小田嶋隆のコラムの切り口

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同じ題材でも凡百のコラムとは全く異なる着眼点と豊富な語彙、卓抜なユーモアに引き込まれ、最後は思わず膝を打ってしまう。
小田嶋隆さんのコラムを評するとすれば、そんな感じになるでしょうか。
７～８年くらい前に、小田嶋さんが日経ビジネスオンラインで週１回連載しているコラム「ア・ピース・オブ・警句」を知り、唯一無二とも呼べるコラムに心酔して以来の大ファン。
単行本もせっせせっせと買っています。
本作は「小田嶋隆のコラム道」の続編とも呼べる著書。
①枠組みの勝利②分析を装い、本音をぶち込む③会話に逃げる④オチに注目！⑤裏を見る眼⑥長いコラムはかように⑦短いコラムはかように―の７章構成で、自身のコラムを紹介しながら、コラムを書く極意を伝えています。
「書くべきお話がアタマの中にあるから書けるのではない。書いているという作業がアイディアを呼び寄せるのだ。」
「コラムニストは社会学者ではない。仮説を立てて分析を試みることはしても、ファクトやらエビデンスやらを振り回さない。」
「書き手のアタマの中にあらかじめ『オチ』が想定されているケースがないとは言わない。しかし、そういうコラムはたいてい失敗する。なぜなら、オチから逆算して文章を構成するための技巧が、かえって文章の勢いを殺すからだ。」
などなど、含蓄に富む言葉の数々に得心することしきり。
ちなみに、ぼくの「小田嶋ベストコラム」は「家族の絆」。
本書から特別に全て紹介します。
◇◇◇
明治時代から家族のあり方を定めてきた民法の二つの規定について、最高裁大法廷がはじめての憲法判断を示した。一つは、女性のみに六カ月間の再婚禁止を定めた民法七三三条をめぐる訴訟で、最高裁は、百日を超える部分について「生まれた子の父の推定には不要で違憲だ」とした。
もう一つは、より大きな注目を集めていた夫婦別姓を認めない民法七五〇条が憲法違反であるのかどうかを争う訴訟で、これについては、「家族の呼称を一つに定めることには合理性があり、女性の不利益は通称使用で緩和できる」と、合憲の判断を示した。
ただ、判決文は、当判決が「選択的夫婦別姓が合理性がない、と判断したのではない」とも述べており、「この種の制度のあり方は国会で論じ、判断するものだ」と立法府での議論を求める文言を添えている。ちなみに、一五人の裁判官のうちの五人は「違憲」としており、三人の女性裁判官は全員が「違憲」の反対意見を述べた。
最高裁としては、「選択的夫婦別姓法案」の成立を排除したわけではない。つまり事実上は、判断を国会の場に委ねた判決だと考えて良いのだろう。
テレビの報道を見ていると「選択的夫婦別姓制度」の争点を、「同性婚」ｖｓ「別姓婚」の問題として、それぞれの結婚制度への是非および賛否を問う形で番組を作っているケースがいまだに散見される。これは、意図的にやっていることではないのだとしても、誤解を招く報じ方だ。というのも、実際の争点は、「全国民一律の同性婚義務を課す現状の制度」対「希望者に別姓婚の選択を許す選択的夫婦別姓制度」だからだ。
もっとも、「選択的夫婦別姓制度」というこの言い方自���、「夫婦別姓制度」という文言をいたずらに強制しており、結果として、「この法律が通ると、夫婦別姓婚が日本の家族制度の基本になる」という誤解を与える。できれば、くだくだしいようでも「夫婦同姓・夫婦別姓自由選択制度」あるいは「夫婦別姓許容法案」ぐらいな名称で議論されることが望ましい。何を言いたいのかというとつまり、問われているのは、「同姓か別姓か」ではなくて、「一律か自由か」を選ぶ作業だということだ。
たとえばの話、蕎麦は蕎麦つゆで食べる人が多数派なのだろうし、そのこと自体はこれからも変わらないはずだ。が、ケチャップで食べたい人がいるのなら、勝手に食えば良いと、少なくとも私はそう考えている。そして、わが国の法律は、ケチャップで蕎麦を食べる食べ方を禁止していない。
ところが、結婚となると、法律は、夫婦別姓の選択を禁じている。
これまで通りに、蕎麦つゆで蕎麦を食べたい人たちの選択を妨げようというのではない。ケチャップで蕎麦を食べたい人の食べ方を許容しようではないかというだけの話だ。
が、ケチャップを認めない人たちは、「日本の食生活の根本が崩壊する」と言って、正当でない蕎麦の食べ方をあくまでも禁止しようとしている。
自民党の女性議員の中には、自らが結婚前の旧姓で政治活動をしていながら、それでもなお別姓婚に反対している議員が複数いて、彼女たちは、「日本の伝統的な家族の絆が崩壊する」ということを理由に、現在でも別姓婚に反対し続けている。
どうして自分以外の人間が、本人の生き方を選択する自由を許容できないのであろうか。
自分たちの「家族の絆」が「他人の家族の暮らしぶり」次第で「崩壊」してしまうと考えているその人たちは、つまるところ、根本的な次元において「家族」を信じていないのか、でなければ、「家族の絆」を大げさに考え過ぎている人たちなのではあるまいか。
いずれにせよ、哀れな人たちだ。
（「日経ビジネス」２０１６年１月、約１５００字）
◇◇◇
これこれ、これがコラムというものですよ。

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義理と人情との板挟みに苦しみながら、与えられた使命を果たすことに専心する高倉健。決して言い訳をしない、黙って自分の仕事に取り組む、勤勉で寡黙で不器用なまさに昭和の男の代表。黙って働く昭和の男たちは高倉健という男に大いに心を揺さぶられた。平成が終わり令和の時代を迎えると、こういう男たちはコミュ障害と罵られ世間の隅に追いやられている。コロナ禍が時代を押し戻している。生活様式の変化とともに心の変化も、あるいはあるのかもしれない。

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コラムを書く型の本としても読めるし、純粋にコラム自体も楽しめる、いままでに読んだことのない区分が難しい本。
私はコラムの型の参考にさせていただいた。
これからは、このくらいジャンルに囚われない本がどんどん出てくる予感。
個人の発信も、もっと進みそうだし。
こういう境目のなさが好き。

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天才コラム職人・小田嶋隆氏の技法を切り口別に分類、本人の解説、例文とコラムの教科書的な本。

企画の勝利。
考えた人、ありがとう！

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《目次》
・ まえがき

◇第１章　枠組みの勝利
・「無人島に持って行く一枚」という枠で書いたコラム
・「読書の苦しみ」という枠で書いたコラム
・「対決」という枠で書いたコラム
・ オレらは安くなった
・ 価格往来
・ なんぼのもんじゃい

◇第２章　分析を装い、本音をぶち込む
・「広告批評」休刊に寄せて
・ 昭和の男
・ 家族の絆
・ 文壇
・ オバマ大統領のスピーチ
・ 選択と集中
・ 言葉の責任

◇第３章　会話に逃げる
・ サブカル
・ 推しメン
・ 人事
・ イニエスタ
・ メッシ
・ ＦＡＱ
・ マニュアル

◇第４章　オチに注目
・ 全員野球内閣
・ 生レバー
・ 清原和博氏へ
・ 大阪府警
・ 諸刃のフェイク
・ Ittaika
・ ＵＳＪ
・ 下町ボブスレー

◇第５章　裏を見る眼
・ ノロ・ウィルス
・『万引き家族』
・ サマータイム
・ 医学部入試
・ 視点

◇第６章　長いコラムはかように
・ デトックス
・ 鳩
・ いいとも

◇第７章　短いコラムはかように
・ 告解
・ やめたい
・ JARASC、鼻歌に課金へ
・ How are you?

・ あとがき