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商品説明
「あらすじ」の名人にして、自分の原稿は遅々としてすすまない作家の私。苔むす宿での奇妙な体験、盗作のニュースにこころ騒ぎ、子泣き相撲や小学校の運動会に出かけていって幼子たちの肢体に見入る…。とある女性作家の日記からこぼれ落ちる人間の営みの美しさと哀しさ。平凡な日常の記録だったはずなのに、途中から異世界の扉が開いて…。お待ちかね小川洋子ワールド。【「BOOK」データベースの商品解説】
原稿が進まない作家の「私」。苔むす宿の奇妙な体験、盗作のニュースに心騒ぎ、子泣き相撲に出かけていく…。夢か現か妄想か? 人間の営みの美しさと面白さを描く日記体長編小説。『すばる』連載を単行本化。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
小川 洋子
- 略歴
- 〈小川洋子〉1962年岡山県生まれ。早稲田大学第一文学部卒。「妊娠カレンダー」で芥川賞、「博士の愛した数式」で読売文学賞、本屋大賞、「ミーナの行進」で谷崎潤一郎賞を受賞。
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書店員レビュー
何気ない毎日の記録(...
ジュンク堂書店福岡店さん
何気ない毎日の記録(日記)が、小川洋子にかかると、こうなります。怪しく、静かで、哀しい世界が広がっています。文芸・山
紙の本
まるで作家の脳内に入り込んで、作家の見る夢を横から覗いているような小説
2010/12/16 00:13
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:yama-a - この投稿者のレビュー一覧を見る
連作短編である。いくつもの話が書かれているが主人公は同じであり、時系列的に繋がっている。それが「日記」と名付けられた所以である。ただし、日記と言っても毎日記されているのではない。冒頭の「九月のある日(金)」から始まって、その後ずっと同じパタンが続く。時々「次の日(○)」という短い後日談が挟まれる。
主人公は作家である。既に名をなした作家ではない。何かを物しようとしてまだろくに書けずにいるので、正確には作家の卵と言うべきなのかもしれない。では、彼女は何で生計を立てているかと言えば、「あらすじ」である。他人の書いた文章をあらすじにまとめたり、そのあらすじを他人に読んで聞かせたりするという、まことに不思議な生業である。そして、各章は必ず「(原稿零枚)」で締められる。今日もまた1枚も書けなかったということである。あまりに書けないので、役場の「生活改善課」の指導を受けていたりもする。1日だけ何枚か書けた日があったが、次の日、それは零枚になった。
さて、最初のエピソードは作家が長編小説の取材のために訪れたF温泉の苔料理専門店の話である。いきなりいつもの小川洋子ワールドなのだが、どこかしらいつもと違う。どこが違うかと言えば、話は中国の幻想譚風なのだが、はっきりと和風であるところである。
ここはどこだか判らない国ではなくはっきりと日本であり、いつだか分からない懐かしい時代ではなく明らかに現代なのである。しかし、それでいて茫としている。まるで「あらすじ」のように、細かい部分が欠けているようでもあり、逆に非常に密度が濃いようにも思える。
その後も、この作家らしい名人芸的なエピソードが続く。小学校の運動会あらし、自分が盗作してしまった作家が実は存在しない、トランペットを演奏する生活改善課のRさん、子泣き相撲、等々。
解釈するのは楽しい。いろんな解釈が可能だろう。そして、著者は多分どの解釈をも妨げないだろう。そんな中で僕は、著者が「暗唱クラブ」の章で、暗唱の秘訣としてこう書いているところに目が止まった。
「根気強くやっているうちに次第に印刷された文章たちは、動きを持って立ち上がってくるようになる。平面から空間へと勝手に移動をはじめる。
例えば一つ一つの言葉が鳥のように羽ばたき、集まり、やがては隊列を組んで空を突き進んでゆく。こうなればあとはもう鳥たちの帰巣本能に従うだけで、物語の行くべき場所へたどり着ける」(183ページ)
これは暗唱するコツを陳述していると見せかけて、実は作家が物語を紡ぎ出す風景を描写しているのではないだろうか?
まるで作家の脳内に入り込んで、作家の見る夢を横から覗いているような気がする。
実はあまり解釈せずに、流れに任せてこの小川ワールドにどっぷり浸かってしまうのが良いのかもしれない。きっとそのほうが楽しくて、結果として想像が膨らむのではないだろうか。
いつも通り余韻は長く続く。
by yama-a 賢い言葉のWeb
紙の本
かなりアブナイ内容です。誘惑に駆られますが、一歩間違ったらつかまってしまう、だからよい大人は絶対にマネしないように!
2011/05/10 20:49
3人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
出版ニュースを見て手配した本なので、手元に届いてビックリ。何故って、こんなところで大好きな小杉小二郎さんの絵に会えるなんて、思ってもいなかったからです。紙のもつ魅力(色、腰、手触り)、インキの匂い、重さ、スピンの色合い、帯のデザイン等など、やはり、電子ブックではこういう楽しみは味わえないんだろうなあ・・・、なんて思いながらカバーなどを愛でてしまいました。装画と装釘(〈装丁〉でも〈装幀〉でもない!)の担当は
装画:小杉小二郎
卓上の静物(カバー)
2005年 91.5×117.0cm
油彩・キャンバス
聖書物語 XXI 天使
1999年 13.3×11.8cm
オブジェ
装釘:水木奏
です。で、驚くのですが、この本、なんと目次が巻末に載っているんです。驚愕です。初出誌は、「すばる」で、2009年1月号~2010年4月号(全15回)とだけ記載されています。でもこれじゃあ、どの話が何号に載ったか特定できません。もっと詳しく載せても手間やコストはあまり変わらないのでは? こういうのを編集者の手抜き、というのではないでしょうか。
出版社のHPには内容について
*
ある作家の奇妙でいとしい日常。日記体小説
原稿が進まない作家の私。苔むす宿での奇妙な体験、盗作のニュースに心騒ぎ、子泣き相撲に出かけていく。ある作家の奇想天外な日々を通じ、人間の営みの美しさと面白さが浮かび上がる新境地長編。
*
とあります。たしかに不思議な面白さ、どこか不気味さを漂わせるユーモアが、いかにも小川だなあ、って思わせます。主人公は、作家、というかあらすじを紹介する人? で、運動会に誰かの家族のふりをして紛れ込んで、その競技をみたり、同じく誰かの家族のふりをして病院の産婦人科で生まれたての乳児を見たりすることを楽しんでいます。
目次をみているだけで、主人公のいる景色が眼前に浮かんできます。そのまま写しておきましょう。
九月のある日(金)長編小説取材のため宇宙線研究所を見学し、F温泉に泊まる。
次の日(土)朝刊で阪神の負けを知る。4対6。
十月のある日(火)子供時代に住んでいた家の思い出について、週刊誌の取材を受ける。
次の日(水)夕暮れ時、晩ご飯の支度をしながらローカルニュースを見る。
十月のある日(日)隣町のL小学校へ運動会の見学に行く。
次の日(月)雨。生半可ではない、情け容赦のない雨。
十一月のある日(木)夕刊に盗作のニュースを発見する。
十一月のある日(月)地下鉄に乗って母と百貨店へ行く。
次の日(火)病院に行く。西病棟222号室。母は眠っている。
十二月のある日(月)午前中、役場から生活改善課のRさんがやって来る。
十二月のある日(水)“素寒貧な心の会”より、入会を許可する、との通知書と会員バッジが届く。
一月のある日(火)公民館の事務室から電話があり、『あらすじ教室』の講師を頼まれる。
一月のある日(木)スカンクのピンバッジをつけて初めて外出する。
二月のある日(水)夜中、編集部からファックスが入る。
三月のある日(月)駅前から路線バスに乗り、健康スパランドへ行く。
次の日(火)アルバムを広げ、八歳の頃の写真を眺めてみる。
四月のある日(土)生活改善課のRさんと、作家のWさんと一緒に盆栽フェスティバルへ行く。
次の日(日)一日かけて本棚をひっくり返し、Wさんの小説を探す。
四月のある日(水)三年ぶりにU文学新人賞の受賞パーティに出席する。
四月のある日(月)市役所の生活改善課から封筒が届く。
五月のある日(日)前々からカレンダーに印をつけ、楽しみに待っていた子泣き相撲の日。
次の日(月)一日、三島由紀夫の『金閣寺』を読んで過ごす。
六月のある日(水)「暗唱クラブ創設者G先生を偲ぶ会のお知らせ」が届く。
七月のある日(日)飛行機と新幹線を乗り継ぎ、Tという名の遠い町へ行く。
八月のある日(金)母のところへ行く。
八月のある日(火)夜、眠れず、図鑑を書き写して過ごす。
どうでしょう、これだけでも何か浮かんできませんか?
主人公は「あらすじ」をまとめる名人、ところが肝心の創作のほうはとなると、これが全く駄目。なんだか他人の本を批評できても、自分のオリジナル作品は全く書けない書評家みたいな作家の私です。この私、結構、というかかなり怪しい女性で、読んでいる限りは老女みたいですが、ともかく色々なことに巻き込まれる、というか進んで自分で巻き込まれに行く。他人に間違われれば、これ幸いとなりすます。
子泣き相撲を楽しみにして、小学校の運動会にも関係者のふりをして入り込み、幼い子どもの様子に見入る・・・。読んで、思わず微笑み、私もやってみたいな、きっと胸がドキドキして耐えられなくなって逃げ出しちゃうかも、でもやっぱりこれってもしかして犯罪? 少なくても被害はなくてもルール違反だよね、ストーカーや詐欺師の一歩手前でギリギリ踏みとどまってる? なんて怖くなってしまう、そういうお話です。
いやはや、小川洋子、唯一無二・・・
紙の本
小川さんの真似をして「原稿零枚日記」を書いてみました。
2010/10/20 10:35
5人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:あまでうす - この投稿者のレビュー一覧を見る
10月のある日の昼下がりのこと(金)
ちょうど私が小川洋子さんの「原稿零枚日記」の132ページを開いて、天然記念物の桂チャボが20メートルくらいは泳ぐというくだりを読んでいるときだった。
ぎゃあ、ぐああ、がああという、いままでに聞いたこともないけたたましい物音がした。バサバサという翼が空を切る音に混じって、グアア、グアアという凄まじい叫び声もしている。本から眼を放して東の窓を見ると黒い影が2つ3つ移動していた。急いで南のガラス窓を見ると、まっ黒な鳥が何匹も何匹も押し寄せては急降下していく。まるで戦闘機のようだ。
急いで隣の居間から外の道路を見ると、大きなトビがひとまわり小さいカラスの下腹部を鋭い爪で両側から挟みこみ、全体重を傾けて抑え込んでいた。そして急を知ったカラスの友軍が大声で叫びながら、次から次に現場に殺到してくる。その数は見る見る増えて都合4,50羽はいただろうか。川っぷちの狭い舗装道路の真ん中で時ならぬ禽獣の戦いが繰り広げられていたのだ。
下敷きになった漆黒のカラスは死んだように身動き一つしない。私が窓を開けると、トビはカラスの胴体に加えようとしていた嘴の一撃を止め、すっと伸ばした首を左に振って、鋭い目で私を見た。大きな黒眼が濡れたように光った。
そこへ黒の集団が右翼から全速力で突っこんだ。トビは獲物をあきらめて飛び立とうとしたが、右の爪が肉から抜けないので必死でもがいていたが、ようやく離陸に成功したところへ、今度は左翼から10数羽のカラスが急襲する。私と息子が呆然と見上げる秋の空で1対50の壮絶な空中戦が始まり、米艦載爆撃機ヘルダイバーと戦艦大和の戦いを思わせるそれは、たちまちにして終わった。
多勢に無勢のトビは東のひよどり山の杉林に逃げ込み、勝ち誇った濡羽色のカラス集団は霊園の小高い丘に陣取ってぎゃあ、ぎゃあ、ぐああと下品な勝鬨をあげている。
道端に残された薄茶色の羽根をつまみながら、私は思った。
弱肉強食は世の習い。いずれ人類が滅びた暁には地球はカラスとゴキブリの天下だろう。しかし私は、徒党を組んで敵に向かうカラスよりも、孤立無援のトビを限りなく愛する。
トンビはタカを生む。けれどもカラスはカラスしか生めないのである。(原稿零枚)
○○ちゃんほどいい子はいないと言ってみる 茫洋
紙の本
「原稿零枚日記」日記のような小説のような
2010/12/18 23:48
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:soramove - この投稿者のレビュー一覧を見る
「これを小川洋子ワールドというのかもしれないが、
この本は日記もどきの小説、
奇妙な味わいはあるが
面白くはないな、この日記をヒントにした小説が
これから自分たちは楽しむことが出来るなら
その断片を予告編として記憶に止めておこう」
「あらすじ」の名人にして、
自分の原稿は遅々としてすすまない作家の私。
いちおう主人公は存在する、
彼女が体験したような現実と夢の
境界があいまいな体験と
その時たぶん書いたであろう原稿枚数がラストに書かれている。
新しい試みなんだろうけど
小説や短編小説の完成度は求むべくもないわけで
なんとなく、ホワッと面白いけど
結局一冊の完成した小説を読む楽しむは
得られなかった。
「猫を抱いて象と泳ぐ」← 過去記事に飛びます
この小説がかなり面白かったので
同じようなものを期待しすぎでした、
どこからこんな着想を得るのだろう?
そんなことも考えながら読んだ作品だったので
今回の作品は著者の創作ノートの一部と思えば
ここから生まれるであろう
かけがえのない作品に想いを馳せるのもいい。
「あらすじ」作家が寡作な有名作家の作品の
あらすじを本人の前で語るシーンなどは
映像では出来そうにない
自分の頭の中で映像を結ぶ楽しさが感じられたが、
それがすごく短い事が残念だった。
ということで次のちゃんとした小説を期待したい。
★100点満点で65点★
http://yaplog.jp/sora2001/