紙の本
現在も生きている思想
2022/09/17 11:06
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投稿者:ニッキー - この投稿者のレビュー一覧を見る
アレンとは、ナチスからアメリカへ亡命したユダヤ人です。その彼女が、ナチスなどの全体主義やユダヤ人問題、ホロコーストを分析しています。彼女がユダヤ人だからという分析ではなく、客観的にその現在や未来への危険性を分析しています。アレントとその思想に関する書籍は結構出ていますが、本書はその最新のもので、とくに全体主義とユダヤ人に関する思想を中心にまとめられていて、分かりやすいです。
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現代社会という悪夢。
2024/01/30 23:34
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投稿者:ゲイリーゲイリー - この投稿者のレビュー一覧を見る
自分自身にさえ関心を持たないとされる人々。
外部のものに暴力が加えられるのを見ても良心の呵責を感じないのみならず、犯罪行為が運動の同志に向けられていても冷淡な態度をとるばかり。
それどころか、自身に暴力が向けられたとしても従順にその犠牲者へとなっていったと記されている。
SNSの普及は、そうした互いに無関係で無関心な人々を更に生み出してしまったのではないか。
また、自分自身の経験を信じることなく想像力のみを信じる、つまり虚構の世界を信じるという言説に関しても、現代社会の方がその色味が強いと感じた。
フェイクニュースが横行し、常に誰かが誰かを揶揄し炎上している今この瞬間を投影するなと言う方が難しいだろう。
しかしハンナ・アレントは悪夢だけを記したわけではない。
無関心と想像力が生み出した虚構の世界へと抵抗する、という一縷の希望も同時に記している。
悪夢の中に見えるかすかな希望を今後も語り継いでいく必要性を噛みしめながら本を閉じた。
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別の本も読んでみようと思いました
2023/06/23 09:42
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投稿者:とらとら - この投稿者のレビュー一覧を見る
入門という位置づけで読みましたが、ちょっとわかりにくいように感じました。アレントの考えと、筆者の解釈や説明とがつながっているような書き方で区別がつきにくいように思いました。全部が、筆者が考えるアレントの思想だ、ということかもしれませんが。筆者が言う「手すり」として、この本で少し進んだ理解をもとに、別の本もよんでみようと思いました。
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モブと凡庸な悪
2022/11/29 16:00
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投稿者:とめ - この投稿者のレビュー一覧を見る
ユダヤ人破滅に始まり人々の不信や不安を駆り立てるような代表としての指導者がテクノロジーを駆使している破壊運動としての全体主義が共通感覚を破壊し判断力を奪っている現象を危惧している。
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全体主義の芽は個人の心の中にある。独裁者を熱狂的に、あるいは冷淡に、姿勢は違えど支持するのは民衆。インターネットの普及でさらに個人がアトム化した現代にもこの警告は十分すぎるほど通じる。
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全体主義とアーレントの思想がコンパクトにまとまっている。100ページちょっとなので、スラスラ読めて入門書としても最適。
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ハンナアレントの思想がわかりやすい言葉で述べられている。稀有な人間の行為が、社会的全体を変える。一人一人が良心との対話で思考し、行動することの大切さを思わせる、
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積読になっていた、講談社現代新書の『ハンナ・アレント』をようやく読了。
全体主義的な様相を呈しつつある現代において、誰もが画一的な「行動(behavior)」をするのではなく、自らの意志に基づいて行い、他者との相互関係によってその結果が左右されるという意味で予測不能であるところの「行為(action)」をすることで、全体主義に抗うことができる。
そういった「行為」は、その時々で意味がわかるのではなく、後から振り返ってみることでようやく意味がわかる(解釈される)。だからこそ、正確に語り継がれなければならない。「行為」の記憶を、新たな可能性への希望とともに語り継いでいかなければならない。
……行為の伝承に関して感じたことは、
日本において総合診療(家庭医療)が、近年になってようやくその存在や意義を認識してもらえるようになってきた背景には、総合診療(家庭医療)を実践し、広げていこうとしてきた数々の先人たちの「行為」が語り継がれ、その意味を解釈し、そしてそれを踏まえて「行為」がこれまでに続けられてきたのだろうな、と。
僕たちも「行為」を続けて、記録し、それを語り継いでいかなければ。
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「100分de名著」ならぬ、「100頁でハンナ・アーレント」という挑戦的な一冊。
ハンナ・アーレントを100頁にまとめるというのは、なかなか難儀な挑戦だが、それでも「全体主義」というキーワードを中心に据えながら、できるだけ簡潔にまとめようという著者の意図は伺えた。またこの挑戦はある程度奏功しているように思われた。
ただ強いて言えば、展開される議論の全体における位置づけが不明瞭に感じられる所があったり、(これは著者の文体の癖かもしれないが)「〜ではない」といった否定語で議論を進めている箇所が散見され、これが読みにくくさせているように思われた。全体のマップを示しつつ、思い切って肯定文体で踏み込んでゆけば、全体がもう少し明瞭になったのではないか。
いま私たちの社会には、体に纏わりつくような湿っぽく生暖かく重い風がゆっくりと吹いている。「空気を読む」というときに使われる「空気」、まさにその均質で重い空気が社会に垂れ込め、私は窒息しそうな苦しさに悶える。ある人は「新しい戦前」と言ったが、全体主義的社会に傾くこの空気を打破する小さな小さな営みの一つとして、わたしはハンナ・アーレントを読み続けようと思う。難解な書物が多いけれど、少しずつ 少しずつ読み続けようと思っている。
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リテラシー、判断力は、受け売りや忖度、わがままで意見を表すものではなく、他者への思いやり、想像力を働かせてつくりあげていく。そこで過ちがあってもいい、その都度訂正していけばいいのであって、決して誤魔化したり逃げたりしてはいけない。全体主義は、一人ひとりの判断力が軽んじられ、瞬間の心地良さに安穏としてしまう先にある。常に私たちは考えよう。その日常が辛くても当事者性へのアプローチが大切であり、正しくないものへの寛容へと広げていく。千差万別の意見が飛び交う民主主義はひとつの答えが見つからなくてもその過程から気付くものがあればいい。そして自他共に修正を行っていく。そこに保身や体裁は不要である。このことを為政者の皆さんに諫言する。
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この本を読んでいて『朗読者』という小説を思い出した。登場人物の彼女も偶然「ハンナ」という名前。全体主義の恐怖は、気づいたときにはどうしようもなく、自分の意志では生きていけなくなること。言論も封じられ、人々の思考は画一的になる。権力も財力も名誉も何も持たない市井の人々が、意図せず巨悪に与して他人を縛っていくことは、うっすら現代でも感じられる。『朗読者』中の登場人物も全体主義の犠牲者だった。彼女は服役中に様々な知識を得て、その蔵書の中にハンナ・アレントのルポも含まれていた、という話だった。
過去の過ちを何年も繰り返し振り返り、文学や哲学で現代人に語り掛ける姿勢はドイツ人に学ぶべきだと思う。日本の政治家はよく記憶をなくすし、記録も残さないし、国民も忘れっぽい。私は大多数に流されず、細部に「こだわる人々」の声を聴くようにします。
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コンセプトがはっきりしており、分量も短くて読みやすかった。もちろん、あとがきにも書かれているように、ある思想の概要を可能な限りコンパクトにまとめるという作業は非常に困難だろうし、これだけを読んでわかったつもりになってはいけないのだろうとは思った。
全体主義について、何となくの言葉のイメージはもっているつもりでも、暴政や権威主義体制といった他の体制との違いや、全体主義の中にいる人はどのような状態になるか、等の新たな発見があった。一方で、共通の感覚が失われる、リアリティを信じられず、想像力、一貫した論理を信じる、といった、全体主義がもたらす状態は、少しだけでも理解できたようにも思うが、では、本当に人間がそうした状態に陥ってしまうのか、そこに至るプロセスをもっと詳しく知りたいようにも感じた。
また、全体主義への抵抗手段として「事実の真理」があり、ただそれを証明する段階で、結局のところ多数決等の脆弱性のある方法によらなければならないというのも、イメージがついたように思った。さらに、アレントは歴史学や人文系の学問にこそ価値を見出していたという。確かに、「事実」だけを告げられるのか、そこに(もちろん虚偽ではない)ある程度の物語性というか背景も含めた語られ方というか、そうったものが必要となるようにも思うが、そのような理解で良いのだろうか。
最初に書いたように本シリーズ「現代新書100」のコンセプトはわかりやすく、ぜひ読んで教養を深めたい、との気持ちにさせてくれる。一方、個人的には、「なぜその思想がいま必要とされるのか」の観点はなくても良く、その分もっとその思想そのもの等について紙面を割いてほしいとの感想をもった。
なぜなら、その思想に触れて、それを現代のあるいは現実の世界にどう還元していくかは、読み手の判断によるべきと考えた。また、それは言い換えれば、「今こそ読まれるべき」でなければ、見過ごされてよい思想があるという発想は、かえって危険ではないかと私は思った。もちろん、現代にどう応用できるかについても書かれていればもっとより理解できるとは、思うのだけれども。
さらに言えば、読書は、読まれる「べき」という視点ではなくて、読みたいものを読まなければいけないとも思う。
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ナチスについてのハンナ・アレントの考察が,不気味な程現在の日本に付合する…まるで『1984』の様なdystopiaと薄い膜一枚で辛うじて隔てられている様な,実はその膜は半透膜で,エッセンスは既に充分に流れ込んでしまってるんじゃないかと息苦しくなる様な内容だった.人間の完全な均質化は不可能,故にfascismの永遠の完全な勝利はあり得ない,と言う記述に希望はあれど,与えられた時間はないなぁ,と.
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「アレントを知らない人に、アレントのエッセンスを伝える」のが執筆方針らしいけど、煮詰めすぎというか濃すぎて苦しい。著者の選書は分かりやすかったけどねぇ。
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アーレントを100ページで紹介する入門書。
アーレントは屈折の多い思想家なので、100ページにまとめるのは無理だろうと思いつつ、読んでみたら、かなりいい線でまとまっていると思った。
もちろん、議論はかなりフォーカスされていて、「全体主義の起源」を中心に説明されている。あとは、それに関連するところとして、「人間の条件」がすこし、ポスト・トゥルースの時代に参照されることが多くなった「真理と政治」や「政治における嘘」に言及。そして「エルサレムのアイヒマン」を紹介という感じかな。
つまり、全体主義の歴史解釈とそれと比較的関連性の高いものにフォーカスされているということ。アーレントのコアな政治哲学的なところはあまり言及していないので、まとめることができたということかな?
とくに「権威主義体制」、「専制」と「全体主義」の違いをイメージ図で整理しているところが、秀逸。
アーレントの本はある程度読んでいるので、そこまで驚く話しはないのだが、面白かったのは、「共通感覚」や「判断」の話しが「政治」や「活動」との関係で語られるところ。
「判断」といえば、アーレントの書かれなかった「精神の生活」の第3部を思い起こさせる。「判断」が、「活動」で生まれる公的空間や政治、そしてそれを定着化させる政策、事実の真理などなどと関係づけられて議論されるところが頭の整理になった。
アーレントの入門書としては、わかりやすくてよいのではないかと思う。
ただ、前半の「全体主義の起源」関係の説明が、歴史的な事実の説明なのか、アーレントの解釈による説明なのか、著者の読解による説明なのか、あいまいな印象があった。基本、アーレントの説明についての著者の解釈なのだろうと思うが、もうすこし原著との関係を明示してほしかった。(これもやりすぎると読みにくくなるのだが。。。)