史上最高の航空機設計者ケリー・ジョンソン自らの人生を語る

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スカンクワークスを生んだ、航空機設計者の自伝。
航空機開発へのあふれる情熱にはただ驚嘆するばかりです。
設計チームや利害関係者のマネジメント、操縦者との関り、設計に限らず周辺領域への幅広い識見等、現役エンジニア、ひいては本邦の航空関連産業にとっても、大いに示唆に富む内容ではないでしょうか。
巻末の、訳者による解説も素晴らしい。

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「なんでも頭から否定しないように」と教授は言った。「どんな物でもだ。」私はその言葉を心に刻んだ。

ある日、私はストーカー教授に質問してみた。「大学が風洞を使用していないときに、私が風洞を借りて自分のために使用しても良いでしょうか？」
「良いとも。」と教授は言った。

ヒバードによると、「彼はとても若そうに見えた。読み書きができるだろうかと思ったほどだ！我々は彼から新鮮な意見を貰ったよ。我々が大学の風洞に模型を持ち込んだ新型機は、どの軸周りも不安定で良くない、と彼が言ったときには私は少し驚かされた。この若者を雇って良かったのだろうかと思った。しかし、そこで私は考え直した。何と言っても彼は良い学校を出て、頭が良さそうだ。私は彼にチャンスを与えてみようと思った……。」と語っている。

私は、飛行機を設計した技術者は、自分の設計した飛行機を正しく理解するために、その機体で飛行すべきだと思っている。設計した人間なら、どこのボルトが強度ぎりぎりか、フラップは正しく動きそうか分かっているだろう。一緒に飛ぶ事で、私は操縦士の感じる懸念を、私も同じように感じるようにしていた。新しい機体の設計を進める際に、設計側と飛行士側の意見のバランスを取り、共通の認識を保つためには、一年に一回くらいは恐怖を感じるような場合があっても良いと思っていた。

その週末は精霊降臨祭とその翌日の月曜日で三連休だった。私は設計変更をするために、その三日間、七二時間をほとんど休みなしで働いた。ベッドには入らず、どうしても必要な場合は少し居眠りするだけで働いた。着替えもしなかった。
仕事を終えると私はベッドに倒れ込んでぐっすり眠った。部屋は費用を節約するためにコートランド・グロスと同じ部屋だった。三日間で始めて服を脱いだ。翌朝、目が覚めると、グロスが私のスーツにアイロンを掛けさせ、靴も磨かせてくれていた。会社の経営者の一人が、従業員のためにそこまでしてくれるなんて、何と素晴らしい事かと思った。私の上司の人たちはこのような気遣いをいつもしてくれていた。

技術者にとって、技術の進歩に対応していく事は重要だったし、現在でも重要である。幸いな事に、私にとって勉強は、かつてイシュペミングの町のカーネギー図書館でその楽しみに目覚めた時と同様、今でも夢中になれる事である。この頃の夏休みに、フレッド・ワイクスの古典的な教科書「航空機用プロペラの設計」の演習問題をもう一度、全部解いた事がある。また、何年か後の夏休みには、大学で学んだクライド・ラブ博士の「微分積分計算法」の演習問題を全部、もう一度解いた事もある。私は自分の数学の能力を維持しておきたかった。こうして夏季休暇を過ごす事は、とても楽しい事だった。

これからは機体の設計をするには、自社で風洞試験を自由に行える事が必要で、外部の風洞を日程調整しながら使用するのでは不十分な事がはっきりしてきた。そこで、風洞建設の必要性を会社に説明して、三六万ドルを出してもらった。会社の首脳部は試験研究の必要性を深く理解していて、私の要望を受け入れてくれた。

���の機体の形状は革新的で、他の機体とは大きく異なっていたので、奇妙な形だと言う人もいた。私はそうは感じなかった。設計された機体の形状は、全ての部分について、その形になった理由がある。機体の形状そのものに必然性が表現されている。新しい機体を設計する場合、飛び抜けた要求に対応するには、ありきたりではない設計で対応する必要があるものだ。

我々は主翼の実物大の模型に、フラップとその駆動系統の現物を組み込み、バーバンク工場のできたばかりの風洞で試験を行った。この風洞の初めての試験で、風洞の有効性が証明され、すぐに対応方法が決まった。フラップと主翼の間の隙間は、流線形で非常に滑らかな形状だった。この隙間を流れる気流が少しでも乱れると、その影響で振動を生じる。そこでこの隙間の、主翼側の整形カバーに多数のドリル穴を開け、気流が乱れてもその影響が小さくなるようにした。こうして隙間を気流が安定して流れるようになると、フラップの振動は無くなった。製造した一万機で、それ以後はフラップの振動は一機も起きなかった。

私がロッキード社初のジェット戦闘機の契約書をロバート・グロス社長に見せると、社長はその仕様書を期限内にやり遂げられるか疑問に感じた。しかし、社長もヒバード主任技術者も新しいアイデアはいつも歓迎していたし、厳しい状況の時はいつも私を助けてくれていた。
「ジョンソン君、これは君が自分で獲得した契約だ。」とグロス社長は言った。「やりなさい、やり遂げるんだ。でも君は自分で、このプロジェクトのための技術者と現場作業員を集め、作業場所を確保しなければならないよ。」

「要求仕様書がないなら、僕が自分で作成するよ。」とホロウエイ大佐は言った。「ジョンソン君、ちょっと待っていてくれ。二時間もしたら戻るよ。」と言って、ホロウエイ大佐は出て行った。
大佐は次の戦闘機に対する空軍の要求を、一ページと四分の一に書き上げた。そこには、その戦闘機は軽量であるべきとし、海面上と高高度における性能、搭載すべき武装、無線機、その他搭載装備品に対する要求事項が記載されていた。約束した二時間の内に、大佐は関係する全ての将軍の承認を貰って帰ってきた。

実際の所、スカンクワークスでは勤務場所がどこであっても、必要な人員を確保するのに苦労した事はなかった。応募してくる人は、作業場所がどこであれ、そこでの仕事は挑戦的でやりがいがある事が分かっているからだ。

スカンクワークス方式で会社を運営するには、一人の人間に絶対的かつ最終的な権限を与える事が必要不可欠だが、これからは社内、社外の圧力が大きくなるので、委員会方式や会議を中心として、関係者の合意を得ながら進めるやり方になって行くだろう。
必要な事項を即決し、それを速やかに実行するのが、スカンクワークスが成功できた基本原則である。少数の、非常に有能で責任感が強いメンバーが力を合わせて働く事も必要だ。報告書などの書類の作成を減らし、開発に従事する全員に参加意識を持たせて、それぞれの開発段階で高い士気が保たれるようにする事も基本的に必要な事だ。有能な人間による少人数のグループで作業する事により、作業を速やかに進めると共に、開発作業の細かな点��で目を配る事が出来る。

スカンクワークスの仕事に対する考え方では、作業は速やかに、過剰な費用を掛けないようにし、設計内容をリスクの程度に応じて修正する事にしている。開発を行う際の実行方法は機体により異なり、どの機体にも当てはまる方法が有る訳ではない。
私は、航空機の設計、製作をする人は、飛行試験にも関与すべきだと思っている。新しい航空機を設計する能力を養うのに、飛行試験を経験しておく事は重要である。私は飛行試験は、自分の設計、製作した航空機がうまくできたかどうかを確認する良い手段だとずっと思ってきた。試験機や改良型の飛行試験で、パイロット達と一緒に作業した事は、非常に勉強になった。パイロット達について、私は特別な人達だと思っていて、高く評価すると共に尊敬している。もし自分が設計した航空機に対して、責任を負わず、飛行試験で確認する権限が無くなったら、その時点から我々の設計能力の低下が始まる。新しい航空機を開発する上での、競争力を失ってしまう。
私は好ましくないと思っているが、最近では、直接的に設計開発作業を担当していない人達による審査や委員会、会議、コンサルタントの勧告に従って設計を進める傾向がある。ひどい失敗は無くなるだろうが、輝かしい成功も無くなるだろう。大きな発展は、洞察力にあふれた個人の発想から生まれるものなのだ。

新しい機体を設計する時は、過去にとらわれず、機体の運動性を最優先にして設計してはならない。運動性は搭載するミサイルに持たせれば良い。非常に危険な任務に使用して、搭乗員を危険にさらす必要は無くなるだろう。

米国や自由主義の諸国を防衛するには、オペレーションズ・リサーチの手法を利用する事が必要だ。防衛システム全体を、その基本から客観的に見て考えるのだ。これからの戦争はどのような物になるだろう？核戦争なのか核を使用しない戦争なのか？どのような兵器が実際に必要になるだろう？
巨大な費用を投じた原子力空母が、二、三日で使用不能にならないだろうか？潜水艦のように、空母を潜航させる事が必要ではないだろうか？地上発射のミサイルを正確に目標に誘導できる時代に、有人の航空機は必要だろうか？最新の非常に複雑で高価な先進的な機体が目標を攻撃しようとする時、古い時代遅れの機体をおとりとして使用すべきだろうか？オペレーション・リサーチでは風変わりな考え方も除外してはならない。あらゆるアイデアを、有効性、必要な費用、複雑性、柔軟性、信頼性、管理の容易性、その他関係するあらゆる観点から評価する必要がある。
スカンクワークスでは常時二、三十名の人間を、「彼ら」が何を考え、「我々」は何ができるかについて、さまざまな観点からの調査、検討作業をしている。「彼ら」の地対空ミサイルの能力はどの程度だろう？レーダーの能力は？次の新型機は？どのような分野について研究開発を行っているだろう？戦争になったら、相手の国土にどのように侵入したら良いのだろう？と言った疑問について検討を続けている。
国防の方針を決めるために、このような検討を行うのは、自国を守る上での基本作業である。

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スカンクワークスを率いたケリージョンソンの自叙伝。
つーても、これまで聞いたこともなかったから図書館に発注して仕入れてもらった。
自分で買うことはないが、航空機製造の課題についていろいろ知ることができたし、誰かが興味を持った時に調べることができる図書館の醍醐味を満喫できた。
あと、妻と死別しすぎ。切り替えての再婚早すぎ。