紙の本
人気も才能も桁外れの竹本綾之助
2010/08/05 12:36
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投稿者:紗螺 - この投稿者のレビュー一覧を見る
女義太夫、初代竹本綾之助。『一世を風靡した』という表現がまさにふさわしい、人気実力ともに有名な明治時代の太夫。とにかくすごい才能の持ち主で、小さい頃からその声で大人をうならせ、芸人にはならないはずがついには日本中に知れ渡る太夫になってしまう。大阪で生まれ育ち、東京に移り住んで太夫となってから突然の引退をするまでを、この作品は疾風怒濤のごとき勢いで書いている。彼女の語りを聞こうとする聴衆の熱狂ぶり(ドウスル連もその一部)が伝わってくる書き方には息詰まる迫力があり、さすがだった。綾之助を本格的に女義太夫の世界に入れ、何かと世話をした近久、女義太夫界の面々、様々な層のご贔屓、そして誰よりも近い場所にあった母親お勝など、登場人物も多彩かつ個性に富んでいておもしろい。川上音二郎やチャリネを配し、時代を活写しているのもいい。ただ、そういった事物の描写がすぐれる分、綾之助の内面描写がやや少ないように感じた。そもそもこの作品は綾之助が引退するまでで、彼女が返り咲きすることを書いていない。竹本綾之助とえいば、私などは「ものすごい人気だった」こと、「引退してから戻ってきた」ことを思い浮かべる。ただただ語るのが気持ちよく、声を張り上げていた少女時代とちがい、返り咲きをするには様々な葛藤があっただろう、それを著者の筆で読んでみたかった…という気もするのだが、この小説の観点はそこにはなかったということだろうか。
観点といえばこの本のテーマの一つは、母親お勝と綾之助が歩んできた人生にあるだろう。芸人になることに反対しながら、娘の横で三味線を弾き、娘を支え続けた母。初めて沢山の観客を目の前に語ることになった時、内心怯む綾之助に「嫌やったら、止めてもええのやで」という場面は母親の姿として印象的だ。時に横やりを入れ、時に過保護すぎるほどに保護し、けれど深いところでは綾之助を理解するお勝は、ある意味綾之助以上に鮮やかに描かれている。特に後半、綾之助が引退すると口にした時にお勝が綾之助を叱りつける場面は素晴らしい。「あんたがおらんようになったら、一座の者は皆どないして喰うていきますのや」と叱り、「男にしろ女子にしろ、好きな道で生きよと思ても、なかなかそうはでけんのが浮世の義理や」と諭すその言葉には心がこもっている。芸人になっても芸人を否定するお勝の口から出たせりふだからこそ、感動的である。このせりふを受けた綾之助の『引退』そのものに対する心の揺れがあまり描かれず、赤子ができてなし崩し的に引退してしまうのは惜しい。
以上、物足りないと感じる部分をあげつらってしまったが、総合的に見れば読み応えがあり、躍動感のある作品だった。
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浄瑠璃が男性の世界であった頃、娘がその世界で注目を集め、アイドルの先駆けになったいう・・・実在の人物がモデルの作品。
「吉原手引草」の松井今朝子著ということで、期待して読み始める。前半の天才少女登場はテンポがいい。その娘義大夫の成功後の恋、親との関わり、仲間や周囲の人間とのやりとりがサラリと描かれていて勿体無い気がする。私も期待値が大きすぎたか、普通の伝記ものに収まってはいないか?
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あるひとりの女の子があれよあれよとスター街道まっしぐら、芸に悩み、恋に悩み、古い時代の物語ですが今に通じるものがあると思いました。
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女義太夫士、初代竹本綾之助の伝記といえばいいかしら。装丁がかわいかったからなんの予備知識もなく借りちゃった。だいたい浄瑠璃というものは人形浄瑠璃をいちど見たことがあるくらいで、ほぼ知らない世界なんだなぁ。こんな方がいたんだね。アイドルだね今でいう。ほんと日本人形みたいなお顔立ち。だいたい女流義太夫というものってどんなかしらとYOUTUBEみてみたら竹本越孝さんとか、ほか竹本一門というのはいまも続いているみたいだね。いやあすごいねーかなりの長さと難しい節の上下をともなう謡を子どものころから無本で覚えたなんて天才だったんだろうね。歌うのではなく心で語る、私なんぞにはこの域の粋はとんとわかりはしないけれども、芸の才を持って生まれ、芸に生き、でも芸で終わる人生でなくちゃんと恋もして母にもなって、また返り咲いたなんて、ほんと、この時代にひとりしか存在できなかったくらいの輝きと運に恵まれた女性だったんだろうね。もっと女流義太夫とか世に知れてもいいとおもうなあ。こういうの、朝ドラとかでやればいいのに。日本独自の芸、大事にしなくては。
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実在の女性の伝記的な物語。
本名は藤田園。
未亡人の叔母・お勝に引き取られ、芸を仕込まれるうちに、義太夫にだけ幼い頃から才能を示すようになる。
利発な少女がさわやか。
「人間生きてて何一つ無駄なことはあらへん」というのがお勝の口癖。
義太夫は本来は男性がやるもので、男の子の格好で練習していたが、ちょうど当時、東京では女義太夫が流行り始めていた。
試しに東京に出てみたところ、親戚の家に滞在して、近所の人に聞かせることから始まって、評判が高まる。
興業界に顔の利く近藤久次郎の紹介で、一度だけならという話で浅草文楽座へ。次は、新橋亭へと進んでいく。
口うるさいお勝は芸人になったら地獄だと何度か反対するが、熱意にほだされる。
才能を見込む人らの後押しで、かなり順調に娘義太夫のスター・綾之助となる。
男の子なら幼くとも何々太夫と名乗るので、綾之助でも女の子なのはすぐわかるのだそう。
一筋に進む芸の道。
ドウスル連と言われる学生のファンがつき、時には出待ちでもみ合いの騒動になる。
興業のやり方を巡って、因習に反旗を翻した娘義太夫は結局は干され、ドサ周りのような巡業先で、あえなく病で命を落としたと聞いて驚くことに。
狭い世界しか知らず、奥手なまま、ストーカーのようなファンや、でっちあげの報道に悩まされる。
恋を知らない表現に限界も出てくるが、やがてはお似合いの相手をつかむ強さ。
アメリカに渡った彼・石井健太をひそかに待ち続け、ついに引退を決意するが…?
面白かったです!
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松井流の筋立てに感心して引き込まれました。
なんてわくわくする本でしょうか。
これが小説の醍醐味ですね
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その少女の声に、姿に、日本が夢中になった
元祖アイドル+元祖追っかけ!
竹本綾之助の華やかな疾走とその突然の終焉。
明治20年、東京に突如あらわれるや初舞台からメインを食うほどの喝采で迎えられ、瞬く間にスターとなった竹本綾之助。馬車鉄道に錦絵が貼られ、同じ日に二軒の寄席でトリを務め、書生たちが「どうする連」と呼ばれる追っかけと化し……なにもかもが、前代未聞の大騒動!まさに元祖アイドルというべき社会現象を引きおこす。
人気に惑わされず一途に芸の道を生きる綾之助とステージママとしてその活躍を支え続けたお勝との二人三脚の日々は、しかし、唐突な終わりを迎え――。
実在した日本最初のアイドルとファンとの波乱の日々を描く熱気あふれる書き下ろし長編小説。 明治を駆け抜けたスーパースターを描く極上のエンタテインメントです。
「竹本綾之助はそんじょそこらの芸人じゃねえ。天からの授かりもんだ」
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今朝子さんの「芸人」モノ。
実在の娘義太夫「竹本綾乃助」の一代記。
むろん、その美声やその容姿に出逢ったことはないのに、
読み進めていく内にその高座を見聞きしているような感覚に何度も遭わされるの。
その筆力が、うれしい。
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中公新書で以前読んだ「女義太夫」についてを思い出す。
小説としてぐいぐい読ませるのだけれど、
正直、あまり……
どうも私はこの作家をこのまないのかもしれない。
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●明治のスーパーアイドル☆竹本綾之助ちゃんの半生記!
子供の頃からざんぎり頭で男の子とみまがわれたが、ひとたび義太夫を歌い出したら聴くものすべてが皆とりこ! そんな彼女の才能を周りがほっとくはずもなく、義理の母は凄腕ステージママと化し、ついに大阪から東京へ! 男の芸事とされてきた義太夫に圧倒的な才能で立ち向かう綾之助を待ち受ける運命とははたして!!?(※やや事実と異なる表現があります。) ・・・・・みたいな?
●女義太夫が書生にバカ受けした話自体は、明治物の地の文みたいなところで読んだりした覚えがないではないが、真正面から女義太夫を扱った小説は初めてなので、ほう、娘義太夫の人気ってこんなだったのかー、と面白く読みました。(←松井今朝子作品だし資料調べとその反映は確かと踏んだ。嘘は土台が肝心。)
翻訳が出たら、フランス人の感想が聞きたいものよのう。
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元祖アイドル+元祖追っかけ!
女義太夫・竹本綾之助(実在人物です)の人気を極める過程、
そして見事なひきぎわ・・・。
作者御本人も往年のアイドル・キャンディーズをイメージされた
と、ブログで知り、今も昔も、何かに恋焦がれる熱気のような
ものは変わらないのだなぁ・・・と、ちょっと嬉しくなった。
気づけば頂点を極めていたアイドルの、苦悩と戸惑い、
それを囲む人々の苦労など、人と人とのかかわりも
暖かく、楽しめた。
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家、家にあらずのノリで読んでみたら、時代も違うしノンフィクション。主人公の性格が好きになれないなと思ってたんですが、ノンフィクションだと後から気づき、それならそんなもんかなあと。
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「円朝の女」に続いて、同時代の娘義太夫のスターを描いた本書。義太夫がどんなものかほとんど知らないし、もちろん聞いたこともないが、そういうことがまったく差し障りにならないのが、うまいお話には共通している。臨場感たっぷりの語りに満足満足。
「芸人」の生き方には、なんというか人間のエキスが濃縮して詰まっているようで、それを扱ったお話は面白いものが多いと思う。主人公綾乃助はじめ、周囲の人々がみんな実に人間くさい。綾乃助の「母」お勝、五厘(手配師のような感じか)の近久の二人が特に喰えないキャラで味わい深い。
前からちょっと思っていたけれど、この人の作品にはオトコ社会への憤りを感じる。それでいて、妙な正義感とか潔癖な感じがないのがとてもいい。
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まさに元祖会いに行けるアイドル!劇場には多くの追っかけが詰めかけ、ステージ(寄席)を湧かせ、マスコミ(新聞社)に追われた明治時代の女義太夫、・竹本綾之助の半生を書いたお話。
ステージママ兼マネージャーの母とともに、己を律して芸を極めるために精進する一方で、恋愛に戸惑ったり遠距離になったり、仕事を選ぶか家庭を選ぶか(結婚=引退の時代なので)で悩んだりと、妙に現代風なところがよかった一作。
博識な文体とかわいい表紙とのギャップがいい。
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何の予備知識もなく読んだが面白かった。
今も昔もアイドルが祭り上げられる構造は似てるんだな。所属事務所との確執やら度を過ぎたファンの行動やらステージママの存在やら。そんな中で凛として自分を失わない綾之助は美しい。実在の人物についての物語というのがまた、想像をかきたててくれる。