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スカイシティの秘密 (創元推理文庫 翼のない少年アズの冒険)
著者 ジェイ・エイモリー (著),金原 瑞人 (訳),圷 香織 (訳)
地上での大災害の後、生存者たちは上空にそびえたつ巨大な柱の上にいくつもの都市を建設し、天使のような翼をもつ姿に進化した。だが、天空人の世界を支える地上からの物資の供給シス...
スカイシティの秘密 (創元推理文庫 翼のない少年アズの冒険)
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商品説明
地上での大災害の後、生存者たちは上空にそびえたつ巨大な柱の上にいくつもの都市を建設し、天使のような翼をもつ姿に進化した。だが、天空人の世界を支える地上からの物資の供給システムが妨害されているらしい。スカイシティの一大事を調査する使命を帯びて地上に派遣されたのは、生まれつき翼のない少年アズだった。天空と地上、ふたつの世界の相克を描く冒険ファンタジー。【「BOOK」データベースの商品解説】
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スピーディーな展開が楽しい冒険ファンタジー
2008/09/16 00:42
7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:佐吉 - この投稿者のレビュー一覧を見る
未曾有の大災害によって地表はすべて汚染され、生き残った人々は地上を捨て、上空数千メートルの雲の上に、巨大な柱によって支えられたスカイシティと呼ばれる都市郡を建設した。そしてそこに暮らす人々は、やがて天使のような翼を持ち、自由に空を飛べる天空人(エアボーン)へと進化していった。
平和で豊かな天空人の暮らし。しかしそれは、見捨てたはずの大地から供給される資源や燃料によって支えられていた。けれど満ち足りた生活に慣れてしまった天空人たちのほとんどは、いつしかそれらが機械によって自動的に運ばれてくるものと思うようになっていた。
そんな矢先、何者かの妨害によって物資の供給が滞り始めた。放っておけばスカイシティの存亡にも関わりかねない危急の事態だ。地上でいったい何が起きているのか。スカイシティの統治者にそれを調査すべく選ばれたのは、天空人でありながら生まれつき翼を持たない少年アズだった。生来社会的弱者として扱われてきたアズの身体的特徴が、すでに絶滅したとされている地上人(グラウンドリング)に酷似しているというのがその理由だった。そうしてアズは、天空人の誰一人降り立ったことのない地上に向かうエレベーターに乗り込んだ……。
と、導入部をざっと紹介しただけでも、この作品がとてもわかりやすいメタファーで構成された、寓意に満ちた物語であることがうかがえるだろう。ご想像どおり、地上人は絶滅などしておらず、地上に降りたアズは、そこでさまざまな人間のさまざまな思惑が交錯する騒動に巻き込まれる。聖職者に侵入者として追われ、巨大化したねずみのような動物に襲われ、キャタピラで動く重量50トンもの大型探索機とトラックによるカー(?)チェイスがあり、重要拠点をめぐっての攻防があり、善玉と悪役との一騎討ちがあり……と、あまりネタバレになってもいけないのでこれくらいにしておくが、とにかく冒険活劇の要素がてんこ盛りで、本書は、テンポの良い展開とも相まって400ページ余りの物語を一気に読ませる。
もっとも、本書はヤングアダルト作品というよりジュブナイルに近く、純粋に小説として楽しもうという大人の読者には、あるいは物足りないと感じられるかもしれない。人物造形や物語世界には厚みがなく、展開にもやや一本調子なところがある。しかしちょっと見方を変えて、これをアニメ映画の原作と仮定してみると、本作は俄然面白みを増してくる。実を云うと評者は、この作品を読みながらずっと、いわゆる宮崎アニメの絵柄でそれぞれの場面を思い描いていた。するとこれが驚くほどぴたりとはまるのである。
はらはらどきどきの活劇シーンはもとより、神々の住む天上界を思わせるスカイシティの風景、対照的に薄暗く雑然とした地上の様子、そしてそこに住む貧しくも力強く生きる生活者たち、見るからに気のよさそうなアズの仲間たちに、逆にその容姿にさえ高慢さと悪意がにじみ出ている悪役たち。また登場人物の一人と見紛うばかりに活躍するくだんの探索機や、どこかスチームパンクを連想させるレトロな機械設備など、意匠のことごとくが宮崎アニメ的なイメージを喚起してやまない。
強いてスタジオジブリでとは云わないが、この作品がすぐれた監督と演出家の手によってアニメ化されたなら、きっと難しい話は抜きにして二時間たっぷり楽しませてくれる痛快な冒険映画になることだろう。そういう見方をすれば、本書もなかなかどうして捨てたものではない。なお、本作ではもっぱら脇役たちの活躍が目立ち、肝心のアズからは今ひとつ主人公らしい存在感が伝わってこなかったが、本書はシリーズものの第一作であると聞いている。本書の続編以降に、アズ自身の存在意義が問われる展開があるのではないかと、評者は内心ちょっと期待している。