紙の本
ヨーロッパを死の恐怖に陥れたペストやコレラの大流行など歴史の裏に潜む疫病に焦点を当てた歴史書です!
2020/07/17 10:23
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投稿者:ちこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、カナダの歴史家ウィリアム・ハーディー・マクニール氏による傑作です。同氏は歴史理論に大きな影響をもたらし、オズワルド・シュペングラー氏の観点とは対照的に文化の融合を強調した歴史家として有名です。中公文庫からは同書は2巻シリーズで刊行されており、同書はその下巻です。上巻に引き続き、同書では、かつてヨーロッパを死の恐怖にさらしたペストやコレラの大流行など、歴史の裏に潜んでいた「疫病」に焦点を当てながら、独自の史観で現代までの歴史を見直す内容となっています。内容構成は、「第4章 モンゴル帝国勃興の影響による疾病バランスの激変」、「第5章 大洋を越えての疾病交換」、「第6章 紀元1700年以降の医学と医療組織がもたらした生態的影響」、「付録 中国における疫病」となっています。
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下巻はモンゴル進出以降の疫病の歴史。黒死病と言われたヨーロッパのペスト禍。この間を含めローマ帝国最盛期からルネッサンス期まで、ヨーロッパの人口は殆ど増加しなかった。そして、新大陸到達におけるインディオの低免疫によるユーラシア・アフリカの疫病禍。絶望的ともいえる人口の減少は数百年かけて奥地の小部族をも全滅させた。
終盤は天然痘。いわゆる種痘免疫法は、古来よりアジアの庶民風俗として定着していたらしい。その技術が英国をはじめとする欧州の王室を救った。また戦死は、従来ほとんど疫病の感染が原因であった。しかし日露戦争における日本兵の集団混合接種により人類史上初めて相手方の攻撃が主因になった。
人類史においては鉄器、大砲、疫病が人口減少に寄与した物であるらしい。(「鉄・銃・病原菌」という本がある)ガンや心臓病が克服されても、人類は疫病とだけは付き合っていかざるを得ないと著者は語る。他生物には人類こそが最大の疫病であろう。
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下巻は、モンゴル帝国~現代までが対象である。
文化という人類共通の遺産のおかげで、「宿主」たる人間が食べられるパイ自体も大きくなったし、寄生体に対しても強気の姿勢を示せるようになった。
そもそも宿主-寄生体モデルは、両者に対して働くポピュレーション抑制機能である。だとすれば、文明の名のもとに既存の寄生体を弱体化させた人間のポピュレーションが増加するのは必然である。
だが、生態系が使える資源は限られている。それに、宿主-寄生体モデル自体がなくなったわけではない。では「宿主」たる人間はどうするか。マクロ寄生体のしっぺ返し、すなわち戦争による口減らしをするかもしれない。あるいは、ミクロ寄生体によるしっぺ返し、すなわち未知の病原菌によるパンデミックが起こるかもしれない(例:インフルエンザ)。両者を併せた、生物テロを起こすかもしれない。
もちろん、「宿主」が自制できれば、それにこしたことはないだろう。相当困難だろうが...。
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疫病の発生過程の説明にまず驚かされた。初期の人間は、生態系の中に組み込まれており、自然な疫病による人口統制がなされていた。しかし、狩猟や農耕を始めることによって生態系を壊し、ミクロな病原菌の生態系をも壊すことによって細菌の繁殖力を増強することによって都市病等の病気にかかるようになっていった。このように自業自得的な過程があったということに非常に驚いた。
そして、このように周期的に訪れる疫病からの死の恐怖が、キリスト教を発展させていった。というのが面白かった。キリスト教では死は幸福であり、ほかの宗教では不幸であるというはっきりとした違いを再確認させられた。
また、このような疫病が数々の戦争の原因となったり、勝敗を決する要因となったりしていることに驚かされた。さらに、戦争の原因となっているにもかかわらず、その戦争の衛生部隊によって衛生観念が広まっていったという逆説的なことにも驚かされた。
最後に筆者が述べていた、「過去に何があったかだけでなく、未来には何があるのかを考えようとするときには常に、感染症の果たす役割を無視することは決してできない。創意と知識と組織がいかに進歩しようとも、規制する形の生物の侵入に対して人類がきわめて脆弱な存在であるという事実は覆い隠せるものではない。人類の出現以前から存在した感染症は人類と同じだけ生き続けるに違いない。」という文章は、この先も真実であり続けるだろうと思った。技術が発展するにつれて菌の繁殖力が強まっているという背景にはこのようなものがあるのだろうと考えさせられ、技術の発展も一概に良いことといえないのではないかと思った。
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・各章の中に節が無く文章だけが延々と続くのが読みづらい。なぜこのような書き方にしたのか。
・日本がちょくちょく出てくるのはうれしい。ただ江戸幕府が大砲帝国というのはおおざっぱすぎる。
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感染症が土着化すると、人口減少への圧力が減少、人口増へ
民間の習俗は、疫病を防止することも助長することもあった。モンゴルの、モルモットは先祖かもしれないから狩らないようにする慣習はペスト菌との接触を遠ざけた(が、その慣習がなかった漢民族がかかった)
タミル人の、水は毎日組み、室内で長期間そのままにしないという慣習は、居住区域からボウフラの生息域を遠ざけ、マラリアやデング熱対策となった
一方、イエメンの回教寺院の沐浴場では、病原体をもった生物が共有され、清めるどころか感染を拡大させた
マラリアに罹った動きが鈍くなるとさらに蚊に刺されやすくなり、動きを鈍くするマラリア原虫が生存に有利になる。蚊帳を使うことでそのような淘汰圧が消え、症状が軽くなる。
医者の仕事は心理上の問題だった。高い金を自信満々の専門家に払った、何かやった、ベストを尽くした、と思えることが救い。どうしたら良いのかという判断責任からも逃れられる。
人痘種痘は、アジアの民間療法として11世紀くらいから行われていた。
戦争では長らく戦闘死よりも病死が多かったが、日露戦争での日本の病死は戦闘死の4分の1だった。考えうる疫病の予防接種を全員にしていたから。以後列強はこれに倣った。
マラリアの原因となるマラリア原虫は、ヒトとカを行ったりする中で生存する。そのため、そのサイクルを絶てば絶滅する。
蚊を減らす:殺虫剤、天敵導入、不妊種導入
蚊と人との接触を減らす:虫除けスプレー、蚊帳、水たまりの除去(住環境・習慣の変化)、牛などの別の吸血先の確保【!!!】
ミクロ寄生(微生物の感染)/マクロ寄生(支配者による収奪)のバランス
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こんなすごい本が、この金額で読めるってすごい。
不条理な、救いのない大量の死が神さえも駆逐する。
高校生のころ、歴史を勉強していたときに、急に強くなったり滅びたりする権力の原因が全然分からなかったけれど、確かに疫病という視点はなかなかなかった。
とてもいい本であったが、日本語訳がときどき???なところがあって、読むのに根気がいる。
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(上巻より続く)
本筋は、
人類は病原体によるミクロ寄生と、他の肉食動物、つまり同じ人類、のちには征服者、支配者によるマクロ寄生のはざまで、つかの間の無事を保っている存在だ、
ということですかね?
確かに、人類誕生以来の疫病との戦いを読んでいると、
食物連鎖のヒエラルキーの頂点にいるのは、
人間ではなく病原体、という気がしてくる。
余談ながら一番の衝撃は、
インドのカースト制が、
異なった免疫をもつ民族を支配下に入れた際に
相互に安全な距離を保つために、
接触をタブーとしたことに起因するという解説。
もはや都市伝説?
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かつてヨーロッパを死の恐怖にさらしたペストやコレラの大流行など、歴史の裏に潜んでいた「疫病」に焦点をあて、独自の史観で現代までの歴史を見直す名著。紀元一二〇〇年以降の疫病と世界史。「中国における疫病」を付す。詳細な註、索引付き。
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人間もペストやコレラに負けじと……隔離政策や予防接種、研究などに力を入れてきたその始まりが鮮明に描かれている。
原住民さんが可哀相。
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世界史は疫病が動かす。「銃・病原菌・鉄」より何十年も前の卓見。見えない、理屈がわからないものへの恐怖がどれだけの影響を及ぼすか、放射線科学を知らない人の振る舞いを見れば現代でもよくわかる。現代医療の恩恵を受けた常識で判断せず、未知の恐怖で世界史を理解すること。
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マラリア、ペスト、天然痘、結核、コレラ、梅毒。古来「神の怒り」と怖れられてきた疫病は、個人と共同体の運命を翻弄し、時に歴史を大きく塗り替えてきた。遊牧帝国の繁栄とペスト、インディオを絶滅寸前に追いやった旧大陸の感染症。ハンセン病に割かれた頁は多くはないが、重度の皮膚病がすべてこの名で呼ばれ一様に隔離されていた時代や、近代戦の開始に伴う疫病学の発達など、本書は社会の変容と疫病の関係を多元的に描き出している。
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普通に読むと飽きてくるので、この本と 医学の歴史を併読してみた。2冊の索引の共通項目から 逆引き 読みをしてみたら、理解度が高まった
特に 結核、腺ペスト、天然痘、ペスト、マラリア、梅毒が 出てきた時が この本のポイントだと思った
時系列に整理しながら読むと面白いかも
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下巻では3つの章に分かれていて、紀元前1200年から1500年まで、1500年から1700年まで、最後は1700年以降の医学の発達に伴う生態的な影響について述べられています。世界史の教科書を紐解くと殆んどと言っていいほど疫病についての記述がありません。唯一、14世紀にユーラシア大陸全体に流行した黒死病(ペスト)の影響があるだけのようです。しかし、この本を読むと、疫病がいかに人類史に影響を与えてきたかが分かります。
紀元前から人類を苦しめてきた疫病は、ペストに代表されるように、風土病として長らくその土地に留まってきたのですが、ユーラシア大陸でのモンゴル帝国の侵略により、遠くの土地まで拡がってしまいました。その土地の遊牧民の部族は、ペスト菌を保菌している齧歯類(ネズミなど)に対する、感染の危険に対処する方法を昔からの掟を備えていて、疫学的にみても有効な方法でした。…よそから入ってきた連中が地方的な「迷信」として守ろうとしなかったとき、初めてペストが人間的な問題になりました。と著者が書いているように、その土地の慣習は何らかの理由があることを忘れてはいけないのです。
カミュの小説、「ペスト」を思い出しましたが、…完全な健康を保っている人物が二十四時間も経たないうちに悲惨な死を遂げてしまう…事態は、神も仏もない当に不条理な世界です。新大陸でスペイン人などが、インディオ社会や、それまで栄えてきた帝国を滅亡に追いやったのも天然痘などの感染症がきっかけでした。こうした疫病が目に見えない微生物の仕業だとは分からない、当時の人々の精神状態がいかに不安に苛まれるか想像の枠を超えてしまいます。日本でも飢饉などに加え疫病が流行った時代には仏像の建立が成されたのも合点がいきます。
公衆衛生の概念が発達してきた1700年以降の疫病対策は人口増加をもたらし、都市の発展を促しました。また20世紀の初頭には、予防接種を制度とするなどして、軍隊で発生してきた疫病による死者を戦死者より少なくする組織的な取り組みで成果を上げていきます。
こうして今日、私たちは衛生概念の行き過ぎた社会で暮らしています。腸内細菌のバランス云々がクローズアップされる所以です。感染症の制圧ということでは人類が勝利したかに見えるのは多分錯覚に過ぎないのでしょう。マクニール氏が最後に述べているように…寄生する形の生物の浸入に対して人類がきわめて脆弱な存在であるという事実は、覆い隠せるものでない。…ということです。交通網の発達した現代では地球上で感染症の発生、特にパンデミックはいつ起こってもおかしくないということを忘れてはいけないのを肝に銘じました。
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140111 中央図書館
天然痘、はしか、ペスト、ハンセン病などが、共同体、都市、帝国などをおそったとき、大きな人口の減少があり、歴史が転換期を迎える可能性があるということ。細菌、ウイルスと人類の寄生宿主関係は無くなりはしない。現代は特にかつてなく活発な世界中への移動により過去最速でそれぞれの遺伝子の進化が進行しているし、生命科学の発達によって新たなリスクの混入も否定できない。
都市は人口密度が高く、疫病が拡がりやすいわけだが、いちはやく免疫を持つ集団を獲得し、以後の安定を得るためには、効果的という面もある。あるいは都市の成立・・密集して生活するということが、疫病の流行による種絶滅リスクを軽減するための、人類という種族が意識せずに選んだ本能的な結果なのかもしれない。