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ベートーヴェンの愛弟子
著者 かげはら史帆
時は19 世紀初頭 。 巨匠ベートーヴェンと同じ町に生まれ、弟子としてその背中を追い、ショパンやリストに先駆けたロマン派の旗手として新時代を切り拓いた音楽家がいた――その...
ベートーヴェンの愛弟子
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ベートーヴェンの愛弟子 フェルディナント・リースの数奇なる運命
商品説明
時は19 世紀初頭 。 巨匠ベートーヴェンと同じ町に生まれ、弟子としてその背中を追い、ショパンやリストに先駆けたロマン派の旗手として新時代を切り拓いた音楽家がいた――その名はフェルディナント・リース(1784~1838)。
古典派からロマン派へ、娯楽から芸術へ、あるいは宮廷から市民社会へ――
音楽史のターニングポイントに生きた音楽家の波乱の生涯を いきいきと描き出す!
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紙の本
人生の階梯Die Lebensstufen と人生の航海Lebensfahrt
2020/07/16 15:33
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:kapa - この投稿者のレビュー一覧を見る
この本のカバーに使われた絵画は、ドイツのロマン主義絵画を代表するカスパー・ダーヴィト・フリードリヒCaspar David Friedrich(1774-1840)のDie Lebensstufen (1834)『人生の階梯』である。 また、カバー裏面には主人公であるフェルディナント・リース(1784-1838)の声楽作品『人生の航海』Lebensfahrtの歌詞が掲載されている。まさに彼の波乱万丈の人生を要約している芸術作品であることがわかるという趣向のデザインで、センスの良さに感服した。
今年は、ベートーヴェン生誕250年記念【BTHVN2020】の年。本書タイトルにあるように、ベートーヴェンの愛弟子ではあるが、リースの音楽が紹介される動きは見られない。リースは、ベートーヴェンの生涯のエピソードの関係者として、また、伝記作成者の一人として登場することがおおく、その生涯・音楽作品は等閑視されてきたといってよい。
著者は、同じベートーヴェンの関係者の一人、秘書アントン・シンドラーを扱った『ベートーヴェン捏造 - 名プロデューサーは嘘をつく』(柏書房、2018)を上梓されている。ベートーヴェンの会話帳を自分に都合よく改竄・捏造したシンドラーの内面の苦悩にまで踏み込んだ心理的描写で、ミステリー小説的な面白さがあった。
本書は2作目となるベートーヴェン関係者に光を当てた著作。前作同様リースの内面の葛藤、家族愛、ライヴァルとの確執などにも触れて、Wikipedia的伝記とは違った、人間味あふれる伝記である。愛弟子は若い頃の短い時期で、以後は自力でキャリアを築き上げてきた音楽家ということを再認識させられた。4度も戦禍に巻き込まれ、また、徴兵されそうになったこと、ウィーンを離れ大陸を駆け巡る旅の連続、ロンドンでの成功、そして栄光の故郷ラインへの帰還、と多くの「航海」によりいくつもの「階梯」を昇りつめたことがわかる。
リースの時代は、音楽史上音楽を取り巻くミリューが大きく変化した時期、古典派からロマン派へ、貴族の楽しみから新興市民の芸術へ、あるいは宮廷から市民社会へと変化した時期に「階梯」を昇り、ロマン派のショパンやリストに先駆けて音楽の新時代を切り開いた音楽家であった。
本書で知ったリースの革新性がいくつかあった。愛弟子といわれながら、師とは異なり、「主題労作」という難しい手法ではなく、主題の周辺にいかにBrilliantなキラキラしたパッセージを盛り込むか、新しい旋律や変則的リズムを使って雰囲気を変えるか、サプライズな転調など聴衆を飽きさせない工夫を重視している。
その典型例がピアノ協奏曲で、ピアノ演奏技巧を見せるカデンツァが全曲に散りばめられたような協奏曲となっている。ピアノ協奏曲第3番Op.55は、師の協奏曲より半音高い嬰ハ短調で、後のショパンの協奏曲などの「短調ピアノ協奏曲」ブームの先駆けとなった作品。
ロンドン時代1815年のピアノ作品に「40の長調と短調の前奏曲」Op.60がある。後にショパンが24の調性を使う全調作品「24の前奏曲」を書くが、先立つこと1815年にリースと同時代の作曲家フンメルが「24の前奏曲」Op.67を書いている。音楽史上この作品が全調「24の前奏曲」となるのだが、ショパン以後の作品のように「性格的小品集」ではなく、別の曲の頭に付ける短い前奏曲集であった。では、リースはどうか楽譜を調べたところ、使われた調性は16と残念ながら全調作品ではなく、ショパンに先駆ける性格的小品集でもなく、フンメル型の作品であった。
愛弟子であり、音楽の革新性を開拓しながら「忘れられた作曲家」となってしまったが、音楽史上「ベートヴェン」は一人で十分という厳しい歴史のルールなのだろう。