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漱石文学全注釈 9 門
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紙の本
小説の注釈を読む楽しみ
2001/08/01 02:42
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投稿者:メル - この投稿者のレビュー一覧を見る
小説を読む楽しみは、いろいろあるけれど、やはりその語られた世界にどっぷりと浸かって登場人物のことをあれこれと考える、ということだろうか。これも一つの楽しみに違いないが、私は詳しい注釈のついた本書を読んで感じたことは、小説で語られた世界、その時代の雰囲気などを知るというのもまた楽しいことだな、ということだ。小説を一種の風俗の歴史的資料として読む楽しさということだろうか。
この漱石の『門』は、宗助とお米という過去に曰くのある夫婦の日常生活を中心に語られる。友人を裏切って、結婚した負い目を抱きながらの生活に、いつこの夫婦のつかの間の安定が破られてしまうのか、このあたりのサスペンスがこの小説の楽しみだろう。一見すると仲の良さそうな夫婦の間にあるディスコミニュケーションを見るのが、最近の読み方らしい。
こうした物語とは別に、この小説の描かれた時代、すなわち明治40年頃の社会がどのようなものであったのか、それを知るのも面白い。その時、本書の詳しい注釈が役に立つ。
例えば、宗助の家の家主のところに泥棒が入る場面がある。宗助が泥棒が逃げていった跡を見ると、そこには盗んだものと大便があった。注釈によれば、この泥棒の場面は、漱石が実際体験したことであるという。そして、もう一つこの大便は、当時犯罪と結びついていたという。当時は、脱糞をすると犯行や逃走がうまくいくという伝承がまだ強く残っていたらしいのだ。
また、お米の言葉使いに「女学生流」と小説では語られている。注釈をみると、女学生は当時もやはり注目の的であったらしい。女学生のファッションや不品行などが、小説にも新聞記事にもなっていたという。このあたりは、現代の女子高生を見る目となんら変わりがないようだ。他にも、「肩凝り」という言葉が小説で初めて使われたのが、この『門』ではないかという研究の紹介もあった。
小説そのものを楽しむ読書も面白いのだが、注釈を頼りにじっくり読んでみると、意外な発見があったりしてこれもまた楽しい。このような楽しみ方が出来るもの、『門』の研究者によるのではあるが。本書の注釈は、本文にすぐ近くにあるので、参照がしやすい。だから小説を読みながら注釈も楽しむということが出来た。そんなわけで、本書は注釈を読みながらの読書にまさにうってつけの本だと思う。