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現代の中国の原型はいつできたのか
2020/09/29 09:27
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投稿者:ぴんさん - この投稿者のレビュー一覧を見る
面白さ、質の良さ、分かりやすさ、と三拍子揃った本。大陸の歴史の内実をコンパクトかつ骨太に叙述した傑作。中華人民共和国のいわく言い難い変さは、結構清朝時代に胚胎していることがよくわかる。漢民族対異民族、という枠組みで語られがちな中国史を、中華・江南・草原・海域という枠組みで語ろうとする試みは、とくに大元ウルスまでが成功しているように思われる。さまざまな勢力が角逐する17世紀。清朝の「盛世」から、多元共存がほころぶ18世紀。西洋と日本の衝撃に揺れる19世紀。混迷のなかから「中国」が姿を現す20世紀、そして現代へ。シリーズ完結。
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「中国」を構造的に把握・解説
2020/09/19 18:59
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投稿者:K2 - この投稿者のレビュー一覧を見る
清朝から現代までのおよそ400年の「中国」史を構造的に把握して解説。多元を無理して一元化することなく、共存させることで安定した統治を実現したのが清という王朝であり、欧米や日本からの外圧が契機となって、「多元共存」から一元化が目指され、近代に「中国」が形成されるに至ったとのこと。現代「中国」の背景を理解するための最適な一冊と思う。
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シリーズ中国の近現代史とつながった
2020/07/19 10:13
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ニッキー - この投稿者のレビュー一覧を見る
既発売のシリーズ中国の近現代にとつながりました。最後の清朝は、近現代との橋渡しをした時代です。日本との近代的な関係も出てきます。近代的な関係とは、帝国主義的関係です。本書は、中国清朝の歴史を謹厳だへのつながりも含めてコンパクトに凝縮したものです。
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清国の力量とは
2022/04/17 17:01
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投稿者:トリコ - この投稿者のレビュー一覧を見る
岩波新書のシリーズ「中国の歴史」の最終巻。
現代まで描く、という編成だが、もっぱら清朝の歴史。
岩波新書には、このシリーズとは別に、中国近現代史がある。
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岩波新書のシリーズ中国の歴史全5巻の完結編は、岡本隆司氏の「「中国」の形成 現代への展望」。扱われるのは、清代を中心に現代まで。
16世紀から18世紀までの時代は最近流行のグローバル・ヒストリーでいう「大分岐」の時代に当たるが、著者はグローバル・ヒストリー学説に対しては、「アジアを端から異質で、落伍していた存在とみていた従前とちがって、確かに新しい。西欧中心史観の非を悟りはじめた西洋人なりの反省なのだろう」と一定の評価(?)を与えつつ、しかし、「経済指標に目を奪われるあまり、社会構成・統治体制のあり方に対する洞察に乏しいことがあげられよう」(pp.viii〜ix)と述べる。
17世紀幕開けに混沌としたカオス状態であった東アジア世界が18世紀になるとすべて清朝に合流、しかし、そこに朝貢体制や華夷秩序を当てはめても治まるものではものではなかった(それをやろうとして失敗したのが明)。本書では多元的なアジア世界を清朝がどのように秩序立てようとしたのかを「因俗而治」という概念で捉える。それをイメージで示しているのが、45ページの図11である。
さて明末清初の社会を批判した学者に黄宗羲や顧炎武がいる。顧炎武は官僚制の硬直化・矮小化を指摘し、「盛世には小官が多く、衰世には大官が多い」と批判した。実地に庶民・社会と接して行政にあたるのがここで言われている「小官」である。官吏の不正・非違を監察する「大官」ばかりが増えている世の中は「衰世」なのだ(p.58)。
清朝ははたしてどうだったのか。「第三章 二 経済」「三 社会」と清朝の経済社会発展(乾隆帝時代は緩やかなインフレで経済は大発展を遂げる)の様子が描写される。しかし「四 分岐」で「私法・民法・商法の領域・民間の社会経済に、権力が介入できたかどうか。西は是であり、東は非だった。そこに『分岐』の核心がある」(p.99)と著者は断じている。「世界史上、そうした制度(*ヒックスのいうような公権力・国家による「規則」)を創出できたのは、イギリスのいわゆる「財政=軍事国家」であり、私見ではイギリス・西欧にしか、そうしたシステムは発祥、ひいては発達、完成することがかなわなかった」(p.98)なのである。
本書はこうして「大分岐」の核心を、中国の統治原理・社会構造の歴史的変遷から見事に喝破している。第四章の「近代」、そして現在の習近平体制まで筆が及ぶ第五章「中国」、「おわりに」まではそうした中国社会の基本原理が貫徹している。
「歴史をたどれば、そんな「一体」の「中華民族」は存在したことがない。かつて存在しなかったものをもとにもどす、回復させることはありえないから、「復興」もやはり現実ではない、「夢」だということになる」(p.192)。
※巻末主要参考文献の最後で著者は「人文学とりわけ歴史学は、新しい研究成果ほどよい、依拠するに足る、というわけではない」と述べつつ、「東アジアに関わるグローバル・ヒストリーに代表される英語圏の所説は、その典型といってもよい」とトドメを刺している。
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清朝による分割統治と瓦解、割拠の中夥しい数の革命が巻き起こる混乱を経て現代中国にたどり着く過程がダイナミックに表現されている。
秩序から混沌へ向かう要因は様々あり、教科書にある「アヘン戦争」「辛亥革命」など単一の事象で全てが一変したわけではないということがよくわかる。
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シリーズ最終巻。
明清交代を経て、以降清朝は最大の版図を獲得し、中華民国を経て、現在の中華人民共和国へと繋がっていく。
中国の度々の王朝交代を見てきたから、明清交代もそういうものかと思ってきたが、著者は言う、明清交代は、よく考えてみれば、奇蹟ともいえる。明朝は、当時の東アジアで圧倒的な大国であり、人口を比較しただけでも、清朝は1億人の明朝の1%にも満たないし、経済・文化は明朝が凌駕していた。明末の政権、組織がよほど疲弊、頽廃していたわけで、李自成等流賊を鎮圧できなかったのも、その現れである。(確かに!)
明朝の衰退は、明朝の取った朝貢一元体制が、北虜南倭に示される多元勢力との相剋を解消できなかったことにあり、その解消が清朝の歴史的役割だったとする。
本書は、個々の事件史的記述は最少に留め、藩部に対する統治の基本姿勢「因俗而治」、交易についての互市、商品や貨幣の流通、官民、中間団体等社会構成の仕組み、等についてコンパクトな説明をしてくれており、清朝体制の基本的仕組みが非常に分かりやすく整理されている。
そして、アヘン戦争に代表される西洋列強の進出に対する反作用として、「領土主権」の考え方が出てきて、新疆、モンゴル、チベットへの支配を強化する動きとなった。その後、清朝時代は倒れるが、民国、人民共和国を経て、正に現代史の問題となっている訳である。
現代に繋がるアクチュアルな問題を考えさせられる、歴史を学ぶ醍醐味を味わえる一冊である。
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清の時代を中心に多元共存のシステムから「中国」としての一体化をめざす現代までを描いている。
多元共存の国家の方が理想的に思えるけど、それがダメで清は潰えたわけだし。国の力を高めるには一体化なんだろうけど、今の中国の外交政策をみてると何だかなぁ。
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紀元前から現在までの中国の通史のシリーズ「中国の歴史」第5巻(最終巻)。最終巻は、清朝の始まりから現在までの通史が書かれているが、通史のため教科書的に事実を中心に解説されているため、それぞれの内容は薄い。残念ながら、岡田英弘氏や宮脇淳子氏の著作ほど興味がわかなかった。
「自らを「支那人」、自国を「支那」と呼んだ。China/Chineを漢字に置き換えた語であり、西洋人・日本人が当然と考える国民国家を含意する。だから当時の「支那」とは、まったく差別用語ではない。清新なニュアンスをもった新語・外来語であった」p161
「「社会主義市場経済」とは、依然として「社会主義」を信奉する共産党が、政治を一手に独裁的にひきうけ、民間が「市場経済」を取り入れて経済を立て直してゆく、という趣旨である」p186
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清朝から現代へ。「清朝なかりせば、東アジアの多元勢力をとりまとめ、平和と反映をもたらす事業はかなわなかった。」しかし、清朝滅亡後、中国の一体化に向かって突き進むが、「一つの中国」は実現せず、多元共存にも程遠い。今の中国は混迷の只中にあることがよくわかる。
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「中国」を知るために「歴史」を紐解くシリーズの最終巻。明末清初から現代までが対象。僥倖により明の継承者となった清は自己の非力さを実感しており、「因俗而治」により多元的な世界を統治した。そうした統合の成功と限界が指摘されている。官と民の乖離、諸民族・地域等々、多元的世界は現在まで一元化は果たされないままで「一つの中国」は「夢」だという。そのほか貯水池モデルによる経済構造の解説、湘軍・淮軍と叛乱勢力は国につくかつかないかの違いでしかなく同根とする指摘も印象に残った。簡略に過ぎる点は他書で補う必要があるだろう。
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ほんとに、面白かった。中央と地方、漢人とそれ以外、いろいろな対立が日本に比べて大きくて、ため息が出る。大元ウルスが大日本帝国1941の地図なんだろうなあ。だとすると一衣帯水は本気で言ってるんだな。ようやく一衣帯水が少しわかった気がする。
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p105の図が衝撃的。私たちが「国家」というと、近代の国民国家を想定してしまうが、清が達成した盛世はそれとは全く違った社会であることがわかる。未だに、明が直面した課題に中国は格闘し続けているのだなぁと掴むことが出来た。清の「成功」は、「因俗而治」で、緩く統合することに成功し、平和を達成したこと。そこには、西洋から大量の銀の流入がインフレをもたらし、空前の繁栄をもたらした。
p89「分岐」は、世界史としての問いを浮き彫りにしてくれた。現代にも通じる移民の問題。そして、なぜイギリスが「財政=軍事国家」として、資本主義を発達させることができ、同時期、同じように発達できる条件を備えていた清が、そうならなかったのか?そこには、ガバナンスの違い。信用を育む社会的な制度が無かったからではないか?の指摘には唸った。
清は、民間委託をしたウルトラチープガバメントだのくだりには、小泉政権の民営化路線で、日本も同じことをやっているな~と「歴史は繰り返す」と思ってしまった。
琉球処分が清に与えたインパクトの大きさで、従来の緩い連帯から、国民国家としての強いガバナンスへと転じたのくだりには、想像の共同体の変容を感じた。
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叙述のクセが強い。。。読みにくくはないから別にいいのだけれども。なんで清代以降を一冊で済ませるのかなと思っていたが、中国近現代史はこれより前にシリーズにしていたのですね。
5巻すべてを読んでみたなかでは、第2巻の『江南の発展』が通史的に中国の社会構造を分析していて面白かった。本巻でも似たような感じで社会構造、経済が語られるけれど清朝史の枠から大きく外に出ていない印象。
バラバラの幣制もあたかも明清に独特のものような雰囲気で書かれているけれど、当時は国家単位できっちり統一された幣制の国なんかまだなかったのでは。スペイン銀貨が色んな所に流通していたイメージ。そんな細かいところが気になった。
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ようやく五冊目終わり。「大分岐」でなぜアジアがヨーロッパに遅れをとったように見えるのかに興味がある。思っていたより中国は多元で、それを一元化しようとしているのが今の中国なのだと理解した。