紙の本
まっとうに生きる
2008/06/13 14:03
8人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:りっちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
この本は、ペシャワール会の過去6年間の活動報告である。ほとんどは用水路建設について、技術的なこと、苦労・工夫・解決などに費やされている。中村さんは講演会でお見かけした時よりも、現地での写真の方が存在感がある。治水は大事業。完成させるとは、すごい人だ。人を生かす、活かすことも実行されている。謙虚で純で、真面目で科学的。自分の意志を貫き通す姿に敬服。
アフガンでのペシャワール会の活動は、まずはハンセン病患者の診療から始まり、水があればすぐに治るものが、干ばつで水がないために悪化してしまう。食糧が足りなければ栄養失調状態で、治るものも治らない。命を守るために、井戸を掘り、灌漑工事をすることになる。厳しい自然との闘い、人災にも用水路の完成のため対応。そして「平和とは決して人間同士だけの問題ではなく、自然との関わり方に深く依拠している」と気づくのだった。
アフガンの地理的特徴は、ヒマラヤに続く山岳地帯で、谷が深く、そこに各部族が住んでおり、地域ごとの自治が営まれている。高い山の万年雪が水源となるのだが、それが年々少なくなってきている。急に溶けて激流となり、土石流となって押しよせ、また毎年、最大の大干ばつとなる。村があったところが数ヵ月後には、何もない砂漠と化してしまう。
中村医師は水路工事のために聴診器ではなく、重機の操縦桿を手に。蛇籠工法という、日本の伝統工法が主力。金網の中に石を入れて、それをつなげ、その上に柳を植え、金網がさびた頃には、柳の根がしっかりと石の間に張って守る。コンクリートでは、氾濫が起き易い。しかも、蛇籠なら、現地の人が必要な時にはいつでも修理できる。工事を始めるといううわさを聞きつけ、たくさんの人が集まってきた。日当で、なんとか食いつなぎ、そして水が通れば、農業ができる。食べていける。生きていける。
2007年に第一期工事を完了。その間、危険だったのは米兵による機銃掃射。
「テロ特措法」成立時に国会の参考人として発言している。「信じがたい狂気の支配する時であればこそ、正気を対置して事実を伝えるべきである」との思いから、「アフガンの現状、特に大干ばつによる人々の惨状とアフガン難民の実態を述べ、自衛隊派遣よりも飢餓救援を訴えた」けれど「自衛隊派遣は有害無益」に野次と怒号が。現地を知らない者が、知っている人の言に耳を傾けないとは・・・
“無益”なのは、イラクの自衛隊の飲料水で立証済み。日本政府の言う“国際貢献”とは、“ブッシュ政権への貢献”でしかない。自分たちが使ったのとほぼ同量を浄水するのに374億円の税金が使われた。用水路第一期工事の費用は、9億円。本気で“国際貢献”をする気があったら、中村さんに学べ!!
かつて「日本人」は好意的に受け止められていた。「日露戦争」――西欧列強の国に対し、不撓不屈の精神で戦い、退けたこと。「ヒロシマ・ナガサキ」に原爆を落とされた国でありながら、経済復興を果たし、そんな経済力を持つ国でありながら、他国に対し派兵をしてこなかったこと。これを中村医師は「美しい誤解」と講演会で表現され、近年、真実が暴露されつつあると。強大な国にはへいこらして、弱い国には尊大な態度をとる国だと。せっかく築き上げたペシャワール会と現地の人々との信頼関係が損なわれ、現地での活動がやりづらくなる、これが“有害”なのですよ。まっとうな“国際貢献”の足を引っ張るなって。
タリバーンとはもともと神学生という意味。アフガンの農民たちは、多かれ少なかれタリバーン的な要素を持っている。機銃掃射事件の米軍の謝罪に「警戒して射撃」、「友人を失っているため非常に敏感になっている」とあったのに対し、中村医師は外務省宛にこう返答している。「確認して攻撃するのが常道」、「当方にも空爆や誤爆で親族を失った作業員・地域住民が少なからずいて敏感になっている」と。
空爆や誤爆の連続では、アフガン農民すべてを敵に廻してしまう。「2007年6月現在、アフガニスタン復興は未だ途上であり、戦火は泥沼の様相を呈している。米国と同盟軍の兵力は4万人を超え、初期の3倍以上に膨れ上がっている」。いくらISAFを増強しても、平和をつくるということに、武力は無力です。
アフガンにアメリカが侵攻した時には、食糧を首都カブールまで、アフガン人のスタッフが命がけでトラック輸送をしました。その食糧配布は、タリバーン兵士の協力で整然と行われたそうです。激しい空襲下でも治安が保たれて略奪などもなく、陥落時には事前に退去の勧告があり、計画的に撤去、人質の解放。うーん、タリバーン政権もなかなかやるわねぇ、という印象。「カルザイ政権が発足し、自由になったとの報道が日本でもされたようですが、その自由とは、阿片を栽培する自由、外国兵相手に売春をする自由、おべっかを使いぼろもうけをする自由などで、99.9%のアフガン人は、飢えに脅かされたまま」と、報道を鵜呑みにしてはいけませんねぇ。
大干ばつで400万人が飢餓線上(2000年5月・WHO)というときに、2001年の国連制裁。“国際支援”のNGOも撤退しました。復興ブームでまた登場。お金をばら撒き、物価を上げ、そして医師や技師も引き抜かれました。“国際”という名にウンザリ?
ジア医師の「男性虐待」説(冗談よもちろん)、ポンプ(国際団体が各村に一基を配ったが、石油代が高くて使えないor払える金持ちが水を売る)、人災(MADERAの堰)、土地収用問題、「アフガン人同士で争うな!!」と血を流しながら諌めたことなど、他にも紹介したいことはあるのですが、思わず涙してしまったこの文だけ載せて、あとは本を買って読んでください。
「上空を軍用機がけたたましく飛び交い、私たちは地上で汗を流す。彼らは殺すために飛び、人々は生きるために働く。彼らは脅え、人々は楽天的だ。彼らは大げさに武装し、人々は埃まみれのオンポロ姿だ。彼らは何かを守るが、人々には失うものがない。
「民主国家? テロ戦争? それがどうしたって言うんだい。外人とお偉方の言うことは、どうも解からねえ。俺たちは国際正義とやらにだまされ、殺されてきたのさ。ルース (ロシア=ソ連)もアングレーズ(英米人)も、まっぴらだ。世の中、とっくの昔に狂ってる。だから預言者も出てきたのさ。それでも、こうして生かせてもらってる。奴らのお陰じゃあない。神の御慈悲だよ。まっとうに生きてりゃ、怖いことがあるものか」
これが、人々と共有できる私の心情でもある。」
紙の本
アフガニスタンの現実
2009/07/22 14:06
5人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:しゅっしゅ - この投稿者のレビュー一覧を見る
ペシャワール会の活動は、現地の人が望む支援を現地の人が建設、修理できる方法で行っている理想的な国際貢献だと思いました。
争いでいちばん苦しむのは子どもなど、弱い立場の人たちだという戦争の現実も見えてきます。
分厚い本ですが、はらはらどきどきし、あっという間に読んでしまいました。
世界中の人に読んでほしいです。
涙なしでは読めない、アフガニスタンの現実が見える一冊です。
投稿元:
レビューを見る
「報道されてきた『アフガン復興』の明るい印象と裏腹に、私たちは黙々と声なき人々と苦楽を共にしてきた。『復興支援』が武力介入とセットで行なわれる偽善と弊害は、繰り返し述べてきた通りである。決して外国人に善意が欠落していたのではない。どこから何を見ようとしたか、誰の立場で善意がつくされたかである。国際社会、国際平和、国際貢献、国際協力、国際交流、国際化、国際テロ―私たちも大方のアフガン人も、もう『国際』という言葉に、アフガン戦争(一九七九−八九)の結末以来、うんざりしていた。」(本書あとがきより)
本書は、アフガニスタンにおいてハンセン病対策の医療支援を出発点とし、井戸掘削及び灌漑事業など幅広い支援を繰り広げてきた中村哲医師とPMS(ペシャワール医療サービス)の記録である。
国際貢献が語られるにあたっては、まず現地住民のニーズを無視した援助が問題とされてきた。その解決策として、住民と話し合い地元の意思を尊重して事業を進めていくべきだということはある種「常識」となった感があるが、実行せよといわれても容易にできることではない。本書はその「実行」を丹念に記述した良書であり、「人を助ける」とはどういうことなのかを深く考えさせてくれた。日本人がいくらアフガニスタンで支援活動を繰り広げても、未来永劫日本人が居続けられるわけではない。主役はアフガン人であり、彼らのための支援であるべきだ。文中においては他のNGOの身勝手振りを批判する行がしばしば見られるが、どこまで事実かどうかは別にして、いかに援助団体とかいった類のものが玉石混交であるかがわかる。
事実的な面に目を向ければ、水際的ともいえる医療支援(もちろん筆者は医療活動の必要性も強調しているが)よりも綺麗な水と安定した食糧供給がどれだけ重要かということが繰り返して述べられる。この二つは、現代日本においては空気と同じくらいその存在が希薄化しているものであり、重要性を認識するのは難しいかもしれない。また、先進技術がいかに無力かということも強調されている。用水路を拓くにあたっては、完成後の補修可能性まで含めて考えなければならないわけだが、この点において日本の最新土木技術などまったく頼りにならないことが分かる(コンクリートで固めても定期的な高レベルの補修が必要となるため)。医療支援に関しても同様で、高価な薬品と最新の医療設備を駆使して提供される医療サービスに熟達した医師は、アフガニスタンにおいては無力である。常に大事なことは、「所与の環境でどうするか」という原則である。
本書の大半は灌漑のための用水路建設事業の経過記述に当てられているが、師のいう「素人集団」が試行錯誤の末に台地に緑を取り戻すまでの過程は感動的ですらある。日本の古き先人達の知恵に頼り、自然に逆らわずに建設されたこの用水路がアフガンの台地を潤し続けることを願ってやまない。
また筆者は、地に根ざした支援活動を行なう上で二つのことを強調している。現地住民を信用し、相互信頼関係を気づき挙げること、支援者側の価値観を押し付けず現地の政治構造を尊重してことにあたることの二点で��る。至極当たり前の2点であろうが、この2点を徹底していない多数の主体のためにアフガニスタンは現在も「国際社会」に振り回されているのだろう。
私は高校一年のときに9.11テロをニュースで目の当たりにし、その数ヵ月後に中村医師の講演を聴いたことがある。日本の世論が反テロ・反タリバン一色で、アフガニスタンの人々のことなどまったく報じられない中、硬直化した私の視点を180度逆の視点から叩いてくれたことをはっきりと覚えている。大学に入り多様な視点を客観視するということに対してだいぶ慣れてきたため、本書を読了した時には驚きよりも共感を覚えた。
パワーショベルを操縦する小柄な中村医師を見たとき、尊敬の念を抱かずにはいられなかった。彼は用水路を拓く今も医者なのだ、アフガニスタンという国を助ける医者なのだと感じた。
投稿元:
レビューを見る
涙を抑えながら読むのが大変でした。
6億円の巨費と膨大な人力(人数・時間)をかけた用水路が危機に瀕したとき、著者を呼ぶ息子の声。「おとうさん」。
たった2週間の看とりで、息子を喪った父がどんな思いでそれを聞いたのか・・・。
投稿元:
レビューを見る
本当の事がかいてあるとすると、マスコミ報道と現地の状況がここまでずれているのかと暗澹たる思いになります。
何を持って判断すればよいのかと思います。
もっとも、この本自体は2/3は用水路の技術的な話なので、河川関係の土木関係者が読んでも大いに参考になると思います。
逆に、国際支援系の人が読んでも、技術的なところは読み飛ばして、現地の人との交渉だとか、ないないづくしでどう事業をすすめるのかといった視点で読むと参考になると思います。
投稿元:
レビューを見る
多くの言葉は必要ない。まずは手にとって読むべき本だ。
読み進む途中で何度か涙がこみ上げた。決して安っぽい感傷とかではないと思う。もっと根源的な何かが響いたのだと思う。
世の中の出来事に対して思考停止してはならない。そしてちっぽけな自分の生をどのように生きるかをこの本は問いかけている。
投稿元:
レビューを見る
タイトルにあるとおり、医師である中村哲先生が、アフガニスタンで用水路を造るという壮大なプロジェクトです。中村先生のすごいところは、資金集めから現地スタッフの指揮まで全部やってしまうところです。
単にお金を出すだけではない、本当の援助の壮絶な現実が書かれています。中村先生は今もプロジェクトを続けています。アフガン情勢がどんどん悪くなっていく中、ニュースを覚えている人もいると思いますが、現地の日本人スタッフが亡くなったこともあり、本当に大変なおもいをされていると思います。
ボリュームのある本ですが、ぜひ読んでほしい一冊です。
投稿元:
レビューを見る
アフガニスタンの歴史は文字通り戦乱の歴史である。紀元前6世紀にはペルシャ帝国に組み込まれ、紀元前4世紀にはアレクサンドロス大王に支配された。19世紀には「グレートゲームの舞台」と称されていた。それは血塗られた抵抗の歴史といってもいいだろう。今も尚アフガニスタンの農民は銃を扱っている。
http://d.hatena.ne.jp/sessendo/20100409/p4
投稿元:
レビューを見る
現場で苦労している当事者の言葉は説得力を持つ。
先日テレビで放映された番組をきっかけに、アフガニスタンで医療活動と現地復興に取組むペシャワール会の活動を記録したこの本を読んでみました。
これは代表・中村哲氏による手記をまとめたものです。
当初、医療支援として「ハンセン病」の撲滅に取組み、その後医療全般への活動へ
展開、その後は地域の衛生環境向上のため井戸の掘削による水資源の確保を目指しますが、地下水の減少を機に用水路工事に取り組んだという経緯です。
中村医師の職業は医師であり、土木事業については知識も経験も無い中で、福岡にある用水路を作った先人達の技術を参考にしながら考え、応用できる土木技術を習得していきます。とにかくアフガニスタンの人達の役に立ちたいという熱意と、逆鏡に負けない強靭な精神力で現地人と日本人スタッフをまとめ、現地の用水路建設に努力する様子が伺える手記になっています。
彼は医療という末端の支援活動からスタートしたのですが、結局それだけでは現地の問題は解決しないとの認識から、徐々に生活・衛生環境改善という「源流改善」にシフトしてさせていき、大多数の人を救うには用水路建設しかないとの信念を貫いて活動する姿にはとても感動します。
実際、1人の人間が出来ることは限られていますので、いかに人を動かしていくかが事業推進のポイントになっています。彼が多くの人を動かすことができるのは、現地の言葉で話し、長年少しずつ積み重ねた現地人との信頼関係にあります。上から目線の支援ではなく、現地の人の立場に立って、現地人と一緒に長年取組んできたことが成果となって現れてきたのでしょう。用水路は作ってしまえば終わりというものではなく、メンテナンスが大変であること。今後も工事は続いていくことを考えると、この手記で語った部分は単なる通過点なのかもしれません。
今後のペシャワール会の活動には注目していきたいと思います。この本を読んでいくと、自分も何らかの支援をしてあげたいという気持ちになるくらい読み応えのある本です。
この本を一冊買うことでも多少なりとも支援になるのではないでしょうか。
投稿元:
レビューを見る
少し古い話になってしまう.
中村哲氏は元々は医者.
しかしアフガンの難民を救うためには,そして以前の様な古き良きアフガンを復活させるためには医療行為よりもむしろ水の確保が重要であると考える.
日本も当時,自衛隊派遣をするしないでかなりもめた時期であった.
そんな中,いくら政治家が机上の空論で何かを唱えたとしても,何よりも著者の様な現場の人間の意見は重く,説得力にあふれている.
投稿元:
レビューを見る
アフガニスタンの内情を伝える良書。
著者の情熱と行動(&判断)の早さは、
勇気だけでなく、あらゆる人に「行動の大切さ」を
教えてくれる。
投稿元:
レビューを見る
ペシャワール会が井戸を作ったことは知っていたが、まさか水路まで作っていたとは……。現地で働く中村の言葉から、アフガン復興の実態がよく分かる。
投稿元:
レビューを見る
おもしろかったです!
最初に水が流れたところでは感動して泣きました!
アフガンで診療所のボランティアをやっていた医者が用水路を建設するというお話です。
時期はちょうど911テロ事件のちょっと前からで、ずっと前から現地で活動していた人の目から見た対テロ戦争や国際支援団体のことが書いてあるのもおもしろかったです。
言葉がストレートで、現地で長く働いている人の言葉なのでとても説得力があります。
技術的な話がなかなか多くてよくわからないところもありましたが、とても勉強になりました。
投稿元:
レビューを見る
読んでよかった。
土木の、魅力や喜び。国際協力というものの光と影、技術移転における"現地化"の重要性、伝統技術の英知...。
組織論として、人と人で仕事をしているのだということ、信念と目標をかかげ、あるいは時には自ら手を動かすことの重要性、、大切な物事が本当に詰まっている!
とくに、土木技術や組織経営にういても色々試しており、その軌跡は現地化の術としても参考になる。
とりわけ深く感嘆するのは、水理を、現地のことから学び、現地の自然条件をも的確にとらえ、さらには時々、九州の河川施設から山田堰の斜め堰や、水制といった工夫の意義をよみとり、解釈し、実現していること。
木下良作さんさえ思い出す、まさに河川の臨床医。現地のひとびとに熱狂的に喜ばれるというのも納得がいくし、どこか誇らしい。
なお、前段は国際社会によるアフガニスタンへの経済制裁や空爆に対する反感を記したもので、やや長いが、それを仕事へのバネにしているのには好感。
投稿元:
レビューを見る
これがあの時のアフガニスタンだとすれば。テレビで著者の目を見て、尋常じゃないなと思ってこの本に出会いました。