電子書籍
暁の宇品 陸軍船舶司令官たちのヒロシマ
著者 堀川 惠子
広島の軍港・宇品に置かれた、陸軍船舶司令部。船員や工員、軍属を含め30万人に及ぶ巨大な部隊で、1000隻以上の大型輸送船を有し、兵隊を戦地へ運ぶだけでなく、補給と兵站を一...
暁の宇品 陸軍船舶司令官たちのヒロシマ
ワンステップ購入とは ワンステップ購入とは
暁の宇品 陸軍船舶司令官たちのヒロシマ
商品説明
広島の軍港・宇品に置かれた、陸軍船舶司令部。
船員や工員、軍属を含め30万人に及ぶ巨大な部隊で、1000隻以上の大型輸送船を有し、兵隊を戦地へ運ぶだけでなく、補給と兵站を一手に担い、「暁部隊」の名前で親しまれた。
宇品港を多数の船舶が埋め尽くしただけでなく、司令部の周辺には兵器を生産する工場や倉庫が林立し、鉄道の線路が引かれて日々物資が行きかった。いわば、日本軍の心臓部だったのである。
日清戦争時、陸軍運輸通信部として小所帯で発足した組織は、戦線の拡大に伴い膨張に膨張を重ね、「船舶の神」と言われた名司令官によってさらに強化された。
とくに昭和7年の第一次上海事変では鮮やかな上陸作戦を成功させ、「近代上陸戦の嚆矢」として世界的に注目された。
しかし太平洋戦争開戦の1年半前、宇品を率いた「船舶の神」は志なかばで退役を余儀なくされる。
昭和16年、日本軍の真珠湾攻撃によって始まった太平洋戦争は、広大な太平洋から南アジアまでを戦域とする「補給の戦争」となった。
膨大な量の船舶を建造し、大量の兵士や物資を続々と戦線に送り込んだアメリカ軍に対し、日本の参謀本部では輸送や兵站を一段下に見る風潮があった。
その象徴となったのが、ソロモン諸島・ガダルカナルの戦いである。
アメリカ軍は大量の兵員、物資を島に送り込む一方、ガダルカナルに向かう日本の輸送船に狙いを定め、的確に沈めた。
対する日本軍は、兵器はおろか満足に糧秣さえ届けることができず、取り残された兵士は極端な餓えに苦しみ、ガダルカナルは餓える島=「餓島」となった。
そして、昭和20年8月6日。
悲劇に見舞われた広島の街で、いちはやく罹災者救助に奔走したのは、補給を任務とする宇品の暁部隊だった――。
軍都・広島の軍港・宇品の50年を、3人の司令官の生きざまを軸に描き出す、圧巻のスケールと人間ドラマ。
多数の名作ノンフィクションを発表してきた著者渾身の新たなる傑作。
目次
- 序章
- 第一章 「船舶の神」の手記
- 第二章 陸軍が船を持った
- 第三章 上陸戦に備えよ
- 第四章 七了口奇襲戦
- 第五章 国家の命運
- 第六章 不審火
- 第七章 「ナントカナル」の戦争計画
- 第八章 砂上の楼閣
- 第九章 船乗りたちの挽歌
あわせて読みたい本
前へ戻る
- 対象はありません
次に進む
この著者・アーティストの他の商品
前へ戻る
- 対象はありません
次に進む
小分け商品
前へ戻る
- 対象はありません
次に進む
この商品の他ラインナップ
前へ戻る
- 対象はありません
次に進む
紙の本
ロジスティックスの重要性
2021/09/19 22:23
7人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:第一楽章 - この投稿者のレビュー一覧を見る
「暁部隊」と呼ばれた広島県・宇品の陸軍船舶司令部に焦点を当てることで、太平洋戦争の知られざる歴史を明らかにした1冊。膨大な史料を紐解き、存命の関係者にインタビューをした大変な労作です。
海軍の非協力ゆえ、陸軍は自身で船舶輸送を行わねばならず、そのために設けられたのが陸軍船舶司令部です。その船舶輸送体制の近代化を担った田尻中将がこの本の物語の前半の主人公。船舶の近代化のための開発からそれを操る人材の育成まで、「船舶の神」と呼ばれたのも納得の田尻の活躍でしたが、日米開戦を目前にした昭和15年、いち軍人としての所掌を超えた意見具申を行います。データに基づき、輸送の合理化とそのための規制緩和などを各省に求めた意見具申は握りつぶされ、このために田尻は司令官の職を罷免されます。国家という大きな装置が誤った方向に進もうとしていることは、兵站と補給のプロフェッショナルである田尻には明らかであり、何とかそれを修正しようとする勇気と責任感ある決断だったのでしょうが、大きな歯車の動きは止められませんでした。
物語の後半は田尻が見越したような、ロジスティックスの崩壊とそれによって引き起こされた悲劇、地獄絵図です。国内で国民から供出された物資を運ぶ船もなければ、南方で得たガソリンや砂糖、米などの資源を日本に運ぶ船もなく港で腐らせる。ガダルカナル島への物資の輸送も民間から徴用した船と船員に担わせ、陸揚げから部隊への輸送も彼らに行わせる。丸腰の船員は、飢えた日本兵からも狙われることになります。そうした未来が見えていたのに耳を傾けてもらえなかった田尻や司令部の後輩たちの悔しさと無念は、いかばかりかと思います。「だから言ったじゃないですか」では済まない悲劇を引き起こした責任は、誰がどう負うべきなのか。
物語の最後は、昭和20年8月6日の船舶司令部の活動です。原子爆弾が投下されたこの日、宇品にあった船舶司令部は幸運にも大きな被害を免れます。その時、司令官だった佐伯が選んだ行動は、デルタ地帯である広島市の特徴を活かした、海そして川からの救助舞台の派遣と災害対応でした。筆者が当初「後年美化した記録を残したのでは?」と疑いを抱くほど論理的で的確な佐伯の対応でしたが、命令を発した電報の控えで裏付けられました。佐伯は関東大震災の際も陸軍の参謀として災害対応にあたった経験があり、それが存分に活かされていたようです。
筆者はあとがきで以下のように綴っています。
「万全の自衛策は練らなくてはならない。同時に私たちは過去にも学ばねばならない。狭窄的な軍事的視点でのみ正論を掲げ、全力を投じて闘っても、戦そのものには勝利することはできなかった。島国日本にとって船舶の重要性と脆弱性は、いくら強調してもし過ぎることのない永遠の課題である。その危うい現実を顧みることなく、国家の針路のかじ取りを誤るようなことは二度とあってはならない。」(P.381-382)
太平洋戦争の開戦から75年であり、当時を知る人はどんどん少なくなりますが、こうした本が世に出ることで、記憶のバトンがリレーされていくことを願います。
紙の本
必読書
2022/06/29 17:54
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:怪人 - この投稿者のレビュー一覧を見る
人類初の原子爆弾は、なぜ”ヒロシマ”に投下されなくてはならないのか、という疑問を解き明かすことから始まる。アメリカの原爆投下候補地を選定するための「目標検討委員会」により選ばれた理由に着目する。「重要な軍隊の乗船基地」があること。これは海軍の呉ではなく陸軍の宇品であった。宇品は日本陸軍最大の輸送基地だった。
明治27年、日清戦争を機に大本営が東京から広島へ移された。市内中心部の大本営から南4km離れた埋め立て地があり、宇品港があった。宇品は第2次世界大戦、日米戦争では陸軍運輸本部としてその兵站を指揮する本拠地だった。物語は個々に設置された陸軍運輸本部の明治、大正、昭和の歴史を紐解く。
戦前の日本の軍人、軍隊、組織等の実態を概観したうえで、戦時では裏方、後方支援部隊である兵站部隊だが、実はこれが勝負の鍵を握っている様子が克明に調べられ、描かれている。
取材ノートから、陸軍史を専門とする軍事研究家の話を載せている。
(戦前の日本が戦争に突き進んでいったことは)日露戦争の影響が大きかったと思う。日露は「勝った」のではなく、「負けなかった」戦だ。それを大勝利とぶちあげて酔ってしまってあらゆる判断が狂っていった。兵站を軽視するのも、小さな島国が資源不足で補いきれない部分を精神論で埋めていこうとする姿勢もあのころから酷くなる。実力を顧みず思い上がってしまった。それを正直に指摘しようとする者は組織からどんどん排除されていく。開戦に反対して首を切られたのはなにも田尻さんだけじゃない。
この田尻さんとは田尻昌次で元第一船舶輸送司令官兼運輸部長(宇品在駐)のことであり、本書の主人公となっている。
開戦時と終戦時、船舶輸送司令官だった佐伯文郎は広島が原爆攻撃を受けた直後から被災者の救援活動を迅速に開始する。これは関東大震災の時に東京の参謀本部に所属していて軍隊の地震被災救援復旧業務の経験がいかさたのではないかという。現在の自衛隊も災害時の救援復旧支援では国民の支持を受けている。
日本人の兵站軽視、精神論優先は軍人でなくとも今でも遺伝子として残っているようだ。災害の現場でも強く感じることが多い。本書が多くの日本人に読まれることを望みたい。
紙の本
宇品港
2021/11/07 19:55
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:奥津 明 - この投稿者のレビュー一覧を見る
新聞の書評欄に載っていたので目に留まりました。幼い頃広島で育った私が知っている歴史は、原爆以後のことです。この本でいえば、最後の章以降のことになりますが、それ以前の「陸軍の輸送基地・宇品港」時代のことはほとんど知りませんでした。
陸軍の船舶司令部というあまり知られていない部署のことに関する話を、よくここまで掘り起こしてまとめたものだと思いましたが、本の帯に、「陸軍兵士の海上輸送という・・・最も未解明の問題に光を当てた素晴らしい本だ。」との北岡氏の推薦文が付されていたので、専門家の目から見ても第一級の作品なのだなと改めて感じました。
紙の本
作者の熱意を感じた
2021/11/03 18:20
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:のりちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
島国日本における船舶事情をいい加減にしか考えられなかった軍上層部に憤りを感じずにはいられなかった。軍の作戦に参加させられた船員はさぞ無念だったと思う。
この本は、船舶部隊の歴史を丹念に追った作品として評価される名著だ。
紙の本
旧日本軍のロジ軽視が、新型コロナ対策における数多くの行政の不手際と重なる
2022/04/09 01:04
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Haserumio - この投稿者のレビュー一覧を見る
著者の取材力・筆力のおかげで一気読みの一書。かつての大東亜戦争の敗戦に至る経緯等を、船舶ロジスティックスと物資輸送(およびその司令塔たる陸軍船舶司令部の消長)の観点から、CTスキャンのように明快に解き明かし炙り出してくれた好著です。作中において設定された様々な記述軸(陸軍三廠(兵器支廠、糧秣支廠、被服支廠)を擁する広島に原爆が投下された理由、「船舶の神」田尻昌次および最後の司令官となった佐伯文三の行蔵、民間徴用船部隊の悲劇(第九章は涙なくして読めない)、南進論のバカバカしさ(156頁、193頁、196頁、203頁など)と手堅い構成が、その迫力を倍加しているように思います。
「広島で軍隊の乗船基地といえば、海軍の呉ではない。陸軍の宇品である。・・・ 広島が一度たりとも候補から外れなかった理由。それは広島の沖に、日本軍最大の輸送基地・宇品があったからである。」(7頁)
「日露は『勝った』のではなく『負けなかった』戦(いくさ)なんだ。それを大勝利とぶちあげて、酔ってしまって、あらゆる判断が狂っていった。」(186
頁、原剛氏の言葉)
(コタバル上陸作戦で)「淡路丸は・・・日本軍の輸送船被災第一号となった。敵軍が海軍の艦船には目もくれず輸送船ばかりを攻撃したことに気づいた者は、まだひとりもいなかった。」(234頁)
「大本営は二百万(分の一)の地図を5万分の一の地図ぐらいに思っている。(略)梯尺に対する感じ方がみんな狂いまして、非常に気宇壮大な命令が出ておるわけです。」(256頁、三岡健次郎元船舶参謀の言葉(「健」の字は行人偏であるが省略))
「元船舶参謀の松原茂生は戦後、ガ島戦をふりかえる中で、この典型的な強襲上陸作戦にもっとも適した舟艇母艦MTをなぜ投入しなかったのだろうかといぶかしんでいる。しかし、MTは二月のジャワ上陸作戦の最中に日本海軍の魚雷の誤射を受けて大破。サルベージもされず、このときはまだジャワ沖で横腹を海面に出していた。MTを巡る日本軍の失態はどこか示唆的である。」(256頁、MTはその後1945年1月に高雄沖で撃沈さる)
「実は日本海軍は何度か、現場付近でアメリカ軍の輸送船団を確認しているのだが、艦船ではないという理由から攻撃を見送っている。」(257頁)
「やがて日も暮れてガ島の黒い島影が視界に入ってくると、船団の側面を護衛していた駆逐艦がいっせいに反転。「武運長久を祈る」との信号を発しながら、唖然とする船員たちを置いて引き揚げていった。」(268頁)
「物資不足にあえぐ日本とは対照的に、昭南の港湾倉庫には油やゴム、スズ、砂糖などの物資が入りきらないほどギュウギュウに積まれていた。しかし、それを日本へと運ぶための船がないのである。・・・ 港全体を取り仕切っているはずの碇泊場司令部は各戦線への補給に追われていて、南方物資の環送業務など二の次で責任者も見当たらない。・・・ 日本へ入る荷も、日本から出る荷も、それを統制する組織が機能しなかった。占領地から本国へ安定的に物資を輸送するためには、切れ目のない「輸送のリレー」が必要である。」(286~9頁)
「大東亜戦の天王山はガダルカナルです。ガダルは戦さで負けたのではなくて、要するに手持ちの優秀船が、全部なくなっちゃったんです。高速輸送船団という戦略兵器が局地戦で潰されちゃったんです。そのあとの戦さというのは、掛け声だけですね。南海の離島への輸送で、兵站線は果てしなく広がる。その兵站線を誰が守ってくれるかというと、海軍は全然考えてくれない。」(308~9頁、嬉野通軌元船舶参謀の言葉)
まこと、多くの方々に読んで頂きたい傑作かと。
紙の本
不可視化されていた歴史に光を当てた労作
2023/09/11 18:41
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:BB - この投稿者のレビュー一覧を見る
広島県で生まれ育ち、これまでもさまざまなノンフィクションで評価されてきた筆者が、「人類初の原子爆弾は、なぜ”ヒロシマ”に投下されなくてはならなかったか」を突き詰めることから出発し、「軍都」広島にあった「重要な軍隊の乗船基地」について、長い時間をかけて、膨大な史料や聞き取りからひもといた労作。
陸軍船舶司令部の成り立ちから、軍隊の輸送を支えた司令官らの歩みをたどりながら、無謀な戦争に突き進んだ構造的問題も浮き彫りにしていく。
日清日露から太平洋戦争へ。そして原爆。それを戦後に広島市が「軍都の代償」として受け入れ「平和都市」として生まれ変わった歴史も、指摘している。
丹念な取材で、かなり硬質のノンフィクションながら、一気に読めてしまうのは筆者の筆力なのだろう。読み応えがある。
紙の本
気分が重くなるが読むべき本
2022/12/28 12:51
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ひろとこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
陸軍船舶司令官、と言う切り口から戦争の実態を見た本。本部が現場に無理難題を押し付けるあたり、働く者としてはどうしても組織論のように見てしまう。自分の戦力を考えない戦線拡大、兵站は考慮せず、弾の当たらないところにいるものが勇ましいことを繰り返す不条理…。善意の人を悼むだけではなく、こういうことは二度と御免だと忘れないために読むべき本。
紙の本
兵站・補給の視点から太平洋戦争を描くノンフィクション
2024/02/14 18:16
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:YK - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は日本陸軍の船舶司令部に属した3人の司令官が主人公です。「陸軍になぜ船舶司令部が?」と思われると思いますが、陸軍が海を渡って装備を輸送・揚陸(陸におろす事)するにあたり、海軍は非協力的でした。その原因は両軍のルーツが薩摩、長州の藩閥にあったためです。
そこで陸軍は自ら輸送用船舶を保有、運用するようになります。本書前半の主人公田尻昌次は輸送の重要性を認識していた数少ない軍人でした。船舶司令部発足当初は漁船や手漕ぎの木船を民間から徴用しますが、戦車や重砲など、装備の大型化を予見していた田尻は、大型高速の輸送船の必要性を早くから指摘しており、保有を推進しました。さらに、必要な時に、適切な順序で装備を輸送するための輸送計画、積み込み順序、など兵站の計画立案についても専門部署を立ち上げています。その成果は、日中戦争初期のスムーズな上陸作戦の成功という成果をもたらします。ところが、対米開戦の方針を耳にした田尻は、輸送・補給という観点からはとても戦線を維持できないと判断、軍上層部に自らの進退をかけて意見具申します。アメリカとの国力の差をリアルに指摘したその意見書は、軍上層部の不興を買い、田尻は対米開戦を待たずに軍を去ることになります。
対米開戦後は、田尻の薫陶を受けた司令官が当初は補給を維持しますが、田尻が去ったあとの軍内部では精神論、楽観論による補給軽視(輸送船の被害想定の過少評価、輸送船防御の軽視など)の姿勢から、田尻の予見通り満足な物資補給がままならず、戦線の崩壊に突き進みます。本書後半、ガダルカナル島での敗北以降の内容は、読んでいて「この状況を戦前に正確に予見していた人物を更迭し、その上でここまで現実を見ずに戦争を継続したのか」と再認識させられました。
本書に登場する陸軍船舶司令部は、広島県の宇品に設けられ、海軍の呉とそん色のない大規模な軍事港湾となっていたのですが、呉と比較すると知名度が低いのは”陸軍の”船舶関連部署という特殊な位置づけだったからとも思います。日陰に隠れていた、緒戦の陰の功労者である部署を詳細に取りあげた内容充実のノンフィクションでした。