紙の本
美しいホラー
2020/03/21 16:57
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投稿者:スカイブルー - この投稿者のレビュー一覧を見る
幼稚園だった家に住み続ける私の住む世界は、産院がどういう場所であったかも忘れてしまうほどの大人社会だ。誕生という概念が欠落している。
そのためか、死んだ我が子の遺品に慰められて生きる生活に、生き甲斐を見出す人々で溢れている。
ガラスケースに収められた子どもの遺品は物の扱いではなく、死を受け入れられない親たちにより、子どもが生き続けているかのように大切に扱われている。
私の住む世界の淡々とした日常に慣れていくせいか、読んでいると、だんだんとその世界の異常さに違和感を感じなくなり、安心感を抱いてしまいそうになる。でも、それが危うい。
人々は、ガラスケースの世界にだけ視野を奪われている。私の元に、管理に訪れる人々は、天の采配なのか、鉢合わせることさえない。遺品が主役の音楽会も【一人一人の音楽会】である。人と人との交流が希薄だ。
小さな頃の私は、残酷物語の少女の奇形を面白半分で眺めていたが、それは、小説内現在にあたる未来での私自身を含めた人々の生活を暗示していたようだ。背筋が凍るようなホラーである。
そのせいだろうか。病院患者の手紙を通してバリトンさんと私との間に育まれていく愛だけが、新しく生み出されていくものであり、とても神聖で尊い感情に思えるのだ。
紙の本
美しい小説なのだが
2020/01/20 08:21
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投稿者:コアラ - この投稿者のレビュー一覧を見る
美しい小説だ。著者の透明感溢れる文章は「博士の愛した数式」でも感じた。美しい世界を描いているのだが,読んでいて感じる違和感をぬぐえない。 昔Nevil ShuteのOn the Beachを読んだときにも同じような感覚に襲われた。ひょっとして著者は日本が滅ぶことを期待しているのではないかとも思ってしまった。
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「一人一人の音楽会」
2019/11/12 21:52
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投稿者:6EQUJ5 - この投稿者のレビュー一覧を見る
小川洋子さんらしい、繊細で密やかでちょっぴり奇妙な、長編小説。小川さんの作品も好きで良く読んでいますが、本作は何故か「のれない」感じでした。あくまで個人的な感覚です。
新作が出たら、またきっと読みます。
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時は流れても、癒えることのない深い悲しみ。
小箱に寄り添い、慈しみ、音を奏でる。
無限ではなく有限の、その儚さが満たされた喪失感に逃げ出したくなる。
ただ、誰かを思う気持ちの深さは底知れず、忘れないことが一縷の望みのように縋る気持ちが、とても切ない。
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部外者の私が書くのはもしかしたら不謹慎というか無神経かもしれないし、的外れかもしれないけれど、読みながら「3.11」の津波で大勢の子供さんが亡くなった大川小のことが思い浮かんだ。
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小川洋子の最新作。
ひっそりしとした静かな長編。ある程度長さはあるのだが、何か大切な掌編を読んだような気がする。初期のあれこれの短編を思い出した。
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小川さんの作品はいつも映画ガープの世界を思い出す。
今回も不思議な世界ではあったがもっと色の無い世界を思い描いた。
幼稚園で生活する主人公。
しばらく読んでゆくと多くの子供が死んでしまった世界だということがわかる。
死んだ子供を忘れたくない人たちがおのおの小箱をつくり、楽器を作る。
ここでは何も新しいものが生まれないのだろうか。
建物もくちているて園庭は荒れている。
なにがあったのは語られず、最後まで明かされることもなく淡々と続く。
悲しく寂しいお話だった。
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大規模な自然災害のあとを思わせるような、子供たちを失った世界。爆破される産院。
子を失った親たちは、ガラスの小箱におもちゃやお菓子を入れ、成長し続ける子供の魂に語りかける。
また、子供の遺髪や乳歯、骨を使って作った小さな小さな楽器を耳たぶにつけ、丘の上の音楽会で丘の上に吹く風に揺らす。
設定も、詳細も最後まで一切語られない。
美しくも優しい細かい描写と正直ちょい怖い描写が混在。
大切な人を亡くし、それでもなお死者の魂に寄り添い生きようとする人びとの想いを、悲壮感なく不思議な世界観で描いている。なかなか難解~。
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小川洋子さんの小説は不思議、不自然なものが普通だが、今回もまた。
バリトンさん 歌いながら話すひと。普通なら不自然だがみんな受け入れている。恋人は遠い土地で入院している。
バリトンさんの恋人 バリトンさんにものすごく小さな字で、しかも何重にも重なっている読むのが困難なラブレターを書いて送る。
主人公 バリトンさんの恋人のレターを読めるように書き直す。元幼稚園で暮らす。
クリーニング店の奥さん 幼稚園に鉄棒をしにくる。どうやってそんな低い鉄棒で大車輪をするのかは想像に任せる。
一人一人の音楽会 耳たぶに小さな竪琴などの楽器をつけ、風が吹くと鳴る。当然小さな音である。自分しか聞こえない。
歯科医 歯科医院をしているが、竪琴を彫っている。工作教室も開いている。
元美容師 歯科医が彫った竪琴に死んだ子供の毛を弦がわりにつける。
元幼稚園には、ガラスの箱がたくさんあり、亡くした子供の思い出や誕生日などのプレゼントを入れている。
不思議な世界。哀しみ。
小川洋子さんによく見られる小さいものたち。
そして、エロチックな雰囲気。
バリトンさんと恋人が着るお互いの指紋模様のセーターに包まれ撫でられるところとか、主人公が訳す?レターの唾液のしみとか。
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小箱 小川洋子 朝日新聞出版
2019 10/30 初版
2019 11/3 読了
愚かと健気は良く似ている
怯えるように生きて祈る想いが
このガラスの小箱の中でのみ輝いて未来に繋がっていると信じてる以上
その証になるんだろうなぁ…
忘れないということと
諦めるということ。
どちらがより人として正しい行為なのか?
親が子を思う気持ちのなんと健気で
なんと愚かなことであろう…
世界中の親子が幸せでありますように。
こんな繊細で健気な小説をぼくは知らない。
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それだけで読む前に満足してしまうほど、銅版画風の表紙とマーブル模様の裏表紙がとても美しい装丁。内容はいつもの小川洋子で、悼む心が美しく描かれている。タイトルにあるように”小さい”がポイントだと思う。たとえば制服やランドセルをミニチュア化するサービスは実在するし、思い出を”小さく”残すことは人の心を慰めるのだろう。
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+++
死んだ子どもたちの魂は、小箱の中で成長している。死者が運んでくれる幸せ。
世の淵で、冥福を祈る「おくりびと」を静謐に愛おしく描く傑作。
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元幼稚園の園舎に住む主人公は、死んだ子供たちの未来を入れたガラスの小箱の管理人でもある。産院は爆破され、新しい子どもはもう生まれては来ない。子どもを失った親は、その未来を小箱の中に思い描いて祈るのである。元歯科医が削り出す竪琴に、元美容師によって遺髪の弦が張られ、耳飾りとして音楽を奏でる。誰もが思いを込めたやり方で、それぞれの祈りを祈っている。とても静かで濃やかで、この上なく穏やかな心持にさせられはするのだが、その実、奥底では胸をかきむしりたくなるような何かに掻き立てられ、居ても立ってもいられなくなりそうでもある。心を鎮めながら、狂おしく苛んでいる、そんな印象の一冊である。
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人々の小箱に寄せる想いが、唯々美しかった。
そして、どことなく残酷でもあり…
その美しさと残酷さの世界観は、まさに小川洋子ワールドだ。
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ありえない世界。でも、少しだけ現実。
マグリットの絵の世界のような…夜かと思って視点をあげたら青空が広がってた、みたいな。
あるいは、コーネルの箱の中、なのかもしれない。いろんなもののコラージュ。
そんな不思議をおもしろいと思えるか、ついていかれるか。
文章で描いた現代アート。
私は大好きだ。
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小川さんの作品の魅力は、優しく不思議な世界観なのだけど、この作品は感情移入しにくかった。
いつもは現実の中に見えてくるファンタジーな部分を楽しむのだけれど、今回はそれがあまり見えなかったのと、死を扱ったことが要因かもしれない。