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犬の力 下 (角川文庫)
熾烈を極める麻薬戦争。もはや正義は存在せず、怨念と年月だけが積み重なる。叔父の権力が弱まる中でバレーラ兄弟は麻薬カルテルの頂点へと危険な階段を上がり、カランもその一役を担...
犬の力 下 (角川文庫)
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商品説明
熾烈を極める麻薬戦争。もはや正義は存在せず、怨念と年月だけが積み重なる。叔父の権力が弱まる中でバレーラ兄弟は麻薬カルテルの頂点へと危険な階段を上がり、カランもその一役を担う。アート・ケラーはアダン・バレーラの愛人となったノーラと接触。バレーラ兄弟との因縁に終止符を打つチャンスをうかがう。血塗られた抗争の果てに微笑むのは誰か—。稀代の物語作家ウィンズロウ、面目躍如の傑作長編。【「BOOK」データベースの商品解説】
【日本冒険小説協会大賞(第28回)】【翻訳ミステリー大賞(第1回)】【「TRC MARC」の商品解説】
血みどろの麻薬戦争に巻き込まれた、DEAの捜査官、ドラッグの密売人、コールガール、殺し屋、そして司祭。戦火は南米のジャングルからカリフォルニアとメキシコの国境へと達し、地獄絵図を描く。【商品解説】
著者紹介
ドン・ウィンズロウ
- 略歴
- NY出身。現在はコネチカットとカリフォルニアに在住。NY、ロンドン、アムステルダム他で探偵として働いた経歴も持つ。
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しかし読み始めたら一気読み
2018/05/15 03:06
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:かしこん - この投稿者のレビュー一覧を見る
1975年から2004年にかけての麻薬戦争の構造を、膨大な登場人物たちを描くことでタペストリーにしたもの。
DEAの特別捜査官アート・ケラー、のちのカルテルの主となるバレーラ一統、メキシコでいちばんの人望を持つ司教のフアン・パラーダなどなど、いい意味でもそうでない意味でもキャラの立った登場人物ばかり。人物の内面描写は必要最小限、むしろ削ぎ落すだけ削ぎ落しているのに「この人、誰だっけ」ってならないすごさ。彼らの言動だけで、彼らがどういう人なのか読み取れる。
個人を深く描かないのは、内容がそりゃーもうえげつないから。
人物によっては感情移入させすぎないように、もしくは嫌悪感を持たれすぎないようにか、そのバランスを保ちながら<麻薬戦争の怒涛の三十年>をフルスロットルで駆け抜ける。
たくさん、人が死ぬ。こちらの倫理基準を軽く飛び越えるやりかたで。けれど目をそらすことはできない。最後のページまで、手を止めることも。
この世に絶対的な正義などないとわかっている。 それでも、残酷すぎる光景を前にして無力感に満たされる。
アート・ケラーのように。
けれどすべてをあきらめて引退などできず、自分のキャリア・人生をかけてでも戦い抜く覚悟をする。そこにあるのは個人的な真実だが、それがあるだけで読者は救われる。
物語ではあるものの、現実のラテンアメリカをめぐる麻薬犯罪の歴史をあらかたなぞっているらしい。アメリカ側の政治家などは実名が出てきたが、メインキャラにはモデルがいるのかもしれない。
あぁ、これを先に読んでいたら映画『ボーダーライン』や『悪の法則』ももっとよくわかったかもしれないのに!(でもそのおかげか、映像と文章の違いか、残虐描写に特にダメージは受けず)
それにしても、ドン・ウィンズロウと東江さんの相性のよさをしみじみ感じた。
読み始めたら100ページあっという間で(上巻574ページ・下巻473ページ)。先に進めば進むほど、読むスピードはアップして(まぁそれはよくあることなんだけど)、いつも以上の加速度つき。精神的にも疲労するけど、頭の中のどこかは麻痺したままで。
でも遅れて読んだ利点もあって。
「もしかして、この三人の関係性が転じて、『野蛮なやつら』につながったのでは?」と勝手に感じてみたり、アートのキャラをマイルドにしたのが『失踪』の主人公では?、とか。そう思うことで、現実から逃避してる。
現実の麻薬戦争は今も泥沼だ。
だからせめて物語の中ぐらいは、少しはいいことがあってほしい。
・・・はぁ。
『カルテル』に入るには、また少し時間が必要みたい。
『ダ・フォース』に入るのはいつのことやら(買ってあるけど)。
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このミステリーがすごい!2010年版 海外編 第1位
2010/03/29 21:46
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:yukkiebeer - この投稿者のレビュー一覧を見る
1970年代から90年代に至る中南米およびアメリカ合衆国を舞台にした麻薬戦争を描くサスペンス巨編。上巻が574頁、下巻が467頁あり、あわせて1000頁を超える大部の書です。
主だった登場人物は、
米国麻薬取締局の特別捜査官アート・ケラー。
メキシコの新興麻薬組織を率いるバレーラ一家。
高級娼婦となった美貌の高校生ノーラ。
苦悩する司教フアン。
NYの貧しいチンピラ、カラン。
ヒスパニックからイタリア系、アイルランド系など様々な国や民族の出自を抱えた痛ましい男女が、おのおの閉塞感を抱えながら物語を生きて行きます。
中南米の70~90年代はアメリカの反共政策に翻弄された時代です。
この小説にはサンディニスタやイラン・コントラ、解放の神学、メデリン・カルテルなど私が学生時代に報道で幾度も目や耳にした実在の組織や事件の名前が現れ、またオリバー・ノース中佐がモデルとみられるクレイグ大佐(469頁)なる人物が登場するなど、懐かしい歴史をその現場で実際に生きてみる感覚が私にはあります。
そうした史実を背景にしながら入り組んだ虚構の物語を組み立て、スピードとスリルあふれるストーリーが展開されていきます。
激しい暴力と陰謀、人間の欲望と正義への希求。そして麻薬戦争の背後にうごめく超大国の政治の闇と企業の思惑。
反共の名のもとに、恣意的な政治決定や企業活動が多く行われ、おびただしい量の血が流れた史実が仮借なき筆致で描かれていきます。
登場人物の多面的な描き方にも引きつけられます。
バレーラ家のアダンが、難病の娘を抱える父、妻を愛する夫であるかたわら、組織の要として対立勢力との激しい抗争にあけくれる姿が奇妙に心に残りますし、民衆救済を実践する司教フアンが、娼婦ノーラと特異な友愛関係を結んでいく姿もこれまた強く印象に残ります。
アメリカ大陸の麻薬戦争は今日なお終わりが見えぬ状況にあり、本書が描くDEA特別捜査官アート・ケラーと麻薬王アダン・バレーラの対決のような事態は今も続いているのでしょう。そのことに思いをはせると、なんとも痛ましい読書になりました。
*原文に登場するスペイン語を訳者は、日本語の訳語にカタ仮名ルビで原音表記しています。残念ながら幾つか表記に誤りがあります。「でくの坊=ヒホ・デ・プタ」は「イホ・デ・プータ」、「不可触=イントカブル」は「イントカーブレ」、「古狐=ツオツロ・ビエーホ」は「ソロ・ビエーホ」とするのが原音に近いといえます。
*162頁の「ミッキー・D」は、「マクドナルド」の俗称ですが、この俗称を使うよりは素直に「マクドナルド」と書いたほうが日本の読者には親切だったのではないでしょうか。