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- カテゴリ:一般
- 発行年月:2009.10
- 出版社: 白水社
- サイズ:20cm/158p
- 利用対象:一般
- ISBN:978-4-560-09005-3
紙の本
悲しみを聴く石 (EXLIBRIS)
女は、もはや意識もなくただ横たわるだけの夫に、初めて愛おしさを覚える。そして、自分の哀しみ、疼き、悦びを語って聞かせる。男は、ただ黙ってそれを聞き、時に、何も見ていないそ...
悲しみを聴く石 (EXLIBRIS)
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商品説明
女は、もはや意識もなくただ横たわるだけの夫に、初めて愛おしさを覚える。そして、自分の哀しみ、疼き、悦びを語って聞かせる。男は、ただ黙ってそれを聞き、時に、何も見ていないその目が、妻の裏切りを目撃する。密室で繰り広げられる、ある夫婦の愛憎劇。アフガン亡命作家による“ゴンクール賞”受賞作。【「BOOK」データベースの商品解説】
【ゴンクール賞(2008年)】戦場から植物状態となって戻った夫に、初めて愛おしさを覚えた妻は自分の哀しみ、疼き、喜びを語って聞かせる。男はただ黙ってそれを聞き…。密室で繰り広げられる、ある夫婦の愛憎劇。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
アティーク・ラヒーミー
- 略歴
- 〈アティーク・ラヒーミー〉1962年アフガニスタン生まれ。84年フランスに亡命。ソルボンヌ大学で映画学の博士号取得。映像作家・小説家。小説「灰と土」を自身で映画化し、カンヌ映画祭で「ある視点賞」を受賞した。
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紙の本
アフガニスタンが舞台の密室劇
2010/09/04 12:29
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ぱやぴす - この投稿者のレビュー一覧を見る
100年以上の歴史があるフランスで最も権威のある文学賞ゴンクール賞受賞作品。
愛憎が渦巻く緊迫感ある心理ドラマ。
紙の本
瞠目すべき小説
2019/12/10 21:47
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:岩井 清隆 - この投稿者のレビュー一覧を見る
アフガニスタン国籍のイラン系の作家が、フランス語で書いた作品。フランスの有名な文学賞であるゴンクール賞を受賞したらしいが、そのことが充分に納得できる素晴らしい作品だった。
戦場となった街の廃屋で、どうやら戦闘によって傷つき植物人間状態になった夫を介抱する妻の視点から淡々と物語が語られる。最期の最後でちょっとしたオチのようなものがあるけれど、この作品の素晴らしさはそんなオチや悲惨なアフガニスタンの国情にあるのではなく、語られる言葉の強度にこそある。
作者のラヒーミーは、サミュエル・ベケットとマルグリット・デュラスに影響を受けたらしいが、確かにのこ二人の作風と似ていないとは言えない静謐なムードを醸し出しているが、一方でこの二人を含めて誰にも似ていない独自性のある作品に仕上がっている。比喩を余り用いることなく、比較的短い文章で淡々と語り続ける語り口で、書かれた言葉を読んでいるだけで小説(言葉)を読むことの素晴らしさを感じさせてくれる。
いわゆる越境作家に類する作家なので、今後作品を書き続ければノーベル文学賞も夢ではないと感じさせてくれた作家、作品だった。
紙の本
研ぎ澄まされた言葉による密室劇。告白とその逡巡
2010/10/28 16:02
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:K・I - この投稿者のレビュー一覧を見る
エクス・リブリスシリーズの小説をまた読んでみました。
『悲しみを聴く石』。
訳者はみすず書房から出ていた『ラヴェル』の訳者でもある詩人の関口涼子さんです。
夫が部屋に横たわっている。その側に妻がいる。
まるで舞台の戯曲を読んでいるような雰囲気でした。
研ぎ澄まされた必要最低限の言葉と描写。
舞台や映画にしてもいいかもしれないとも思えました。
舞台は「植物状態」の夫がいる家だけです。
そこをカメラがずっととらえているように書かれている。
作者は映像作家でもあるみたいでそういう書き方というのは、あるいは映像をとるという行為から影響を受けているかもしれないとも思いました。
短い長編小説といった感じですが、中身は濃いです。
それに重い。
でもこういう小説を日本に紹介するということは意味あることだと思います。
海外小説に興味のある方はぜひ読んでみてください。
紙の本
アフガニスタンからの亡命作家が仏文学界で高く評価され、ゴンクール賞に輝いた小説。男性支配社会で性的抑圧を受けた妻が投げ込まれた、植物状態の夫との息詰まる空間。隠しつづけていた秘密の独白。
2010/01/14 12:54
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:中村びわ - この投稿者のレビュー一覧を見る
これから世界的にどう評価されていくのか期待の作家アティーク・ラヒーミーの邦訳第2作目『悲しみを聴く石』は、「ちょっと、かすっちゃったかな」というのが正直な感想だ。
デビュー作『灰と土』が素晴らしい作品だった(古いリンクに紹介文を投稿)。耳が不自由な子どもの存在に、アフガニスタンという国家の受難を象徴させていた。ある一家の悲劇と国家の悲劇の交錯を、読む者の脳裡に映像的に喚起させる力のある傑作だったと思う。
どうしても、その完成度と比べてしまうのだが、『悲しみを聴く石』は特異な設定にぎこちなさが感じられ、「書かずにはいられない」作家の衝動よりは、「書かなければなるまい」必要性の方が前に出てきてしまった気がした。どことなく創作実験のような絞り込んだ構成や成り行きが、読み手の感情を沼のようなところに溜め込ませ、淀ませたまま終わりまで行き着かせてしまうのである。
内容自体、戦禍に見舞われた町の、打ち捨てられたような家、そこでの閉塞的な内面に付き合わなくてはならないものだということもある。それに加え、実験的なものを読まされている感がつきまとい、小説的現実を否が応にも体験させられる従順の喜びを奪ってしまうのだ。
本作はフランスでゴンクール賞という大きな賞に輝いたという。帯にも、デュラス、サルトル、ベケット、ヘミングウェイといった小説家が想起される「稀有の小説」という仏雑誌の紹介文があった。
何より『悲しみを聴く石』という題がいい。詩的なのである。人が自分の悲しみをとつとつと語りかけると、それを静かに吸い取り、いやしをもたらしてくれる不思議な石があるのだろうと想像され、それをめぐるどういう話なのかという期待を誘う。ペルシア神話にそのような石のことが書かれているそう。人の代わりに人の悲しみや不幸を飲み込むので、ある時こなごなに砕けてしまう。もうさんざん悲しみを聴いてきたものだから、とうに砕けてしまったのではないか。だから、この世にこれほどまでに悲しみや不幸があふれているのではないか、などとも考えてしまう。
題だけでなく、表紙全体が物憂げで惹かれる。これが石灰山鉱山の発破の瞬間に偶然飛んでいた鳥の姿を捉えた畠山直哉氏「A BIRD」からの一葉だと思うと、尚さらだ。石が砕け散る――世の中には、そういう被写体を追いつづけている写真家もいるのである。
読み始めると、なるほど最初の方はデュラスを思わせる情況描写である。部屋、空気、窓、カーテン、そしてそこにいる男女の様子が芝居のト書きのように簡潔な文体で、表紙の通り物憂さを従え徐々に明らかにされていく。
女性は祈りの言葉を唱えながら、夫の介護をしている。点滴だけで生き永らされている意識や反応のない肉体と成り果てた夫を……。部屋の外には、小さな子どもたちがいるが、信仰のために祈りつづけなければならないので、面倒は十分に見切れない。夫に寄り添っているので、呼吸の回数で一日の時間を計れるぐらい、彼女の体は夫の体に近しいものとなっている。
その状態がいつまでつづくのか見当もつかないことに、女性の精神状態は徐々に乱されていく。やがて、彼女は反応のない夫に向かい、夫婦の間で隠しつづけてきた秘密を語り出す。
極端な男性支配社会の下で、女性がどのような性的抑圧を受けオブセッションを抱いているのかが告白されていくことになる。彼女自身の秘密だけではなく、心の支えとしてきた叔母のむごい体験も明かされていき、夫婦生活はどうであったのか、夫婦の回りにどういう家族関係があったのか、夫がなぜ植物状態に陥ったのかも分かってくる。
さらに、家の外の銃撃戦で死者が日常的に出ている様子も織り交ぜられ、訪問者との関わりで意外な展開も生じてくる。
複数の男女の性的抑圧、性的オブセッションが幾重にも表現されていく先に、「支配/被支配」の形骸化という問題が見えてくる。抑圧する側の立場にある男性たちが、その地位を保つために「見せかけだけでも力を誇示していなければならない」という悲劇が、男性支配社会のひとつの男女関係の形で描かれている。
最後には衝撃的な出来事があるのだが、それはすべて女性の幻視のようにも捉えられる。本当のところは何が起きているのかが分からない、どこまでが女性の幻視なのかが判然としないという書き方で、「支配/被支配」がどこまで現実的なのかが分からないことをほのめかしているのだろうか。
また、次のような記述には宗教の形骸化も匂わされている。地区の信者を集めたイスラム教の礼拝での説教である。
「信者たちよ、私が日頃から話しているように、水曜日は、我々預言者のハディースによれば、もっとも高貴な日であり、この日は血を流すことも流させることもふさわしくない。しかしながら、イブン・ユーメスの記録したハディースには、ジハードの際には例外が許されることになっている。今日、あなた方の導き手である、偉大なる指導者がかあなた方に武器を手渡されているのです。(以下略)」(P35)
信仰や聖戦が、人の魂の救済のためのものではなく、戦争やテロの動機づけとして働いているのである。「本来はこうあるべきなのだ」という元々の規範が、表向きだけは形を維持しながら現実のなかで崩壊していく。宗教の救済も、国のあり方も、男女の交わりも、家族の相互関係も……。
アフガニスタンからフランスへ亡命した作家が書こうと意図したのは、抑圧されながらも個性を持つ女性の姿だけではなく、究極のところ、そういった「体制や関係の形骸化」なのかもしれない。しかし、性的抑圧に翻弄される一女性の内面にあまりにも絞り込んだ小説が、どうもそこまでの広がりを十分に感じさせてくれなかった。そのことを残念に思う。
紙の本
静と動の対比が美しい
2015/06/04 21:34
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:アトレーユ - この投稿者のレビュー一覧を見る
外で繰り広げられる戦闘と、中で語られる静けさ。それは無風無音といっていいくらい、静謐な主人公の一人語り。その主人公の罪悪感から生み出される狂気の世界。こういう静かな小説、好きだな。ストーリー展開はもっと掘り下げたらいいのに…と思ってしまう流れだが。