紙の本
希望を”人”へ
2016/03/02 21:01
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投稿者:MR北海道 - この投稿者のレビュー一覧を見る
以下の文章は、過去に自分が読書感想文を書いた時に思ったことです。
一九四五年、国同士の不信用によって勃発した第二次世界大戦が幕を閉じた。確かに、国家としては、戦争を終結させたのかもしれないが、多くの人々は、敗戦国、勝戦国に関わらず、劣悪な生活環境という敵と戦争することになった。
作中に、牧場の主が牧場の外にいる先住民の黒人を「黒い連中」と呼んでいる場面がある。「外の人」などと呼べばいいものを、あえて「黒い」と付けているところから、まだ人種差別が根強く残っていることが窺える。そんな時代の中で一人の少年の孤独から始まる、希望を掴み取るための戦争を描いている。
戦後七〇年を迎えた今年、日本がどう復興していったのかということはよく聞くが、他の国の話は聞くことは余り無かった。この物語を読んで、戦後のイギリスやオーストラリアを学ぶとともに、「希望」とは何かを考えさせられた。
第一の主人公、アーサーは、幼い頃に孤児として、オーストラリアに送られた。その中で唯一の頼れる人であった姉のキティと離れてしまった。友人もいなかった。劣悪な環境の中、いじめも受けていた。もし、自分がその環境に立たされていたら間違いなく、人生がどうでもよくなり、投げ出してしまうだろう。でも、そんな中でもアーサーの希望はつなぎとめられていた。
それは、マーティが側にいてくれていたからだ。マーティは、どんなに理不尽な仕打ちを受けようとも、希望を捨てず、強い信念を持っていた。誰もが希望を捨てている状況下で、信念を貫き、希望を持っている人は、その人こそが人々の希望になる。逆に、そのマーティから希望が失われた時、アーサーから希望が失われた。そして、そのマーティの希望は自らの死をもってアーサーに受け継がれて、娘のアリーの希望の的となったように思える。
一口に、壮大な航海を成し遂げたといっても、それは過酷を極めたものであっただろう。海の上の孤独、そして過酷。これは幼い頃のアーサーと何も変わらない。違ったのは、キティの発見という希望と、亡き父への希望があった点だ。
それに対し、キティも何十年もの間、希望を捨てることなく生きてきたのであろう。弟が鍵を持って来ると信じて。
もし、アーサーやアリーが孤独だったら、どうなったのだろうか。鍵は昔の思い出として心の片隅に留めておくだけになっていただろう。それなのに希望を持てたのは、孤独の中、手を差し伸べてくれた人に希望があったからに違いない。
希望を持つ人は、他の人へも希望を与えるのだと改めて、この本を読んで気付かされた。アーサーやアリーのように、受け取った希望は、自分次第で他の人へと広げて行くことができる。
私も時々、希望を見失うことがある。でも、そんな時こそ、希望を少しでも持たなければ、物事は前へ、良い方向へ進まない。それは、戦後辛い生活、医療現場、そして日常生活など全てに言えるのではないだろうか。
日頃、私は希望を受け取ってばかりいる。そして、まだ自分が他人に譲れない精神は何かという答えを見つけられていない。だから人を支えるには、まだ脆い柱だろう。これからは、その精神を見つけ、他の人に希望を与える人間になりたい。それが、希望をくれた人の意思を無駄にしない一番の方法だと思う。
紙の本
大人に振り回される子供たち
2016/01/24 03:25
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投稿者:Todoslo - この投稿者のレビュー一覧を見る
第2次大戦後オーストラリアでは白人の労働者が不足していた。イギリスには戦災孤児があふれていた。その結果多くの子供たちが過酷な運命に巻き込まれてしまう。大人が勝手に始めた戦争こそが悪だと、強い憤りを感じる1冊だ。
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イギリスからオーストラリアへ、身寄りのない子どもたちが強制的に移住させられた。アーサーは10才にもならないのに、姉のキティから引き離され、たった一人で移民船に乗せられてしまう。過酷な船旅の中で、アーサーはマーティーと出会い希望を見いだすが、到着したオーストラリアで始った暮らしは、まさに地獄の日々だった…。
イギリスとオーストラリアの知られざる歴史に驚く。とても過酷な話だが、タイトルのとおり、明るい希望が物語を包んでいるところは、さすがモーパーゴといえるでしょう。
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戦火の馬の作者でなかったら手を出さなかっただろう。ほかに何か読んだかなぁ?~第1部<アーサー・ホブハウスの物語>アーサーは孤児だった。キティという姉がいて,別れるときに小さな鍵を貰ったのを覚えているが,今では姉自体が想像の産物かもしれないと思っている。イギリスから他の孤児同様に船に乗せられ,船酔いで吐く度に仲間から非道い扱いを受けたが,首謀者のウェス・スナーキーを5歳年長のマーティーが殴り倒してから,アーティーが保護者となった。オーストラリアに着くとグループ分けされ,バスで辿り着いたクーパーズ農場で,主・ブタ・ベーコンから奴隷のような扱いを受けた。マーティーが,そしてウェスが鞭打たれ,一番の被害者はウェスでハンガーストライキの後,仲良しの馬・ビッグ・ブラック・ジャックに乗って脱出したが,首の骨を折って戻ってきた。妻のアイダは当初,夫に逆らえなかったが,子供らの肩を持つようになり,猟銃を夫に向けて,寮に火を付けようとしたが失敗した。その晩,僕とマーティーはビッグ・ブラック・ジャックに乗って逃げ出した。途中で黒い人々に拾われ,数日を過ごして置いてきぼりにされたが,それは野生の有袋類を保護して野性に帰しているメグズおばさんの牧場だった。7年を過ごしたぼくらは,メグズおばさんの知り合いであるフレディ・ドッズの小さな造船所に勤め始め,船のこと,海のことを学んだ。しかし,酷い不況を乗り切るために,ドッズは造船所に放火し,誤って警察がマーティーを捕らえると,堪らず自首していった。マーティーは荒れ,酒に酔って海に落ち死んだ。造船の仕事は見つからず,マグロ船に乗って多くの美しいマグロたちが殺されるのに嫌気がさし,海軍に入って駆逐艦乗りになったが,オーストラリアはベトナム戦争に参戦し,見えない所から北ベトナム兵士を殺している事に嫌気がさして除隊した。オーストラリア中を放浪し,最後に気が付いた時には,タスマニアの精神病院に強制入院させられた。人間扱いしてくれる看護婦・ジータに身の上話をする内に回復し,退院すると,造船業を営むジータのクレタ島から来た父に認められ,船の設計を任され,ジータと結婚して,アリーという娘を得た。アリーは造船所で職人たちと育ち,ヨットレースに出ては優勝してくる生まれながらの船乗りだった。幸運の鍵・キティの話をすると,ヨットでイギリスに帰って,キティを探す夢を持つに至ったが,僕の脳に腫瘍ができて,治療はできず,自分の物語をアリーに口述して残すことが精一杯だった。第2部<キティ4号の冒険>父アーサーが決して沈むことのないヨットを残してくれた。GPSも自動操舵装置も衛星電話もパソコンもある。16歳のアリーは父の遺志を継いで,東回りでホーン岬を迂回し,イギリスへ行くルートを選択した。嵐に何度もあって何度も転覆したが,キティ4号は立ち直った。ISSのクルーとも国際電話で話をし,メールで近況を送って,HPも更新して,じいちゃんの造船所の宣伝も十分以上にできたが,一番の支えは,一緒に来たアホウドリ。大西洋を北上する際,出し放しの釣り糸を手繰ると,心の支えを引き摺って殺していた。ただただ北上したが,間もなくイギリスが見える場所で嵐に遭い,転覆して復元する際に,腕を折ってしまった。自分で応急処置をしたが,誰かが落としたコンテナで舵を壊され,救助隊に助けを求めた。列車でロンドンに向かう際,オーストラリアから波を探して放浪しているマイケルと意気投合したが,ISSのメンバーだった博士が,テレビでキティ探しを呼びかけ,カナダに住む伯母と会うことが叶った。父に渡した小さな鍵は,ロンドン橋落ちたのオルゴールの螺子巻きだったのだ~ マイケルの話は必要だったのだろうか。帰りはどうしたのだろう? ま,蛇足になりそうだが。戦争で人口が減少した旧イギリス領植民地と本国との間で,戦争孤児を中心とした児童植民が当人たちの意思を無視して行われていた
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心が折れたとき、それを立て直すきっかけや、時間は人それぞれ。
中には折れたまま、立ち直れない人もいる。
誰かが必要なんだ。
自分だけではどうしようもなくなった時、誰かがいてくれることがきっかけになる。
でも、その誰かが、またいなくなったら。
今度はどうやってその折れた心を立て直せばいいんだろう。
新しい出会いが、またあるのかしら。
それまで、耐えることはできるのかしら。
大切な人に囲まれて、最期を迎えることができるかしら。
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今年の高校生向け課題図書
イギリスからオーストラリアへ児童の移民政策があったんだね
知らないことばかりで訳者の後書きがとても参考になった
過酷な状況で生き抜いたアーサー
死後、奇跡が
大海をヨットキティ一号で一人航海する娘の様子がすごい
《 広い海 アホウドリだけ 見守って 》
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青少年読書感想文コンクール高等学校の部の課題図書。
『児童移民』
聞きなれない言葉です。
第二次世界大戦後、戦災孤児が増えて経済的な負担が増大してしまったイギリスと、アジア系移民を排除するために白人の移民を増やす必要があったオーストラリアの間で、実際に行われていた政策です。
第一部は6~7歳の頃、姉のキティから引き離されてオーストラリアに送られたアーサー・ホブハウスが主人公。
45歳を超えてようやく家族を持つまでの間、彼は運命の波に翻弄されるように、職を転々とします。
10~20歳くらいまでのほんのひと時幸せだったこともありますが、彼の人生は苦難と苦痛の連続です。
何よりもつらいのは、自分が何者であるのかの確信を持てないこと。
年を経るごとに、姉は本当にいたのだろうか。自分の想像の産物なのではないかと自分を疑います。
そして、姉が「幸運の鍵」と言って渡してくれた鍵も、本当は何ものでもないただの鍵なのではないかと。
でも、自分に過去があるとしたら、それが唯一の手がかりになるのです。
いつか、イギリスへわたって姉のキティを探すこと。
それがアーサーの生きる支えでした。
第二部はアーサーの娘アリーが、たった一人で亡き父(アーサー)手づくりのヨットを操って、イギリスまで伯母のキティを探しに行く話。
第二部については、児童文学ということで子どもの共感を得やすい人物を持ってきたのでしょう。
個人的にはアーサーの物語に絞ってもらいたかったところですが。
アリーはたった一人でオーストラリアからイギリスへ後悔しますが、メールのやり取りやGPSなどで常に世界とつながっています。
ここら辺に子どもたちはリアリティを感じるのかもしれませんね。
“最近の世の中は、大半がベトナム戦争を知らない世代になってしまった。そこから学ぶことができずにいるうちに、戦争は歴史的事実になって、すぐに忘れ去られてしまう。だからこそ次々に戦争が起きてきたのだし、今でも常に戦争が起きている。だが、実際に戦場で戦った人間は、決して戦争を忘れない。”
“戦場の日々のことは記憶に残っている。あざやかすぎるほどに生々しく残っている。しかし、思い返したくはない。文字につづりたくもない。それでも、あのベトナム戦争が起きなかったふりをしてやり過ごすことなどできやしない。戦争の最中にあそこにいなかったかのようになど、戦争に加わっていなかったふりなどできない。ほこりに思っているからではなく、その逆だ。”
第二次世界大戦のある意味被害者だったアーサーは、魚の命を奪うのが嫌で漁船を降りることにしたアーサーは、それでも海が好きで水兵になり、ベトナム戦争へ行くことになります。
戦争で、人間の命を奪うことに加担してしまったのです。
歴史小説としても、反戦小説としても、成長の物語としても、冒険の物語としても読むことができます。
高校生向きにしては読みやすすぎる気がしますが、あとがきも含めて、読む価値のある本だと思います。
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オーストラリア関連じゃなかったら読んでいなかったかも
前半は、戦争関連もあって、とにかくしんどい
物語のスピードも後半の流れが早くてあれ?って感じだし
しかし、読んでみて良かったと思えます
フィクション?分からなくなるほどのリアル感
もし本当にアリーがいたら、リアルタイムで応援したかったかも
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161017読了。
どこかで紹介されているのをみて図書館で借りました。
戦争孤児の男の子がオーストラリアに移民させられ、さまざまな境遇の中で生きていく話と、彼の亡きあと、娘が彼の生き別れの姉を探すために航海をする話。
イギリス・オーストラリア両政府によって行われた“児童移民”が実在のものとは思わず、少し驚きました。
彼の人生が語られる中で何人かの死別がありますが、なんというか、あまり悲観的でない、この物語には底無しの絶望はありませんでした。
ドイツ児童文学だったら、読者もたっぷり不幸を味わうのに、なんて思ったりして(笑)
その悲観的でない感じが、私には薄味に思えてしまったのかも。
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きちんとした自分の出生地も誕生日も、肉親の記憶さえあいまいなアーサー・ボブハウスは、6歳の頃、大勢の子どもたちとともにイギリスからオーストラリアに送られた。彼らは孤児なので、そこで家族に引き取られるのだという。ところが行った先は牧場で、そこの寮に入れられた途端にドアには鍵がかけられた。引き取られたのではなく、奴隷として所有されたのだ。
数々の苦難の末、本当の家族を手に入れることができたアーサーの生涯と、その後彼の肉親(彼の姉キティ)探しの使命を引き継いだ娘アリーの冒険を描く二部作。
モーパーゴは、イギリス・オーストラリア間で行われた児童移民の実話をもとにこの話を創作した、とありますが、児童移民の話は前半アーサーの生涯にしか語られていません。
後半は、娘アリーの航海記です。
そこには、航海そのものの話とともに、インターネットやテレビといったメディアがどんなに世界中に影響力を持っているかがこれでもかと語られています。
例えば、海から見える空に光っているものの正体は国際宇宙ステーション(ISS)で、孫娘がそこと連絡を取りたいと言えば、事業家の祖父はすぐさまNASAと連絡を取って、クルーが彼女に電話やメールをくれるとか、アーサーの記憶におぼろげながら存在していた姉キティを探すときには、ネットで呼びかけ、また、ISSクルーが地球に降り立った時、テレビに向かって彼女の伯母探しへの協力を呼びかけるとか。
301ページほどの短い物語に二つの話を盛り込んだので仕方ないのでしょうが、テンコ盛りで浅い印象を受けます。
翻訳ものの場合、タイトルのつけ方で印象がガラッと変わってしまう場合が少なくないのですが、この作品も該当すると感じます。
原題は、Alone on a Wide Wide Sea。これならわかります。
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この本は、第1部と第2部に分かれて主人公が違います。
第1部は綺麗な表紙に反して、重くて過酷な物語が続いて、何度か読むのをやめようかと思ってしまいました。
でも嫌な気持ちにモヤモヤしながらも目が離せないまま、明るさを取り戻した先で第2部が始まって、そこからはスピード感もあり最後気持ちよく読み終えることが出来ました。
あとこれは是非、訳者あとがきも読んでほしいです。物語の時代背景や、アーサーがどういう境遇に立たされていたのかも解説してくれているので、そこまで読んでやっとどういう物語だったのが胸に落ちました。
こんな事実があったことに、とてもびっくりしました。
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イギリスとオーストラリアの間で、かつて行われていた児童移民。実話をもとに描かれている。
主人公・アーサーが、過酷な人生を生きて幸せになる物語が前半。後半は娘・アリーの話になる。
アーサーを助ける女性たちの物語としても読める。ミセス・ベーコン、メグズおばさん、そしてジータ、アリー。そして最初に鍵を渡した姉・キティ。
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唐突に年齢も明らかではない少年が登場し、まとめて船に乗せられ遠い国に送られるところから話が始まります。幼さや辛い出来事によって記憶が曖昧なまま、祖国から流出させられたアーサーにとっては、自身の記憶の端緒は「登場」としか捉えられないのでしょう。
これが児童移民で国同士の政策として行われていたなんて知らなかった。壮絶な体験と暖かな日々、親子二代に渡る大河小説のようでした。
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知らなかった児童移民政策。
どの時代でも、弱いものが虐げられる。
久々のモーパーゴさんの作品に、ドキドキしながら読了。ハッピーエンドが現実の当事者の方々にも訪れていてほしい。
人との出会いってすごく、大事。