紙の本
流石、面白い
2021/08/28 22:11
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投稿者:ふみちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
「素粒子」「プラットフォーム」の作者、ミシェル・ウエルベックの作品、この作品で彼はゴングール賞を受賞している、ジェドという芸術家がミシュランの地図を写真に撮るという風変わりな作品で一躍時の人なり、画家に転身して「職業」シリーズでの確固たる地位を固めるまでの半生を描いたものだと思って読んでいると(もちろんそこまでの話も面白い)、突然、作家自身が登場し、しかも惨殺されるという顛末を迎えてさらに面白くなっていく。別にその犯人捜しが主力になることもなく(一癖ある警視は登場するが)、ジェドの老後までが描かれていく。もちろん、作家自身は現実世界では惨殺されず作家活動を続けている、どうも「服従」という作品が面白そうだ、次はそれを読もう
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投稿者:TORA - この投稿者のレビュー一覧を見る
作品独特の雰囲気が支配していて、
たぶんこの作風が好きなひとはいるんだろうなーとは思うけど
私は、読んでいて楽しい気分になるものではなく、
あまり好きではない。
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ウエルベックが2010年に発表した長編小説。本作でウエルベックはゴンクール賞を受賞している。
著者本人が作中に登場する小説は数多くあるが、猟奇殺人の被害者になっているインパクトはなかなか凄い。作中のウエルベックはやや奇矯な人物として描かれており、どちらかというと影が薄いタイプの主人公と対比している。
先頃、河出書房新社から文庫化された『プラットフォーム』の主人公との共通点でもあると思うのだが、本作の主人公も周囲の状況に流されやすいタイプで、自分の経済的な成功や、作品に対する評価、それに伴う名声……そういったものを何処か他人事のように眺めている気がする。特にこの『他人事感』は本作の方が強い。
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資本主義社会の消費にまつわるポスト・モダニズムとその周辺。消費に関して、ウィリアム・モリスについて言及している箇所があり、消費のサイクルのその後にまで批評の射程があるのは鋭いなと思いました。
本文中で主人公の作品を解説している箇所については、芸術を言葉で語る空虚なのか、文章ゆえに作品として凄さが見えてこないため、高値で取引されたと言われてもそんな大したものじゃ無さそうだがと思いながら読むのですが、それにインスパイアされた系として具現化したのが文庫本の表紙の写真だそうです。これに関しては沈黙せざるを得えない。
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表紙には、この小説を参照した展覧会「漂流 on the flow - ミシェル・ウエルベック『地図と領土』と写真と -」のために川島崇志さんが制作した写真が使われています。
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これまで読んだウェルベックの作品の中で最も面白かった。芸術(あるいは表現)とは何かということが恐らく本作のテーマではないかと思うのだが、出てくる芸術というものが奇想天外で惹きこまれた。更に、作者自身が登場人物として、ある意味芸術の犠牲になってしまうというつくりも斬新だと思う。
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架空の芸術家の一生を描いたウェルベックのゴンクール賞受賞作。架空の図録とか、架空の美術展を描いた小説はいくつかあるが、ここまで壮大に「架空の近代芸術」を描く(予言する、というべきか?)とは度肝を抜かれた。さらにウェルベックが惨殺されるという驚天動地の展開で警察小説テイストも加わり、ボリュームたっぷり。ウェルベック特有のあからさまなセックス描写は必要最小限で控えめ…かなぁ。
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死体のインスタレーションもまたアートワーク。
大きく切り閉じられた森の私有地がタイムマシンとなり、世界の変容から隔絶された孤独なアーティストを未来に連れてゆくのだった。
ウェルベックらしい皮肉な書きぶりと物語が好きなら好きになるだろう。こんなふうに日本の衰退を書いてくれる作家がいれば読んでみたい。
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アーティストのジェドの一生の話。世界そのものを表現するために「工業製品の写真」→「ミシュランの地図の拡大写真」→「職業人の肖像画」と表現が変遷していくが、ジェドその人は、単なる鏡としての人なのか、空虚で、情熱のようなものがあまり伺えないように見えた。晩年の圧倒的な諦念・孤独の中で制作された作品群にようやくエモーション、想いのようなものが感じられたような気がする。とかいって、すべて芸術作品を文章で読まされているわけですが。エビローグの、寂寞さがすごいのと、ウェルベックのテーマがてんこ盛りなのが、なんだか微笑ましい気持ちにさせられた。でも、自分の人生における交友関係も先細りだし、最後はこんな状態になるのかな、なんて思ったり。
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2012年頃、壊疽を起こしつつも自己増殖をやめない市場経済とその中での生活に倦んでウィリアム・モリス社会主義を標榜した。同時期に発行された、作中で度々モリスに触れるウエルベックの『地図と領土』。漠として抱き続けているこの気鬱さの実体が、ものすごく精緻に暴かれたような。圧倒された。
『服従』におけるユイスマンスや、この『地図と領土』におけるモリスなど、ウエルベックが作中で重要なモチーフとして取り上げるものと、自分がそれらに興味を持つ時期が全くかぶっていることに何か不思議さと、不健康な誇りを感じる。
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初ウェルベック。
主人公の芸術家についての詳細な描写が多いので興味を持って調べたら、架空の人物、作品の題名もモチーフも全部架空だったのね。
位置付けを知らないまま読み始め、どういう方向性になるのか戸惑っていたら、第3章で急展開を見せるし…
現代のフランス社会と芸術に詳しければ、この本に出てくる人物やメディアの意味とニュアンスについて、作者の感覚と同じものを持てたのかもしれない。
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芸術と資本主義とアーティストの描くきれいな世界の終わりの話。人間と機械と芸術。
自分を自分が描く小説の中に描き出して自分を殺して、自分の死を誰かの(自分の描き出した架空の人間を)世界の終わりの思想の礎に仕立て上げたたストーリーが素晴らしかった。現実の世界と、現実の著者、そして架空の人間の架空の芸術、架空の芸術が評価されていく中に現実の著者が存在し、そしてその著者により影響を受けた芸術がまた成長してひとつの形になっていく。現実の中に架空の美があって、ページをめくり読み進めていくうちに、架空の美が本当に存在するもののような気持ちになっていく。
文中にはものすごい量の固有名詞が登場する。この小説は「ンフィクション」だと言っても違和感がない。
そしてそのための技術がすごいというか、流れが本当に「あったこと」のようにリアリティのある描き方をしているのがすごい。自分が生み出した架空の芸術家が本当に成功するための、そして本当にそういう思想に至るための成功体験や郷愁を描く中に自分(ウェルベック自身)が意味を持って存在している。ジェドというアーティストが存在し、ジェドというアーティストの人生があり、ジェドがどのようなアートをどんな意図で描いたのか、わたしはジェドが描いた最後の作品をこの目で見たいと心底思った。
ウェルベックの他の作品同様、作品の根底にあるのはこの世界への悲しみである、人の悲しみ、朽ちていくものへ寂れていくものへの悲しみをまっすぐにみつめるまなざしである。しかし、悲しみと対極にある生への固執のようなかたちで「セックス」があまり出てこない。淡々と悲しんで美しいものを見つめているというような印象があった。あんまりひねくれていないのでウェルベックの他の作品より読みやすいような気がする。
人と人の関わりが、美しい。主人公のジェドは生涯を通して大した数の人間と関わるわけではないが、その会話の一つ一つが素晴らしかった。ウェルベック、うつくしい女性オルガ、父、そして人生の後半で、警察と。
「…愛というのは、<めったにない>ものですよ。知らなかったんですか?だれもそう教えてくれなかった?」
p.136
「格好がつくでしょう。いかにもフランス人という感じで。それに人生では何かに興味をもたなくては。生きていく助けになる」
p.152
父は最後に一度だけ、彼の人生の物語を織りなした希望と挫折をよみがえらせたのだ。概して、ひとの一生とは取るに足らないものだ。それはいくつかの限られた出来事に要約することができる。
p.241
彼にとっての人生は、この見事な完成度のアウディ・オールロードA6の車内と同様、穏やかではあるが喜びのない、完全にニュートラルなものとなるだろう。
p.286
特に高齢の父と主人公がクリスマスの晩にディナーを食べながら話し合う場面がすごく良かった。
人生は取るに足らない。一晩も語れば十分だ。そしてその一番の語らいに人生のすべての意味がある。
ところで、ウェルベックは本当にかっこいいなと思ったのは自分の殺害現場を自分の小説で「できの悪いポロックの絵画のよう」なんて書けること。自分の死を、自分の描く最高に完璧で最高に完成された人間の人生に大きな意味を与えた上で、その人間に「世界は凡庸なものです」「そしてこの殺人を犯した者は、世界の凡庸さをいっそう増大させたのです」と言わせる。かっこいい。かっこいいなあ。
全体を通して、すごい本だなっていう思い。ある島の物語と闘争領域の拡大は粗いなって印象があったけど、地図と領土はすごい。すごいけどめっちゃ長かった、すごい時間かかった。だけど長さを感じなかった。
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どこかの書評で見かけて読んでみた。個人的には、残念ながら的に入らず。
文学的な描写なのか、細かい説明が多くて話の筋が通ってないからか、どうも苦手な感じ。
現代のフランスが舞台、主人公はアーティストで、最初は写真で評価され、続いては絵画に挑戦する。写真展の名前がタイトルに。
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ミシェル・ウェルベック「地図と領土」
今何かと話題のミシェル・ウェルベック、ついに手に取ってみた。結論、猛烈に面白い。以下、微妙にネタバレを含む。
母親を自殺で亡くした内向的な青年が写真、さらには絵に打ち込む。その才能を見出すのは手練れの「芸術のプロフェッショナル」たち。ミシュランの広報という絵にかいたような業界エリートである美女との恋をきっかけに作品にはいつのまにかすさまじい高額がオファーされ、主人公は目もくらむような高みに導かれていく。
テーマはずばり「芸術に値段をつけられるか」。著者のビジネス視点がいかにも正確で、通俗的な「金儲け悪徳論」とは一線を画す。そしてそれ故になおさら個人の感性がマーケティングされていくことへの違和感も同時にあぶりだされる。文章のあちこちに「当然知っているよね」的な小ネタ(実在の芸術家やらフランスの有名なニュースキャスターやら)が飛び出す中、作者本人(「超有名作家のウェルベック氏」)が登場してきてからのミステリーも強烈。
「親の愛を知らない内向的な青年が精密で写実的なものに引かれ黙々と筆写するうちいつのまにかビジネスとして成功し、理想の女性と出会う。そして最後にもっと孤独になる」というプロットについて、村上春樹の「トニー滝谷」を思い出す人もいるだろう。
偶然なのか、作家の間で何らかのインスパイアがあったのか(発表は村上が先)、そもそもある種古典的なモチーフなのかは分からない。
割と寡作な作家だが、少なくとも数冊和訳が出版されている。ウェルベック、全部読むぞ確定。
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作風と職業を大きく変動させた芸術家と、彼の家族・友人・恋人とのエピソードに主題を置いた作品。しかし、彼の生き方同様に小説も途中からいきなり怒涛の方向転換をとりだす(文庫版の帯と背表紙のあらすじは絶対に先に読んではいけない)。
自分同様、この作品の終わり方に不満を持っている人はミステリ小説としての回答を求めてしまった人かもしれない。