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ヴァイオリン職人と消えた北欧楽器
イタリアのクレモナに住む名ヴァイオリン職人のジャンニは、国際ヴァイオリン製作学校の講師でもある。20年前の教え子であるノルウェー人のリカルドが学校で講演を行い、その夜に殺...
ヴァイオリン職人と消えた北欧楽器
ヴァイオリン職人と消えた北欧楽器 (創元推理文庫)
商品説明
イタリアのクレモナに住む名ヴァイオリン職人のジャンニは、国際ヴァイオリン製作学校の講師でもある。20年前の教え子であるノルウェー人のリカルドが学校で講演を行い、その夜に殺害されてしまう。そして彼が持っていた、ヴァイオリンに似た楽器ハルダンゲル・フィドルが消えていた。犯人はなぜ、さしたる値打ちもない楽器を奪ったのか? ジャンニは捜査を進める友人の刑事グァスタフェステと恋人のマルゲリータとともに、リカルドの葬儀に参列するためノルウェーへ旅立つ。だが新たな殺人事件が……。人気シリーズの日本オリジナル最新作!
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紙の本
ミステリー・推理小説に求められる「再現力」
2020/07/24 11:21
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投稿者:kapa - この投稿者のレビュー一覧を見る
ヴァイオリンの名職人にして名探偵でもあるジャンニ・シリーズの3作目。5年ぶりの新作。日本の愛読者のために書き下ろしたオリジナル作品とのこと。
ヴァイオリンを扱うミステリーや推理小説は、主役でもあるヴァイオリンが名器でなければならない。そうなると、「ストラディヴァリウス」。しかし現存するストラディヴァリウスは約520挺もあり、別の付加価値が必要となる。第1作は幻の『メシアの姉妹』、第2作はパガニーニ愛用の名器『大砲』た。しかしこのプロトにも数的な限界がある。
今回はストラディヴァリウスではなくノルウェー民族楽器でヴァイオリンに似た楽器ハルダンゲル・フィドルが主人公。前作で知り合い恋人となったマルゲリータと第1作からの相棒で息子のような友人の刑事アントニオの3人の「チーム・ジャンニ」が、ノルウェーにまで遠征しての謎解きツァー(とアントニオとノルウェ-女性のロマンス)である。ただ、歴史的な価値があるものではないが、『ペール・ギュント』を想起させる悲しい秘話が隠されていた。
エピソード的にヴァイオリンの名器、グァルネリ・デル・ジェズが登場する。現存数が少なく取引額はストラディヴァリウス以上になることもあり、しかもノルウェー初の国際的スターで『ペール・ギュント』のモデルとされるヴァイオリニスト・作曲家オーレ・ブルOle Bull(1810-1880)が使っていた、という由緒ある名器。チーム・ジャンニは本筋の事件の流れの中で、この名器の盗難事件に巻き込まれるが、こちらも見事に解決。民族楽器はジャンニの専門外、ジャンニとヴァイオリンはセットなのである。今後のシリーズを予感させるプロトではなかろうか?
ミステリー・推理小説の面白さには、ストーリーは重要であるが、事件の書割である「情景の描写」というのも重要な要素である。ノルウェーに行ったことがない読者のために、街・自然・天候などを現前に再現できないと、物語の現実感がなくなってしまう。筆者がノルウェーを舞台設定にしたのは、行ったことがなかったからという理由かもしれないが、冬の破天荒やフィヨルドの光景などその再現力・筆致力には驚くばかりである(もちろん訳のすばらしさもある)。また、アントニオは高い物価への不満を口にするが、おそらく著者の取材の実体験からきているのだろう。
ヴァイオリンのミステリーは、名器と来歴という2つの条件を満たすヴァイオリンでなければならないので、作品は少ないように思う。蔵書の2冊の紹介。
ジョン・ハーシー著『アントニエッタ、愛の響き』(1993)55歳で恋に落ちたストラディヴァリウスが恋人のためにつくり上げ、《アントニエッタ》と名づけられた畢生の名器 (もちろん架空)を巡って繰り広げられる物語。実在の大音楽家も登場し、《アントニエッタ》が彼らの人生を変えていく300年にわたる愉快で感動的な愛と冒険の物語。
このプロトは、映画『レッド・ヴァイオリン』(1998)と似ている。出産で妻子を失った悲しみから、ある職人が死んだ妻の血を調合したニスで仕上げた伝説の名器“レッド・ヴァイオリン”をめぐり、17世紀イタリアからオーストリア、イギリス、文化革命時代の中国、そして現代のカナダまで、時空を超えたヴァイオリンと人々の数奇な運命がミステリアスに描かれる。
クリスティアン・ミュラー著『謎のヴァイオリン』(1999)主人公はもと麻薬犯罪捜査官。退職後に身につけたヴァイオリン鑑定の知識と技術で世に認められた変わった経歴の人物。元はドイツの作曲家で名ヴァイオリン奏者であったルイ・シュポア(1784-1859)のグァルネリを巡って繰り広げるハードボイルド風のミステリー小説。