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採集日記加茂川1935 今西錦司フィールドノート
生誕百周年事業の行われた昨年、今西錦司の貴重な業績を裏づけるノートを発見。後に「棲み分け論」を論証する個体となったカゲロウの採集日記である。この歴史的資料を復刻。【「TR...
採集日記加茂川1935 今西錦司フィールドノート
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商品説明
生誕百周年事業の行われた昨年、今西錦司の貴重な業績を裏づけるノートを発見。後に「棲み分け論」を論証する個体となったカゲロウの採集日記である。この歴史的資料を復刻。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
今西 錦司
- 略歴
- 〈今西錦司〉1902〜92年。京都生まれ。生態学者、人類学者。岐阜大学学長等を務めた。著書に「今西錦司全集」など。
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これぞまさしく〈蜻蛉日記〉だ!
2002/12/05 14:48
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:三中信宏 - この投稿者のレビュー一覧を見る
どんな形態であれ「日記」を読むのは,ちょっと後ろめたくて,だからこそ愉しい.今西錦司の「カゲロウ日記」——厳密には「日記」というよりも「ノートブック」に近い気がする.1935年の春先から初夏の4ヶ月に書かれたこの「日記」は,今西が当時カゲロウ研究のフィールドとしていた京都の賀茂川(本書では「加茂川」)水系での「採集日誌」である.
「日記」ならではの個人的な思いが随所に溢れる.単に論文書きや分類専門家ではない自然探求者(Naturforscher: 68)としての「渓流生活者」(p.5)と自らを描く今西は,ひたすらカゲロウを追い求める.カゲロウの学名が頻出する本文ではあるが,カゲロウ学の専門家による詳細な傍注によって,読者の理解は大きく助けられている.この「日記」を何とか世に送り出そうとした関係者の努力が,本書の資料的価値をもたらしたのだと私は思う.
「棲みわけ理論」——今西の名とともに知られるこの学説の萌芽は本書に見られる.カゲロウの「life zone」(p.18)の概念がそれである.流域の特性によってカゲロウが「棲みわける」という発想がこの「日記」の中で育まれていったのかと思うとたいへん興味深い.幼虫の移動に関する観察,亜成虫の不思議な潜水行動の発見,成虫の大量死の目撃などなどカゲロウの生活史のすべてを知ろうとする今西の情熱が文面から伝わってくる.植物生態学の概念(たとえば遷移)の動物生態への適用, biosystematics にも通じるような分類群の概念化のあり方など,当時の(今西の)生態学理論の成立事情を垣間見る気がする.
6月の日記は「洪水記」と記されている.賀茂川の歴史に残る大氾濫に遭遇した今西は,その被害の甚大さを眺めながら,「自然は一寸微動した」(p.137)だけなのだとつぶやく.もちろん,その天災は自分にもふりかかってくる.「人間丈でなく,川の虫も自然の微動で姿を消した.われわれの仕事もこれで一旦は中絶である」(p.138)——「日記」の最後を締めくくるこの言葉は,まさに〈蜻蛉日記〉の象徴ではないか.
今西のカゲロウ研究に啓発された研究者はほかにもきっとたくさんあるだろう.そういう周辺の事情を丹念に掘り起こしていくことで,今西はしだいに「神格化」とは正反対の「対象化」がなされていくのだと私は思う.
ぜひ多くの読者が本書を手に取られることを.
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【目次】
刊行の辞(石田英實) i
刊行に寄せて:今西ノートの背景(吉良竜夫) v
凡例 x
採集日記:加茂川1935
第一冊 March 3
三月の summary 41
第二冊 April 49
第三冊 May 91
上高地方面採集記 123
第四冊 June〔洪水記〕 127
解説1 日本の水生昆虫学と今西カゲロウ学(谷田一三) 139
解説2 ノート発見の経緯、執筆時の今西さんのことなど(斎藤清明)149
関連カゲロウリスト 155
関連水系図 161
索引 162
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