につなげるのではなく、「学術コミュニケーション」という枠を設定した上で丁寧に論じている。言い換えれば、本書は、「出版」についてというよりも、日本の学問のあり方をこそ問うている、ともいえるだろう。
ところで、こうしたフィールドワークの本は、「議論」はさておき「読み物」としても興味深いことが多い。本書で取り上げられている4社について、バラエティに富んだそれぞれの歴史が書き込まれているのが興味深い。「一人出版社」というものが、それが編集者の個人史と重なるのに対し、大きくなるほど組織的な問題をさまざまに経験しているのはあたりまえにしても、こうも明快に対照されると説得力がある。また、「出版不況」は1997年以降とされるものの、本書で取り上げられている有斐閣や東大出版会は、従業員数や新刊刊行点数という側面では、その前に「ピーク」を迎えてしまっていることがわかる。事情はそれぞれ異なるのだろうが、「出版不況」を前に学術出版はすでに別の危機を迎えていたとも推測され、興味が尽きない。また、「面白さ」というので傑作であったのは東大出版会の創立当時の事情だろう。同会は、日本にもユニバーシティプレスをという、当時の南原総長の掛け声で設立されたことはよく知られていよう。ところが、当時は誰もその内実を知らなかったというのである。制度が違えば、大学出版のあり方も当然変わらざるを得ず、それゆえにアイデンティティを模索していくことになったという。時代の変わり目における人間の楽天さを見るようで面白かった。著者たちの意図をこえて、出版を考えるさまざまなヒントが転がっている。
さて、こうしたフィールドワークをもとにした「議論」となると、なかなか難しい。本書では、「ゲートキーパーとしての編集者」「複合ポートフォリオ戦略」「組織アイデンティティ」というキーコンセプトを提示した上で、その議論を展開しているが、興味がない人には少々めんどうかもしれない。確かに、「売れる本」だけを刊行すれば済むわけでもない、という学術出版のもつ性格をよく描いている。多少、売れゆきが芳しくなくとも、その社を象徴するような刊行物をもつことは、長い目で見ればその社の「のれん」にかかわる大きな強みとなるのである。しかし、それは学術出版に限ったことだろうか。他の出版社も象徴的な「のれん」を欲しているのではないだろうか。
著者たちの議論とは別に、個々の事例からむしろ見えてくるのは、学術出版といえども意外に「いい加減である」という点である。計画がないわけではないが、計画通りにいくわけでなく、編集者個々人の手腕が組織的・職人的に蓄積されているようで、実はそうでもないようで・・・。出版というものがもつ、本来的な「いい加減さ」というものがかえってよくわかろう。学術出版は、「高尚な世界」に見えるかもしれないが、新聞や一般雑誌とは異なり、編集者自身が「書いている」わけではない。「職人的」といっても、彼らが活字を拾ったりするわけではない。ある種パラドクシカルな存在でもある。計画性や組織性から見れば、本書で著者たちが対比させている「ファスト新書」のほうがはるかに進んでいるといってよいだろう。しかし「進んでいる」からといって、それが「計画通り」に「売れる」わけでもない。
本書はそうした学術出版のとらえがたさを明快に解きほぐし、明日への処方箋を示してくれる、わけではない。「とらえがたさ」をそのままとらえているといったらよいだろうか。それは著者たちの力不足ではなく、知的誠実さのあらわれなのである。