紙の本
天賦の才能に恵まれ、抜群に知性としなやかな感性で物語を紡ぐ、ナイジェリアのイボ族出身の作家の短編集です!
2020/05/13 10:39
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ちこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、ナイジェリアのイボ族出身の作家チママンダ・ンゴズィ・アディーチェの短編集です。彼女は、ストーリーテラーとしての天賦の才能に恵まれ、抜群の知性としなやかな感性で書かれた短篇を次々に発表し、オー・ヘンリー賞をはじめ、コモンウェルス初小説賞、オレンジ賞など数々の文学賞を受賞しています。同書には、ラゴスからアメリカに移民した若い主人公がエクストラ・ヴァージン・オイル色の目をした白人の男の子と親しくなるという表題作(原題は「アメリカにいる、きみ」)のほか、「アメリカ大使館」、「見知らぬ人の深い悲しみ」、「スカーフ――ひそかな経験」、「半分のぼった黄色い太陽」、「ゴースト」、「新しい夫」、「イミテーション」、「ここでは女の人がバスを運転する」、「ママ・ンクウの神さま」などが収録されています!
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話題にはなっていたが、初めて読む作家。
アフリカの民俗や風土など、余り馴染みが無いので興味深い。登場人物の名前に、土着の宗教的な由来を感じる理由がついているのも面白い。エキゾティシズム的な読み方は著者の本意ではないのだろうな、と思いつつ、アフリカの大地が浮かんで来る。
余談だが、久しぶりに、『登場人物の名前がなかなか覚えられない』という体験をした。
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文章を通して全く異なる文化に触れられたことが切実に嬉しい。
しかし内容はかなり胸が痛い。
女性はこうも運命を選択できないものなのか。
宗教や国などの違いから生じる摩擦がナチュラルに描かれている。
日本にはここまでのすれ違いはないし、ある程度女性も社会的に活躍できている気がするけど、だからと言って日本に生まれて良かったとは思わなかった。
所々にあるマンゴーや、美味しそうな食べ物の描写の影響だろうか。
また、あまり信仰がない私にとって、宗教が日常に根付いていることが少し羨ましかった。
アフリカに馴染みがなくても、誰が読んでも既存の価値観や、固定概念について考えさせられる作品だと思う。
普段馴染みがない文化、問題についてもっと知りたいと思った。
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良すぎて困る。好きなのは「イミテーション」「ひそかな経験」「ゴースト」「先週の月曜日に」「ジャンピング・モンキー・ヒル」「なにかが首のまわりに」「結婚の世話人」でした。
どこが好きなのか考えると、世界が見えるところかなと思う。
どれもちょっと楽しくて哀しくて同じ国じゃなくても分かる。女性は辛いことがたくさんあるってこと。
読書会の課題に推薦しようと思う。
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なんというか・・・今まで読んだことのない生活の物語で、これがリアルなものなのかどうかさえ、私には分からない。ただ、乾いた大地の中に根を張ったような芯のある文章や描写から、きっと現実にとても近いものなんだろうなと感じる。翻訳の力もとても大きいと思う。もっとこの国に生きる人たちを知ってみたいし、登場するもう一方の国であるアメリカの文学も気になった。
どの話もおもしろかった。「先週の月曜日に」のラストは不穏な予感に満ちていて、「なにかが首のまわりに」「結婚の世話人」ではナイジェリアとアメリカが描かれる。故郷であり出ていきたい国と、夢と挫折のある国。
宗教について印象的な部分もしばしばあった。
「われわれを宗教へ導くものは死後世界についての自信のなさだ。」
「今回だけ。来週はあなたの教会にわたしが行くから」
「神が人格であるという考えは捨てるべきだよ。」
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もう一度読み返したくなる作品。読み返すごとに新しい発見がありそうだから。ちなみに著者のインタビュートークもすごく良かった。TEDトーク「男も女もみんなフェミニストでなきゃ」
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これぞ読書の醍醐味、という体験。わたしにはまだまだ知らない世界がたくさんあるという気づき、読み進めるごとに心に出来る引っ掻き傷。
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あまり知識のない国のことを、こんな素晴らしい物語で知ることはとても幸せなこと。どんどん言葉がやってくる。押し潰されそうになった。すごい。
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いままで知らずに過ごしてきたことを後悔。膂力の強い、共鳴する、親和性のある。アフリカと聞いただけで及び腰になってしまいがちな壁を軽やかに越えられた。ぐんぐん読めた。人間はどこにいても、人間なんだ。TEDトークも見てみよう。
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初めての衝撃を、たくさん受けた。黒人作家の本をもしかしたらこれまで読んだことがないのかもしれないし、そしてその日常的なことや当たり前なこと、文化をさらっと当たり前に書いていることが一つひとつショッキングで驚きだった。もちろんナイジェリアに住む人々にとっては普通のことなのに。あまりにも自分が何も知らないんだと大いなる自覚をしたし、違う目で今まで見ていたんだとショックを受けた。
面白い!という印象ではないけど、グイグイ読み進めてしまう新鮮さがあった。新しい文学体験。
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かく言う自分ももう20年以上生きているわけで、多少なりとも世界のことも分かったつもりでいました。しかしこの小説を読んで、自分はいかに何も分かっていなかったのか、と思い知らされた気がしました。
この本の著者はチママンダ・ンゴズィアディーチェという、ナイジェリア出身の女性。そんな彼女の感性で描かれた短編が、12編収録されています。
彼女の短編は目に見えない暴力をすくい取り、自分の中にある偏見や思い込みに静かに訴えかけます。まず一つは先進国の人間が持つ、アフリカへのステレオタイプな偏見。
二週間ほど前、書店の店頭で、アフリカはもう援助の対象ではなく、投資の対象である、と帯に書かれている本を見ました。そのときは「なるほどな」と思ったのですが、この中に書かれている小説を読んで、自分は心の底では、そんなことは全く考えていないことに気づきました。
表題作「何かが首のまわりに」でアメリカの大学に通うことになった、ナイジェリア出身の主人公に対し、他の学生は興味津々で、
「アフリカにはちゃんとした家があるの?」だとか「アメリカに来るまでに車を見たことはあった?」
といった質問をします。
そうした質問に対し、主人公は怒ることもなく微笑みます。なぜならそういう質問がくることは、すでに予想済みだったからです。
自分自身、そこまで無知でもないし、失礼なことを言うこともないとは思いますが、本質的にはこの学生たちと一緒なのだと思いました。
バラエティーの海外ロケで見るような、先住民のようなイメージのアフリカ観は、どうしても簡単には抜けません。だから、そうしたステレオタイプな見方を受ける、アフリカの人々の心情をというものを、これまで考えたこともありませんでした。
しかしこの作品集はそうしたステレオタイプに対し、怒りをほとんど見せません。透明感ある繊細な描写で、そうしたステレオタイプがあるという事実を。
そしてそうした偏見に対しての違和を、ただ丁寧に切り取ります。
それがより、社会に埋め込まれた偏見の残酷さを浮かび上がらせているような気がします。
おそらくステレオタイプな見方が当たり前になりすぎている現状に対して、怒りの感情を文章に織り込むことすら、著者はバカらしく感じたのではないか、と自分は思いました。
だからこそ著者は怒りで反抗するのではなく、染み入るような語り口で、事実を積み上げることで、読者の理解を誘うような作品にしたのではないでしょうか。
そして著者は次にジェンダーや家族観についても切り込みます。最近でこそ男女平等という言葉が叫ばれ始めましたが、現実的なところ日本はまだまだだと言われています。
しかし、アフリカの女性を取り巻く環境も厳しいです。生活のため、恋愛感情でもなく、養ってくれる男性と結婚する女性たち。でもそれは一方で、男性の庇護下に完全に置かれるということでもあり。
他にも一夫多妻的な考え方であったり、女性は養われるもので働くべきではないという考え方、長男がなによりも優先される環境、さらには性的な搾取……
そうしたものに対しても、作中の主人公たちはほとんど怒りを露わにすることは、無かったように思います。
これも先ほどのアフリカへのステレオタイプと同じように、丁寧にただそうした思考があるという事実と、それに対する違和を丁寧に繊細に切り取ります。
自分は男であるため、女性側から見たジェンダーの問題には、どうしてもうとくなりがちですし、おそらく気づいていないことも多々あるのでしょう。
この中にあるような露骨なジェンダー感は、減りつつあると思いますが、でも未だに日本にも残るステレオタイプな見方と、それに縛られる女性の存在というのも、考えさせられました。
そして三つ目が価値観の押しつけ。特に印象深い短編は「結婚の世話人」と「がんこな歴史家」
「結婚の世話人」では、アメリカ人の元に嫁ぐことになったナイジェリア女性が主人公。
これまでの食文化や言語に対し、いちいち矯正されるばかりか、名前すらアメリカ人には言いづらいから、という理由でそのうち慣れると言われ、変えさせられます。
その裏には、アフリカ文化への侮りと、自分たちの文化への絶対感、そして「”アフリカの女”を養ってやっている」という傲慢さが透けて見えるような気がします。
「がんこな歴史家」は今後のため息子に英語を話させようと、教会に母子が訪れる場面があるのですが、それを機に息子が西洋的な考え方になり、母親と距離が生まれていくのが、印象的でした。
価値観の押しつけがある一方で、自分たちはアフリカの現状をニュースなどで”知ったつもり”になっているという”無理解”にも、この短編集で気づかされます。
暴動に巻き込まれ、姉とはぐれた女性を描く「ひそかな経験」では、暴動に巻き込まれた現在の状況と、カットバックで無事家にたどり着いてからの、女性のその後のことが描かれます。
そのカットバックのところだったと思うのですが、ラジオニュースで暴動で死傷者がでましたと流れます。
でもその死傷者は、ニュースになる頃には数字でしかないわけで、
デモが起こった事実と、死傷者の数字に対しどういう悲劇や物語があったのか、ということはそぎ落とされています。
しかしこの小説では、その数字と事実の物語と悲劇を描き、この二つの事実の乖離を浮かび上がらせます。
その場におらずニュースを聞いて”わかったつもり”になっていた自分にとっては、これもまた衝撃を受けた短編です。
そして無理解ということにおいては「アメリカ大使館」が最も衝撃を受けたかも知れません。
夫がジャーナリストのため、政府軍の兵士から襲撃を受け息子を亡くした女性が、国外へ逃れるためビザを発行してくれるアメリカ大使館に行くのですが……
大使館の中の冷房の効いた部屋で、その人物が嘘をついていないかだけに注意を払う外交官たち。
一方で政情不安な国から脱出するため、熱い中、日陰も無いところで数時間。
ビザが発行されるどころか、そもそも外交官と会える保障もないのに、並び続ける人々。
さらに主人公の女性は自分の話���するとき、決して泣き過ぎないようにと釘を刺されます。なぜなら泣き過ぎると、嘘くさく見えてビザが発行されないかもしれないからです。
残酷なまでに埋めようのない大使館と、人々の距離を、そうした描写で伝えることもすごいのですが、彼女の最後の選択を読んだときも、また衝撃的でした。
”悲劇があるという事実を知っている”だけで、”事実の意味を深く考えたことのない”自分がそこにはいました。
自分の中にあった凝り固まった価値観や無理解。それに対しこの小説は静かに丁寧に、見えない暴力や思考を掬い上げ示すことで、解きほぐそうとします。
それは、汚れていることにすら気づかずにいた泉が、ゆっくりと浄化されていくような。
そして浄化されることで「この泉ってこんなに汚れていたのか」と今更気づくような。そんな感覚を自分は覚えました。
数年前にどこかで「アフリカ文学が今熱い!」的なことを聞いたような気がします。
(アフリカ文学やアフリカ文化と一括りにするのも、この本を読んだ後ではためらわれるのですが、とりあえず便宜上……)
そしてようやく読むことができたわけですが、今までの自分の価値観では、決して気づけなかったことを、この一冊でたくさん感じることができたような気がします。
事実やノンフィクションはもちろん重要です。でも、小説や文学の力、そしてフィクションも想像力もそれに決して劣るものではないと思います。
こうした小説が、より広い世界に羽ばたくことをただただ祈ります。
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フェミニストでありユーモアあふれるスピーチをTedでした彼女の作品をずっと読みたいと思っていた。
ナイジェリアのラゴスという街は度々内乱や暴動が起きたりして世界でも治安の悪い場所らしい。
日本の常識とは違う、腐敗した公的機関だったり警察だったりが人々の生活を支配している。
国は信じられない。
魔術師や占い師がまだ信じられているような場所もある。
ボビー・オロゴンがナイジェリア出身だという事と、彼がバカの振りをした聡明な人ということを思い出した。
ボビーも兄弟が36人くらいいて、お母さんは第6夫人で、とかの環境で育ってて、フェミニストから見たら卒倒するような世界なのかも、と思う。
アフリカは発展が物凄いから、こんな状況は長くは続かないか、現在は状況は違うかもしれないけど、アフリカについて知らない事ばかりで面白かった。
正しいンゴッツイの発音はンゴのところでクリック音が入るらしいという知識をブリジットジョーンズの一番新しい映画でやってた。何度練習しても自分には無理だった。
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短編集10編
黒人,女性という弱い立場からあるがままに考え感じ表現している.(ただ,どちらかというと富裕層ではあるが)その繊細で観察力の鋭い目で短いながらも適切に切り取った表現にはたくさんの想いが込められている.後半の表題作,「アメリカ大使館」「震え」がよかった.
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アフリカナイジェリアに出自を持つ著者が描く、性差、文化、世代間の違いによる摩擦。
それらは違う舞台でありながらも、
私たちが日常で出会うモヤモヤとしたズレとそう変わりはない。
自分の中のステレオタイプなアフリカへの偏見に気付かされるとともに、この世界の“今”に私たちは共感する。
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アフリカとアメリカ、ジェンダーなどの意識しないと目に見えない、故に根深い隔たりが色彩溢れた文体で描かれている。著者の感性とそれを表現するセンスを感じる。