紙の本
右は天国、左は地獄——イメージの読み解き方、教えます
2001/05/31 18:18
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投稿者:赤塚若樹 - この投稿者のレビュー一覧を見る
東大出版会の「リベラル・アーツ」というシリーズの一冊。書いているのは東大の先生か、そこで教えた先生のいずれからしい。なかには、つい説教臭いコメントをしてしまう書き手もいるようだが、全体としてみれば、それぞれの著者が思い思いのテーマを、自由に、好きなようにあつかっているように感じられる、とてもおもしろいシリーズだと思う。
今回、そこに「西洋伝統絵画」の見方を教えてくれる「講義」がくわわった。つまらなければ無視すればいいだけのこと、とりあえず受講してみよう。
すると、この先生、まず最初につぎのようなことを主張している。
絵の見方に「規則」はないが、しかし、そうはいっていも、絵というものは、ある特定の歴史的・社会的・文化的状況から生まれてくるのだから、それなりに知識をもっていれば、見え方もちがってくる。しかもそれが、私たちとは異なる背景をもった西洋絵画であればなおのこと、それ相応の「こつ」や「技術」を心得ていれば、より深く理解することはもちろん、ずっと楽しく、そしておもしろくみることができる。
このような考え方にもとづいて、適切な「型」や「モデル」を学び、そうすることによって、(14世紀から19世紀はじめまでの)「西洋の伝統的な絵画」の「イメージの読み解き方」を——たとえごく一部であっても——マスターしようというのが、この講義の目的だという。
出発点となるのは、近代以前の西洋絵画史において「高貴なジャンル」とみなされていたという「歴史画」。これは、神話、宗教、歴史、寓話などを主題とした「物語」の場面を描く絵画の総称であって、そのなかでもっとも有名で、重要な典拠がギリシア神話(「神話画」)と聖書(「宗教画」)であるのはいうまでもない。では、そこで何が問われるというのか。
たとえば、ルーベンスの「パリスの審判」。まず、ギリシア神話のこの主題を知らないことにははじまらないが、そうした「物語」の知識があっても、画面の左側に立っている3人の女神——アテナ、ヴィーナス、ヘラ——がすぐに見分けられるわけでもない。なにしろ、3人とも裸体だし、見た目もあまりちがわないのだから。だが、そんなときは、近くに描かれているモチーフに着目するといいらしい。それが人物を特定する目印ないし指標となり、その知識さえあれば、右から順に、「孔雀」をしたがえているからヘラ、「キューピッド」が後ろにいるからヴィーナス、「武具」と「梟」がかたわらにみえるからアテナということがわかるのだという。
それから、たとえばイエス・キリストの十字架磔刑の図。聖書の場面を描いた絵なら、その主題が何か知っていたほうがいいに決まっているが、十字架に磔にされたイエスとともに登場する善人と悪人はどうやって見分ければいいのだろうか。両者の区別が必要なときは、キリストからみて右が良い側、左が悪い側という伝統が定着していたという。その後の運命が天国と地獄に分かれるのだから、この区分はまさに決定的だというべきだろう。
こういった約束事、あるいはイメージ読解のためのコードやポイントは、「歴史画(物語画)」だけでなく、そこから派生し、「付随的なジャンル」とみなされていたという「肖像画」、「風景画」、「風俗画」、「静物画」にも当然のことながらみいだされる。それらを順を追って紹介し解説していくのがこの「実践的美術書」であり、そこでは、個々のジャンルの成立事情や歴史的背景など絵画を理解するうえで役立つさまざまな情報もまた提示されていく。なるほど、こうした予備知識があるのとないのでは、同じ絵がこうもちがってみえるとは! そのことに気づくだけでも、本書を読む価値はあるだろう。19、20世紀の作品をあつかうという続編も楽しみだ。 (bk1ブックナビゲーター:赤塚若樹/翻訳・著述業 2001.06.01)
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絵画鑑賞の基本を体系だてて説明した本です。豊富な図説を用いているため、楽しみつつ、本文中の説明を具体的に理解することができます。
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大学の専攻が美術史で、
専攻が始まる前に読みました。
そして、大学の美術史の講義がつまらなくなりました。
それだけこの本がすごいってこと。
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西洋美術を観る際の最低限の基礎知識やメソッドをとても丁寧に、わかりやすく解説してくれている本(神話画・宗教画・アトリビュートetc)。おしつけではなく、観る側の素直な姿勢(予備知識で凝り固まってない)を尊重した上で、絵を見ることの楽しさを教えてくれる一冊です。美術館に行く機会の多い人にぜひ♪
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学生のときの美術史の教科書。
読むと読まないでは、美術館での楽しみが倍は変わるとおもう。
初心者にもわかりやすく、誰でも手に取りやすいのもポイント。本の装丁も好き。
客観的で、わかりやすい解説書である。
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面白い。その一言に尽きる。
ただ見ているだけではわからない西洋絵画の面白さを、丁寧に、しかし読者に探求させる余地を残しながら解説しています。
ギリシャ・ローマ神話と聖書の知識が楽しさ100倍。
いやいや、面白かったです。
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映画のように詳細なストーリーがそこで語られることはなく(映画にしても予備知識を大いに求められるものもあるが)、「すっげーキレイだけど、よくワカラン」で終わりがちな西洋絵画。
神話や聖書、歴史の知識に沿って、どのように見ればいいのかを教えてくれる。目が絵画を像として捉えるだけでは見えてこない西洋絵画の「見方」の入門書。
日本でも美術館の企画展で実物に触れる機会はあるが、ただ見るだけでなく、より楽しんで見ることができるようになりたいという意欲を持たせてくれた。
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[ 内容 ]
絵画をみる、読む、楽しむ。
18世紀までの絵画をジャンル別―神話画、宗教画、肖像画等―に取り上げ、実践的に解読。
異なる文化から生まれた西洋絵画をみるコツを伝授する。
モノクロ図版175点、カラー口絵12点収録。
[ 目次 ]
イメージの時代―「私たち」が「西洋絵画」を見ること
神話画(神々の姿を見分ける;物語を読む)
宗教画(旧約聖書の主題―神と人間のドラマ;新約聖書の主題―キリストの生涯と受難;礼拝像、その他の主題)
寓意画―意味を解読すること
古代史と幻想―正統なるものと逸脱するもの
肖像画―写実性と理想化のはざまで
風景画―背景から独立したジャンル
風俗画―その他大勢のジャンル
静物画―物にたゆとう生と死
[ POP ]
[ おすすめ度 ]
☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度
☆☆☆☆☆☆☆ 文章
☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度
共感度(空振り三振・一部・参った!)
読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)
[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ]
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絵画を楽しみたい人向けにとても分かりやすい入門書。
絵画の中で表現されている様々な「意味」を読み解く事が出来るので、謎解きをしている様な感覚になりとても楽しい。
この本を読んだ後様々な名作を見ると、その奥深さに感動がさらに増した。
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非常に直球まっとうな西洋美術史の「教科書」。
美術史に関して言えば、面白おかしく書こうとすればいくらでも面白くできるジャンルだけど、どうも局所的というか、流行の画家だけを取り上げてる便乗商法的な本も多い気がする。
しかし冒頭にも書いた通り、この本は「教科書」として、西洋美術史で覚えておくべき概念、「見かた」を教えてくれる。
私個人はといえば、学生時代に3つ西洋美術史の講義(しかも、日本の大学での一般教養と、史学科のものに加え、海外大学の教養学部でも受講したという訳の分からない幅広さっぷり/笑)を取ったけれど、いずれの授業も、ここまで基礎的な体系としての西洋美術史を教えてはくれなかった。その点で、この本を読めて非常に有意義だった。
ただし、この本はよくも悪くも都度都度のテーマに沿って概略を話すという内容なので、クロノロジカルな西洋美術の進化は見えないし、特に神話は作品の背景となるエピソードを十分に紹介できているとは言い難いし、この本を読むことで、読者がどこかの作家/時代に強い思い入れを抱くこともあまりないと思われる。
だから、この本はあくまでも西洋美術史を学ぶ上でのスタート地点ともなるべき一冊であり、深く学びたい人にはちょっと物足りないかも?でも、そういう人のために文献リストが充実しているのも、この本のいいところ。
あと、作品のほとんどはモノクロで粗い印刷だから、本当はどんな色彩なのか、自分でググらないといけないという難点も。
個人的には、西洋美術史の本は結構たくさん読んでいて、ここに書いてあることは概ね知っていた(または読むだけですぐ理解できた)のだけど、逆に東洋美術史は全くの門外漢なので、東洋美術史でこういう本があったらすぐにでも読みたい。
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お借りした長の年月が過ぎてしまいました…
図版が多く載せてあって、ほとんど載せた絵に関する言及になってるから読みやすい。一々他の辞典やら画集やら引っ張る気力のない人間にもとりあえず読み通せる。(もちろん、白黒のものすごい縮小コピーでしかないので、できるだけ現物、そうでなくてもせめて大判の画集くらい引っ張ってこいというところでしょうけども…)
上野とか新国立とかでふらっと入ってきた初心者向けにもわかるように噛み砕かれた企画展の解説板を集めたみたいな感じ。
すごく親切。
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授業の教科書でした。
初級編として最高に面白いと思う。と初級者が偉そうに言ってみる。
いや、ほんとにわかりやすくて面白かったんだって。実際絵画展とか行って「おお~」って思えるんだもの。今までよりも浮き浮きできるんだもの。
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ぃやー、意外にも。面白かったです。
まなざしのレッスン、なんていうタイトルで、てっきり礼儀作法か心理学か、なんかそういう類の本ですか?と思ったりしましたが、いやいやどうして、中世の西洋絵画の鑑賞裏話!! 的な?話でした。
今まで、美術館って、余程直感で気に入った作品を見るとき以外は、歩き回ってただ疲れるなぁというイメージでしたが、こんなにも、昔は絵に「意味」があったんだなぁとちょっと興味を持ちました。次に美術館に行くのが、少しおもしろくなりそうです。
以下、ためになること抜粋!
ギリシア名<ローマ名、英名>
★ゼウス<ユピテル、ジュピター>天空を支配し、全権を掌握する、髭、堂々たる長老の姿、王権を表す笏(しゃく)、鷲、武器として使う雷電(稲妻)
★ヘラ<ユノ、ジュノー>ゼウスの妻、女神として最高位。結婚や出産を司る。夫のゼウスに愛人が多いため嫉妬深い性格とみなされていた。冠を戴いたり、豪華な衣を身にまとっている場合もある。孔雀。
★ポセイドン<ネプトゥヌス、ネプチューン>海の支配者、馬の神、水の擬人像。豊かな髪と髭をたくわえた威厳のある老人の姿。三叉の戈(ほこ)。妻となった海の精(ネレイス)のアンフィトリテや人魚のトリトンたちと一緒に描かれることが多い。
★アテナ<ミネルウァ>ゼウスの娘。智慧と学芸を司る。梟。鎧兜、槍、盾で武装した戦いの女神。機織りなど手仕事の守り神。
★アレス<マルス>ゼウスとヘラの子供。戦いの神。男性。アテナと違って平和と文明を守る正当な戦いではなく、破壊的な戦争を体現する神。猛々しく攻撃的。ウィーナスの愛人で、トロイア側に味方。
★アフロディテ<ウェヌス、ヴィーナス>美と愛の女神。豊穣の女神。鳩、白鳥、リンゴ、バラ、三美神が従者だったりもする。
★ヘファイストス<ウルカヌス、ヴァルカン>ゼウスとヘラの子供。ヴィーナスの夫。人鍛冶の神。足が不自由な醜男、妻に裏切られる運命。
★エロス<クピド/アモル、キューピッド>ヴィーナスの息子とも言われる。弓矢は貫かれた人の愛と欲望をかき立てる道具。
★アポロン<アポロ、アポロ>アルテミスと双子。人間精神の文明化された理性的側面を体現する。髭のない美しい青年。太陽神と同一視される。黄金の凱旋車を駆って天空を渡る姿多し。弓術の神。弓矢、矢筒。牧畜神。牧羊杖。詩歌芸術を司る神でもある。竪琴、月桂冠。
★アルテミス<ディアナ、ダイアナ>アポロンと双子。処女神。月の女神と同一視される。狩猟の女神。弓矢、矢筒、猟犬。三日月の髪飾り。
★ヘルメス<メルクリウス、マーキュリー>神々の使者。青年神、旅人の守護者、商業の神。素早い移動を示唆する翼のついたサンダル、帽子、2匹の蛇が巻き付いたドゥケスとい魔法の杖(これをアポロンからもらって竪琴をお返しした。)。
★ディオニュソス<バッコス、バッカス>人間精神の熱狂的、情動的な側面を体現。豊穣神。とりわけ葡萄や酒の神として知らることとなった。葡萄の葉を頭にかぶった裸体の青年。牡牛か山羊を屠って酒を飲み踊り狂うバッカス祭の主題が典型的。
★キ��ストから見て、右側が良い側、左側が悪い側。
★キリストが右手の人差し指と中指を立てる=祝福
★指差し キリストやヨハネなど、主題となる人を指し示すことが多い。
★14-15c イタリア 顔料を卵と練り合わせて板に描く「テンペラ板絵」
漆喰を塗った壁が乾く前に水で溶いた顔料で描く「フレスコ壁画」
★三連祭壇画、多翼祭壇画→15世紀 単一画面の大型祭壇画(パーラ)
★洗礼者ヨハネ 獣の皮に革帯
★脇から血を流す子羊=贖罪者
★キリスト復活を象徴する生命の泉
★光を発する聖霊の鳩
★15世紀から存在した主題形式の一つ、聖会話。聖母子を囲むように左右に数人の聖人を配置。
★マリア 赤い衣(慈愛)と青いマント(天の真実、イエスを失う聖母の悲しみ)
★マグダラのマリア 香油壺
★磔刑図の副次的登場人物、懺悔の人物像
★13世紀 黄金伝説 新約聖書外典の内容をも盛り込んだ聖人伝集成
寓意画 アレゴリー
★太陽 真実を暴く光を象徴(真実)
★花飾りを付けた若い女性、ヴィーナス、フローラ 春
★厚く着込んだ老人、ボレアス、ウルカヌス 冬
★サンダルが脱ぎ捨てられているところ→出エジプト記 「足から履き物を脱ぎなさい。あなたの立っている場所は聖なる土地だから」と神がモーセに命令したことを思い起こさせる
★白いタオルと洗面用具 聖母マリアの純潔を示す
★頭蓋骨 死の象徴(menento mori:死を想え) 他にも、時の経過や有限の生命を表す懐中時計、ろうそく、砂時計、生命のはかなさや束の間の若さを表すシャボン玉、喫煙具(消え去る煙)、花(萎れる)、倒れた器、さらにこの世の栄華、財産、感覚的な快楽を表す王冠や宝石、財布や器、楽器や楽譜なども。
★ボッティチェリの春 も寓意画。右側 大地のニンフであるクロリスが西風のゼフュロスに無理やり花嫁にさせられ、フローラと呼ばれる花の女神に変貌する様真ん中 マリアを思わせるヴィーナス左側 貞節 愛欲 美貞節が愛欲と美に導かれて愛に目覚める。キューピッドは貞節を狙っている。一番左はヘルメス。彼岸を見通す聖なる愛の人ゼフュロスから流出した愛の力が、中央の人物群において発現し、ヘルメスによって彼岸に回帰する。それが再びゼフュロスにつながっていくとなれば、これは永劫回帰する春の世界そのもの。
★フェルメールの「絵画芸術」 モデルは歴史のミューズであるクリオに扮している。あとはこのタイトルから、歴史画に代表される絵画芸術の礼讃を意図した寓意画と見るのが定説。
★ラファエロ アテネの学堂 哲学者、思想家たちの肖像を挿入する際に、ラファエロは同時代の芸術家たちにその似姿を求めた。プラトン=レオナルド、ヘラクレイトス=ミケランジェロ、ユークリッド=ブラマンテ。ラファエロ自身も先輩画家のソドマと一緒に、下段右端から2番目に顔を出している。遠近法空間の奥に見える空と雲は自然の無限の広がりを喚起することで、同時に学問の奥深さのメタファーにも成りえている。
★アルトドルファー アレクサンドロス大王の戦い 気になる。
★「マニエリスム」 1520年頃から17世紀初頭にかけて、イタリアに発してヨーロッパに広まっていった反古典主義的な芸術動向
★ルネサンスとバロ��ク様式:線的・絵画的平面的・深奥的構築的(閉じられた形式、左右対称性)・非構築的多数性(多数的統一性:個々の要素が全体の統一性の確立に協調しながらも独立性を保つ)・単一性明瞭性・不明瞭性(相対的明瞭性:不明確な部分を残し明暗を用いて絵画的な効果を志向する)
★ミケランジェロ・ルーベンス レンブラントの夜警 も集団肖像画らしい! また、夜警という題名はニスの変化で画面が暗くなったため18世紀末から用いられた通称で、実際は昼間の場面!
★静物画には、五感の寓意が込められることもある。
★鹿は耳が良いとされていて、聴覚を示すものになることも
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必読。
ふんだんに写真を使って14~19世紀の西洋絵画のいろはを講義を聴いているように教えてくれる。何もしらない大学1年生でも美術館によく行くシルバーサークルのおばちゃんも納得させる。
すごい、上手、きれい、有名・・・美術館に飾られた傑作に当たり前の形容詞をたたきつけるのはやめよう、現物を見たら動けなくなってしまう対面をしよう。
この本を読んだら『受胎告知』の前を15分で通過することはないはず(→フィレンツェに行こう)
唯一この本の悪いところと言えば、読んだら西欧に行きたくてしょうがなくなってしまうこと。
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ん〜個人的に目新しい内容に乏しく期待外れ。
また、絵画とその説明文がそれぞれ違うページに配置される構成になっていて読みにくい。
参考文献を沢山拾える所はイイね。