紙の本
自分で考えたことを、表現できるようになるために
2021/01/23 16:20
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:amisha - この投稿者のレビュー一覧を見る
アメリカの今、BLM、格差、教育、貧困、差別、様々なことが要因で起きる事件、事故、犯罪・・・
そして、人との出会い。
人生で著者のような「先生」に出会える確率はどれぐらいなのか。ここに書かれた記録を見て、絶望から立ち上がるために、人は何ができるのか、改めて考えさせられた。
人によって「絶望」する事象は違う。どうすれば生き直しができるのか。更生という言葉では表現できないものを感じた。教育者として教え子たちの背景に気付ける著者の能力の高さと行動力に参りました。
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よかった。貧困と犯罪の世界からどうやったら抜け出せるのか、抜け出すことは可能なのか…などと思いながら読んでいたが、中ほどからは、それよりもパトリックの豊かな読みに驚かされ嬉しくなり、読書の純粋な歓びを再確認することとなった。難を言えば、パトリックの状況は解決されたわけではないし、ここまで献身的な著者の関わりも例外的かとは思うけれど、なんにせよ、パトリックが詩を朗読したり詩を作ったりしていくシーンには幸福感と言っていいものがある。
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私は恥ずかしながらアメリカの歴史を知らない。白人の黒人への差別問題もなんとなく学生の頃に授業で触れた程度で詳しくは知らなかった。
アジア人への差別問題も、耳にすることはあっても経験もないため実感は持てないのが現実だ。
アメリカに対しては、世の中の雰囲気的にもどこか「憧れるべき国」だという印象があって、このことと繋がらないこともあるだろう。
この本を読んで1番よかったと思えるのは、今でも根付いているこの問題は、私たちが「差別はよくないよね」「差別はやめよう」と言って通じるほど単純な問題ではないのかもしれない…と言うことに気付いたことだ。
作者のミシェル・クオは台湾系のアメリカ人。その説明だけでも、改めてアメリカには本当に多くの人種が暮らしているのだということが分かる。
ハーバード大学卒業後にTeach For Americaのプログラムに参加した彼女は、アメリカ国内で最も極貧地域のひとつであるデルタ地域に教師として2年間、赴任することになる。
その時出会った生徒の1人がタイトルにも名のあるパトリックだ。
デルタのヘレナで2年を過ごし、ロースクールへ進学するために生徒たちと離れたクオだが、ある時パトリックが殺人を犯して拘置所に入っていることを知り、会いに行く決心をする。そこで拘置所での面会という形で、数年前の授業の続きを行うことになった。
クオは時には厳しくしながらも根気よく、文字の綴り方からパトリックに教えていく。黒人であるパトリックを取り巻く環境や生活の問題、私が普段生きているだけでは見えないことやわからないことがたくさん出てくるのでひとつひとつに衝撃を受ける。
単に「ハーバードを出たアジア系アメリカ人の女性が黒人の貧困層の教え子に無償でずっと教え続けた」などという簡単な言葉で済まされるような美談ではない。
著者自身の、時に迷ったり、猛省したり、もがきながらパトリックに向き合う姿は、読んでいるだけで、ものすごくエネルギーを使う。とてもしんどい本だった。読むだけでは当然理解もできていないことが悔しい。
心に響いたのは、まだ16歳のパトリックの諦めにも似た言葉だった。何となく、頭ではそういう人たちもいるとわかっていたものの、自分の生きていく先に希望を見出せないということがどういうことか、ほんの少しだけ現実のこととして感じることができたように思う。
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時代小説は、私にとってよく知った友人みたいなものだ。
スルスルと流れるように入ってくる文章は
「読む」行為そのものが楽しい。
けれど、時折好きか嫌いかわからない「読み物」も
必要なのだ。
偶然の出会いの中から、時に後々まで印象に残る
大切な本当の出会いがある。
この本は、まさしくそうだ。
初めての執筆となったミシェル・クオは
台湾からやってきた移民の夫婦の娘。
夫婦は、それこそ働きに働いて娘に教育を授けた。
英語もわからず、資格もないまま台湾から移住した夫婦には
一生懸命働き、後ろ指刺されない生活こそが
まるで教義のように第一であった。
そんなミシェルはハーバード大を卒業し、のちに
ロースクールも卒業する才媛。
少女の頃から本が大好きだったミシェルは
ミシシッピ州アーカンソーの片田舎、
そう黒人にとって未来が見えない地域へ行くことにした。
両親の希望とは違った決定だった。
そこで黒人の生活、そこに至った歴史が
昔のことではなく今のその瞬間にも
延々を続いていることを気づく。
黒人ばかりの、それも他で問題があった生徒が流れ着く学校。
そこで、パトリックという少年と出会う。
アメリカでは、今黒人が警官に殺された事件が
大きなムーブメントになっている。
日本にいてはわからない根深い問題の大きさ、深さ
まさしく、この本はそれを描いている。
字体が少々小さめで、読みにくさも否めないが
我慢して4分の1ほどを読み進めれば
あなたは、もう途中で放り投げないだろう。
機会があれば、ぜひ読んでいただきたい1冊。
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罪を犯してしまった黒人の少年と、元教師の歩んだ道のり。
拘置所での面会時に重ねられる授業。
少しずつ着実に学びを深める少年。
黒人人種差別問題についての記述も多く、その置かれる状況も奥行きを持って知る事ができる。
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「参考文献」ページに書かれている「アーカンソー州の子どもと家族を守る会」の情報によると、2013年の時点でも、黒人生徒が校内謹慎処分を受ける頻度は白人生徒の約3倍、校外謹慎処分に至っては5倍以上、黒人生徒が体罰を受ける頻度も2倍。
警官によって男性が殺害された件をきっかけに、アメリカで大きな抗議行動が起きているが、その背景を垣間見ることができる貴重な本。差別はアンクルトムや、キング牧師の時代とは形を変えて、多くの黒人の前に立ちふさがっている。アジア系から視点で書かれているこの本は入門編として最適。また、学ぶこと、本を読むこと、立場を越えて人と人がつながること、そうした大切さも教えてくれる。
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著者・ミシェルは米国生まれの台湾系アメリカ人。両親が台湾からの移民である。ハーバード大学を卒業後、南部アーカンソー州の学校で英語を教える。その学校は公立学校だが、州内で最低のレベルの学校だった。生徒は全員黒人で、卒業できる生徒はわずかしかいなかった。そこでパトリックと出会う。学校をさぼりがちなパトリックだったが、才能を表す。周囲の生徒からも一目置かれるようになる。だが、ミシェルが学校を辞め弁護士資格の勉強をしているとき、パトリックが友人を殺し刑務所に入っていることを知る。面会に行ったミシェルは、パトリックの学力的な変わりようにショックを受け、毎日のように面会に行き二人きりの読書会をする。
米国の抱える深い人種問題。ちょうど今、米国では白人警官が無抵抗の黒人を殺してしまったことから、国中で差別撤廃のデモが続いていいる。まさに、この本に出てくる世界だった。ミシェルは、自分がずっとその学校にいたとしても事態が変わっていたとは限らない事は知っている。それでも少し悔やむ。パトリックは出所後、前科があることでなりたい職業につけない。それでも、家族に囲まれ少しづつ前に進む。わずかな希望を読者に与える。
訳者は、たぶんこだわりを持って「ライオンと魔女と衣装だんす」と訳したのだと思うが、「ライオンと魔女」のほうが良かったのでは。確かに原題には「衣装だんす」までついているのだが、日本人には「ライオンと魔女」がナルニア国だと思っていると思う。訳者のこだわりがわからない。
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ーむしろ私は信じなくてはならないのだ。
あるとき、ある場所でふたりの人間が互いに
大きな影響を与えあえるということを。
そう、信じなければいけない。
それこそが、世界を変える。
いや、それしか世界を変える方法はない。
そう思える希望の本。
アメリカの最下層に生きるパトリック。
救おうとする作者。
ブルデューの「ディスタンクシオン」によれば、人生は、置かれている環境によってほぼ決まっている。
であるならば、一介の教師が生徒を救うことはできないのか?
置かれた環境に抗って、抜け出せる程の影響を与えることはできないのか?
この本を読むと、たった一人の生徒を、一生かけてケアしても、救うことは難しいと分かる。
たった一人を、だ。
一生かけても、だ。
それでも、信じて行動する。
それしかないのだ。
たった一人の隣人を救おうとすることの尊さを感じた、そんな忘れ得ない読者体験だった。
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とても静かで美しい文章。ひとつひとつの文が、撒いた水が土に染み込むように、身体に入ってくるようだった。
黒人の歴史が横糸となり、自身の将来への希望と不安、家族等との関係を交えた選択が縦糸となって織られていく。そこへパトリックの物語が絡んで立体的な織物となり、時には調和し、時には解れ、ひとつの作品になっていった。
著者が多くの本を読んでいたこと、とくに詩に親しんでいたことが、そういった文章に表れているのだと思う。
目に浮かぶのは、子供たちと車でミシシッピ川にかかるヘレナ橋を渡る場面。大きな川を越えることは、将来への明るい希望を表しているようでもあり、一方で立ちはだかるとてもとても大きな困難を表しているようにも感じた。
車内に満ちる静寂は、純粋に感じる川の大きさと美しさ、抑圧からの開放、そして心の奥底にある、将来訪れるであろう抑圧に対する達観なのではないか。
アーカンソー州を例として、黒人のおかれた状況はとても厳しい。小学生にして、将来を諦める状況をしり、諦めてしまわざるを得ない描写は、読んでいて辛い。それでも少しだけでも希望はたしかにある。いくつかの芽はある。
私自身は大きなことはできないけれど、できることをやっていかなければ、と思う。
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作者の方にあまり自分の意志を感じられませんでした。
自分でちゃんと自分の人生を選択しているようには見えなかったです。
この本が初めての著書ということもあるのでしょうが、あまり読む手が進みませんでした。
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貧困や犯罪、教育の遅れなどの悪循環から逃げることができない生徒たちを本を通して変えようとする。
分厚めの本であるが読みやすい文章で数日で読んでしまった。
教育を受けられる幸せを実感すると共に、人間の愚かさも考えさせられる。
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著者とかつての教え子パトリックが「読書」を通して、他社理解、自己理解を深めていく記録である。
著者が文中において引用される文献から、彼女の膨大な読書量や知力が垣間見れる。また、強い信念と行動力には頭が下がるが、彼女を突き動かしているものは、アジア系アメリカ人という出自にヒントがある。
黒人差別だけでなく、黄色人種の差別もさらりと触れており、アメリカにおける人種差別の根深い問題を軸に、著者は他者理解の難しさ、理想と現実のギャップを綺麗事を並べることなく、素直に語っている。
唯一救われるのは、静かな環境とたくさんの本、大人の少しの導きがあれば知的成長は誰にでも約束されるということを証明してくれていること。
しかしながら、「読書」によりパトリックは最終的に救われたのか。NOでもYESでもない。現実は厳しい。でも諦めてはいけない。
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この本をオススメしたい人の顔が何人も浮かんだ。
→https://blog.goo.ne.jp/mkdiechi/e/ed3c3ba8133198fb7351674813aade9a
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面白かった。感動した。勉強になった。考えさせられた。読書から得られるものがほとんどすべて得られる、すごい本だった。図書館予約で2ヶ月ほど待たされた。書評で知った内容を忘れて、まっさらな状態だったので、中盤で起きる重要な出来事には心底驚いた。結果として感動が深まったから、待たされてラッキーだった。あまりにも素晴らしかったので、これから読む人のため、絶対にネタバレをしたくない。結果としてなにも具体的なことを書けない。酷いレビュー(笑)。パトリックは本を読んで大事なものを手に入れた。この本を読む私たちも同じだ。
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「本」つながり。「本」を介したコミュニケーション②
内容:拘置所を訪ねてともに本を読むことで、貧困からくる悪循環にあえぐ青年の心に寄り添おうとする。