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紙の本
俠風むすめ (小学館文庫 国芳一門浮世絵草紙)
著者 河治 和香 (著)
前作「笹色の紅」が評論家に絶賛された新鋭が、鉄火肌の浮世絵師国芳と、脳天気な弟子たちの浮世模様を娘の女絵師登鯉の目から描いた、ほのぼのおかしくて、ちょっとせつない書き下ろ...
俠風むすめ (小学館文庫 国芳一門浮世絵草紙)
国芳一門浮世絵草紙1 侠風むすめ
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商品説明
前作「笹色の紅」が評論家に絶賛された新鋭が、鉄火肌の浮世絵師国芳と、脳天気な弟子たちの浮世模様を娘の女絵師登鯉の目から描いた、ほのぼのおかしくて、ちょっとせつない書き下ろしシリーズ第一作。国芳の娘登鯉は、刺青が大好きで博奕場にも平気で出入りするような“侠風”な美少女。一方で、天保の改革を鋭く諷刺した国芳は、とうとう北町奉行所に召喚されてしまう。【「BOOK」データベースの商品解説】
前作『笹色の紅』で評論家の絶賛を浴びた新鋭作家の、ほのぼのおかしくて、ちょっとせつない書き下ろしシリーズ第1作。 天保の改革で、贅沢なものが次々と禁止になるさなか、見事な戯画で大人気を博した歌川国芳。ついには国芳も奉行所に呼び出され、顔見知りらしかった遠山の金さんと全面対決へ。さて、その顛末はいかなることに!? 国芳と妙ちきりんな弟子たちとが織りなす浮世模様を、国芳の娘の絵師・登鯉の目から格調高く描く。【商品解説】
収録作品一覧
生首 | 4-43 | |
---|---|---|
紋紋 | 44-111 | |
お俠 | 112-162 |
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紙の本
侠風娘と天下一乃げん
2010/11/26 15:17
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:saihikarunogo - この投稿者のレビュー一覧を見る
夜明けの川をゆく船で、ひとりの娘と男とが会話を交わすところから始まる。まだ十五歳なのに、賭場に出入して、男に送って貰うなんて、この子、大丈夫なの?と思うが、大丈夫なのだ。賭場は、娘の父親の友人が、金持ちや身分の高い武家を相手に開いていて、来たときには、父親の弟子の、いい年をしたおとなと、同伴だった。つまり、彼女は、保護された自由を楽しんでいるのである。だから、彼女が、背中にすてきな彫り物があるという理由で憧れた、別の、父親の弟子に、頼み込んで寝て貰ったり、その後、振り向いてくれない彼を追い掛け回し、彼の妻をけなし、どうあっても思いをかなえられないと知ると、彫り物がみごとだという理由だけで他の男と寝たりしても、だいじょうぶなのだ。彼女のまわりには、いつも、父親の弟子や友人がいて、目を配っていてくれるから。何をやっているんだよ、あほなことするな、おまえが悪い男にひっかかったり病気をうつされたりしないのは、ただに恵まれた環境で運が良かっただけだよ!と、私は思ったが。
彼女の父親は、浮世絵というのは浮世をそっくり絵にしたものだ、筆を握っているだけでは描けない、つまずいたり、みっともないことをしたりして、痛い思いをしないと、人を許すことができない、相手を思いやれるようにならない、と言う。
うん、そうだね。
彼女と同じ年頃の友達は、いやいや売春させられて入水自殺を図ったり、それほどいやがらずにあっけらかんと売春しても、性病に感染してつらい思いをしたり、している。彼女も、友達のために、泣いたり、怒ったりする。
そうして、ついにある日、彼女は、正真正銘の恋をするのだ。相手は、父親の贔屓の彫師の乃げん。「天下一乃げん」の千社札を投げ張りする、かっこいい男で、彼女の身も心もとろけさせる。乃げんは、彼女の父親に、嫁にほしいと頼みに行き、娘がうんと言ったら許す、と返事を貰った。ところが、「天下一乃げん」の千社札を御霊屋に張ったために、役人に捕えられてしまう。この御時勢では、見せしめに、磔にされるのではないか!
彼女は、乃げんのために奔走する。あの賭場に行き、あの、夜明けの船で送ってくれた男に会う。「御奉行」というあだ名のこの男が、もし、ほんとうに御奉行様だったら、助けてくれるかもしれない。でも、腕の彫り物を確かめたら、桜吹雪じゃなかった。文(ふみ)をくわえた女の生首だった。
泣きじゃくる彼女を、「御奉行」は、慰めてくれた。
乃げんは、三宅島に遠島になった。
天保十二年の夏、水野忠邦の改革が始まる直前から、だんだん、改革の「御趣意」が徹底していって、毎日のようにお触れが出て、贅沢が禁止され、頭巾、寄席、開帳、女髪結い、彫りもの、金銀鼈甲のかんざしや、皮の鼻緒、打上げ花火にねずみ花火、夕方、涼み台を出して将棋をすることなどが、次々と禁止され、錦絵、絵草紙も統制され、芝居小屋が猿若町に移転させられ、そして、天保十三年、ついに、歌川国芳が「源頼光公館土蜘蛛作妖怪図」をとがめられて北町奉行所に連行されるまでの、物語である。
天保の改革が庶民にとってどんなに苦しいばかりで意味の無いものだったかが、ありありと、描かれている。
同時に、歌川国芳一家の、生き生きしたありさまが、まるで手で触れるみたいに、描かれている。それはもう、美しい文章で。
ところどころ、おもしろい表現を抜き出してみる。
> いつまでたっても涎繰りだねぇ
> 死なざやむまい三味線枕
> 吉原に行った日にゃ、孔雀の卵じゃないけど、かえった事がないよ
> 豪敵きれいだな
> 煤掃きにだって出てきァしませんぜ
> 馬鹿野郎、ジャラケるのもてぇげぇにしろ!
> けちいまいましい
> いつも筋を出して悪口ばかり言っている
> きら几帳面
> 鬼味噌
> 繰(あやく)りのめされて
> 北山時雨じゃないけれど、ふられて帰る晩もあり
> 空捨鉢(からすてばち)
> 米びつ旦那の荒神さま
> 意地拗(いじく)ね悪い
> そう簡単に熱坊(あつぼう)になられてたまるもんか
> ずっこ抜けに右から左に行っちまう
> ずいぶんと競肌(きおいはだ)の侠風娘(きゃんふうむすめ)だな
> 湯屋(ゆうや)の煙(けむ)
> 鬼一口にやりこめられた
とにかく、最初の一行から最後の一行まで、完璧に美しい。そして、各章ごとの絵がまた、楽しい。最初の章は、河鍋暁斎の、「暁斎幼時周三郎国芳入塾の図」だ。この小説の雰囲気とよく合っている。その後の各章は、国芳の絵が、扉になっている。
インターネットで検索して知ったが、今でも、国芳の絵は、刺青はもちろん、刺子半纏やスカジャンにも、人気がある。千社札も人気がある。ということは、今もどこかで侠風娘と若者が、無言で歩いているかもしれない。決定的な、引き返せない瞬間が来ることを予感しながら。