紙の本
歴史学の姿勢を学ぶ
2022/12/04 22:56
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投稿者:てん - この投稿者のレビュー一覧を見る
歴史学者も歴史の一部なのだという主張になるほどと思った。学問をやっていると、つい世の中を高いところから見下ろしているような気分になってしまっているなあと。
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https://tanemaki.iwanami.co.jp/posts/6074
https://www.iwanami.co.jp/book/b605144.html
https://www.iwanami.co.jp/book/b267200.html
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E・H・カーの『歴史とは何か』については清水幾太郎訳(岩波新書)のものがすでに存在する。
なので清水訳と今回の近藤訳を比較していく。
本文の読みやすさについて。
・清水訳が良い
理由は単純で、近藤訳のしばしば入る[笑]という表現が著しく読了感を損ねる点である。
たとえば近藤訳のp.4には以下のような記述がある。
「しかしながら、一九五〇年代の文章ならすべてかならず意味が通ると信じるほどに先端的ではないのです[笑]」
これが清水訳ではこうだった。
「しかし、何によらず、一九五〇年代に書かれたものはみな意味があるという見方を信じるところまでは私もまだ進んでおりません」
近藤は清水の訳に本作でも言及しており、
その意味で清水に誤訳があったなら、近藤が直している可能性が高い。
しかし、意味の忠実さを求めるなら原文を読むべきで、
訳文として求める「一定程度のわかりやすさ」なら清水訳でも困ることはあまりない。
それよりはページによっては1ページ内に[笑]が4つも書く近藤訳の方が大変読みにくい。
注釈の読みやすさ
・近藤訳が良い
清水訳では注釈は巻末にまとまっており、
わざわざ読もうとしない限り目に入らない。
これに対して近藤訳では注釈の内容がほぼ必ず同じページにあり、
「わざわざ読む」という手間無しに読み通すことができる。
注釈の内容も原注だけでなく、近藤の足したと思われる注釈、
それこそ2022年のウクライナ情勢にまで軽く触れたものがある。
また、より重要なのはE・H・カーの間違いを指摘する注釈である。
『歴史とは何か』は歴史学を志すものならどのような形であれ大いに重視する文献だが、
カーを崇拝せずに済む、という意味ではこの注釈は重要である。
資料としての充実具合
・近藤訳が良い
清水訳では新書ということもあり、『歴史とは何か』の本文の訳のみを収録している。
これに対し、近藤訳ではR・W・デイヴィスによる「E・H・カー文章の解説」がある。
これはE・H・カーが『歴史とは何か』の次回作を構想し、
しかし執筆が間に合わなかったカーの資料を解説するという野心的な試みである。
更にカーの自叙伝など、「本を読むための資料」にも事欠かない。
この意味で近藤訳は価値がある。
総評:読者層によって勧める訳が異なる
初学者、大学生
・清水訳
本文が素直で、また単純に文字数が少ないのは最初にふれる上で、
読書のハードルを下げることができる。
E・H・カーの『歴史とは何か』に最初にふれるなら、清水訳が今でもおすすめである。
院生、歴史研究者、清水訳読破者
・近藤訳に目を通すべき
清水訳の良い所は文字数が少ない所であり、欠点は文字数が少ないことである。
文字数が少ないということは読みやすいが、情報量が少ないということでもある。
すでに清水訳を読破した人には近藤訳の追加部分や、
本文を改めて読んで『歴史とは何か』への考えを深めてもらいたい。
真剣に歴史学をやるつもりなら、近藤訳を新品で買うのは高くないどころか安いと言える。
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岩波新書版『歴史とは何か』を読んだのは、はるか昔の大学生のときだったが、「歴史とは、現在と過去のあいだの終わりのない対話である」という有名なフレーズに触れて、何となく満足してしまったような気がする。
今回、新しく訳された新版を読んで、前に読んだときいかに読めていなかったかを痛感した。
カーは第二版のための準備をしていたが、残念ながらその前に亡くなってしまった。本書の元となった講演が行われたのは1961年。その後の歴史学に関する議論の進展を考えるとどうしても古さは否めないが、各所に示唆に富む考察や見解が示されていて、今でも読み応えのある本だと思う。
本書には、第二版準備の草稿について弟子のR.W.デイヴィスによる解説、カーによる自叙伝が付されていて、大変参考になる。
新書版と比べていないので明確には分からないが、元々講演であったからか、だいぶくだけた語り口調の翻訳という印象。そのためか、内容はかなり難しいことを言っているのだが、その割に読みやすい。
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言わずと知れた歴史学概論の古典の新訳。
大学で歴史学を学んでいた頃に自主ゼミで旧訳版を輪読した記憶が甦った。やはり名著である。新訳である本書は、連続講義の感じがよく再現されていて、確かに旧訳より読みやすく感じた。追加されている自叙伝などの資料も本文理解に有益だった。
歴史学の研究は事実至上主義でも解釈至上主義でも駄目で、「歴史とは、歴史家とその事実のあいだの相互作用の絶え間ないプロセスであり、現在と過去のあいだの終わりのない対話」であることを再認識した。
ただ、学生当時に旧訳を読んだときにはあまり感じなかったが、今読んでみると、歴史における個人の役割、偶然性の評価、進歩についての考え方など、あまり納得感のない部分も結構あった。
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ロシア革命が起きるまで、マルクスの名を聞いたこともなかったというエピソードには驚くが、外交官レベルの知識人であっても、その程度の認知度だったということなのだろうか。
本書は新書版の新訳に加え、約20年後に改定しようとした第2版の草稿の研究と自叙伝が掲載されているのだが、興味深いのはカーとマルクス主義との関係である。自叙伝の最後では「マルクス主義的ではあるが、マルクス主義者ではない」という微妙で曖昧な言い方で締めくくっているが、それなりに傾倒はしていたように思える。基本的にはユートピア的で楽観主義者の印象を受けるのだが、まさか死後10年も経たずにソ連が崩壊するなんて夢にも思っていなかっただろう。
尚、訳については好みの問題ではあるが、概して新訳というのは読みやすくなっている反面、やや軽いというか格調性に欠ける部分があるので、所謂「読み応え」という点においては劣るのかもしれない。
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過去の名著(1960年の講義録・清水幾多郎訳)が新しい装いで再出版。1982年にカーが執筆していた序文だけが新しいというが、昨年・清水訳を読んだ時と比べても訳が新しいからか、内容は全く新鮮に感じた。カーがロシア革命、そして中国共産革命に深く関心を寄せていたことが、60年を経てその時代の空気を感じ、正に歴史学はその時代による特徴があると納得しつつ読んだような次第。いくつかの真理。「歴史家には数少ない意味ある事実を発見し歴史的事実に変える、そして数多い無意味な事実を非歴史的事実として捨てるという2重の課題がある」は全く同感!有名な「歴史は過去の対話」という言葉も前後の文章とともに、立体的に深い意味が飲み込めたように感じる。歴史家は閲兵台のVIPではなく、とぼとぼ歩いている冴えない一人にすぎないという表現は笑ってしまうが、実はこの著書は正にそのことを格調高く、詩的な表現で書いた本なのだと心から思う。
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歴史学の意義やあり方を著した古典名作の新版。装丁が白赤のシンプルだけどスタイリッシュでまずそこが好き。
1961年が初版で幾度と版を重ね読み継がれている。内容は現在読んでも決して色あせないし、愛聴しているコテンラジオにも通ずる信念を感じた。
第一講はこの本のもっとも有名な歴史とは「歴史家とその字事実の間の相互作用」、「現在と過去の間の対話」という主張が語られる。史料フィティシズム、史料の物神崇拝、もう一方の歴史家の解釈主義のどちらに偏るでもない、相互作用的な歴史感というのが肝要である。
第二講は歴史家は独立した存在ではなく、当時の環境や社会情勢、思想に影響を受けるもの、社会的な存在で時代の産物であると論ずる。さらに考察の対象である事象もまた社会的であり、現在‐過去を相互的に知覚され理解されるというスタンスを打ち出す。
続く三-六講とまとめようと思ったけど断念。
歴史における属人的な帰結、偶然の産物を考慮に入れるか?これに対しては、あくまで共通する一般的でメタ的なものを抽出することがより重要である。イギリスや欧米に重きを置く歴史観への疑問を投げかけている部分は、現在より注目度が上がってきている視点だと思いし、この指摘はこの時代には先進的で先見の明あり、鋭いなーと。
全体的にウィットに富んだ堅苦しくない語り口で、翻訳も狙っている部分に(笑)と記載することで、軽妙な感じをばっちり表現されてくる。歴史を学ぶ意義、ただの知識ではなく現在の生活や自分の行動へと結びつくエッセンスを抽象化して築いていくことにあるのだと少し理解が深まったかな。
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歴史は書く人によって変わる。事実とは?この本。昔の岩波新書とは異なるのかな、難しいなぁ。著者と同じレベルに達っしていないと話についていけぬ
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新版ということで価格が3倍以上になっていた。岩波新書でもよかったように思われるが、解説と新訳と大判の代金である。文字が大きくなっても現在の技術で新書とした方が、学生は読むと思われる。さらに電子出版で10円でもいいのではないか。アマゾンがとりすぎである。
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岩波新書版は恥ずかしながら読んだことがなかったのだが新訳で読みやすくなったとの触れ込みで早速購入。歴史好きの人にとって、歴史との向き合い方を考える入門書として好適。丁寧な注釈で、背景の理解が深まる。
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ちょっと自分には難しすぎました。
なかなか理解できない内容が多く
ハードルの高い本でした。
EHカーの歴史とは何かを読めたというだけで
内容的には理解したとはいいがたい状況です。
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毎日新聞202272掲載 評者: 加藤陽子(東京大学大学院教授,日本近代史)
読売新聞2022710掲載 評者: 苅部直(東京大学教授,アジア政治思想史)
東京新聞20221015掲載 評者: 栗原裕一郎(評論家)
朝日新聞20221112 評者: 小田中直樹(東北大学大学院経済学研究科教授,仏社会経済史)
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『歴史とは過去と現代との絶え間ない対話である』これはカー氏の有名な言葉である。20世紀初頭のヨーロッパを生きた歴史学者。各講義を丹念に読んだつもりだがどれだけ頭に入ったかは自信はない。現代に生きる人間の一人として今のパンデミックやロシアのウクライナ侵攻を果たしてどう向き合っていったらいいのか?過去といかに向き合いながら未来を予測したらいいのか…。カー氏だったらどんな講義をしたか。そんなことを考えながら読んでみた。とりあえず現在の世界に顕在化している事実を書き出しこの100年をまた振り返ってみたい。
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超有名な歴史哲学の本として前々から読みたかったので、読めて満足
歴史哲学ど素人なので、文中で挙げられる研究者たちをほとんど知らず、読みづらいところもあったが、作者のメッセージはわかりやすく、歴史学初心者でも面白く読めた