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私は介護者「D」ランクなのだろうか──東京で派遣社員として働く30歳の琴美。父親の体調のため札幌へ戻ることを決意したが、慣れない父子生活、同級生との差異に戸惑う。現代的な問題を軸に描く著者の新境地。
親の介護、自分にはまだまだ先のことだと思っているけれど、いつ琴美と同じ状況になるか分からない。
日々の介護にうんざりする気持ちも、介護施設に任せる罪悪感も、分かる気がする。そんな中でも、アイドルの推し活という気晴らしがあることで、琴美は毎日を乗り切っている。周りからどう思われようが自分の大事なものをしっかり持っていられる強さが、琴美にはある。
いずれ迎えるであろう未来を、少し早く予習しているような、そんな気分で読み終えた。綺麗事だけではなく、シビアな現実が描かれているけれど、希望の見えるラストで良かった。
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脳卒中の後遺症で左足に麻痺が残った父親のため北海道の実家に戻った琴美。母親は5年前に他界している。出来の良い妹は海外在住で、自分が面倒を見るしかないという状況に追い込まれた琴美の唯一の楽しみは「アルティメットパレット」というアイドルグループ。推しは“ゆな”だ。機会があれば東京のライブに足を運んでいたが、コロナ禍がすべてを変えてしまう。
介護と“推し活”という、まったく合致しない組み合わせの妙に唸った。悪化こそすれ、良くなることは決してない介護という闇に、“推し”がもたらす光は本当に救いだと思う。
NetGalleyにて読了。
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もし自分が琴美のような境遇だったら。
読んでいる間ずっと考えていた。
親のみではなく,親のペットまで介護することになるとは。自分の先行きも分からないのに。
今は目をそらしているけれど,いつかは直面することになるかもしれない介護問題は,私の解決できないテーマの一つでもある。
琴美には妹がいるが,海外在住で口出ししてくるだけ。
琴美自身は契約社員だったが,コロナウィルスの影響もあり,仕事を辞めている。
この不安定な状況の中で,唯一琴美の心を癒してくれるアイドルの存在が,この物語に光を与えている。
人は辛い状況でも心に支えがあれば,何とかやっていけるのだろうか。
琴美が言いたいことを言えずにストレスをため込んでおり,いつ爆発するのか不安だったものの,ついに彼女が家族にキレることはなかった。
凄いと思う。
私なら嫌味の一つでも言ってしまいそうだ。
ただ,一つだけ琴美にも譲れないことがあって,友人の何気ない一言に我慢ならなくなったときがあり,なぜかそこで「琴美もっと怒れ!」と後押しする気持ちになった。
思うように行かなくても,人間が相手なんだから当たり前。しかも親という存在は,他人より扱いが難しいときがある。
介護者Dなんていない。皆介護者Aだと思う。
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2021/09/28予約 7
初読み作家さん。★4.5。
アルティメットパレットのアイドル・ゆなの推し活が生きがいになっている、琴美。
母亡き後も札幌で一人暮らしを続けてきた父親から「雪かきに来てくれないか」とのメールがくる。
雪かきにかこつけて、帰ってきてほしいと素直に口に出せない父親。
学校の教師をやめ、塾を経営していた父親。
生真面目で几帳面で融通が利かない、ええかっこしい。
脳血栓で倒れ介護の必要な状態になりつつある…
さらに飼い犬のトトが認知症を発祥してしまう。
昔からAランクである妹の美紅は、サンフランシスコでシングルマザーで仕事も生活もうまく行っている。それに比べ琴美は、昔から親にDランクだと言われてきた…
親から子どもの、ランク付けされることほど辛いことはない。ランクが下だった子どものことを考えたことがあるのか…自分は今も乗り越えられない。いつも自分を卑下してしまう考え方の癖がついてしまっている。何年も心療内科でカウンセリングを受けたが、しつこく根を張る、卑下する癖は抜けなかった。
介護をしなければいけない、と派遣でコールセンター勤務する。理不尽なことばかり言われるコールセンターの様子までよくわかる。
いくつかのエピソードが自分とリンクするため、一気に読んだ。
最後はうまくいくところに、なんとか収まる。
ちょっとありえないけど、まあいいかというサプライズ付き。
介護ショップで、
店員の言葉は穏やかだ。介護を担当する人間に寄り添い、気を遣い、言葉を選んで接してくれている。
寄り添いすぎた人なのだ。
当事者を多く知っているからこそ、対応の仕方にそつがない。
ただその分、話していると否応なしに自分が直面しているのは数多ある『よくある』現場のひとつだと突き付けられた気がしてくるのだ。……嫌だ。ひねくれている。琴美は努めて頬の筋肉を動かし、笑顔を作った。この店員さんには何の落ち度もないのに、自分は勝手に卑屈になっている
ものすごく共感する。
先の介護ショップでの在宅介護する人達が集う場に初参加して、
ふっと、気が楽になった。そうか、いい意味で、これは他人同士の集まりなのだ。
苦労の度合いや不幸せを比較できるほど親身な集まりではない、と琴美は思い、たどたどしく自身の状況を言葉にすると、控えめで温かな拍手が自然と起こった。
琴美はがちがちに力を入れていた肩をすとんと落とす。
別に愚痴を吐き出せた訳ではない。
問題を軽くするような情報を得られた訳でもない。
それでも、琴美は自分の気道が広がって少し息がしやすくなった気がした。
この場所が必要とされているのだろう。介護も看病も、病気なら当事者の会も。私も、誰にも否定されない場所で伝えたい。
おすすめの本。
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30歳で未婚、東京の派遣社員を辞めて父の介護のため札幌の実家に戻った琴美。
雪かき要員として戻ったが、愛犬の散歩や病院の送り迎えに毎日の家事で日々は過ぎていく。
唯一の救いは、アイドル「ゆな」だったが、ライブへ行くことも叶わず閉鎖的な環境に埋もれて過ごすことに膿んでいた。
元塾経営者だった父の真面目さや頑ななところや世間体を気にするところ。
なによりも出来の良い妹との差別を感じていた。
アメリカ留学後に結婚、出産、離婚をして今も息子を育てながら仕事をして海外で暮らしている妹。
帰省した折の父や妹の行動や態度にもやもやとした感情が膨らむが、結局大きな反撃に出ることもなくまた日常がくる。
愛犬の誤飲から認知症がわかり、その世話に明け暮れる中、父も何かしら感じるものがあったようで。
静かに緩やかにだが、今のは違う未来が見えたようだ。
けっしてキツい介護をしているというわけではなく、まだ自分のことはしっかりできる父との生活。
好き勝手はできないし、家事全般に愛犬の世話や病院の送り迎えはある。
だが、先は見えなく楽しめる空間じゃないのはよくわかる。これがいつまで続くのか…とか唯一の楽しみである推し活ができないというジレンマ。
その普通にできないことのたくさんを書いているのだが、多分こういう介護生活は多いと思った。
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「介護」と「推し」。大事件は起こらないのですが、主人公の心の動きや鬱屈に共感しました。最後は清々しい気持ちになり、良かったです。
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介護と推し活
意外な組み合わせがうまく最後にまとまっていた。
はじめて読む作家さんだったけれど、心理描写がうまくてするする読めた。
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通して面白くはあったが、前半があまりにも盛り上がりがなく、きつかった。
介護の現実と推し活がテーマだろうが、今となっては目新しさも、あまり無く。。
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最後まで主人公に寄り添えなかった。
妹と比べて卑屈になったり、出来が良かった同級生にも、父親に対しても屈折した思いがある。そのくせ言いたいことも飲み込んで、心の中で他人を断罪する。
30歳で親の介護は大変なのは理解するけど、誰に対しても否定的で、自分だけが大変みたいな自己弁護と歪み切った内面を読み続けるのは苦痛以外の何物でもない。
作者の新境地らしいけど、この手の作品を書く作家は他にもたくさんいるから、河﨑さんにはいつもの路線で書いて欲しい。
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30代にして親の介護を引き受けることになった琴美。頑固な父、遠くから口だけ出す妹、認知症になった飼い犬の世話、推しについて理解しあえない友だち。言いたいことも言えず、我慢を重ねるその姿はまさに閉塞感に押し込められているよう。その中でアイドル『ゆな』はどれだけ琴美を癒しただろう。推しがあるって幸せなことなんだなー。重たくて、でもこれがなかなかリアルで目が離せない一冊でした。
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前半、というか読み始めて半分以上は、はっきり自分の思いを伝えられずにいる琴美にイラつく思いでいたが、施設への入所を決断した父と、解散コンサートで、きっちり琴美を認識してくれた「ゆな」の姿に涙が止まらなくなった。
「推し」の存在と価値の重さは当人にしかわからないけれど、人が生きていくうえで、とてもとても大きな力になることだけは、私も認識している。
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主人公の琴美をはじめこの家族、なんだか自分勝手で好きにはなれなかったのに、読後はまぁどこにでもいる普通のいい人、いい家族だったのだ。
しかし、介護するには設定が少し若すぎる気もするし、金銭的にも余裕があり悲壮感はなく・・・タイトルだけでは推し量れない、これからの時代の家族の物語なのかもしれない。
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12月の最初に読んだ本は、大好きな河﨑秋子さんの新作「介護者D](2022.9)です。東京で勤務している琴美30歳が、札幌の父、左足が不自由な猿渡義純66歳から「雪かきを頼む」と言われ、実家に帰って父と犬の介護をしてゆく物語。琴美の支えは東京で出会ったアイドルグループの斎藤ゆな13歳を推すこと。河﨑秋子さんにしては少し物足りない気もしましたが・・・。テーマを広く、作風を変えてらっしゃるのかなと思いました。父親の二人の娘に対する依怙贔屓にはうんざりでした。この物語のテーマは「介護」と「推し」でしょうか?!
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いままでの作風とだいぶ違うような気がするけれど、道新のコラムをちょこちょこ読んでいる印象に近いなぁと感じました。テーマも主人公の思考も意外。こんなふうに、よくある日常・よくありそうな話を書いても、読ませる文章でした。
2022/11/16読了
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介護してもらう父とする娘。心削られながらも、父親だけでなく、痴呆ワンコの世話まで。「善意ばかりが集まっても物事良い方向に進むとは限らない」現実…。どうしようもないボケ権威親父。最後に人が変わるのは、都合良すぎ。ト書きのホンネが面白いけど、それでは会話成立しないか…。「推し」のような支え必要だね、荒波乗り越えるには、が結論⁈