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- カテゴリ:一般
- 発行年月:2006.4
- 出版社: 草思社
- サイズ:20cm/295p
- 利用対象:一般
- ISBN:4-7942-1493-6
紙の本
めざすは飛鳥の千年瓦
千年もつ瓦で、建物を千年長くもたせたい! 法隆寺金堂、東大寺大仏殿、唐招提寺金堂、松本城、姫路城など、多くの国宝・重要文化財の屋根の保存修理にたずさわった奈良の第一級の瓦...
めざすは飛鳥の千年瓦
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商品説明
千年もつ瓦で、建物を千年長くもたせたい! 法隆寺金堂、東大寺大仏殿、唐招提寺金堂、松本城、姫路城など、多くの国宝・重要文化財の屋根の保存修理にたずさわった奈良の第一級の瓦職人の情熱あふれる痛快な一代記。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
山本 清一
- 略歴
- 〈山本清一〉1932年奈良県生まれ。井上新太郎のもとで本瓦葺きの修業をし、独立。認定保存技術保持者。日本伝統瓦技術保存会会長。労働大臣卓越技能者表彰。黄綬褒章受章。
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紙の本
情熱の語り
2011/08/27 12:30
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:想井兼人 - この投稿者のレビュー一覧を見る
兵庫県の姫路城は、平成21年から5年間かけて改修工事を実施されている。改修工事は漆喰壁や屋根瓦の葺き直しが中心という。この瓦工事の棟梁が本書の著者である。なお、著者は昭和31年から9年間かけて行われた「昭和の大修理」でも瓦工事の棟梁を務めた。この時は、初めての棟梁だったとのこと。
さて、本書は文化財の復元工事を主とする瓦職人の自伝である。民間の家屋の屋根屋(屋根葺き職人)の家に育った著者は、父親の手伝いとして職人人生をスタートさせた。しかし、ほどなくして文化財の瓦仕事に魅せられた。著者が文化財の瓦葺きに従事するようになった戦後間もない頃、文化財修復の事業に対する評価は低かったようだ。民家の瓦葺きのほうが、賃金が高いことがそのことを裏付けている。収入が減少することを理解したうえで著者は文化財の仕事に転向した。
それはただ事業対象の転向という単純なものではないらしい。民家には民家なりの瓦の葺き方があり、文化財のそれとはまったく異なるという。民家の瓦葺きの技を習得していた著者は、文化財への仕事に転向するために一から修行をやりなおすことになった。しかし、それは同時に著者を民家と文化財両方の瓦葺き技術を身に付けた稀有な瓦職人とならしめた。
著者は文化財修復に厳しい見解を持つ。見た目だけの修復に留まらず、普通は視認できないところ、解体修理の時に表に出る部分まで手を抜かない姿勢を貫く。タイトルにあるように1000年持つ瓦葺きが目標という。それは1000年先に解体修理を受けることを前提とする。その時、遠い未来の職人に恥じない仕事を追い求めているのだ。通常のビジネスでは思いもよらない、壮大過ぎる目標に驚かされるとともに仕事への厳しい姿勢の理由が分かったような気もした。
技術の追及は厳しく、利益を度外視して試作を重ねることも多かったらしい。さらに、施主との人間同士の関わりから利益度外視のやり方で仕事を行うこともあったようだ。採算はとりあえず置いておいて、確実な技術の復元を図るために思考錯誤を繰り返すというやり方。それは技術の復元に忠実で、さらに施主に正直な姿勢とも言える。その姿勢は次の仕事をもたらしてくれることも多かったようで、本書巻末にまとめられた著者の仕事歴の充実ぶりがそのことを物語っていよう。
さらに著者は技術の伝承にも力を注ぐ。現在、日本伝統瓦技術保存協会の会長を務める。技術の伝承は難しく、その喪失は容易い。本書中には技術の伝承に対して憂える著者の心情が幾度となく吐露されている。その憂いの凝集したものが会社組織という枠を超えた取り組み、すなわち日本伝統瓦技術保存協会の設立である。そこには利益の追及という思惑はまったくない。ただ、今伝わる技術、今復元できている技術を後世に伝えていくことだけが目的である。現状を理解しているからこそ、著者の憂慮は大きいものがあるようだ。
経済成長期を体験して日本は経済偏重の世の中に変貌してきた。職人のような長い年月にわたる修行は倦厭され、簡単に金銭が手に入るようなやり方が追い求められてきた。危険、汚い、きついといういわゆる3Kが避けられるようになったのも、そんな風潮からすると当然のことなのかもしれない。それに追い打ちをかけたのが、自分らしさを追い求めさせた時代性なのかもしれない。著者は瓦一筋を追及することで自分らしさを築き上げた。自分らしさとは外から眺めて探すものではなく、その世界に飛び込んで自ら築き上げていくことなのだと本書は実感を持って教えてくれる。就職氷河期が続く現代社会に本書が果たす役割は大きいと考える。一読をお薦めしたい。