紙の本
家族の物語の中に創作者の熱を感じる一作
2023/07/25 15:31
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投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
西條奈加さんは2021年に『心淋し川』で第164回直木賞を受賞、
この『曲亭の家』は2021年4月に直木賞受賞後の第一作として注目を集めた作品。
受賞作『心淋し川』が時代小説であったが、
こちらは『南総里見八犬伝』を書いた曲亭馬琴の息子に嫁いだ
お路(みち)という女性の生涯を描いた歴史小説。
曲亭馬琴のことは滝沢馬琴として記憶していて、
最初この小説のタイトルの意味がわからなかった。
日本文学に詳しい人なら、そのあたりのことがすぐにわかっただろうし、
馬琴が晩年目を患い、お路が馬琴の口述を記したとは有名だという。
お路の生涯が創作者馬琴の生きざまと重なるところがあって、
西條さんはそこに自身の創作者としての決意みたいなものを
散りばめている。
読み物や絵画といった生活に関わりのないものを何故人は求めるのかと、お路に考えさせ、
それは「心に効くから」と悟らさせる。
これはおそらく西條さんの思いだろう。
家族の話、夫婦の話でありながら、
創作者としての思いを随所にちりばめたこの作品こそ、
大きな賞を手にしたあとの西條奈加さんの強い眼差しを感じる。
紙の本
お路あってこそ大作が!
2023/01/28 23:01
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投稿者:エムチャン - この投稿者のレビュー一覧を見る
「息子亡き後も、婚家にいてくれた、ろくに字も書けなかった息子の嫁に、字を教えつつ口述筆記させて、南総里見八犬伝が完成した」とは聞いていたのですが……。その息子の嫁のお路さんの物語。本当にご苦労されたのですね……お路さん。馬琴も夫もヒドイ人ばかり。
紙の本
悲喜交々
2022/07/17 16:57
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投稿者:るう - この投稿者のレビュー一覧を見る
滝沢馬琴の息子に嫁いだお路の悪戦苦闘の物語。
台風や低気圧と同居するような困難だらけの家庭生活。
こじらせた夫の早世、面倒な姑、暴風のような舅…それでも生きていくし、生きていける。
そして頑張り屋のお路にとって最大の悲しみが…
人生を生き切った女の一代記。
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偏屈な舅に小言ばかりの姑、癇癪持ちの夫、その3人とも多病だなんて自分なら堪えられない…お路さん本当に辛抱強い
その当時は必死すぎて分からなくても、自分にしか出来ないことをやり遂げたとまわりからの声で気づいた時どれほど幸せだったろう
苦労の多い人生でも本人にとっての幸せはきっとある、見つけられるはず!
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舅の馬琴を始め、とんでもなく傲慢・我儘・癇癪持ちで、とんでもなく面倒な家に嫁ついだお路の半生。なんでこんな家に嫁いでしまったのだろうと思う環境の中、大変な苦労をしながらも、人に馴染み、与えられた役割を見いだし、小さな楽しみや幸せをみつけ、たくましく生きたお路に、勇気をもらった。
苦労が多いからと言って、不幸せとは限らない。
幸せはそもそも小さいもので、似たような日々の中に小さな楽しみを見つける。
人の幸不幸はおしなべて帳尻が合うようにできている。
私もこれから先、苦労や悲しみが襲ってくると思う。その時に、この作品を思いだし、少しでもお路みたいに歯をくいしばって生きれたらなと思う。自信はないけれど・・・(笑)
でも、幸せを見過ごさないで生きていきたいなと思わせてくれる作品でした。
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「人の幸不幸はおしなべて帳尻が合うようにできている。」の言葉が胸にくる。日々の暮らしの中笑顔を見せて生きて行くように努めたいと思う。
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曲亭馬琴とその息子の宗伯、そして息子の嫁さんの路の生涯、路の苦難の人生、なかなか含蓄のある物語、その他知った人物も出て読み易かった。最後に"人の幸不幸はおしなべて帳尻が合うようになっている"は名言だ。感動した!
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『心淋し川』で直木賞を受賞した西條さんの受賞後第一作(書き下ろし)。タイトル通り、曲亭(滝沢)馬琴の息子に嫁いだお路を主人公にした作品だ。前半と後半でガラリと印象が変わる。前半は家内のあらゆることを仕切る舅や気の利かない姑、癇癪持ちの夫への憤りなどで胸が塞ぐが、後半はいかにして晩年の馬琴を支え『八犬伝』を完結させたかが描かれていく。数々の悲嘆を乗り越え、日常の些細なことに幸せを感じるお路の姿に自分を重ね、先の見えない今を生きる勇気をもらった。
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「南総里見八犬伝」を著したことで有名な、曲亭馬琴(滝沢馬琴)の息子に嫁いだ、お路(みち)の生涯。
人気戯作者の息子と、我が娘との縁談!とややミーハーな両親は舞い上がり、馬琴のせっかち(実は占いに従ったともいう)も手伝って、見合いから約半月で結婚した。
しかし、夫・宗伯(そうはく)は病的な癇癪持ち(DV?)、姑もエキセントリック、そして舅の馬琴はいちいち口うるさく事細かく、女中が居つかない。
もう!「リコカツ!!」と実家に帰るところから始まるが、お路の人生という船はすでに大海に漕ぎ出して、後戻りはできなかった。
なんとも壮絶な、女の半世紀だった。
嫁いだ頃は、“ただの戯作者”何がそんなに偉いのか、と腹の底で思っていた。
辛い経験を積んで、人生を一段ずつ登るごとに、それまで見えていないものが見えるようになっていった。
お路本人の前では決して口にしなかったが、馬琴の篤い信頼をも得て、あんなに夫・宗伯が求めてやまなかった境地へ、辿り着くことができたのだった。
一 酔芙蓉(すいふよう)
二 日傘喧嘩
三 ふたりの母
四 蜻蛉(かげろう)の人
五 禍福
六 八犬伝
七 曲亭の家
・印象に残ったのは、あれほど不仲であった夫を、長い看病の末に喪うくだり。
・もう一つは、版元の丁子屋平兵衛が、本が売れなくなったと嘆くところ。
天保の改革前後の厳しい言論統制、有名作家が次々と逮捕され、板木を召し上げられて失意のうちに病没し、力のある書き手がいなくなった。
それに加えて、後に続く作家たちも捕縛を恐れるあまり、萎縮して無難なものしか書かなくなった。面白いはずがない。
皆が楽しんで読めるものを世に出すのが生きがいなのだ、と語る。
今に通じる、編集者の肉声。
星5つでも足りない読み応えでした。
ちょっと、宮尾登美子を彷彿とさせる。
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日本経済新聞夕刊に連載された「秘密の花壇」(朝井まかて)では曲亭馬琴の偏屈な生涯を描いていたが、こちらは息子の嫁の立場から曲亭馬琴に振り回される家族を描いており、どちらも良かった。子供の頃NHKで放映され、夢中で観ていた人形劇「八犬伝」がすごく懐かしい。
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書き下ろし
滝沢馬琴の息子に嫁ぎ、失明した馬琴の口述を筆記して八犬伝を完成させたお路の物語。
作者のほんわかした人情話が好きだった。直木賞受賞作『心淋し川』で、読み手が切なくなる人の心の深さを書くようになったが、各話ごとに救いがあった。でも、この作品は書き下ろしのためか、前半までは小心の裏返しで尊大で癇癪持ちの馬琴と息子のためにひたすらお路が苦しむのに、読むスピードが上がらない。夫のDVで流産した場面では読むのをやめたくなった。
ラストを「人の幸不幸は、おしなべて帳尻が合うようにできている。お路は最近、そう思うようになった。不幸が多ければ、幸いはより輝き、大過(禍のまちがい?)がなくば、己の幸運すら気づかずに過ぎる。」で締めていいのかなあ。
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読み進めているうち、北斎を扱った朝井さんの作品「眩」と重なる。歴史に名が残った陰には当然支えた人たちがいたこと、改めて思い知る。直木賞作品より読み応えあった。「それまでの世間の常識が、人為でくるりとひっくり返る。それが政治というものだった」「必要だけの会話は角が立つ。女はそれを本能で察し、笑いや愚痴や噂に紛らして互いの距離を縮める」「人の幸不幸は、おしなべて帳尻が合うようにできている。不幸が多ければ、幸いはより輝き、大過がなくば、己の幸運すら気づかずに過ぎる。西條さんの温かで慎ましやかな一方で、社会を刺す鋭い眼差しに感服。
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西條さんの物語の登場人物は、真面目というかあまり融通がきかないで損をする人が多いような気がする。でも、そんな人たちだから人生の帳尻があって幸せもめぐってくるんだろう。ふとしたことに幸せを見つけられた路だから、馬琴亡き後は助けたすけられ『世間は、人はそう悪いものじゃありません』の心境になったのだと思う。とはいえ、偏屈で世間知らずの舅、癇癪持ちの姑、DV野郎の夫と別れて違う人生を生きる道もあったのになと思う。
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江戸時代、町人文化の花開いた時代につづく、粛清の時代を経て、曲亭馬琴の里見八犬伝を通じての、馬琴の長男の嫁、お路の一生を描く作品。
西條奈加さんの本は、私にとってハズレはない。
今回の本の内容も、すばらしい。
蘭学粛清、華美厳禁で多数の文化人が手鎖、没収、板木の焼却など幕府からの圧力を与えられ、あるものは筆を折り、あるものは投獄され、あるものは自死。
そんな時代の中でも、時代考証を始め、細部にまでこだわりを貫く馬琴の強情でしつこい性格で、幕府の付け入る隙を与えなかった。
馬琴以外の妻や子は体が弱く、嫁入りしたお路が一家の運営することになる。
一度離縁を申し出家出するが、馬琴の病で、戻る。
生家のユーモアあふれ笑い声の絶えない家風と全く違う滝沢家。
その苦労は大変なものであった。
感激し通しで、涙無くして読み終えることはなかった。
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西條奈加さんの直木賞受賞後第1作。南総里見八犬伝の作者,滝沢馬琴の家に嫁いだ女性・路の物語。日本人で知らない人のない小説誕生の裏にこんな物語があったとは全く知らなかった。こう言うとこに目をつけるのが西條さんらしい。そして江戸時代後期の幕府の迷走ぶりが文芸にも影響を及ぼしていたことに驚き。