紙の本
まったく新しい静かな狂気
2022/02/08 00:37
2人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:帛門臣昂 - この投稿者のレビュー一覧を見る
残念ながら芥川賞を逃した表題作『School girl』と文學界新人賞受賞デビュー作『悪い音楽』いずれも静かな狂気を含んだ物語である。『悪い音楽』に関しては、湊かなえの学校を舞台にした作品を彷彿とさせる、教師と生徒が属性から外れた人間本来の歪さを表現しきり、『School girl』では親子の対照的な性格を利用して、これまた親子の属性から外れた人間の歪さを表現しきった。但し、『悪い音楽』と違って、親子の相違は柔らかに解消されるかもしれない雰囲気を醸している。
紙の本
女性を描ける作家
2022/04/13 15:27
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
第166回芥川賞の候補作となった表題作のほか、この単行本にはもう一編中編小説が掲載されている。
それが、『悪い音楽』で、作者はこの作品で第126回文學界新人賞を受賞し、その次に発表した『school girl』が芥川賞候補だから、注目の新人作家といえる。
しかも、候補作となった作品は選考委員から高い評価を得ていて、松浦寿輝委員ははっきりとこの作品を推すと表明しているし、平野啓一郎委員もこの作品を「最も高く評価した」としている。
この作品については、そのタイトルからわかるように太宰治の『女生徒』が下絵のようになっているが、中学生の娘を持った30過ぎの女性の視点で描かれていて、太宰の作品とはかなり雰囲気もテーマも違うように感じた。
それに、2つの作品を続けて読むと、『悪い音楽』の方が物語の描く方も柔軟性があるように思った。
主人公は中学校の音楽教師。父親が有名な音楽家であり、自身も音楽の才能がありながら、ひょいといた思いつきで音楽教師になった。
しかし、自分が教師に向いていないということがわかってくる。
自分に逆らう生徒、そしてその親。親に逆らえない教師たち。
ルームシェアしている女性ともうまくいかなくなって、主人公は次第に壊れていく。
その過程が、物語の起伏を生み、文学として成立しているように感じた。
2つの作品を読んで、九段理江という作家は女性を描けるひとりになるのではないだろうか。
投稿元:
レビューを見る
(文學界2021.12にて読了)
環境問題に興味を持ち、社会派YouTuberとして活動している14歳の「娘」と、過去に母親との確執があり、文学の世界に拠り所を求める「母」とのお話。
太宰治の『女生徒』がキーポイントとなる。
一見、ありふれた主婦に思える「母」にも裏の顔があったり、「娘」には反抗期から来る母親への反抗と裏腹に別の思いがあったりする。z世代のリアルな感情が、直球と変化球で攻めてくる。『女生徒』再読しよう。ちなみに夫は高収入で都内のタワマン暮らしという裕福な家庭です。
投稿元:
レビューを見る
【芥川賞候補作!新鋭が鮮やかによみがえらせる、令和版「女生徒」】「小説なんて現実世界の敵」と断じる社会派YouTuberの14歳の娘。しかし彼女の最新投稿は太宰治の「女生徒」について――?
投稿元:
レビューを見る
所収作品2作、『文學界』にて読了。
九段理江さんの2022年の活躍に期待しています。
■『Schoolgirl』
いちまろの感想・レビュー『文學界(2021年12月号) (特集 旅へ!)』 #ブクログ
https://booklog.jp/users/ichimarobooks/archives/1/B09K2BBRGY
■『悪い音楽』
いちまろの感想・レビュー『文學界(2021年5月号)』 #ブクログ
https://booklog.jp/users/ichimarobooks/archives/1/B0914WWCDQ
投稿元:
レビューを見る
グレタ・トゥンベリに影響された社会派YouTuberの中学生の娘と、小説を読むことが好きな母の話。令和版・太宰治「女生徒」。小説は現実逃避だと毛嫌いする娘が、母の本棚から「女生徒」を見つけ、動画で語る。「なんで娘って、ずっとお母さんのことを考えているんだろう」と語る娘。早口で語り、菜食主義を貫く娘が何を言っているか分からない母親。
娘は、なぜこんなに太宰治の作品の句読点があるのか理解できない、と動画で語っている。そして彼女は分からないことや不思議に思うことを、動画の中でものすごく饒舌に喋っている。それはまるで、小説であれば行間や句読点の間にあって、言語化されないものを、すべて言葉にして吐き出しているかのよう。そういう風潮は昨今の動画やラノベなどにも顕著に現れている気がするが、それに引き換え母親の方はなんとなくぼんやりと、自身の思考に身を漂わせている感じで意識が流れている。その対比が面白い作品。
投稿元:
レビューを見る
表題はどちらも、小説のあり方、芸術のあり方に触れたものといった印象。
そこに現代社会との関係の構築があり、もっと深く考えて読めたらおもしろそうだなとは思ったけど、さらっと読み終えてしまった。
時々挟まれるユーモアある独白が笑える。
投稿元:
レビューを見る
令和版『女生徒』と言われる『Schoolgirl』
なるほど、太宰ファンなら、ん?ってなる、まんま『女生徒』の本文がはじめのほうに出てきたりもしてわかると思うんですが、『Schoolgirl』は太宰治の『女生徒』を下敷きにして描かれているオマージュ作品、とでも言うのでしょうか。
テーマは「母と娘」
語り口は母。タワマンで良い暮らしをしてる専業主婦。
しかし、母親にぶたれたりしながら育ったトラウマ持ちで、自分はそうなるまいと努力しているお母さんです。
娘は14歳の反抗期真っ只中。
グレタ・トゥーンベリの影響をもろ被りしたような意識高い系の中二病で、環境問題なんかに夢中なYouTuber。
母親はダメな大人としてけちょんけちょんに言われ放題。
娘のYouTubeを観ることでしか、娘の胸の内をうかがえないような関係性の中で、ある日、娘がYouTubeで太宰の『女生徒』について語り出す。
お母さんのクローゼットから見つけた『女生徒』を、普段、小説を毛嫌いしている娘が読んだところから、2人の関係性が動き出していく。
お母さんっていうのはどうしたって特別な存在な訳で、自分の半身を理解として得たい欲求がどうしたって拭えない。
小説を通して母に歩み寄り、心を通わせていく。そこからほのかに灯る光がとても良い。
世の中の大きな説ばかりに耳を傾け声を乗せるばかりの娘が、意味のないとしか思えない小説を読み、そこから感じ取ったもの、それによって動き出したもの、そしてこのラストを迎えての、読後、自分の中でも小さな説が続いていくこの感じ。たまらなく好きです。
この令和に再び現れた女生徒が、わかり合えない母と娘の手を取り合って、うふふと微笑みを浮かべているようで、思わず私も微笑んでしまう。
ふたたびお目にかかれて嬉しいです。
投稿元:
レビューを見る
母親の心情にも娘の行動もどちらも合っていてどちらも違うような、そんな考えの沼に嵌っていくお話でした。最後の終わり方も、所々に入っている娘の動画も面白かったです。
「悪い音楽」は、出てくる曲を聴きながら読みました。主人公のサイケチックな性格と音楽への情熱が社会とズレを生じさせている感じが面白かったです。性格も音楽が創り出したものという捉え方がしっくりくるかも
投稿元:
レビューを見る
"意識高い系"は大学生世代に多い印象だけど、中二病や反抗期が組み合わさるとなるほどこうなるのか、という感じ。クローゼットで『女生徒』と出会ったことをきっかけに、自分の中の二律背反さを乗り越えようとしている娘の心情が、母親の一人称視点の語り(と、YouTube内での娘の言葉)を通じて見えて来る感じが凄く好きだった
投稿元:
レビューを見る
school girl
個人的には純文学の王道って感じだった。
お母さんと娘の距離感がとても良く表現されてて良かった。
終盤はとても考えさせられる内容で、予め太宰治の女生徒を読んでて良かった。それでも読み直した。
悪い音楽
school girlを超えることはないだろうと油断してたら、これもすごい面白かった。
その人の見方によっては何かが良くも悪くも見えたりとても考えさせられるような内容が良かった。
それでも自分に正直に生きようとするのはとてもカッコ良く見えて魅力的に見えた。
投稿元:
レビューを見る
女生徒を予習して万全の状態で読んだ。結果かなり大きな主題になっていた(女生徒はKindleで青空文庫になっているので確実に読んでおいた方がいい)ので読んでおいて良かったし、女性の自意識のいろんな意味での「アップデート」に関する話でかなりオモシロかった。「ぴえん」という病を読んだときも思ったけど自分はもう完全におじさん以外の何者でもないのだと痛感した。自虐はしないけど自戒はしたい。
芥川賞候補作になった表題作。中学生の娘を持つ母親の視点で物語は進行し、娘がめちゃくちゃ「意識高い系」Youtuber という設定になっている。親子の場合、年上である母親の方が物を知っているという設定が多いと思うけど今の時代はそうはいかない。知の高速道路でスーパーカーを華麗に乗りこなす娘の方がはるかに物を知っていて世界、社会を憂いている。太宰の「女生徒」も同じく大人びた少女の話だったけどギアが違っている。一番スリリングだったのは小説に関する娘の論。メタ的展開は珍しくないとしてもそこで言及されるコストパフォーマンスの話や意味のないものへの無関心っぷりは巷で話題のひろゆきバイブス満点。これが多くの若い子の本音だからひろゆきが人気なのも察し。小説なんて人がついた嘘であり、そんなことで一喜一憂するのではなく現実社会を見て困っている人の少しでも役に立つような生き方をすべきと滔々と諭していくところが圧巻。母親の自意識が語られながら、合間に娘がYoutubeで話す内容をないまぜにしながら終盤でのスリリングな対話(言い合い)になっていく感じとエンディングのキレの良さが最高だった。
もう1つの作品である「悪い音楽」含めて、社会的に品行方正であるべきとされる母親や先生も1人の人間であり欲望の赴くままに振る舞ってもいいじゃないかという緩やかな肯定が見える。著者が立場に苦しむ大人を憐れみと慈しみの気持ちで見守っているような文体に思えた。次の作品も必ず読む。
投稿元:
レビューを見る
School girl/悪い音楽
太宰治の女生徒を予習してから読みました。読んでおいてよかった。というか当たり前なのだけど太宰治すごい。
最初は、娘の態度に苛立ちばかり覚えてしまって、読みづらくかんじていた。けど、すれ違っているようでお互いちゃんと思い合っているのが伝わってきて面白くなった。ありきたりなほっこりファミリーじゃないところに共感した。小説を通じてつながっていく母娘は美しくて、そんな体験できたらいいなと思った。たしかに本棚ってその人の内面に触れる感じする。ブクログの本棚もそう。
母に親近感。もちろん色々ぜんぜん違うけど。
自分の人生のはずなのに、子供が主人公になっちゃう。子供の出来が自分の人生の結果に反映どころかそのままなっちゃう。わかりすぎる。
自分のことを俯瞰で見れてるようで見れてない。
リマインダーに今日も怒鳴らなかった?って入れようかなー。
ふたつめの、悪い音楽も、面白かった。
いろんなことの表現が珍しい。
音楽教師あるあるなの?
どうなっちゃうのー、先生…
投稿元:
レビューを見る
2022年2月
悪い音楽、理屈抜きで面白かった。中学生のファムファタル。
理屈を考え出しても面白い。「悪い」音楽って何?作者の人間性が"悪い"と作品も"悪い"?作品と作家の紐付けもあるけど、一般論としては、思想と思想家もそういうところがあるよね。ルソーとか。
投稿元:
レビューを見る
「暗い音楽」がサイケデリックでぶっ飛んでるよ!とっても良い。意味がわかると怖い話されてる気持ち。自然と読みながら意味がわかると怖い話に誘導されていた。信頼のおけない語り部だった。
だいたい、zoomとSkypeで反省繰り返してないの、ディスコミュニケーションすぎて面白い。技術が進歩して通信環境よくなったって、人と人とはしっかり噛み合わなくて良い。有史以来、今後もずっと噛み合わない。宇宙に行っても噛み合わない、だって、人の頭は宇宙よりも大きいから。