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- カテゴリ:一般
- 発売日:2009/03/01
- 出版社: 白水社
- サイズ:20cm/169p
- 利用対象:一般
- ISBN:978-4-560-09225-5
紙の本
やんごとなき読者
英国女王エリザベス二世、読書にハマる。おかげで公務はうわの空、側近たちは大あわて。「本は想像力の起爆装置です」イギリスで30万部のベストセラー小説。【「BOOK」データベ...
やんごとなき読者
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商品説明
英国女王エリザベス二世、読書にハマる。おかげで公務はうわの空、側近たちは大あわて。「本は想像力の起爆装置です」イギリスで30万部のベストセラー小説。【「BOOK」データベースの商品解説】
英国女王エリザベス二世、読書にハマる。おかげで公務はうわの空、側近たちは大あわて。やがて女王はみずから文章を書くようになり…。皮肉なユーモアとウィットたっぷりの「読書小説」。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
アラン・ベネット
- 略歴
- 〈アラン・ベネット〉1934年イギリス生まれ。オックスフォード大学で学ぶ。劇作家、脚本家、俳優、小説家。数多くの演劇、テレビ、ラジオ、映画の脚本を執筆。トニー賞等、受賞多数。
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紙の本
「自分の声」を見つけた女王陛下
2009/04/26 18:34
9人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:abraxas - この投稿者のレビュー一覧を見る
ここに来てG・P・ウッドハウスのジーヴス物が相次いでシリーズ化されるなど、イギリスユーモア小説の売れ行きが好調だが、これもその系譜に連なる「傑作」と言っていいだろう。イギリスではベストセラーと聞くが、それもそのはず、なんと主人公が女王陛下なのだ。
愛犬のせいで宮殿に移動図書館が来ていることを知った女王は儀礼上一冊借りることにした。それをきっかけに読書の魅力に取り憑かれた女王は、それまでは義務ではあってもそれなりに興味を感じながら務めてきた公務にさっぱり熱が入らなくなってしまう。服装や装身具にも以前ほど気を使わなくなり、週のうちに同じ物を二度着たりする。これまでなかった事態に周囲の者から、アルツハイマーではないかと疑われる始末。
どこへ行くにも本のお供がなくてはかなわず、車の中でもページの間に鼻先を突っ込んでばかり。本のことで頭がいっぱいだから、それまで無難にこなしてきた臣民との会話でも「今、何を読んでいますか?」などと口走ってしまう。本などめったに読まない人々はとまどいを覚え、側近はうろたえる。本の話ばかり持ち出す女王と、それについていけず、次第に女王の読書への反感を募らせる首相や個人秘書とのやりとりを風刺的に描くことで、本を読むという行為がいかに非英国的であるかということをあぶり出してみせる。
知的であること、かならずしも価値ではないというのがイギリス人気質。本を読むより、戸外でスポーツや狩りに興じるのが王室をはじめイギリス上流階級の伝統らしい。そういえば、ダイアナ妃の死に際して、バッキンガム宮殿に半旗を掲げなかったことに起因する王室バッシングの騒ぎを描いた映画『クィーン』の中で、ヘレン・ミレン演ずるエリザベス女王や夫君の公爵、皇太子は、騒ぎの真っ最中バルモラル城外の山中で鹿狩りをしていたものだ。
その一方で、これは大真面目な「読書の勧め」の本でもある。それまで本に興味を持っていなかった人間が、水先案内人に導かれながら次第に本の大海に乗り出していく、その心のときめきと興奮がみずみずしく描き出されている。はじめは自分のよく知っている世界を描いた本から入り、読む力がつくにつれ、自分の知らない世界へと進んでいく。バーネットからプルーストに至る書名や作家名の変遷が女王の変化、成長を物語る仕掛けだ。
秘書は「本は他人を排除する」からよくないと諫めるが、女王は本を読むようになってからのほうが、今までは気にもとめなかった周囲の人の感情が分かるようになり、人に優しくなっていると感じる。それと同時に「自分には声がない」ことにも思い至る。ダイアナ妃の死後、感情を公にするように求められることが増えた女王は読書ノートにこう綴る。「シェイクスピアはいつも理解できるわけではないが、コーディーリアの『私には心のうちを口に出すことができません』という心情はすぐにもうなずける。彼女の苦境は私のものでもある」と。
最後には周囲の声を聞き入れ、読書三昧の暮らしを捨て、もとの生活に戻る女王であったが、一度自分には声がないことを知ってしまった人間は、その声を求めずにはいられない。冒頭のフランス大統領を迎える大晩餐会に呼応するように、終幕に設けられた女王八十歳の誕生日を祝うお茶会において、首相をはじめ枢密顧問官を前にしての女王のスピーチには、もし女王をして自分の声を発することができるものならば、かくあらんかという結末が用意されている。
読書がいかに人間を作り、育てるかという読書の持つプラス面と、ややもすれば本に熱中するあまり実人生と没交渉になり、周囲から浮いてしまうという本好きのマイナス面を併せて描いてみせるあたりが、いかにも大人の国イギリスの小説らしい。ハリー・ポッターを読んだという話を持ち出された女王が「そう、私はあれは雨の日のためにとってあるのよ。」とそっけなく言い捨てたり、イアン・マキューアンの本が、読書に夢中で遊んでもらえなくなった愛犬のコーギー達の腹いせでぐちゃぐちゃに噛みしだかれたり、と英文学好きならにんまりさせられるような逸話もたっぷり用意されている。
紙の本
本好きにとっては必読の一冊。ひょんなことから読書に耽るようになったエリザベス2世。イギリス的滑稽さとユーモアに溢れているところも楽しい。何より読書という行為を擁護しているところが全体に滲み出てる一冊。微笑ましいラストには思わずニンマリせざるをえません。
2009/06/19 21:08
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:トラキチ - この投稿者のレビュー一覧を見る
市川恵里訳。
ひょんなことから読書に耽るようになったエリザベス2世を描いた作品。
エリザベス女王が本当に凄く人間臭くって身近に感じられます。
ちょっとしたきっかけでもって何かにハマって行くということ、私たち読者も読書だけでなく身に覚えがあると思います。
ましてや、本作では私たちの大好きな読書に嵌っていくのですね。
だからどうしても心の奥底からエリザベス女王に応援しながら読んでる自分がいます。
それと、多少考えさせられたのはやはり、周りから見た読書家に対する排斥的な考えがあるということですね。
これは作者の言うところのイギリス人の上流階級の国民性も出てるのですが、これは万国共通だと思います。
良い勉強になりました。
あとは、実名の作家が何人か出てきます。やはり海外作家に対する知識がある人の方が余計に身近に感じられ楽しめると思います。
たとえばヘンリー・ジェイムスの作品について詳しい人なんかは本当に羨ましく感じましたし、最近国際ブッカー賞を受賞されたアリス・マンローが出てきたときは思わずニンマリしましたよ。
実質の指南役となるノーマンと女王の秘書役を務めるニュージーランド出身のサー・ケヴィンとの対照的な考え方の違い。
これもお互いが読書フリークとアンチ読書フリークの象徴でとっても巧みに描かれています。
当然、読書におけるプラス面とマイナス面を端的に2人の行動が表しているのであるが、読者がどちらをサポートするかは一目瞭然ですよね。
これはそうですね、読者自身の読書環境を再認識する作品だとも言えますね。
いろんな制約を受けずに読める自分自身を幸せに思うべきなんでしょう。
散歩に連れて出た愛犬によって人生の価値観が変わったエリザベス女王。
移動図書館に巡り合わせてくれた愛犬が女王の人生を変えたと言っても過言ではないのですね。
たとえ、エリザベス女王のように次のステップに行かなくとも、私たち読者も本作という格好の指南書を得て次のように思った人が大半であると推測する。
“残りの人生、出来るだけ多くの本を読みたい”
80歳の女王が前向きに本と格闘している姿を見せつけられた私たち。
私達の成長に本は不可欠であると再認識しました。
あなたも是非手に取って読書意欲を駆り立てられてください。
ちょっと余談ですが、やはりイギリスでも活字離れが顕著なのでしょうかね?当然の如く、イギリス国内で売れたから海外に翻訳されたのでしょう。そう思えば本作の読書の推奨における功績は大きいと思います。
紙の本
大胆な設定の品のよいコメディ
2012/01/13 13:38
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ががんぼ - この投稿者のレビュー一覧を見る
原書の題はThe Uncommon Reader。この題のつけ方はヴァージニア・ウルフのエッセー集The Common Readerを意識したものだろう。こんなところにもこの物語の作者らしい文学の遊びが入っている。これを「やんごとなき読者」と訳したのもいかにも巧い。
そしてその「読者」とはなんと、現在の英国女王エリザベス2世のことなのだった。そういえば最近『英国王のスピーチ』という映画も公開された。こちらはエリザベス女王の父王ジョージ6世が主人公だが、既に亡くなっているとはいえ、その吃音という悩みがけっこう赤裸に描かれる。こういうことがふつうに為されているイギリスというのはつくづく面白い国だとあらためて思う。
内容的には、ひょんなことから女王が、本(文学)を読むという今までなかった営みに興味を持ち(いわば開眼し)、公務がおろそかになるのではと周囲がうろたえるほど夢中になるという話。クールな女王と慌てふためく周囲とのやりとりなど軽妙な笑いが楽しめる。
しかし読書によって女王は、今までの淡々とした、いってしまえば機械的で退屈な人生から一歩踏み込んで人間や世界の豊かさ、可能性を知るわけで、一種の成長小説ともいえる。結果として女王の心に新たに芽生えた苦さにしんみりさせられもする。文学などまるで相手にしようとしない「世間」に女王を対峙させるというのは、作者にすれば文学サイドからの反攻ののろしでもあろうか。
王族を主人公にしたこの手の話というのは、多少趣きは違うにせよ、『王子と乞食』の王子やら、ロマンチックなところでは映画の『ローマの休日』やら、苦い悲劇の形ではあるものの『リア王』やら、古くから珍しくはないが、それを今の女王にそのまま出てもらうような形でやってのけるのがすごい。
ただ個人的には、古今の文学者やら文学作品を縦横に利用した、より派手な笑いの展開を予想していた。そうしたものではなかったわけだが、思い込みが先走ってしまったために、実際の穏やかな展開はやや物足りない気がしたのも正直なところだ。おそらく英語の捻りについていけなかった場合もいろいろあっただろう。
しかし節度ある上品なホラ話でニヤリとしたい読者なら、十分に満足できる内容だろうと思う。終わりの締め方も、品格と驚きとユーモアとをしゃれた形で共存させていて見事である。