紙の本
あいかつお
2016/08/10 07:30
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投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
私たちの世界というのは、柔軟性があるようで実はとっても堅硬なもので出来ていると思うことがある。
「あいうえお」。なんていうのもそうで、誰もが「あいうえお」だと信じている。
もし、それが「あいかつお」だったりしたらどう感じるだろうか。
とっても不安になったりするだろう。
それと同じような不安を川上弘美の作品から感じてしまうことがある。
でも、誰が「あいうえお」を「あいかつお」に変えることができるだろう。
このなんでもないような街の人たちの様子を短い文章で綴った作品集の手ごたえのなさはどうだろう。
おいしいプディングを頂いた感じはあるのだが。
「王様は裸だ!」子どもだから言えること。大人は言えない。
「何書いているのかわからない」のではない。平易な日本語を読めないわけではないし、文法に誤りがあるわけでもない。
しかし、それらで組み立てられた世界は私たちがいる世界と同じなのかわからない。
AIが世界を支配する未来ではない。むしろ、恐山のイタコが支配するような世界。
AIがある世界は「あいうえお」と同じ。一方イタコが支配する未来は「あいかつお」と同じではないか。
川上弘美は笑っている。
この世界についてこれるかって薄ら笑いを浮かべている。
「あいうえお」を「あいかつお」に変えたのは彼女。
時々どうしようもなく、「あいかつお」を書いてしまいたくなる作家。
川上弘美にとって「あいかつお」なのか、「あいふせる」なのか、意味はないだろう。
紙の本
いってみたい町
2016/07/03 10:24
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投稿者:szk - この投稿者のレビュー一覧を見る
「このあたりの人たち」っぽさを出しながらも、全然「このあたりの人たち」じゃないのが面白かった。さすが川上さん。考えてみれば、主人公の女の子だけ、普通寄りであとはもう全員キャラ濃いw濃すぎwwそれなのに、ギャグにならずむしろ心地よい風を運んでくるのはなぜなのか。川上さんがしっかりとした軸と世界観を持っているからなんだろうな。まあ、ありそうでない「このあたりの人たち」なんだけど、でも川向こうにはこんな小さな町があって、いろいろ一大事とか天変地異とか経験しながらも静かに生活を続けている気もする。行ってみたいな。
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川上弘美さんの世界観がたっぷり味わうことができます、この薄っぺらい一冊で。身近なお話がぎゅっと詰まっている、連作短編? になるかな。このあたりの人たちのことをえがいているのだけど、とにかく妙ちきりん。出てくる人もその人たちの思想も思考も、生き物なのかなんなのかわからないものすらでてきて、うわーーー! となります。川上弘美臭満載なのです。最後のイタコとなったかなえちゃんのお姉さんの話、夢であった銅像がたつまでの壮大な、そしてちょっと切なさの残る話は秀悦。面白かった。
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飛ばし飛ばしに読んでいた連載がまとまると聞き、心待ちにしていた。
嬉々として読む。
私の好きな川上弘美らしさが存分に発揮されていた。シュール。
装丁もすき。
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川上弘美の最新刊。
緩やかな繋がりを持った掌編集。ふわふわと足下が覚束ないような読後感が川上弘美っぽい。
各掌編は独立しつつ、緩やかな繋がりを見せる。この繋がっていないようで繋がっている、『ふわふわ』感も非常に川上弘美っぽい。
物量としてはやや物足りないが、これぐらいが丁度いいのかも。
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奇妙な夢のような「このあたり」の街や人々が、読みすすめるほどに、自分の近しい存在になってくる。読み終えてもまだ、今の自分の居る場所が「このあたり」と地続きになっていて、さらには少しずつ浸食されている心地がする。
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読み始めの頃・・・
「うっわー、川上さんっぽさ全開!これきっと、めっちゃ好きそうな予感・・・」
もう少し先で・・・
「こんなん、私にも書けそうな気がするな~~w」
さらに先・・・
「ぷぷ。めっちゃ『このあたりの人たち』のことだわww」
ずずいっと先・・・
「うーん、やっぱ無理っ!こんな発想ないわー。」
終わりの方・・・
「だ~~~っ!やっぱ川上さんってヘン!ww ムリムリ!私には書けないっw 完敗っ!うへへぇ~、平にお許しを~~!・・・ぶはははは、面白すぎるぅ~~っ!!www よしっ、これもツレに読ませちゃろっと♡」
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久しぶりの川上さん。
一話が4ページほど。
もう少し深く読みたいなあとおもっていると
わたしの肩をとんとんと、
次の話が呼びかける。
このあたりの人たちは、
掴みどころがないけれど、
全部を読んで、こういう町なのかなあ、
と何となく浮かんだのでした。
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エッセイなのか創作なのか、実在するのかフィクションなのか、リアリズムなのかファンタジイなのか、散文なのか詩なのか、
ふわふわとつかみどころのない、ふしぎな存在感だった。
まるで自分が生まれ育った街を回想して物語るような短いエピソードの中に、時々さりげなく、かつ大胆に、この世ならざる奇妙な雰囲気を持ったものが差し挟まれる。
それらについてもう少し知りたいと思ううちに回想は途切れてしまい、すると次の回想場面に再び登場したりする。
そうしているうちになんだか愛着が湧いてきて、「まあそんなこともあるのかな」となぜか納得してしまう。
どこか可愛らしい「この世ならざる者」たちが、不条理の中にある不思議な説得力と、物語の奥底に漂う色気とを作り出しているのだと、あらためて思った。
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全編もうついていけなくなりました。ところで、「フランシーヌの場合」「白い蝶のサンバ」「ざんげの値打ちもない」などの歌は、若い人はひょっとして川上女史が勝手に名付けた架空の曲だと思っているかも。私にはとても懐かしい。西郷輝彦の「星のフラメンコ」も。
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川上弘美お得意の感じ。このちょっと不思議な感じにすこし胸がきゅうっとなる感じが足されるとすごく好きなんですが、今回はきゅうっはない。本の雰囲気がわたしの思うスイッチパブリッシングらしさ満載です。
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川上ワールド全開!としか言いようのない不思議な昭和感あふれるちょっと田舎っぽいあるところのお話。
たぶん、深く意味など考えないでこの世界に入る気持ちで文体を味わうのがいいのでしょう。そう、文体を味わう小説です。
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1時間もあれば読み終えられる。
読後は”このあたりの人たち”がみな愛おしい。
中学で不良になったかなえちゃんも、イタコになったかなえちゃんのお姉ちゃんも、メニューが二つしかないスナック愛のおばちゃんも、その他出てくるちょっと変わった人たちも、みなひょうひょうとしたおかしみがあって好き。
各章の唐突な終わり方も好き。
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不思議な世界の連作短編集。じわじわとハマる。内容も本の薄さも、寝る前の読書にちょうど良いですよ。
2016/9/14読了
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『赤靴おじさんとすれちがうと、その次の日には必ず、何かいいことがある。この前は、五百円玉を拾った。その前は、商店街のくじに当たってみりんを一本もらった。もっと前には、ナンパされた。お茶でも、と誘われてついていったら、屋台のやきそばを十二パックかってくれ、おまけに、古い少年ジャンプも十冊、くれた』―『バナナ』
公園で踏んだ蛇がおばさんになって部屋に居つく話が何しろ好きなので、モンキービジネスに(続いてモンキーに)連載されていた川上弘美のこのシリーズは他の文体の川上弘美を読むよりももっと楽しい。東京人に連載されていた東京日記のような椰子椰子の路線と蛇を踏むの中間的な味わい。どの話も川上弘美的なオチが諧謔的に心地よく響く。この楽しさに匹敵するのは、同じくモンキービジネスに連載されていた岸本佐知子の怪しい日記くらいなもの(こちらも早く単行本になって欲しい!)。ゆっくり長く味わいたいけれど、あっと言う間に読み終えてしまう。
最初から町の住民が事前に設計されていたとは思わない。それでも少しずつ一人ひとり個性が加わっていく様もおもしろい。作家の記憶の中にあるその辺りの人々がきっと脚色されたりしているのだろうな、などと想像してみるのも楽しい。何しろ町の描写には作家の少女時代であった昭和四十年代の雰囲気がぷんぷん漂う。似たような原風景に郷愁を寄せる身としては、自分の身の周りの(それは地理的には一つ所ではなくて、千葉県の北の方の街であったり茨城県の南の方の街であったり北海道の東の方の街であったりするけれど)人々の記憶をも自然と手繰り寄せることになる。最多登場人物(数えてはいないけれど)のかなえちゃんに、近所の従姉妹の顔を貼り付けてみたりする。もちろんそんな一面的な世界感にどっぷりと浸らないように、川上弘美は随所に時間軸上は離れたところにあるイコンを投げつけてくる。ちょっとだけバラード風な趣味だなと思いながら、それを受け止める。
もちろんこの語り手は基本的には川上弘美自身である。如何に虚構の世界の話だとしても、
ここに作家の記憶が欠片も混入していないとは思えない。なので勝手に語り手に川上弘美の顔を貼り付けて読んでしまう。それなのに急にアメリカ帰りの川又家が出て来てどきっとする。別にどきっとする必要も無いのに。川上を連想させる苗字(少女時代の川上弘美の姓は山田だけれど)、米国帰りの境遇(Hiromi is monkeyというクラスメートの冷やかしで急に世界に色がついたという話を思い出す)、でも姉がいたという話は聞いたことがない(ドリーはみどりちゃんに決まっているよね)、でも妹がロミだと知って更にどきりとする(ロミはもちろん、ひろみだし)。虚構の世界と知りつつも、もっとロミが出て来ないかな、などと思って読んでみたりする。残念ながらロミはかなえちゃん程には照明が当たらない。残念がる必要は全く無いのに残念な気持ちになる。
そんな注目のかなえちゃんのお姉さんの銅像が立つ話が最後の書き下ろしで上手いこと落ちる話になっていて、物語に締め括りを与えている。一つひとつの小話の中でもそうであったように、時間が急に経過して因果律が閉じたり、妙な���ころで前の出来事が繋がっていたり(決して伏線を張っていた訳ではないだろうけれど)、変に律義な川上弘美の性格が集大成されたようで、ほっとした心持ちになる。ひょっとしたら、この川上弘美の荒唐無稽なようでありながら変に律義なところを自分は気に入っていたのか、と訝しむ。そして、おっと騙されないぞ、とも同時に思う。ひょっとしたらこのハイパースペース的なこの辺りは、ブラックな現代日本の縮図で、彼方此方に皮肉がまぶされているのじゃないか。豚にたかる蝿の数賭博の話など怪しいこと頻りだ。もちろんそんなブラックな川上弘美の一面も気に入っているのだけれど。